【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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ベルトの結末

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【 ベルト・ドロウズの視点 】


幌馬車と馬を購入し、多くの必需品を買って詰め込んだ。僻地の町で調達できそうな物は現地で買うことにした。出産に備えた物も必要だった。
変装の為にカツラも買った。

仲の悪い国との国境へ向かい、国境の町の手前で、店があり医師もいる小さな町を見つけた。
そしてそこで山小屋を借りることができた。

間仕切りのある部屋はひとつと キッチンとリビングらしき空間のみ。

ディーンが不要な物を外に出し、私は拭き掃除をした。

ベッドのマットも使えたものではない。

「ベッドマットや毛布類と他に思いついた物を買ってくるからキッチン周りを先に頼む」

そういって幌馬車で出かけて行った。

虫が凄かったがディーンが退治してくれたので作業できた。綺麗にして食器や鍋などを収納した。

トイレに行きたくなった。狭い小屋にトイレもお風呂も無かった。外に出て一周したけど無かった。

「まさか!?」

仕方なく茂みで済ませた。


待っても待っても帰ってこない。

戻ったのは夜中だった。

「心配したわ!」

「町では売っていなくて、国境の町まで行ってきた」

「大丈夫なの!?」

「宿場や飲食店や国境の検問所は駄目だ」

店で幌馬車に積める一番いいマットらしいが寝心地が悪かった。

次の日にはディーンが町に行って、小屋の修繕と馬車をしまう車庫と馬小屋、トイレとお風呂を作って欲しいと依頼をした。
子供が生まれる頃には汲み取り式だけどトイレもできる。

何もかも川から水を汲まなくてはならないが遠回りでも幌馬車で行って川で水を汲み蓋をしてできるだけこぼれないように運んだ。


時が経ち、産気付いて生まれたのはディーンに似た男の子だったが、小屋まで来て出産の手伝いをしてくれた医師が告げた。

「残念ですが、長くても数年。早ければ数日かと」

「どういうことですか!」

「心臓の音が良くありません。生まれつき心臓に疾患があるようです」

「そんな」

「この場合、他の親御さんはどうされるのですか」

「寿命が来るのを待つ、捨てる、死産にするという選択をします」

「捨てるというのは?」

「そのままです。
教会や病院の前に捨てたり、森に捨てたり。
最初は育てると決心しても、病状が悪化したり、世話と生活や仕事との両立ができなくて捨てに行ってしまいます」

「死産にするというのは?」

「殺すのです。
貴族や金持ちは名誉のため。平民は金や疲労から逃れるためです」

「育てた方は?」

「平民なら大人しくさせておきます。それだけです。
もしかしたら疾患は一つではない可能性もあります。容体が急変しやすく、体調を崩しやすい。生半可な気持ちでは育てられませんよ」

だけど次の子が健康に生まれる保証もない。



結局、2日後に死んでしまった。

育てると返事をしようとした日だった。


そして私は心の病気と告げられた。

「環境の変化と、出産と、我が子を亡くしたショックが原因でしょう。何も考えず、ゆっくり過ごしてください」

「ありがとうございます」


だけど私には赤子の泣き声が聞こえるの。弱い泣き声が今この瞬間も。

暫くすると理解した。


「ディーン。あの子が呼んでいるのだわ」

「ベルト、しっかりしてくれ!」

「あの子の泣き声がずっと聞こえているの。行かないと」

「ベルト…頼む、一人にしないでくれ」

「あの子は一人なのよ?」





1週間後、気になった医師が小屋を訪ねると、誰もいなかった。

馬はいるようだが繋がれていない。

裏手を回ると小さな花壇と墓があり、その木の側でベルトとディーンは死んでいた。
ベルトは絞殺。ディーンは首吊り。

だが、二人のポケットから遺書が見つかり心中だということがわかった。

妻が強く望み夫が叶えた。


医師は憲兵を呼んだ。

医師が会っていた夫婦の髪の色が違ったからだ。カツラだったと悟り、顔をよく見ると手配書の二人だった。


後日、二人が隠していたお金が金融屋とアングラード伯爵に分配された。借りたり、横領した額の9割近く残っていた。



その頃のアングラード伯爵家は潤っていた。

お金が戻ったことも大きいが、ショトーが高値で売れたからだ。

子爵家は既にショトーにあるアングラード伯爵所有の土地の下まで掘り進めていて、サファイアを採掘していた。

国に対しても無許可、採掘量の隠匿で有罪になったが、修正申告とアングラード伯爵に相応しい対価を払って土地を買うことで許された。



アングラード伯爵はネルハデス伯爵にお礼の品を届けた。子爵から格安で買ったサファイアで夫人にネックレス、伯爵にはブローチを。

だが、

「あの、アングラード伯爵。お礼をされる覚えがありません。誰かとお間違えでは?」

「リヴィア嬢に、アングラード伯爵家を助けていただきました。彼女がいなければ没落しておりました。感謝しきれません」

「リヴィアが?」

「あの子ったら何も言わないのだから」

「多分、私の醜聞から始まっているので、口外しなかったのだと思います。とても素敵なご令嬢ですね」

アングラード伯爵は包み隠さず話した。妻と側近のこと、リヴィアの助言のこと。

「生意気なことを」

「とんでもないことです、伯爵。
本当に命拾いをしたのです。私はリヴィア嬢に頭が上がりません」

「それなら…有り難くいただきます」


そして国王夫妻にもサファイア入りの品が贈られた。

これは少し未来の話。



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