【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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婚約候補達と茶会

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伯爵が、夫人と側近のことを説明すると、国王陛下が溜息をついた。

「伯爵。己の妻に興味がないにも程がある」

「申し訳ございません」

「リヴィア嬢の助言が無ければ数ヶ月も保たずに没落しているだろうな」

「お恥ずかしい限りでございます」

「子は?」

「恵まれませんでした」

「もしくは夫人が避妊薬を飲んでいたのかもな」

「……」

「陛下、あまり虐めると泣いちゃいます」

「バっ、リヴィアっ」

「え? まさか今“バカ”と言いかけましたか?」

「まさか……すまん」

「伯爵、リヴィア嬢に泣き落としを使ったのか」

「そのまさかですわ、陛下」

「リヴィア嬢はまだ成人前だぞ」

「面目ございません」

「肖像画を持って来たのだな?」

「はい、陛下」

「捜査部に行って被害届書いて、似顔絵付きの手配書を作成するといい。そこに離縁届を持って行かせるから署名するように」

「感謝いたします」

「リヴィア嬢、遡って離縁させることで、その日からの夫人の借金を、伯爵家ではなく夫人の実家に負わせるのだな?」

「その通りです。陛下」

「従弟の友人がリヴィア嬢で命拾いしたな」

「頭が上がりませんので跪きます」

「追加の借金は防げたが、当面の資金はどうするのだ」

「ショトー地方に土地を持っているのですが、隣の地主が欲しがっていて売る予定です。後は領収に問題がなければ融資も可能かと」

ショトー!

「ショトーのどの辺りですか」

「鉱山の隣だよ」

「子爵家所有の?」

「よく知ってるね」

「価格は」

「周辺の土地単価より少し色をつけてくれるらしい。慈悲のある方だ」

「それ、署名しましたか?」

「まだだが」

「子爵にこう言ってください。
“陛下にお会いしたときに土地の話をしたら、その土地は周辺の土地単価の10倍以上でないとおかしいと言われた”と。
だから契約は調査が入ってからにしたいと突っぱねてください」

「あの何もない土地に?」

「一見そう見えるだけです」

「でも本当に金が無いんだ」

「相手が10倍以上に修正すれば進めてください。
子爵家が不満を漏らして話が進まないようでしたらネルハデスうちが貸付けますから。
正当な値が付いたら、そこから返してくだされば結構です」

「リヴィア嬢、伯爵の持っている土地には何があるのだ?」

「陛下、伯爵。情報源に関する質問は無しでお願いします」

「いいだろう」

「約束しよう」

「子爵の鉱山は掘り進むと伯爵の土地の下で原石が採れます。確かサファイアだったような」

「え!?」

「伯爵家で掘るという選択肢もございますが、初期投資がかなりかかりますし人も集めなければなりません。
今の伯爵家には費用も人の管理もできません。ならばリスクを負わずにある程度の価格で売ってしまった方がよろしいかと。

いくら鉱山の隣だからといって何もない土地を買おうなんて思いません。もしかしたら既に境界線を超えて地下から採掘しているかも知れません」

陛下が子爵家の報告書を確認させると宝石での収益の届出は無かったようだ。

「抜き打ち検査と称して専門家を子爵の鉱山に向かわせてみよう」

「「感謝いたします」」



この後、私は王妃様の茶会に参加した。コーネリア様ともう1人の令嬢がいた。名はカロリーナ。
王妃様が私を紹介してくださった。

“ヘンリーが選んだ婚約者候補”

途端にカロリーナ様の瞳孔は歪んだ。コーネリア様は変わらなかった。

私は予め決められた合図を王妃様に送った。
問題があると感じた令嬢寄りに皿の中でクッキーを置くこと。私は皿の右端、つまりカロリーナ様の方へ置いた。

茶会が終わり退席したが、数分後に呼び戻された。これも打ち合わせ通り。王妃様、アンジュ様、コーネリア様と私の4人が席に着いた。

「コーネリア嬢。私は特務部という国王陛下直属の部隊を任されているジスラン・モローと申します。
今回の茶会の説明を申し上げます。
私の存在やリヴィア嬢の情報を漏らせば貴女を幽閉しなくてはならなくなります。公爵にも乳母でも親友でも神にも話してはなりません。分かりましたか」

「はい」

「リヴィア嬢は偽の婚約者候補です。
彼女は王命を受け、婚約者候補として任務に就きます。期間はリヴィア嬢が学園を卒業するまで。役割は城内の浄化です。
リヴィア嬢は自身に向けられる悪意に鋭い勘が働きます。悪意を向ける者は大抵何かしら悪事を企んだり、既にしています。
勿論、リヴィア嬢に悪意を持たない悪人はおりますので、炙り出しきれるわけではありません」

「だとしても、できるだけ排除できればということですね」

「はい。隅々まで赴き炙り出すには伯爵令嬢という身分だけでは無理があります。そこでリヴィア嬢にだけ妃候補として職場見学をしてもらいます」

「では、私も?」

「いえ。リヴィア嬢だけです」

「だとすると、リヴィア嬢が最有力候補と囁かれるでしょう。多分城外でも」

「はい。それも任期の間だけです」

「かしこまりました」

コーネリア様に王妃様が大事なことを告げた。

「コーネリア嬢、つまり、王子妃教育を終わらせることができれば貴女が王子妃なの。今の段階で候補は貴女しかいないことになるわ」

「あ、カロリーナ様は」

「残念だけど彼女はリヴィア嬢に悪意を持ったようだから、調査に入るわ。何も出てこなければリヴィア嬢と関わらせてストレスを与えてみることになるわ」

「ネルハデス伯爵令嬢を囮になさるのですか!?」

「100%安全ではないが、私や近衛がリヴィア嬢を守る」

「ネルハデス伯爵令嬢は本当にそれでよろしいのかしら」

「ご心配をいただきありがとうございます。その代わり対価をいただきますので」

「そうですか。では私は王子妃教育で合格をもらえるように努めなくてはなりませんね」

後日、カロリーナ嬢の脱落を知った。
私が囮にならずとも引きずり下ろす何かがあったようだ。



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