【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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デビュー

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デビュータント当日。

王宮で当てがわれた部屋で身支度をした。
お母様とメイドが結託し、キラキラのお姫様みたいになってしまった。
もっとシンプルがいいと言っても無駄だった。

「最有力候補だったらこのくらい当たり前です」

「そうですわ。こちらは王子殿下からの贈り物でございます」

「まあ!素敵!」

「…貸し出し用のアクセサリーですね?終わり次第、返却します」

「いえ。これは贈り物です。返却などなさればヘンリー王子殿下が傷付きますわ」

「そうよ、リヴィア。笑顔でいただくのが礼儀よ。
殿下に失礼なことをしないでちょうだい」

だってコレ、殿下の瞳の色じゃないの。

「やっぱり、」

「リヴィア。中途半端な仕事は駄目よ。
妃は殿下の愛を受け止めるのがお仕事なのよ」

仕方なく言われるがまま支度を済ませて父と入場した。

先に居たコーネリア様は同じ歳なのに威厳まで感じる。巻き戻り前は威圧感を勝手に感じていたわね。


挨拶を終えるとダンスが始まる。

ヘンリー王子殿下は王妃様と踊り、その後で侯爵家以上が踊る。

コーネリア様はお兄様と踊るみたいね。そっくり。

巻き戻る前、コーネリア様は父親を恐れていた。彼は次期公爵。彼のことも恐れていたはずだ。

笑顔も無し。いかにも義務的って感じね。

その後は私達の番になり父と踊った。
男爵家まで終わると自由に踊れる。


殿下はコーネリア様元へ。私は…

「リヴィア・ネルハデス嬢、ダンスを一曲お願いします」

「フレンデェ公子!?」

驚いている間に手を引かれダンスホールまで出てきてしまった。

「私は、」

「ここに立ったのに逃げたら噂が飛び交うぞ」

仕方なく踊ることにした。


「上手いな」

「コーネリア様の方がお上手です」

「…何故今更?」

「 ? 」

「打診を断ったと聞いたのに」

「複雑ですわ。
それより、コーネリア様を1人の人間として尊重してはくださいませんか」

「コーネリアが君に何を?」

冷たい瞳

「特にお話しはしておりません。挨拶を交わす時間しかいただけておりませんので。ですが、この婚約が彼女の望みではないということは分かります」

「代わりに君が王子妃に?」

「私は王子妃にはなりません」

「……では何故」

「当たり前のことを申し上げているだけです。公子は神の教えを信じていますか?」

「ああ、普通にな」

「子は神からの授かりもののはず。なのに何故大人の欲の道具になさるのでしょう。
例えば陛下からの賜り物を、何かを得るための道具として粗末に扱っていたら不敬だと思われてもおかしくありません。
では、神からの賜り物を、何かを得るための道具として粗末に扱っていたら、それはどんな罪なのでしょうね」

「粗末になど、」

「いいえ。粗末どころか傷付けているのです。守るべき立場の家族が望まぬことを強いていらっしゃる」

「貴族の義務がある」

「貴族という制度は人間がつくりだしたもの。その特権を維持し、領民を従わせるために政略結婚といういかにも己が犠牲になっていますというパフォーマンスをしているのでは?契約書というものがありながら、何故 子を差し出すのでしょう」

「ネルハデス家だって同じことが言えるのでは?」

「その通りです。ですが私は自分で選ぶことを許されました。私を守れる男であれば身分が低くても構いません。
母はより良い家門に嫁ぐことが女の幸せだろうと私に言いますが、私が不幸になると思ったら父に逆らってでも私を守ろうとしてくれます。

私が恵まれているのは分かっています。
ですがフレンデェ公爵家は権力も財力もウチより遥かにお持ちなのに、何故、神からの授かりものに、血の繋がった子に、自分にそっくりの妹に、言いなりになれと強いるのです?

初めから愛するために、大事にするために産むのではなく、駒として生むのだとしたら、それはもう神の定義する人間ではありません。
ご自分達が何をさせているのか、見つめ直してみては?」

「王子妃の排出はフレンデェ家や領民に有益なんだ」

「領民?王子妃にすることが領民の希望だと?ならば豪華な屋敷や、最高級の服や、宝石や、過分な蓄えを止めて領民に返したらいかがですか?
そして領民にもっと休んでいいよ、病気や怪我をしても面倒をみるよと言ってみてください。間違いなく領民は、後者を望むはずです」

「……」

「公子は次期公爵ですよね。弱い者を犠牲にする伝統を継ぐのが役目ではありません。せめてコーネリア様から何もかもを奪うのはやめさせてください」

「何もかも?」

「嫌と言う自由も、友人を作る自由も、家族からの愛を求める自由も、息抜きをする自由もです」

「何故其方が気にするんだ」

「公子。質問ばかりではなくご自身で考えてみてはいかがですか。
もし、明日お休みでしたら、してはならないと言われていることをコーネリア様と一緒にしてみてはどうでしょう。
あ、犯罪はいけませんよ」

「そうか。ならば其方も付き合え」

「はい?」

「言い出したのは其方だろう。
明日迎えをやる。しゃあな、

「ええ!?」

「ほら、ダンスを終えたらカーテシーだろう」

「おっと、」

よろけた私の腕を掴み転倒を防いでくれた。

「ハハッ、女は“キャア”とか言うんじゃないのか? “おっと”って…ククッ」

「別にいいじゃないですか!
でも、可愛い笑顔ですね、公子。コーネリア様の笑顔も絶対に可愛いはずですわ」

「可愛い?」

「失礼、リヴィア嬢は私とダンスの時間です」

「王子殿下、失礼いたしました。
じゃあな、リヴィア。明日だぞ」


ヘンリー王子殿下が私の手を取った。
曲が始まるとステップを踏み出す。

「リヴィア…公子と知り合いだったのだな」

「いえ。初めて言葉を交わしました。顔を合わせた記憶もありません」

「氷結の公子と呼ばれているオードリック・フレンデェが笑っていた」

「あれは私を馬鹿にしていたのです」

「しかも明日約束を?」

「約束ではありません。強制と言うものです」

「止めさせる」

「今回は行ってみます。私が文句を言ったのが発端ですから」

「どんな?」

「それより、ネックレスにイヤリングにブレスレット。ありがとうございます」

「気に入ってもらえるといいのだけど」

「過分だとは思いますが、素敵な品です」

「貸し出しじゃないからね」

「聞いたのですか?
私は婚約者本物ではありません。贈るなら本物に贈ってくださいませ」

「私にとって本物は君だった」

「……」

「リヴィアだけだ。
だからさっきのように他の男と楽しそうにしていると心が苦しくなる。
この後はルネと踊るのだろう?」

「クラスメイトですわ。アングラード伯爵とも踊ります」

「ティエリー・クリューの従兄弟か。
もうと聞いたけど」

「それは人と人との繋がりです。人と関われば関係は化けたりするものです。アングラード伯爵は頼りないお兄様といった感じですわ」

「君を閉じ込めてしまいたい」

ドクン!

「リヴィア?」

息ができない…

「リヴィア!」

立っていられない…

「リヴィ!」

ルネ様の声…

「リヴィア!
ゆっくり息を吸え。大丈夫、俺がいる。
ほら、大丈夫」

「先生…」

「王子殿下、彼女は連れて行きます」

「「私も」」

「王子殿下もカシャ公子も成人の義を続けてください。リヴィアに必要なのは医者です。失礼いたします」
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