【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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見舞い

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母の刺したピンク色の花の刺繍のクッションを背もたれにしてベッドで大人しくしている。

兄様の恋人セレストさんが投げたポットが私の顔に当たり眉の辺りを切ってしまった。
しっかりと血が出て全員パニックになった。投げた本人も慌てていた。

「ロック、もうあの人はいないから大丈夫よ」

「いいえ。私が側に居たらその様な怪我を負わせなかったはずです」

セレストさんにティーポットを投げつけられた場にロックは居なかった。騒ぎを聞きつけて駆け込んできたロックは剣を抜き、セレストさんを斬り殺そうとした。

『ロック!妊婦らしいから駄目よ!』

『そんなもの関係ありません!』

『ロック、そんな人のことより私を部屋に連れて行って。歩けないの。今すぐ行きたいの』

『かしこまりました』

ロックの意識を逸らすために言った言葉だった。
すぐ後にセレストさんは捕らえられた。

“歩けないの”

それ以来、歩かせてもらえない。
ロックがずっと側で見張っていて、どこに行くにも抱き上げられてしまう。ロックが私から離れる時は、入浴とトイレと食事の時だけ。
だからロックは休憩をほぼ取っていない。もちろん睡眠も僅か数十分程だった。

「腫れも引いたし、痣も自然に消えるわ。
ロックが人としての暮らしを思い出してくれないと、私も眠るのを拒否するかもしれないわよ」

「脅迫ですか」

「お願いしてるの」

「痣が消えたら考えます」



そして、

「モロー隊長、カルフォン卿」

「かわいそうに」

モロー隊長が触れようとした手を止めた。

「多分綺麗に治ります。腫れは引きましたから」

「リヴィア様、罪人は兄君の恋人と聞きましたが」

カルフォン卿が私の手にプレゼント?を渡した。

「そうです。…これは?」

「そこから離れられない時のための気晴らしです」

開けると陶器の馬だった。下は三日月型になっていて前後に揺れる。

「ありがとうございます」

ベッドサイドテーブルに置いて揺らした。

「ふふっ、嬉しいです。
サリー。一番細いリボンを持ってきて」

リボンを持ってきてもらい、手綱代わりに結びつけた。

「サリー。布で鞍と、こちらの騎士様そっくりのお人形を作って欲しいの。このお馬さんに乗せて欲しいわ」

「お任せください、お嬢様。
お茶の準備をいたします」

「ロックも席を外してもらえる?お仕事のお話しだから」

「……かしこまりました」

2人が部屋から出ると、

「もしかして、セレストさんを?」

「そうだ。しっかりと君に傷を負わせたセレストは悪夢を見ていることだろう。観察をしたい。
私は聴取したら戻るが、カルフォンが暫くここに残って夢の内容を記録する」

「お父様達には?」

「他国の者が嫡男を誘惑したことについて余罪の調査をすると言おう」


そして、夕食時に興味津々のお母様は、

「まあまあ、お二人ともとても素敵ですわ。王都でリヴィアがお世話になっているそうで」

「リヴィア嬢は可愛らしいだけではなく有能ですのでスカウトしたいくらいです」

「リヴィアは跡継ぎになると思いますから難しいですわね。ですが必要だと言われることはとても素晴らしいことですし、ありがたいですわ」

「リヴィア嬢が跡継ぎに?」

「ええ。息子のダニエルを除籍して追放しましたので。リヴィアが継ぐと言えばリヴィアとその婿に。継がないと言えば養子をとります」

「そうですか」

「リヴィアに縁談相手を探しているのですけど、どの方もリヴィアが首を横に振りますのよ」

「お母様!」

「リヴィア嬢は急がなくても」

「あら、いけませんわ。1日経つごとに、条件のいいご令息は婚約していってしまいますのよ」

「リヴィアにプレッシャーをかけるな」

「もう、あなたはリヴィアに甘過ぎますわ。
それに、素敵な令息方が取られてしまったら、泣くことになるのはリヴィアですからね?
他国に出すのは嫌なのでしたら国内で早く見つけてしまわないと」

「他国からの打診があるのですか」

「何故かありますの。しかも大国から」

「アルシュですか」

「アルシュと言えばカシャ公爵夫人の祖国ですね」

「カルフォン、調べたのか」

「はい。軽く」

「リヴィアを欲しているのはカシャ公爵家というより夫人の血筋?」

「宗教性の強い国が何故うちのような平凡な伯爵家の娘を?」

「お母様、きっと偶然ですわ。
もしかしたら夫人が親族に縁談を断られたと話して、それを聞いた親族が気まぐれに申し込まれたのかもしれませんわ」

「リヴィア。アルシュからの縁談も本気のはずだ。何しろ大貴族のガニアン公爵家の嫡男との縁談だ。気まぐれでも気の迷いでもない。

アルシュに来て親交を深めてから判断をして欲しいと仰った。リヴィアが学園に通い出したから、それを理由に断れたが、もし通っていなかったら断れなかった。ここまで遣いに聖騎士を寄こすほどだ」

知らなかった。

「ルネ様に聞いてみますわ」

「令息と親しくなったのか」

「私を追いかけて最下位クラスに来てしまったのです。無視したり、彼だけ断るわけにもいかず、仲間に加わっています」

「距離を置けばいいだろう。何かされていないか?」

「クラスメイトにそんなことをしたら虐めと思われてしまいますわ。しかも身分も見目も良くて成績も良い令息ですから。
大丈夫です。今のところ優しくしてくださるので」

「やっぱり、カシャ公爵令息との縁談を受けたらいいじゃない。身分も見目も成績も良く優しくて、貴女と交流したくて最下位クラスに来てくださるなんて素敵じゃないの」

「お母様、お客様の前で止めてください」

「まあ、今まで嫁入り先を考えたが、これからは婿に来てくれる令息も調べておかないとな」

「とにかく、在学中は決められませんから」

「何で駄目なの。普通は在学中に決めてしまうじゃないの」

「学園に通う条件が学業に集中させるということだから仕方ないだろう」

「週末と長期休暇、それぞれ半分を王宮で勉強なんて聞いたことがないわ」

「それが、王子妃候補が2人も脱落してしまって、公爵令嬢1人で可哀想だからと国王夫妻がリヴィア嬢に頼み込んだのです。

誤解をする方もおられるかもしれませんが、在学中に王子妃同様の教育が完了することで、縁談に強みになるかと。

もちろん王家から、婚約者候補としてではなく、婚約者候補を助けるための王命だったと文書でお出ししますので、良家への縁談には有利になるはずです。王家のお墨付きなのですから」

「でも、いいお相手が見つかれば、縁談を進めますわ。卒業まで待っていたら誰も残らないかもしれませんもの」

「その際には先にご連絡をいただけますか」

「はい。必ず」

困ったわ。お母様の言っていることは当然なのだけど、王子妃候補役なのに縁談を受け付けていたら不誠実になってしまう。
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