【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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オスカー 騎士よりも教師

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【 オスカー・カルフォンの視点 】


さっきは メイドの炙り出しで王子殿下と対面してしまったときに彼女は防御をした。
王族のようなカーテシーをして、仮面を貼り付けた。
一方で 王子殿下はリディアに好意を寄せているのは態度で分かった。


庭園に戻ると疲れたのかガゼボに座り柱に身を預けた。
話しかけても返事をしない。何か考え事をしているのか……

『リヴィア』

『嫌だ』

やっと返ってきた返事は拒絶だった。

具合でも悪いのか、何かあるのか、話してくれなくては分からない。

『誰に?アンドレ先生に? それともカルフォン卿?』

結果的に騙されていたことに怒っているのか?

また返事をしなくなった。何を考えているんだ。
段々と瞳の輝きが消えていくのが分かった。
跪き、両手で頬を挟んだ。

『リヴィア』

小さな顔だ。顔だけじゃない。
2人のクソガキに襲われたときも軽くて小さくて細くて温かった。

薄くて細い肩、華奢で柔らかな体が私にしがみ付き、サラサラとした髪が頬をくすぐり、彼女の頬が息が私の首元に触れて、庇護欲が芽生えた。

何を考えているのか知りたいのに彼女は私を咎める。

『アンドレ先生がいい』

『職業が違うだけで中身は一緒だ』

彼女はギュッとドレスを握りしめた。

『……いや、悪かった。
すまなかった。だからそんな顔をするな』

ちゃんと聞き出したかったのに、メイドが来てしまった。そのままリヴィアは帰ってしまった。


給仕をしたメイドは子供じみた嫌がらせをしようとしていた。汚水を数滴ポットに入れていた。使用人用の汲み取り式トイレから掬ったものだった。

そして王子と婚約者候補との交流の場に案内したメイドは王子宮の警備兵とデキていた。
あの道を使って会うこともあったようで、王子の予定を共有して、メイドが仕事の合間に会いに行っていたようだ。

3人は解雇の上、重労働施設へ送られると聞いた。


今日の報告を終えて食事をしてシャワーを浴び、宿舎のベッドに横になった。

さて、どうしたものか。

『カルフォン卿。できればリヴィア・ネルハデスを雇って城内の浄化をしたい。
彼女に悪意を持たないと見分けられないのは分かっているが、名指しされたら100%の的中率だ。一部でも取り除けたらいいと思うのだが』

『陛下、リヴィア嬢にとって危険な役目です』

『だが、彼女には最初から分かるのだから警戒できるし、だからこそ近衛で一番容赦のない其方を指名しているのだ』

『リヴィア嬢は王子殿下との接触を避けたがります』

そこに隊長がやって来た。

『ジスラン、こっちに来て座ってくれ。
リヴィア嬢を雇って城内の浄化をしてもらおうと思っている。カルフォン卿を就けて泳がせるつもりだ』

『ですが、彼女は嫌がるでしょう』

『其方が説得してくれ。
卒業まで脱落した婚約者候補の代わりに彼女を置いて、妃教育だといって城内を回らせる。
候補の2人には誓約書を書かせて説明をする。正式な婚約者の安全のために囮になるとな。
多少ヘンリーと見せかけの交流をしてもらわねばならないが』

『対価はどうなさるのです』

『国境・領境を自由に通過できる本人限定の通行証を渡そう。間違いなく食い付くだろう』

『そんな物を渡したら彼女は姿を消します!』

『問題があるのか?
ネルハデス家の跡取りは長男らしい。
彼女は王子妃の打診を断れるほど伯爵家の中で発言権がある。

ジスランのように特務部に採用したいが、無理を強いても彼女は我々に嘘を教えることもできる。
恨みを持たれて 取り除くべき不純物に目を瞑られては困るからな。
ジスランが嘘を見抜いたとしてもシラを切られたらそれまで。互いに証拠がないからな。だが2人が手を組めば最強だろう』

『……』

『彼女に打診をするから説得は頼む。返事をもらったら予算を割り当てよう。王子妃の最有力候補とするのならそれなりの装飾品が必要だろう』

『かしこまりました。
婚約者候補として扱い、城内を職場見学させて、卒業と同時に任を解き解放するということで間違いございませんね?』

『解放って』

『拒否はさせないおつもりですよね』

『まあ、そうだが』

『彼女を説得する上で、対価の他に必要なものがございます』

『用意できる物なら用意しよう』

『リヴィア・ネルハデスをヘンリー王子殿下の伴侶に選ばないという誓約書です。勿論妾も愛人も駄目です。これは陛下、王妃殿下、王子殿下に署名していただきます』

『必要か?』

『はい。彼女にとって、他国へ移住して母国に戻らなければいいだけの話です。そうなれば対価のカードは価値がありません。
圧をかければ学園など放り出して他国へ渡るでしょう。伯爵家も支援すると思います』

『分かった。用意しよう』

『あの、陛下、隊長。よろしいでしょうか』

『何かな、カルフォン卿』

『リヴィア嬢が偽の婚約者候補だということを話す前に、本物の婚約者候補と対面させてください。
婚約者候補が悪意を持っていた場合は大変です。それにバラされるかもしれません』

『では王妃に機会を作らせよう』


卒業までかなりリヴィアと関わることになる。だが彼女は怒っていたと思う。上手くやっていけるのか。

女…子供?
この微妙な年齢の令嬢の機嫌を取るにはどうしたものか。

交際している女や私に気がある女が相手なら、手っ取り早くセックスをして気を紛らわしたり鎮めたりするのだが、あの子にそんなことは出来ない。
普通は近衛騎士という職業を加えると、女共がシッポを振って寄ってくるが、リディアは教師の私がいいと言った。

それに、ひとつ嘘をついてしまっていた。


俺の気持ちを正直に話して許しを乞おう。


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