【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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[死ぬ前のリヴィア]失恋

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二年生に進級する直前に決着がついた。


王妃様に呼ばれた。

「教師も侍女もメイドも貴女を推したわ。
ヘンリーも貴女を選んだ。
王妃の身としては、貴女は優しすぎるし純粋すぎて不安はあるけど……」

「申し訳ございません」

涙が止まらない。
嬉しい以上にコーネリア様のことを考えると。

それを察したのか、王妃様が釘を刺した。

「コーネリア嬢には既に告げたから、荷物を纏めて屋敷に戻ったわ。
晴々していたわ。すべきことはやったし、貴女が選ばれるなら不服は無いと。
貴女に感謝の気持ちを伝えて欲しいと言われたわ。
貴女のおかげで最後まで頑張れたと。
だから今更辞退など許されないわよ。コーネリア嬢に対しても失礼だわ」

「…はい」

「私の時はギスギスしてたわ。足の引っ張りあいとは言うけど、足の引っ掛け合いだったわ。本当に引っ掛けてしまうのよ。乱闘になったこともあったわね」

「こ、怖い」

「貴女の場合は いつか コーネリア嬢と笑って話せる日がくるわ」

「ありがとうございます」



私は全てが終わった気でいた。
後はヘンリー王子殿下と心を通わせよう。そんな浮かれた日々を過ごしていた。

二週間に一度の交流のティータイムは、進級して2ヶ月後にはどこかボーッとなさっていて、半年を過ぎる頃には一杯飲むと席を立ってしまわれた。

私が何か不快なことを口にしたのかと気が滅入ってきた。

7ヶ月経って初めて嫌悪の感情を向けられた。

「たかが茶を飲むだけの時間に何を執着しているんだ。態々母上に言いつけてまで何杯も飲みたいのか?
何杯飲めば気が済むんだ、言ってくれ」

「……仰っておられる意味が分かりません、殿下」

「とぼけるな。母上が一杯飲んで立ち去ることについて叱責してきた。お前が言いつけたからだろう」

「3ヶ月以上、王妃殿下とお会いしておりません」

「手紙という手もある」

「お調べください。王妃殿下に手紙も書いたことがございません」

「侍女やメイドに伝言を頼んだのだろう!」

「……私が何を申し上げても殿下の結論は決まっておられる様ですので、私からは申し上げることはございません。メイドや侍女の為に申し上げますが、そのようなことをする者はここにはおりません」

「そういう生意気なところが癪に障る!
何杯だ!答えろ!」

「一杯で結構です」

ヘンリー王子殿下は立ったままお茶を飲み干すと、そのまま去って行かれた。

「……」

「あんまりですわ」

「ハンカチをお使いください」

メイド達が涙を流す私にハンカチを差し出してくれた。

「一体どうなさってしまわれたのか」

「いいのよ。苛立つ時期もあると聞くわ」

差し出されたハンカチで涙を拭った。




そしてデビュータントでは、エスコートとダンスを終えるとヘンリー王子殿下は忠告をした。

「役目は果たした。
これからも最低限の役目は果たす。
いいか、私がこの後誰と踊ろうと、この先誰と夜会に出ようと意見するな。私の自由だ」

「え?」

「干渉するなと言ったんだ。分かったな」

「……かしこまりました」

「はぁ」

大きな溜息を吐くと私の元から去って別の令嬢の手を取った。眩い金髪に紫色の瞳の可愛い令嬢だった。彼は溶けるような微笑みで彼女をリードする。

ああ、ヘンリー王子殿下は恋に落ちたのね。それで私が疎ましくなってあんな態度を……

「リヴィア」

懐かしい声に振り向くとコーネリア様がいた。
彼女とはあの日以来会話は無かった。
だけど私は彼女の誕生日には無名でプレゼントを贈った。
私の誕生日にも無名でプレゼントが届いた。
内緒の友情は続いていた。

手を引かれて人気の無いバルコニーに出た。

「コーネリア様、お久しぶりです」

「リヴィア、時間がないの。話しているところをまだ見られては駄目なの。ごめんなさい」

「はい」

「よく聞いて。私は生徒会にいて状況がよく分かっているから忠告するわ。

彼女はサラ・セグウェル。男爵家の庶子で1年遅れて入学したの。歳が同じだからここにいるけど、1年生で生徒会の補助をしているわ。

何故か周囲の異性が彼女に執着していくの。
いい、絶対に彼女に近寄っては駄目。関わったりしても駄目。特に駄目なのが彼女に意見したり注意したりしては駄目よ」

「コーネリア様?」

「サラ・セグウェルとは距離を置き、彼女の話題は出してはダメよ。そして1人にならないこと。分かったわね!」

そう言って去ってしまった。

私は元々平凡な娘だったからか鈍かった。
コーネリア様が態々忠告をしてくれたのに、よく意味がわからなくて、上手く立ち回れなかった。

戻ってみると、ヘンリー王子殿下は彼女ともう一度踊るところだった。

これ以上見たくない。私は屋敷に戻った。
その夜はずっと泣いていた。決定的な失恋だった。
そしてこの先、振られた相手から冷たくされながら伴侶としての務めを果たさなくてはならない。


仕方なく学園に通い王子妃教育を受け続けた。
ティータイムは相変わらず、立ったまま一杯を一気に飲んで立ち去った。 




三年生になって王妃殿下に呼ばれた。

「辛い思いをさせているようね」

「王妃殿下、ヘンリー王子殿下が想い人を王子妃に迎えられるようにすることはできませんか」

「男爵家の娘を?あり得ないわ。
今更辞退は出来ないのよ」

「せめてティータイムを止めさせていただけませんか。意味がないどころか、傷付くばかりです」

「分かったわ」

これでさえもヘンリー王子殿下の気に障ることになる。


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