【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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カシャ家の茶会

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「リヴィア」

肩に置かれた手が私をゆすっていた。

「あ、ルネ様」

「大丈夫か?」

席に座っている皆様が私を見ていた。

「も、申し訳ございません」

「具合が悪いのか?顔色が悪い」

「大丈夫ですわ」

「ルネ。リヴィア様を屋敷の中にお連れして休ませて差し上げなさい」

「はい、母上」

「私は大丈夫ですから」

「ご多忙なのは存じ上げておりますわ。無理をなさらないで。後でお話ししましょう」

「さあ、行くよ リヴィア」

つまり、茶会が終わったらお話ししましょうと言っているのと同じ。夕食をご一緒にという意味でもある。

茶会の席で考え事をしていたせいだわ。私のバカ。


連れてこられたのは豪華な客室だった。
ベッドの背もたれに枕やクッションを積み重ねて、寄りかかって楽にできるようにしてくれた。

「本当に大丈夫ですから」

「リヴィア」

抱き上げられてベッドの上に降ろされた。優しい強硬手段に出られた。そして、

「ルネ様」

「じっとして。まさか蹴るつもりなの?」

「……」

脚を持ち上げられ、靴を脱がされた。
そんなはずはないのにルネ様の視線がねっとりしている気がする。触れる手がのよう。

「少し肌に赤みがさしてきたな」

普通なら恥ずかしいはずなのに…

巻き戻る前は彼に犯され続けた。身に纏うものは全て剥ぎ取られ、隅々まで目に触れ 指で唇で舌で触れられた。そして内側も快楽を刻まれた。私を専属の夜伽係や娼婦のように口では言うくせに、私の弱いところを探し出し執拗に攻めた。毎回必ず快楽の果てに導いた。ひどい言葉を囁きながら優しく抱きしめキスをして私の身体を気遣った。

今の身体は彼を知らないし他の異性も知らないが、彼だけには恥ずかしいという感情が湧かない。多分全裸になれと言われても抵抗はない。

だけど常識として慎みとして恥ずかしいフリをした。


メイドが蜂蜜入りのハーブティーを持って来てくれたので大人しく飲んだ。

「リヴィア、ちゃんと休んでる?」

「ちょっと予定が立て込んでいるだけです。別に大した内容ではありません。睡眠時間もちゃんととっていますし」

「でも疲れているのは確かじゃないのか?人にも会わず 何もせずゆっくり過ごすだけの日も必要だと思う」

「ルネ様もそうなさっていますか?」

「リヴィアとは体力が違うし、丸一日ではないが ちゃんと休む時間は取っているよ。もちろん日中にね。
ただでさえ、君は目の前で倒れたことがあるんだ。心配にならないわけがないよ」

「確かにそうですね。ルネ様の言う通りにします。来週は予定を入れてしまいましたが、再来週は休みを作ります」

「良かった。
まだティエリーくんの下宿先の伯爵家にっているの?」

「先週、食事をしました。最近は落ち着いてきたのでお手伝いは不要だと判断していたのですが、友人としての交流だと拗ねるので…」

「アングラード伯爵がねぇ…伯爵だけ?今の話だと伯爵家の手伝いは落ち着いているんだよね」

「それがコーネリア様と親しくなりまして、フレンデェ邸に招待していただいたのです」

「……どちらかというとオードリック・フレンデェが誘ったんだな?」

「ま、まあ そうです」

「何でフレンデェ家が…」

フレンデェ公爵家は国王を支持する派閥の筆頭。つまりカシャ家とは対立派閥になる。とはいえ この国ではそこまで仲は悪くない。

「思っていたよりいい人でしたよ?」

安心させようとして言った言葉だったのにルネ様は傷付いたような辛そうな顔をした。

「彼は婚約者もいなかったはずだ」

「そうですけど…」

「私を断って彼と?」

求婚のことよね…

「そんなんじゃありません」

あれ? 巻き戻り前はルネ様はコーネリア様と婚姻しようとしていた。ルネ様はコーネリア様を好きだったんだと思い込んでいたけど違う?何故私を?

これからコーネリア様に恋に落ちるのか、ヘンリー殿下と魔女の生まれ変わりサラへの対策だったのか、ヘンリー殿下の命令だったのか…。

「ヘンリー殿下とも?」

「…はい」

ここで“はい”と言ったら偽婚約者候補にならないのに、嘘は吐けなかった。彼の声は震え、祈るように私の手を握り額に付けたからだ。



ディナーを済ませて屋敷に帰りメイドのミリアに抱き付いた。

「もの凄く心が疲れたから癒されたいわ」

「お任せください」

少し居間で待つと一番豪華な客室に案内された。

「いつものお部屋ですと、思い出すことも多いでしょう。違うお部屋で就寝しませんか?」

花が飾られていい香りがする。テーブルの上には繊細な細工のグラスに果実酒が置いてあった。湯浴みやマッサージの準備も整っていた。

「本日は余計に泡立てました」

浴室に向かうとバスタブは泡で溢れそうになっていた。ランプではなく、キャンドルで室内を照らしている。

湯浴みを終えるとマッサージが始まる。

「お嬢様が普段使わない香りの香油にします」

「お願いね」

隅々までほぐしてもらって いつの間にか眠っていた。起こされてベッドに移り就寝した。


翌朝

「ミリア、ありがとう。おかげで気持ち良く眠れたわ。侯爵家のツケで好きな本を買って来ていいわよ」

「ありがとうございます!」

ミリアは休みの日にドロドロの恋愛小説を買ったらしい。









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