【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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フレンデェ公爵邸

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あの後、先生(カルフォン卿)に抱きついたまま屋敷に帰った。

私が眠るまで側にいてくれた。先生の気配で安心できた。

あれだけで倒れてしまうなんて。
もう落ち着いたと思っていたのに…。


「お嬢様、先触れでございます」

「ありがとう」

カードを見ると、フレンデェ公子からだった。

“午後、迎えに行く。体調が悪ければ断っていい”

「忘れてたわ。お昼を食べたら出かけるわね」

「かしこまりました。


午前中に、ヘンリー王子殿下とルネ様とカイルセン様にはお詫びの手紙を、先生にはお礼の手紙を書いた。

王宮からは体調を尋ねる使いの者がやって来たし、ルネ様からは花が送られてきていた。

軽めの昼食をとった後、身支度をしていると執事が急ぎ気味でやって来た。

「お、お嬢様。フレンデェ公爵家の馬車が、」

「いいのよ。迎えを寄越すと言っていたから」

「それが、公子が下にいらっしゃっております」

「えっ!?」

馬車だけを寄越すのだと思っていたのに。


慌てて降りようとすると、

「待て!」

その声に、階段の上でピタリと足を止めた。

公子が階段を上がり手を取った。

「倒れたばかりだろう。急がなくていい」

「…ありがとうございます」

「体調は大丈夫なのか?」

「はい。ご心配をおかけしました」

「体調が悪いなら無理に連れて行く気はない。 
はっきり言ってくれ」

「大丈夫ですわ」

驚いた。優しい人だったのね。


馬車の中で謝ることにした。

「公子。申し訳ございません」

「何がだ」

「昨日。私が誤解をしていたのかもしれません。
公子はお優しい方だったのですね」

「優しい? 私が?」

「はい。こんなにお優しい方なら、昨日の私はとても失礼な物言いでした」

「間違っていない。
ところで…不躾な質問をするがいいか?」

「はい」

「困窮しているのか?」

「はい?」

「その服」

「公子様。これからやってはいけないことをやるのですから着飾れませんわ。着飾る気もありませんけど。
うちは普通の貴族で普通の財力です。一般的なドレスくらいなら買えますわ。」

「昨日のアクセサリーのように?」

「あれは頂き物です」

「殿下か?」

「はい」

「その気は無かったんじゃ?」

「既に作らせた物を、しかも殿下からの賜り物を断れますか?」

「そうか…そうだな」

「そうですよ。
最初は貸し出しだと思って返そうとしたら、返すなと言われてしまいました」

「カシャ公子とは親しいのか」

「クラスメイトです」

「それだけには見えなかったな」

「……」

「求婚されたか」

「……はい。断りましたが」

「諦めては?」

「いませんね」

「アングラード伯爵とは?」

「兄のような友人です」

「伯爵と? 歳が離れているが、」

「公子。おかしなことを仰いますね。
友人は、個々の結びつき。歳は関係ありません。
気が合えば5歳児でも70歳でも友人になれますわ。現在の同じ景色を同じ位置から見て、共に成長していくだけが友人ではありませんよ」

「そうか」

「それに、公子は親バカな父みたいです」

「親バカな父!?」

「私の交友関係にいちいち口出しする人のことです」

「私が親バカな父か…」

「ウフフっ  今の公子の方が素敵ですね」

「今の?」

「最初もコーネリア様そっくりで美しかったですけど、表情が加わると親近感があっていいですね。
まあ、私に身近に感じてもらいたくは無いかもしれませんが。
あ、大丈夫ですよ。他のご令嬢のように言い寄ったりしませんから」

「それは残念だ」

「はい?」

「リヴィアはコーネリアが嫌いじゃないのか?」

「嫌いではありません。
ただ、互いに適切な距離を取った方がいいと思いますけど」

「それはどういう、」

「うわぁ……屋敷の中を移動するだけで痩せちゃいそうですわね」

フレンデェ公爵邸が目の前に迫った。
多分国内一の豪華な屋敷だと思う。
これ、お城と呼んでもいいんじゃない?

「では、ティータイムはたくさん食べさせよう」


屋敷に入ると躾の行き届いた執事とメイド達が出迎えてくれた。

「ようこそフレンデェ公爵邸へ。ネルハデス伯爵令嬢」

「初めまして。リヴィア・ネルハデスと申します。
ご招待いただきありがとうございます」

「リヴィア。何故私と態度が違うのだ?」

「お望みであれば」

「いや、望んでいない」

「あの、ティータイムの準備をしてくださる方はどなたでしょうか」

「私です」

「お願いがあるの」

彼女の側に行き、小声で指示を出した。

「(私が叱られます)」

「(叱られる訳がないわ、私が望んだのだもの)」

「かしこまりました」

「リヴィア?」

「何でもないです」

「どこか見たいところがあるか?」

「書庫がいいです」

「分かった」


流石、無駄に広いお屋敷は広い書庫を持っていた。

「何か探している本があるのか?」

「魔女についてと、アルシュについて知りたいのです」

「魔女? 無いと思うぞ。まさか、誰か呪うつもりか」

「ちょっと、公子。私を何だと思っているのですか! 魔女の弱点とか退治の仕方とかが知りたいんです」

「令嬢の間で流行っているのか」

「そんなところです」
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