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メイドその1
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夏休みを領地で過ごしていた私に手紙が届いた。
封筒も蝋印も王家のものだった。登城命令だった。
行きたくはないが仕方ない。
領地で馬にお座りさせようとしたが、皆 何それって顔で見る。馬も言うことをきかないし。
つまりカルムじゃないとダメってことのようだ。
しかも何で馬術なんて選んだんだって怒られた。
王都に戻った翌日、登城すると、案内された先にはモロー隊長と国王陛下がいらした。
「せっかく領地で休暇中のところ申し訳ない。
其方に、選抜されたメイドや侍女達にヘンリーの婚約者の世話をさせて大丈夫かどうか見てもらいたい。
12人には其方が最有力の婚約者候補だと紹介する。1日過ごしてもらって其方に悪意などをもったかどうか勘で篩にかけて欲しい。
外れても抜けがあってもかまわない。報酬は払おう」
「王子殿下と交流を持たなくてもよろしいでしょうか」
「かまわないが、同じ学園に通う者同士だろう。
友人になるチャンスも無いのか?」
「王子殿下の学友は令息で充分でございます」
「ヘンリーが其方に何かしたのかな?」
「いえ。そうではございませんが、誤解がないように線を引きたいのです。第二のハリソン家が出てこないように」
「分かった。よろしく頼む」
良かった、交流無しで済んで。
「護衛も付ける。2人一組で一度交代させる。
他に1人部屋に置く。彼に交代はない」
「いつ頃実行なさいますか」
「今からでもかまわない。今からなら屋敷に連絡を入れておくが」
「今からでも大丈夫ですがそれらしいドレスで参りませんでした」
「用意したから大丈夫。リヴィア嬢しか着れないからそのまま持って帰ってくれ」
「かしこまりました」
まず通されたのはモロー隊長の書斎だった。以前気を失った時に使わせてもらった部屋で、仮眠部屋と続き部屋になっている。
「彼女達が着替えを手伝うからあっちの部屋を使ってくれ」
「はい」
着てきたドレスを脱がされ、用意されたドレスを着せられていく。
ちょっと、このドレスどうしたの!?本当に私のサイズだし、すごく高そう。
まぁ王子妃になる令嬢のドレスなら見窄らしいわけないわね。
髪型も化粧もやり直し。
待って待って、そんなにダメ!?
終わって書斎に出ると担任の先生がいた。
「え? 何で?」
「初めまして、ネルハデス伯爵令嬢。
ご令嬢の護衛を勤めさせていただくことになりました。リヴィア嬢とお呼びしても?」
「はい」
「私は近衛騎士団所属で、直属の上司はモロー隊長になります。カルフォンとお呼びください、リヴィア嬢」
先生は特務部の人なのね。
「分かりましたわ、カルフォン卿」
モロー隊長と先生改めカルフォン卿に連れてこられたのは王子妃の使う予定の部屋だった。
え?いいの?
そしてメイド達に紹介された。
“王子妃に内定したリヴィア・ネルハデス伯爵令嬢”と紹介した途端にメイド2人の瞳孔が歪んだ。
元々悪意は持っていなかったのに、王子妃という言葉に反応したのか、私の名前に反応したのか分からないが悪意ある者に変わってしまった。
いつも思うけど、悪意の可視化は気分のいいものではない。
サロンで給仕してきたメイドはソレだったのでモロー隊長に目で合図を送る。
さて、このお茶を飲んでもいいものなのか。
そういうときは…
「ミザさん。こちらに座ってくださるかしら」
そう言ってメイドの淹れてくれた茶を彼女の前に置いた。
「王宮で気を付けなければならないことを教えて欲しいの。先ずは喉を潤して」
私はワゴンからグラスを取り、自分用にジュースを淹れた。
「さあ、召し上がって」
「……」
少しずつ、滞在のルールを話し始めたがお茶を口にしない。
私は自分の分を飲み干し、貴女が飲み干さなければこの時間を終えられませんという圧をかけた。
何も言わずに微笑んで待つ。
メイドの手は震えていた。
会話の中で体調不良など無いと確認した後だから仮病も使えないだろう。あとは粗相をして溢すかだ。
「あっ」
想定通り、メイドのカップが傾きかけた……が、
「えっ?」
後ろからスッと手が伸びて、傾きかけたカップを掴んだ。
モロー隊長だった。
「次期王子妃のテーブルで粗相はいけない」
「も、申し訳ございません」
「もう粗相をしないようにしっかりと両手で持って飲み干すといい。君は貴族の出だろうからもう粗相しそうになることはあり得ないだろうが、念のためだ」
「あ、」
メイドはカップに両手を添えたが目を泳がせながらソワソワと落ち着かない。
きっと一生懸命に乗り切る方法を考えているだろう。
そこでモロー隊長が私の側に立つと、カルフォン卿がメイドの斜め背後に立ち、カップを取り上げると髪を掴んで後ろに引いた。上を向かされたメイドの口の中にカップの中身をぶちまけた。
半分は飲んだだろうか。
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!!」
「メイドが妃を待たせるな」
テーブルナプキンで手を拭いながらメイドを叱った。
ちょっと、先生…怖いんですけど。
メイドは椅子から落ちるように床に膝をつき、手を付いて無理矢理飲まされた茶を吐き戻した。
そんなに!?
そんなにまずいものを飲ませようとしたわけ!?
モロー隊長は2人の護衛騎士を呼ぶと、ポットを指差した。
「女を連れて行け。何を飲ませようとしたのか吐かせろ。自白するまでポットの中身を少しずつ飲ませろ。吐き出しにくい体勢にするなり口を塞げ。
同時に女の部屋も徹底的に調べろ」
「かしこまりました」
封筒も蝋印も王家のものだった。登城命令だった。
行きたくはないが仕方ない。
領地で馬にお座りさせようとしたが、皆 何それって顔で見る。馬も言うことをきかないし。
つまりカルムじゃないとダメってことのようだ。
しかも何で馬術なんて選んだんだって怒られた。
王都に戻った翌日、登城すると、案内された先にはモロー隊長と国王陛下がいらした。
「せっかく領地で休暇中のところ申し訳ない。
其方に、選抜されたメイドや侍女達にヘンリーの婚約者の世話をさせて大丈夫かどうか見てもらいたい。
12人には其方が最有力の婚約者候補だと紹介する。1日過ごしてもらって其方に悪意などをもったかどうか勘で篩にかけて欲しい。
外れても抜けがあってもかまわない。報酬は払おう」
「王子殿下と交流を持たなくてもよろしいでしょうか」
「かまわないが、同じ学園に通う者同士だろう。
友人になるチャンスも無いのか?」
「王子殿下の学友は令息で充分でございます」
「ヘンリーが其方に何かしたのかな?」
「いえ。そうではございませんが、誤解がないように線を引きたいのです。第二のハリソン家が出てこないように」
「分かった。よろしく頼む」
良かった、交流無しで済んで。
「護衛も付ける。2人一組で一度交代させる。
他に1人部屋に置く。彼に交代はない」
「いつ頃実行なさいますか」
「今からでもかまわない。今からなら屋敷に連絡を入れておくが」
「今からでも大丈夫ですがそれらしいドレスで参りませんでした」
「用意したから大丈夫。リヴィア嬢しか着れないからそのまま持って帰ってくれ」
「かしこまりました」
まず通されたのはモロー隊長の書斎だった。以前気を失った時に使わせてもらった部屋で、仮眠部屋と続き部屋になっている。
「彼女達が着替えを手伝うからあっちの部屋を使ってくれ」
「はい」
着てきたドレスを脱がされ、用意されたドレスを着せられていく。
ちょっと、このドレスどうしたの!?本当に私のサイズだし、すごく高そう。
まぁ王子妃になる令嬢のドレスなら見窄らしいわけないわね。
髪型も化粧もやり直し。
待って待って、そんなにダメ!?
終わって書斎に出ると担任の先生がいた。
「え? 何で?」
「初めまして、ネルハデス伯爵令嬢。
ご令嬢の護衛を勤めさせていただくことになりました。リヴィア嬢とお呼びしても?」
「はい」
「私は近衛騎士団所属で、直属の上司はモロー隊長になります。カルフォンとお呼びください、リヴィア嬢」
先生は特務部の人なのね。
「分かりましたわ、カルフォン卿」
モロー隊長と先生改めカルフォン卿に連れてこられたのは王子妃の使う予定の部屋だった。
え?いいの?
そしてメイド達に紹介された。
“王子妃に内定したリヴィア・ネルハデス伯爵令嬢”と紹介した途端にメイド2人の瞳孔が歪んだ。
元々悪意は持っていなかったのに、王子妃という言葉に反応したのか、私の名前に反応したのか分からないが悪意ある者に変わってしまった。
いつも思うけど、悪意の可視化は気分のいいものではない。
サロンで給仕してきたメイドはソレだったのでモロー隊長に目で合図を送る。
さて、このお茶を飲んでもいいものなのか。
そういうときは…
「ミザさん。こちらに座ってくださるかしら」
そう言ってメイドの淹れてくれた茶を彼女の前に置いた。
「王宮で気を付けなければならないことを教えて欲しいの。先ずは喉を潤して」
私はワゴンからグラスを取り、自分用にジュースを淹れた。
「さあ、召し上がって」
「……」
少しずつ、滞在のルールを話し始めたがお茶を口にしない。
私は自分の分を飲み干し、貴女が飲み干さなければこの時間を終えられませんという圧をかけた。
何も言わずに微笑んで待つ。
メイドの手は震えていた。
会話の中で体調不良など無いと確認した後だから仮病も使えないだろう。あとは粗相をして溢すかだ。
「あっ」
想定通り、メイドのカップが傾きかけた……が、
「えっ?」
後ろからスッと手が伸びて、傾きかけたカップを掴んだ。
モロー隊長だった。
「次期王子妃のテーブルで粗相はいけない」
「も、申し訳ございません」
「もう粗相をしないようにしっかりと両手で持って飲み干すといい。君は貴族の出だろうからもう粗相しそうになることはあり得ないだろうが、念のためだ」
「あ、」
メイドはカップに両手を添えたが目を泳がせながらソワソワと落ち着かない。
きっと一生懸命に乗り切る方法を考えているだろう。
そこでモロー隊長が私の側に立つと、カルフォン卿がメイドの斜め背後に立ち、カップを取り上げると髪を掴んで後ろに引いた。上を向かされたメイドの口の中にカップの中身をぶちまけた。
半分は飲んだだろうか。
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!!」
「メイドが妃を待たせるな」
テーブルナプキンで手を拭いながらメイドを叱った。
ちょっと、先生…怖いんですけど。
メイドは椅子から落ちるように床に膝をつき、手を付いて無理矢理飲まされた茶を吐き戻した。
そんなに!?
そんなにまずいものを飲ませようとしたわけ!?
モロー隊長は2人の護衛騎士を呼ぶと、ポットを指差した。
「女を連れて行け。何を飲ませようとしたのか吐かせろ。自白するまでポットの中身を少しずつ飲ませろ。吐き出しにくい体勢にするなり口を塞げ。
同時に女の部屋も徹底的に調べろ」
「かしこまりました」
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