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ルイーズ 離縁
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【 ルイーズの視点 】
そして、
「旦那様がご令嬢を抱えて書斎へ向かわれました」
「行くわ」
夫の書斎のドアをノックした。
少しドアが開いたが夫が立ちはだかる。
「紹介してくださいな」
「仕事中だ。君の来る所ではない」
内扉の先に若い令嬢がベッドに座っていた。
仕事なわけないじゃない!
「今更 愛人? まさか側妃?」
「いい加減にしないか!仕事だと言っただろう」
私の夫が、別の女を守っている。妻であるこの私から……。
「ご挨拶をさせてください、隊長」
夫は仕方なくといった感じで私を部屋に通して紹介した。
「リヴィア・ネルハデスと申します」
王族と言ってもいいくらいの、所作で挨拶をした少女はとても愛らしかった。妹王女のジュリエットよりも。
? ネルハデス……何処かで聞いたわ。
そうよ、ヘンリー王子の!
どちらにも言い寄るなんて、とんでもない女だわ!
「王族の二股だなんてたいしたものね」
「ルイーズ、口にしていいことではないし、そんな関係では無い」
「王族の二股?」
彼女は不思議そうな顔をして夫を見上げた。
もしかして、夫が王弟だと知らない?
なら、召し上げるわけではなかったのね。
「召し上げるのではなくて遊びなのね」
でも何故か許せない。夫に気持ちがあるように感じるからだ。殺してしまおうか。
「ルイーズ!」
声を荒げる夫を制して彼女は冷静に言葉にした。
「私と隊長は仕事上の関係です。
高貴な方なのは分かりましたが、ご自身のためにその悪意をしまったままになさってください」
悪意があると言い切ったソレは、癪に障る物言いだった。
「ちょっと!私は元王女で王弟殿下の妻なのよ!
不敬だわ!」
「そのあたりは国王陛下とご相談ください。
私はいつでも任務から退きますとお伝えください。
これ以上、事実でないことに騒ぎ立てるようであれば訴え出ます」
何故こんな事を言われなくてはならないの!
「ルイーズ。君が言った通り、王族2人を手玉にとっているとなれば極刑も有り得る大罪だ。それなのに事実ではないことに騒ぎ立てるのだから訴え出るのは当然だろう」
不貞の証拠を出せと言われ、私は密室に2人でいたことを指摘すると、彼女は腕を出した。
包帯からは血が滲んでいた。
「っ! 今日はそうでも、」
「いい加減にしろ」
夫が廊下の警備兵を呼んだ。
「彼女を自室に閉じ込めてくれ」
兵士が私の腕を拘束した。
「ルイーズ。私の身分を明かしたらどうなるか教えておいたのに破ったのだから罰をうけないとな」
「横暴よ!」
「早く連れていってくれ」
自室に監禁されて半刻、
「国王陛下がお呼びです」
近衛騎士が迎えに来た。
通されたのは謁見の間だった。
「リヴィア嬢に絡んだそうだな」
「陛下。
夫と特別な関係のようでしたので挨拶に出向いただけですわ」
「彼女は私が直々に任務を与えている特別な令嬢だ」
「あの娘がですか?」
「弟と匹敵する能力の持ち主だ。彼女がやらないと言い出したら困る。其方には到底代わりにはならない」
「若い体を使って王弟と王子を手玉に取るなど、」
「確かに、両者共にリヴィア嬢を気に入っている。私もだ。だが其方の下衆な想像とはまるで違う。
危険を承知で任務にあたる勇敢な令嬢だ」
「…2人きりでいることがですか?」
「極秘任務だから人払いが必要なのだ。
この件に関して其方に納得を得るつもりはない。
それより、約束を破ったな」
「…それは、」
「婚姻契約に載っている最重要事項だった。
其方も其方の父王も署名したが?」
「はい」
「婚姻は解消だ」
「え?」
「契約違反だから仕方あるまい」
「そんな!」
「契約違反に目を瞑るほど其方に価値がないからな」
「国王と王妃から生まれた純血の王女が庶子に嫁いだというのに、どういうことですか!」
「先代の王がどう思って其方を選んだかは知らんが、私は異母弟が大事だ。蔑むことは許さない。
だが安心した。庶子との離縁は其方も望むところであろう。弟が手を付けないのは頷ける」
「どういう意味ですか」
「弟は仕草や表情、声色などから感情を読み取ったり嘘を見抜く。庶子だと蔑む気持ちを感じ取ったから其方に手を付けなかったのだろう。
ただ存在して煩わすだけの妻など足枷でしかない。
明日、祖国へ送り返す」
「嫌です!私は、」
「でもな。残るなら舌を切り落とさねばならない」
「え?」
「婚姻契約書に、違反した場合の処罰方法が明記してある。秘密を口外した場合は国に送り返すか、舌を切り落とすか」
「嘘…」
「後で契約書を見せに行かせよう。舌を切り落とせば王族の妻の座には置いておけない。幽閉する費用は勿体ないし、離縁になるのは間違いない。
この国に残る為に舌を切り落とすか?
ナイフで削ぎ落とし、切り口を熱した鉄で焼いて止血する方法だが酷い痛みらしい。傷が悪化して死ぬ者や、食事ができなくなり餓死する者もいるそうだ。苦しみながら生きながらえる者が多いが其方はどうかな?」
「ううっ……」
翌日、本当に荷物を馬車に詰め込まれて、無理矢理乗せられかけた。
「嫌よ!ジスラン様!」
バシッ!
「キャアッ」
「その名を口にするな」
「助けて……」
「罪人を早く乗せろ!」
ドアが閉められ外鍵をかけられて馬車が出発した。
そして、
「旦那様がご令嬢を抱えて書斎へ向かわれました」
「行くわ」
夫の書斎のドアをノックした。
少しドアが開いたが夫が立ちはだかる。
「紹介してくださいな」
「仕事中だ。君の来る所ではない」
内扉の先に若い令嬢がベッドに座っていた。
仕事なわけないじゃない!
「今更 愛人? まさか側妃?」
「いい加減にしないか!仕事だと言っただろう」
私の夫が、別の女を守っている。妻であるこの私から……。
「ご挨拶をさせてください、隊長」
夫は仕方なくといった感じで私を部屋に通して紹介した。
「リヴィア・ネルハデスと申します」
王族と言ってもいいくらいの、所作で挨拶をした少女はとても愛らしかった。妹王女のジュリエットよりも。
? ネルハデス……何処かで聞いたわ。
そうよ、ヘンリー王子の!
どちらにも言い寄るなんて、とんでもない女だわ!
「王族の二股だなんてたいしたものね」
「ルイーズ、口にしていいことではないし、そんな関係では無い」
「王族の二股?」
彼女は不思議そうな顔をして夫を見上げた。
もしかして、夫が王弟だと知らない?
なら、召し上げるわけではなかったのね。
「召し上げるのではなくて遊びなのね」
でも何故か許せない。夫に気持ちがあるように感じるからだ。殺してしまおうか。
「ルイーズ!」
声を荒げる夫を制して彼女は冷静に言葉にした。
「私と隊長は仕事上の関係です。
高貴な方なのは分かりましたが、ご自身のためにその悪意をしまったままになさってください」
悪意があると言い切ったソレは、癪に障る物言いだった。
「ちょっと!私は元王女で王弟殿下の妻なのよ!
不敬だわ!」
「そのあたりは国王陛下とご相談ください。
私はいつでも任務から退きますとお伝えください。
これ以上、事実でないことに騒ぎ立てるようであれば訴え出ます」
何故こんな事を言われなくてはならないの!
「ルイーズ。君が言った通り、王族2人を手玉にとっているとなれば極刑も有り得る大罪だ。それなのに事実ではないことに騒ぎ立てるのだから訴え出るのは当然だろう」
不貞の証拠を出せと言われ、私は密室に2人でいたことを指摘すると、彼女は腕を出した。
包帯からは血が滲んでいた。
「っ! 今日はそうでも、」
「いい加減にしろ」
夫が廊下の警備兵を呼んだ。
「彼女を自室に閉じ込めてくれ」
兵士が私の腕を拘束した。
「ルイーズ。私の身分を明かしたらどうなるか教えておいたのに破ったのだから罰をうけないとな」
「横暴よ!」
「早く連れていってくれ」
自室に監禁されて半刻、
「国王陛下がお呼びです」
近衛騎士が迎えに来た。
通されたのは謁見の間だった。
「リヴィア嬢に絡んだそうだな」
「陛下。
夫と特別な関係のようでしたので挨拶に出向いただけですわ」
「彼女は私が直々に任務を与えている特別な令嬢だ」
「あの娘がですか?」
「弟と匹敵する能力の持ち主だ。彼女がやらないと言い出したら困る。其方には到底代わりにはならない」
「若い体を使って王弟と王子を手玉に取るなど、」
「確かに、両者共にリヴィア嬢を気に入っている。私もだ。だが其方の下衆な想像とはまるで違う。
危険を承知で任務にあたる勇敢な令嬢だ」
「…2人きりでいることがですか?」
「極秘任務だから人払いが必要なのだ。
この件に関して其方に納得を得るつもりはない。
それより、約束を破ったな」
「…それは、」
「婚姻契約に載っている最重要事項だった。
其方も其方の父王も署名したが?」
「はい」
「婚姻は解消だ」
「え?」
「契約違反だから仕方あるまい」
「そんな!」
「契約違反に目を瞑るほど其方に価値がないからな」
「国王と王妃から生まれた純血の王女が庶子に嫁いだというのに、どういうことですか!」
「先代の王がどう思って其方を選んだかは知らんが、私は異母弟が大事だ。蔑むことは許さない。
だが安心した。庶子との離縁は其方も望むところであろう。弟が手を付けないのは頷ける」
「どういう意味ですか」
「弟は仕草や表情、声色などから感情を読み取ったり嘘を見抜く。庶子だと蔑む気持ちを感じ取ったから其方に手を付けなかったのだろう。
ただ存在して煩わすだけの妻など足枷でしかない。
明日、祖国へ送り返す」
「嫌です!私は、」
「でもな。残るなら舌を切り落とさねばならない」
「え?」
「婚姻契約書に、違反した場合の処罰方法が明記してある。秘密を口外した場合は国に送り返すか、舌を切り落とすか」
「嘘…」
「後で契約書を見せに行かせよう。舌を切り落とせば王族の妻の座には置いておけない。幽閉する費用は勿体ないし、離縁になるのは間違いない。
この国に残る為に舌を切り落とすか?
ナイフで削ぎ落とし、切り口を熱した鉄で焼いて止血する方法だが酷い痛みらしい。傷が悪化して死ぬ者や、食事ができなくなり餓死する者もいるそうだ。苦しみながら生きながらえる者が多いが其方はどうかな?」
「ううっ……」
翌日、本当に荷物を馬車に詰め込まれて、無理矢理乗せられかけた。
「嫌よ!ジスラン様!」
バシッ!
「キャアッ」
「その名を口にするな」
「助けて……」
「罪人を早く乗せろ!」
ドアが閉められ外鍵をかけられて馬車が出発した。
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