【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

文字の大きさ
上 下
42 / 100

ルイーズ 離宮

しおりを挟む
【 ルイーズの視点 】


『ひとつだけ。学園へ通う時は一時外出というかたちで出られます』

『行事は』

『行事に出せると思いますか?王家の恥を晒すわけには参りません』

『恥?』

『大事なことを言います。
逃げ出せば除籍になり平民として生きていくことになります。この離宮の敷地から出ないように。
後は学園ですが、校外学習でもない限り学園の外へ出てはいけません。私ども近衛が馬車で送り迎えをいたします。
片道1時間かかりますから、そのおつもりで。

予算は10分の1になりました。
成長に合わせた質素なドレスを与えますが、基本はワンピースで過ごしていただきます』

『そんな、』

『離宮の使用人に敬意を持って接してください。
もし辞めても補充はいたしません。
人が減った分、他の者に代わりをさせようとすれば、その者も辞めるでしょう。
掃除係が辞めれば王女殿下が掃除をなさってください。
洗濯係が辞めれば王女殿下が洗濯をなさってください。
料理人が辞めれば王女殿下が料理をなさってください。
御者が辞めれば大変ですよ。歩いて学園に通うことになります。
ちなみに通わないという選択肢はございません。
除籍になりますから』

『あんまりだわ』

『王女というものはあくまでも国王陛下と王妃殿下の子というだけです。その貴女が王妃殿下を冒涜なされば厳しく処罰されます』

『お母様が生きていたら…』

『亡くなられた王妃様が貴女を甘やかした結果です。生きていらしてもどうなったことか』

『っ!』

その後、執務室で何が起きたのか知った。

お父様が私の顔に平手打ちをして、私は倒れて失神したらしい。


泣き腫らした翌日、学園を休みたいと言っても許されなかった。

『ついていくことさえ出来ていない状態で授業を聞かなかったら進級できず、除籍になりますがよろしいですか?』

腫れたまま学園へ向かった。
馬車もいい物ではなかったし、鞭を打たれていたので1時間の馬車はかなりの苦痛だった。
授業中も木の椅子にずっと座っていなくてはならない。

友人もいない。
学園の食堂で1人で食べるのが辛すぎた。
味もよく分からず、喉を通らない。
それにドレス、宝石、外食、友人、婚約者、家族、お茶会の話を耳にするのも辛かった。
一番辛いのはお父様や王妃、弟妹の話だった。

何とか卒業して花嫁になれば、この生活から抜け出せて好きなドレスを着て美しく整えて、旦那様に愛されて子に恵まれて、茶会や夜会で楽しめる。

そう思って頑張って卒業したのに縁談が来なかった。


2年後、バレット卿がお父様からの伝言を預かってきた。

『隣国の王族と縁談話が進んでおります。
ただし、婚姻後、夫が王族だと口にしてはいけません』

『どういうこと』

『国王陛下の子ではありますが庶子で、引き取り後は王城内で身分を隠して働いております』

庶子? この私を庶子の嫁に!?

『つまり?』

『表向きは騎士の妻ということになります。給料の中で生活しなければなりません。
結婚式は内々に。
茶会や夜会などといったものに参加することもございません。国王陛下が招待する場合は別ですが。
騎士の夫人がおくるような生活をするということです。ですが、王城内に部屋を与えられますのでメイドが付きます。不自由はなさいません』

あり得ない……

『歳は』

『3つ下です』

『まだ学生?』

『成人して働いております』

『学園にも通っていないのね』

『そして、子は成せません』

『どういうこと!? 種無しということ!?』

『血を継がせないという意味です』

『そんな!!』

『国内に縁談はございません。
他国もいい返事はいただけませんでした。
恐らく、この縁談を逃せば、年寄りの慰みものとして差し出されることになるでしょう』

『!! 本当にお父様が?』

『“国王陛下”とお呼びください』

『考えたいわ』

『明日、返事を聞きに戻って参ります』


目標が、夢が崩れた。

ドレスも宝石も社交も子も望めない。
そして身分を明かせないほど疎まれている庶子。

『ねえ、年寄りの慰みものって具体的にどうなるの』

『私では分かりかねます。騎士様ならご存知かもしれません』

騎士と兵士を呼んでもらった。

『相手によって違います。どれが当てはまるのか、我々でも知らない扱いかもしれません』

『知っている話でいいわ』

『私が聞いたのは、4つの事例です。

病気でいつもベッドで過ごす老主人の世話のために娶られた花嫁。車椅子のご隠居の世話のために娶られた花嫁。

このような身体が不自由な場合、閨の奉仕は大変です。全てが妻主導となります。
手や口で奉仕することがほとんどです。
主人は性器だけ露出し、妻だけ全裸になることもあるようです。

僻地の領地に暮らすご隠居の花嫁。
こちらは虫や野生動物に悩まされ、社交はほぼありません。
夫の話し相手と閨の相手となります。

元兵士のご隠居の花嫁。
かなり気難しく荒い夫で、閨は体力勝負となります』

『私が聞いたのは、3つの事例です。

大貴族のご隠居様で、厳格な夫です。
マナーやルールにとても厳しく、気が滅入るそうです。

下位貴族のご隠居様で、変わった性癖の持ち主で、若い女性が苦痛に歪む顔がお好きだそうです。

ある貴族のご隠居様で、妻を共有するそうです』

『共有?』

『いわゆる乱交です。友人、知人、親戚、兄弟、取引先の男達を呼んで奉仕させるのです』

『ありがとう。参考になったわ』


翌日、バレット卿に縁談を受けると返事をした。

『王族法に触れた場合、特に身分を明かした場合は離縁となりかねませんのでご注意ください』

『分かったわ』




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

処理中です...