57 / 100
フレンデェ公爵邸
しおりを挟む
あの後、先生(カルフォン卿)に抱きついたまま屋敷に帰った。
私が眠るまで側にいてくれた。先生の気配で安心できた。
あれだけで倒れてしまうなんて。
もう落ち着いたと思っていたのに…。
「お嬢様、先触れでございます」
「ありがとう」
カードを見ると、フレンデェ公子からだった。
“午後、迎えに行く。体調が悪ければ断っていい”
「忘れてたわ。お昼を食べたら出かけるわね」
「かしこまりました。
午前中に、ヘンリー王子殿下とルネ様とカイルセン様にはお詫びの手紙を、先生にはお礼の手紙を書いた。
王宮からは体調を尋ねる使いの者がやって来たし、ルネ様からは花が送られてきていた。
軽めの昼食をとった後、身支度をしていると執事が急ぎ気味でやって来た。
「お、お嬢様。フレンデェ公爵家の馬車が、」
「いいのよ。迎えを寄越すと言っていたから」
「それが、公子が下にいらっしゃっております」
「えっ!?」
馬車だけを寄越すのだと思っていたのに。
慌てて降りようとすると、
「待て!」
その声に、階段の上でピタリと足を止めた。
公子が階段を上がり手を取った。
「倒れたばかりだろう。急がなくていい」
「…ありがとうございます」
「体調は大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
「体調が悪いなら無理に連れて行く気はない。
はっきり言ってくれ」
「大丈夫ですわ」
驚いた。優しい人だったのね。
馬車の中で謝ることにした。
「公子。申し訳ございません」
「何がだ」
「昨日。私が誤解をしていたのかもしれません。
公子はお優しい方だったのですね」
「優しい? 私が?」
「はい。こんなにお優しい方なら、昨日の私はとても失礼な物言いでした」
「間違っていない。
ところで…不躾な質問をするがいいか?」
「はい」
「困窮しているのか?」
「はい?」
「その服」
「公子様。これからやってはいけないことをやるのですから着飾れませんわ。着飾る気もありませんけど。
うちは普通の貴族で普通の財力です。一般的なドレスくらいなら買えますわ。」
「昨日のアクセサリーのように?」
「あれは頂き物です」
「殿下か?」
「はい」
「その気は無かったんじゃ?」
「既に作らせた物を、しかも殿下からの賜り物を断れますか?」
「そうか…そうだな」
「そうですよ。
最初は貸し出しだと思って返そうとしたら、返すなと言われてしまいました」
「カシャ公子とは親しいのか」
「クラスメイトです」
「それだけには見えなかったな」
「……」
「求婚されたか」
「……はい。断りましたが」
「諦めては?」
「いませんね」
「アングラード伯爵とは?」
「兄のような友人です」
「伯爵と? 歳が離れているが、」
「公子。おかしなことを仰いますね。
友人は、個々の結びつき。歳は関係ありません。
気が合えば5歳児でも70歳でも友人になれますわ。現在の同じ景色を同じ位置から見て、共に成長していくだけが友人ではありませんよ」
「そうか」
「それに、公子は親バカな父みたいです」
「親バカな父!?」
「私の交友関係にいちいち口出しする人のことです」
「私が親バカな父か…」
「ウフフっ 今の公子の方が素敵ですね」
「今の?」
「最初もコーネリア様そっくりで美しかったですけど、表情が加わると親近感があっていいですね。
まあ、私に身近に感じてもらいたくは無いかもしれませんが。
あ、大丈夫ですよ。他のご令嬢のように言い寄ったりしませんから」
「それは残念だ」
「はい?」
「リヴィアはコーネリアが嫌いじゃないのか?」
「嫌いではありません。
ただ、互いに適切な距離を取った方がいいと思いますけど」
「それはどういう、」
「うわぁ……屋敷の中を移動するだけで痩せちゃいそうですわね」
フレンデェ公爵邸が目の前に迫った。
多分国内一の豪華な屋敷だと思う。
これ、お城と呼んでもいいんじゃない?
「では、ティータイムはたくさん食べさせよう」
屋敷に入ると躾の行き届いた執事とメイド達が出迎えてくれた。
「ようこそフレンデェ公爵邸へ。ネルハデス伯爵令嬢」
「初めまして。リヴィア・ネルハデスと申します。
ご招待いただきありがとうございます」
「リヴィア。何故私と態度が違うのだ?」
「お望みであれば」
「いや、望んでいない」
「あの、ティータイムの準備をしてくださる方はどなたでしょうか」
「私です」
「お願いがあるの」
彼女の側に行き、小声で指示を出した。
「(私が叱られます)」
「(叱られる訳がないわ、私が望んだのだもの)」
「かしこまりました」
「リヴィア?」
「何でもないです」
「どこか見たいところがあるか?」
「書庫がいいです」
「分かった」
流石、無駄に広いお屋敷は広い書庫を持っていた。
「何か探している本があるのか?」
「魔女についてと、アルシュについて知りたいのです」
「魔女? 無いと思うぞ。まさか、誰か呪うつもりか」
「ちょっと、公子。私を何だと思っているのですか! 魔女の弱点とか退治の仕方とかが知りたいんです」
「令嬢の間で流行っているのか」
「そんなところです」
私が眠るまで側にいてくれた。先生の気配で安心できた。
あれだけで倒れてしまうなんて。
もう落ち着いたと思っていたのに…。
「お嬢様、先触れでございます」
「ありがとう」
カードを見ると、フレンデェ公子からだった。
“午後、迎えに行く。体調が悪ければ断っていい”
「忘れてたわ。お昼を食べたら出かけるわね」
「かしこまりました。
午前中に、ヘンリー王子殿下とルネ様とカイルセン様にはお詫びの手紙を、先生にはお礼の手紙を書いた。
王宮からは体調を尋ねる使いの者がやって来たし、ルネ様からは花が送られてきていた。
軽めの昼食をとった後、身支度をしていると執事が急ぎ気味でやって来た。
「お、お嬢様。フレンデェ公爵家の馬車が、」
「いいのよ。迎えを寄越すと言っていたから」
「それが、公子が下にいらっしゃっております」
「えっ!?」
馬車だけを寄越すのだと思っていたのに。
慌てて降りようとすると、
「待て!」
その声に、階段の上でピタリと足を止めた。
公子が階段を上がり手を取った。
「倒れたばかりだろう。急がなくていい」
「…ありがとうございます」
「体調は大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
「体調が悪いなら無理に連れて行く気はない。
はっきり言ってくれ」
「大丈夫ですわ」
驚いた。優しい人だったのね。
馬車の中で謝ることにした。
「公子。申し訳ございません」
「何がだ」
「昨日。私が誤解をしていたのかもしれません。
公子はお優しい方だったのですね」
「優しい? 私が?」
「はい。こんなにお優しい方なら、昨日の私はとても失礼な物言いでした」
「間違っていない。
ところで…不躾な質問をするがいいか?」
「はい」
「困窮しているのか?」
「はい?」
「その服」
「公子様。これからやってはいけないことをやるのですから着飾れませんわ。着飾る気もありませんけど。
うちは普通の貴族で普通の財力です。一般的なドレスくらいなら買えますわ。」
「昨日のアクセサリーのように?」
「あれは頂き物です」
「殿下か?」
「はい」
「その気は無かったんじゃ?」
「既に作らせた物を、しかも殿下からの賜り物を断れますか?」
「そうか…そうだな」
「そうですよ。
最初は貸し出しだと思って返そうとしたら、返すなと言われてしまいました」
「カシャ公子とは親しいのか」
「クラスメイトです」
「それだけには見えなかったな」
「……」
「求婚されたか」
「……はい。断りましたが」
「諦めては?」
「いませんね」
「アングラード伯爵とは?」
「兄のような友人です」
「伯爵と? 歳が離れているが、」
「公子。おかしなことを仰いますね。
友人は、個々の結びつき。歳は関係ありません。
気が合えば5歳児でも70歳でも友人になれますわ。現在の同じ景色を同じ位置から見て、共に成長していくだけが友人ではありませんよ」
「そうか」
「それに、公子は親バカな父みたいです」
「親バカな父!?」
「私の交友関係にいちいち口出しする人のことです」
「私が親バカな父か…」
「ウフフっ 今の公子の方が素敵ですね」
「今の?」
「最初もコーネリア様そっくりで美しかったですけど、表情が加わると親近感があっていいですね。
まあ、私に身近に感じてもらいたくは無いかもしれませんが。
あ、大丈夫ですよ。他のご令嬢のように言い寄ったりしませんから」
「それは残念だ」
「はい?」
「リヴィアはコーネリアが嫌いじゃないのか?」
「嫌いではありません。
ただ、互いに適切な距離を取った方がいいと思いますけど」
「それはどういう、」
「うわぁ……屋敷の中を移動するだけで痩せちゃいそうですわね」
フレンデェ公爵邸が目の前に迫った。
多分国内一の豪華な屋敷だと思う。
これ、お城と呼んでもいいんじゃない?
「では、ティータイムはたくさん食べさせよう」
屋敷に入ると躾の行き届いた執事とメイド達が出迎えてくれた。
「ようこそフレンデェ公爵邸へ。ネルハデス伯爵令嬢」
「初めまして。リヴィア・ネルハデスと申します。
ご招待いただきありがとうございます」
「リヴィア。何故私と態度が違うのだ?」
「お望みであれば」
「いや、望んでいない」
「あの、ティータイムの準備をしてくださる方はどなたでしょうか」
「私です」
「お願いがあるの」
彼女の側に行き、小声で指示を出した。
「(私が叱られます)」
「(叱られる訳がないわ、私が望んだのだもの)」
「かしこまりました」
「リヴィア?」
「何でもないです」
「どこか見たいところがあるか?」
「書庫がいいです」
「分かった」
流石、無駄に広いお屋敷は広い書庫を持っていた。
「何か探している本があるのか?」
「魔女についてと、アルシュについて知りたいのです」
「魔女? 無いと思うぞ。まさか、誰か呪うつもりか」
「ちょっと、公子。私を何だと思っているのですか! 魔女の弱点とか退治の仕方とかが知りたいんです」
「令嬢の間で流行っているのか」
「そんなところです」
1,513
お気に入りに追加
1,978
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる