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ルイーズ 離宮
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【 ルイーズの視点 】
『ひとつだけ。学園へ通う時は一時外出というかたちで出られます』
『行事は』
『行事に出せると思いますか?王家の恥を晒すわけには参りません』
『恥?』
『大事なことを言います。
逃げ出せば除籍になり平民として生きていくことになります。この離宮の敷地から出ないように。
後は学園ですが、校外学習でもない限り学園の外へ出てはいけません。私ども近衛が馬車で送り迎えをいたします。
片道1時間かかりますから、そのおつもりで。
予算は10分の1になりました。
成長に合わせた質素なドレスを与えますが、基本はワンピースで過ごしていただきます』
『そんな、』
『離宮の使用人に敬意を持って接してください。
もし辞めても補充はいたしません。
人が減った分、他の者に代わりをさせようとすれば、その者も辞めるでしょう。
掃除係が辞めれば王女殿下が掃除をなさってください。
洗濯係が辞めれば王女殿下が洗濯をなさってください。
料理人が辞めれば王女殿下が料理をなさってください。
御者が辞めれば大変ですよ。歩いて学園に通うことになります。
ちなみに通わないという選択肢はございません。
除籍になりますから』
『あんまりだわ』
『王女というものはあくまでも国王陛下と王妃殿下の子というだけです。その貴女が王妃殿下を冒涜なされば厳しく処罰されます』
『お母様が生きていたら…』
『亡くなられた王妃様が貴女を甘やかした結果です。生きていらしてもどうなったことか』
『っ!』
その後、執務室で何が起きたのか知った。
お父様が私の顔に平手打ちをして、私は倒れて失神したらしい。
泣き腫らした翌日、学園を休みたいと言っても許されなかった。
『ついていくことさえ出来ていない状態で授業を聞かなかったら進級できず、除籍になりますがよろしいですか?』
腫れたまま学園へ向かった。
馬車もいい物ではなかったし、鞭を打たれていたので1時間の馬車はかなりの苦痛だった。
授業中も木の椅子にずっと座っていなくてはならない。
友人もいない。
学園の食堂で1人で食べるのが辛すぎた。
味もよく分からず、喉を通らない。
それにドレス、宝石、外食、友人、婚約者、家族、お茶会の話を耳にするのも辛かった。
一番辛いのはお父様や王妃、弟妹の話だった。
何とか卒業して花嫁になれば、この生活から抜け出せて好きなドレスを着て美しく整えて、旦那様に愛されて子に恵まれて、茶会や夜会で楽しめる。
そう思って頑張って卒業したのに縁談が来なかった。
2年後、バレット卿がお父様からの伝言を預かってきた。
『隣国の王族と縁談話が進んでおります。
ただし、婚姻後、夫が王族だと口にしてはいけません』
『どういうこと』
『国王陛下の子ではありますが庶子で、引き取り後は王城内で身分を隠して働いております』
庶子? この私を庶子の嫁に!?
『つまり?』
『表向きは騎士の妻ということになります。給料の中で生活しなければなりません。
結婚式は内々に。
茶会や夜会などといったものに参加することもございません。国王陛下が招待する場合は別ですが。
騎士の夫人がおくるような生活をするということです。ですが、王城内に部屋を与えられますのでメイドが付きます。不自由はなさいません』
あり得ない……
『歳は』
『3つ下です』
『まだ学生?』
『成人して働いております』
『学園にも通っていないのね』
『そして、子は成せません』
『どういうこと!? 種無しということ!?』
『血を継がせないという意味です』
『そんな!!』
『国内に縁談はございません。
他国もいい返事はいただけませんでした。
恐らく、この縁談を逃せば、年寄りの慰みものとして差し出されることになるでしょう』
『!! 本当にお父様が?』
『“国王陛下”とお呼びください』
『考えたいわ』
『明日、返事を聞きに戻って参ります』
目標が、夢が崩れた。
ドレスも宝石も社交も子も望めない。
そして身分を明かせないほど疎まれている庶子。
『ねえ、年寄りの慰みものって具体的にどうなるの』
『私では分かりかねます。騎士様ならご存知かもしれません』
騎士と兵士を呼んでもらった。
『相手によって違います。どれが当てはまるのか、我々でも知らない扱いかもしれません』
『知っている話でいいわ』
『私が聞いたのは、4つの事例です。
病気でいつもベッドで過ごす老主人の世話のために娶られた花嫁。車椅子のご隠居の世話のために娶られた花嫁。
このような身体が不自由な場合、閨の奉仕は大変です。全てが妻主導となります。
手や口で奉仕することがほとんどです。
主人は性器だけ露出し、妻だけ全裸になることもあるようです。
僻地の領地に暮らすご隠居の花嫁。
こちらは虫や野生動物に悩まされ、社交はほぼありません。
夫の話し相手と閨の相手となります。
元兵士のご隠居の花嫁。
かなり気難しく荒い夫で、閨は体力勝負となります』
『私が聞いたのは、3つの事例です。
大貴族のご隠居様で、厳格な夫です。
マナーやルールにとても厳しく、気が滅入るそうです。
下位貴族のご隠居様で、変わった性癖の持ち主で、若い女性が苦痛に歪む顔がお好きだそうです。
ある貴族のご隠居様で、妻を共有するそうです』
『共有?』
『いわゆる乱交です。友人、知人、親戚、兄弟、取引先の男達を呼んで奉仕させるのです』
『ありがとう。参考になったわ』
翌日、バレット卿に縁談を受けると返事をした。
『王族法に触れた場合、特に身分を明かした場合は離縁となりかねませんのでご注意ください』
『分かったわ』
『ひとつだけ。学園へ通う時は一時外出というかたちで出られます』
『行事は』
『行事に出せると思いますか?王家の恥を晒すわけには参りません』
『恥?』
『大事なことを言います。
逃げ出せば除籍になり平民として生きていくことになります。この離宮の敷地から出ないように。
後は学園ですが、校外学習でもない限り学園の外へ出てはいけません。私ども近衛が馬車で送り迎えをいたします。
片道1時間かかりますから、そのおつもりで。
予算は10分の1になりました。
成長に合わせた質素なドレスを与えますが、基本はワンピースで過ごしていただきます』
『そんな、』
『離宮の使用人に敬意を持って接してください。
もし辞めても補充はいたしません。
人が減った分、他の者に代わりをさせようとすれば、その者も辞めるでしょう。
掃除係が辞めれば王女殿下が掃除をなさってください。
洗濯係が辞めれば王女殿下が洗濯をなさってください。
料理人が辞めれば王女殿下が料理をなさってください。
御者が辞めれば大変ですよ。歩いて学園に通うことになります。
ちなみに通わないという選択肢はございません。
除籍になりますから』
『あんまりだわ』
『王女というものはあくまでも国王陛下と王妃殿下の子というだけです。その貴女が王妃殿下を冒涜なされば厳しく処罰されます』
『お母様が生きていたら…』
『亡くなられた王妃様が貴女を甘やかした結果です。生きていらしてもどうなったことか』
『っ!』
その後、執務室で何が起きたのか知った。
お父様が私の顔に平手打ちをして、私は倒れて失神したらしい。
泣き腫らした翌日、学園を休みたいと言っても許されなかった。
『ついていくことさえ出来ていない状態で授業を聞かなかったら進級できず、除籍になりますがよろしいですか?』
腫れたまま学園へ向かった。
馬車もいい物ではなかったし、鞭を打たれていたので1時間の馬車はかなりの苦痛だった。
授業中も木の椅子にずっと座っていなくてはならない。
友人もいない。
学園の食堂で1人で食べるのが辛すぎた。
味もよく分からず、喉を通らない。
それにドレス、宝石、外食、友人、婚約者、家族、お茶会の話を耳にするのも辛かった。
一番辛いのはお父様や王妃、弟妹の話だった。
何とか卒業して花嫁になれば、この生活から抜け出せて好きなドレスを着て美しく整えて、旦那様に愛されて子に恵まれて、茶会や夜会で楽しめる。
そう思って頑張って卒業したのに縁談が来なかった。
2年後、バレット卿がお父様からの伝言を預かってきた。
『隣国の王族と縁談話が進んでおります。
ただし、婚姻後、夫が王族だと口にしてはいけません』
『どういうこと』
『国王陛下の子ではありますが庶子で、引き取り後は王城内で身分を隠して働いております』
庶子? この私を庶子の嫁に!?
『つまり?』
『表向きは騎士の妻ということになります。給料の中で生活しなければなりません。
結婚式は内々に。
茶会や夜会などといったものに参加することもございません。国王陛下が招待する場合は別ですが。
騎士の夫人がおくるような生活をするということです。ですが、王城内に部屋を与えられますのでメイドが付きます。不自由はなさいません』
あり得ない……
『歳は』
『3つ下です』
『まだ学生?』
『成人して働いております』
『学園にも通っていないのね』
『そして、子は成せません』
『どういうこと!? 種無しということ!?』
『血を継がせないという意味です』
『そんな!!』
『国内に縁談はございません。
他国もいい返事はいただけませんでした。
恐らく、この縁談を逃せば、年寄りの慰みものとして差し出されることになるでしょう』
『!! 本当にお父様が?』
『“国王陛下”とお呼びください』
『考えたいわ』
『明日、返事を聞きに戻って参ります』
目標が、夢が崩れた。
ドレスも宝石も社交も子も望めない。
そして身分を明かせないほど疎まれている庶子。
『ねえ、年寄りの慰みものって具体的にどうなるの』
『私では分かりかねます。騎士様ならご存知かもしれません』
騎士と兵士を呼んでもらった。
『相手によって違います。どれが当てはまるのか、我々でも知らない扱いかもしれません』
『知っている話でいいわ』
『私が聞いたのは、4つの事例です。
病気でいつもベッドで過ごす老主人の世話のために娶られた花嫁。車椅子のご隠居の世話のために娶られた花嫁。
このような身体が不自由な場合、閨の奉仕は大変です。全てが妻主導となります。
手や口で奉仕することがほとんどです。
主人は性器だけ露出し、妻だけ全裸になることもあるようです。
僻地の領地に暮らすご隠居の花嫁。
こちらは虫や野生動物に悩まされ、社交はほぼありません。
夫の話し相手と閨の相手となります。
元兵士のご隠居の花嫁。
かなり気難しく荒い夫で、閨は体力勝負となります』
『私が聞いたのは、3つの事例です。
大貴族のご隠居様で、厳格な夫です。
マナーやルールにとても厳しく、気が滅入るそうです。
下位貴族のご隠居様で、変わった性癖の持ち主で、若い女性が苦痛に歪む顔がお好きだそうです。
ある貴族のご隠居様で、妻を共有するそうです』
『共有?』
『いわゆる乱交です。友人、知人、親戚、兄弟、取引先の男達を呼んで奉仕させるのです』
『ありがとう。参考になったわ』
翌日、バレット卿に縁談を受けると返事をした。
『王族法に触れた場合、特に身分を明かした場合は離縁となりかねませんのでご注意ください』
『分かったわ』
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