【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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リヴィアは何者か

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【 特務部 隊長の視点 】


「それで、リヴィア嬢が弾いた2名は当たりか」

「はい、陛下。

1人は書記官見習いの女で、寝ている男に情報を漏らしていましたが、見習いだったことが不幸中の幸いで、たいした内容ではありませんでした。
もう1人は、未成年買春です。10歳以下が対象でした」

国王陛下に実験の結果報告をしに来ているが、リヴィアに関してはまだ掴めきれない。

「彼女の目にはどう映るのだ?」

「それは分かりませんが不快に感じるようです。
私にはそんな表情をしているようには見えませんでした」

「彼女の嘘は有害か?」

「悪意は無いかと」

「正直に話せばいいものを」

「話してはいけないと思っているのでしょう。もしくは心に傷があるのかもしれません」

「そう思う訳は?」

「拷問の話になった時に瞳が変わったのです。
酷い目に遭って生きることを諦めた者がする表情でした」

「まだデビュー前でか?伯爵家に問題は無かったのだろう?」

「はい。平凡でした」

「参ったな。どう扱っていいのか分からない」

「うちに欲しいです」

「それは……無理だろう」

「言ってみただけです」

「ホロンからの報告書を見たか?」

「出てこないようですね。特務部ウチが行きましょうか」

「そうしてくれるか」

「かしこまりました。

「あと、リヴィア嬢に詮索しないと約束をしました。2人を見つけるのに対価を求められまして」

「他に何か無かったのか」

「このカードを希望されてしまいましたので仕方なく」

「コレも知っていたのだな」

「まあ、これは極秘ではありませんから。

ハリソン侯爵の件ですが会わせてみてはいかがでしょう。謝罪の場を用意すると言ってリヴィア嬢に見てもらいませんか」

「だが、許す許さないの話になったらどうするのだ」

「気持ちの整理がつかないと濁せばいいでしょう」

「対価はどうする」

「今回は対価を求めないでしょう。自分のことですから」

「念の為に考えておいた方がいいぞ」



結局特務部全体の調査をしたが、他にも問題の職員はいた。リヴィア嬢の察知する者は必ずしも悪いことをしているという条件ではないようだ。

2人の追加調査を命じて、報告で分かった。

「書記官見習いの女は、菓子売りの女の子に対して敵意を持ったようです。
“男漁りに来た女だ”と同期に話していたようです。

買春をしていたジョーは“あの子は可愛いのに惜しいな”と漏らしていたようです。
聞いた相手は大人じゃないからという意味でとったようですが、ジョーの趣向から言うと顔が好みだけど幼くないという意味なのだと思われます」

自身に害をもたらす恐れのある者が判別できるのだろう。
その関係でカードを欲しがったのか。

リヴィア嬢の欲しがったカードは検問などもフリーパスで通れてしまうもので、このランクを持つ者は数人しかいない。

私と近衛騎士団のトップ、王宮騎士団のトップの3人だ。



業務を終えて湯浴みをした。

私は嘘を見抜ける能力を買われて以来、王宮ここにいる。
任務以外で外泊をしたことは無い。

表向きは名前も変えた。
元々知る者は少なかった。

母はお手付きに遭い、身の危険を感じて職を辞して雲隠れして私を産んだ。

9歳の時に追っ手に見つかってしまった。
父の一族の証を受け継いでいた私は、母似でもあの男の子どもだと認められはしたが放っておかれた。

だが、私の能力が分かると母から私を取り上げて名前を変えてここに連れてこられた。

それ以来、特務部の所属で生きてきた。
不自由はない。父の後を継いだ異母兄は、私の母に手厚い支援をしてくれている。

「ふぅ」

まだ大人になる前の令嬢からは大人の雰囲気を感じる。あの気の強さはどこから来るのだろう。

「リヴィアか…」

彼女が国外へ逃げなくてはならなくなった時は助けてやれるのか。


「はぁ」

何を考えているんだ俺は。
そんな関係ではないだろう。



2日後、城でハリソン侯爵とネルハデス伯爵親子を引き合わせてみた。

「妻と娘が申し訳ありませんでした。伯爵とご令嬢に何と詫びしたらいいか」

決定的だった。

「ハリソン侯爵。
私は王子妃の打診を断りました。
ハリソン家に何一つ害を成しておりません。
侯爵は何がお気に召さないのでしょう」

悪意の顔が見えたのだろう。リヴィア嬢がそう尋ねた時、一瞬侯爵の目が鋭くなったのを見逃さなかった。

「誤解です。私は何も」

「お待ちください。
ハリソン侯爵。貴方は本当にリヴィア嬢を害そうとしませんでしたか?」

「そんなわけがありません」

彼女のおかげで、侯爵の貴族の仮面にヒビが入った。嘘が読める!

「現在、貴方の屋敷に毒がありますか?」

「ありません」

「領内に毒がありますか?」

「ありません」

「使用人か愛人の家に毒がありますか?」

「ありません」

「侯爵、貴方を拘束させていただきます」

合図を送ると兵士が侯爵の腕を掴んだ。

「な!何をする!」

「貴方はリヴィア嬢が気に入らず害そうとした。毒は今でも所有していて、隠し場所は使用人の自宅か愛人の家にある。

愛人は王都……、王都にいるんだな?」

「待て!君にもネルハデス家にも慰謝料と口止め料を払うから、見逃してくれ!」

「私はリヴィア嬢の憂いを取り除きたいんだ」

「くっ!何故皆 この娘なんだ!」

は?

「ヘンリー王子殿下は侯爵家の娘を落として伯爵家の娘を候補に残し、カシャ公爵家はこの娘に求婚するし!」

「気分が…」

リヴィアは蒼白になり立ち上がるとフラフラと廊下に出たところで倒れた。

「リヴィア!」

「リヴィ!」

ドアの側にいた兵士が抱き止めて床に打ちつけることは免れた。



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