5 / 100
リヴィアは何者か
しおりを挟む【 特務部 隊長の視点 】
「それで、リヴィア嬢が弾いた2名は当たりか」
「はい、陛下。
1人は書記官見習いの女で、寝ている男に情報を漏らしていましたが、見習いだったことが不幸中の幸いで、たいした内容ではありませんでした。
もう1人は、未成年買春です。10歳以下が対象でした」
国王陛下に実験の結果報告をしに来ているが、リヴィアに関してはまだ掴めきれない。
「彼女の目にはどう映るのだ?」
「それは分かりませんが不快に感じるようです。
私にはそんな表情をしているようには見えませんでした」
「彼女の嘘は有害か?」
「悪意は無いかと」
「正直に話せばいいものを」
「話してはいけないと思っているのでしょう。もしくは心に傷があるのかもしれません」
「そう思う訳は?」
「拷問の話になった時に瞳が変わったのです。
酷い目に遭って生きることを諦めた者がする表情でした」
「まだデビュー前でか?伯爵家に問題は無かったのだろう?」
「はい。平凡でした」
「参ったな。どう扱っていいのか分からない」
「うちに欲しいです」
「それは……無理だろう」
「言ってみただけです」
「ホロンからの報告書を見たか?」
「出てこないようですね。特務部が行きましょうか」
「そうしてくれるか」
「かしこまりました。
「あと、リヴィア嬢に詮索しないと約束をしました。2人を見つけるのに対価を求められまして」
「他に何か無かったのか」
「このカードを希望されてしまいましたので仕方なく」
「コレも知っていたのだな」
「まあ、これは極秘ではありませんから。
ハリソン侯爵の件ですが会わせてみてはいかがでしょう。謝罪の場を用意すると言ってリヴィア嬢に見てもらいませんか」
「だが、許す許さないの話になったらどうするのだ」
「気持ちの整理がつかないと濁せばいいでしょう」
「対価はどうする」
「今回は対価を求めないでしょう。自分のことですから」
「念の為に考えておいた方がいいぞ」
結局特務部全体の調査をしたが、他にも問題の職員はいた。リヴィア嬢の察知する者は必ずしも悪いことをしているという条件ではないようだ。
2人の追加調査を命じて、報告で分かった。
「書記官見習いの女は、菓子売りの女の子に対して敵意を持ったようです。
“男漁りに来た女だ”と同期に話していたようです。
買春をしていたジョーは“あの子は可愛いのに惜しいな”と漏らしていたようです。
聞いた相手は大人じゃないからという意味でとったようですが、ジョーの趣向から言うと顔が好みだけど幼くないという意味なのだと思われます」
自身に害をもたらす恐れのある者が判別できるのだろう。
その関係でカードを欲しがったのか。
リヴィア嬢の欲しがったカードは検問などもフリーパスで通れてしまうもので、このランクを持つ者は数人しかいない。
私と近衛騎士団のトップ、王宮騎士団のトップの3人だ。
業務を終えて湯浴みをした。
私は嘘を見抜ける能力を買われて以来、王宮にいる。
任務以外で外泊をしたことは無い。
表向きは名前も変えた。
元々知る者は少なかった。
母はお手付きに遭い、身の危険を感じて職を辞して雲隠れして私を産んだ。
9歳の時に追っ手に見つかってしまった。
父の一族の証を受け継いでいた私は、母似でもあの男の子どもだと認められはしたが放っておかれた。
だが、私の能力が分かると母から私を取り上げて名前を変えてここに連れてこられた。
それ以来、特務部の所属で生きてきた。
不自由はない。父の後を継いだ異母兄は、私の母に手厚い支援をしてくれている。
「ふぅ」
まだ大人になる前の令嬢からは大人の雰囲気を感じる。あの気の強さはどこから来るのだろう。
「リヴィアか…」
彼女が国外へ逃げなくてはならなくなった時は助けてやれるのか。
「はぁ」
何を考えているんだ俺は。
そんな関係ではないだろう。
2日後、城でハリソン侯爵とネルハデス伯爵親子を引き合わせてみた。
「妻と娘が申し訳ありませんでした。伯爵とご令嬢に何と詫びしたらいいか」
決定的だった。
「ハリソン侯爵。
私は王子妃の打診を断りました。
ハリソン家に何一つ害を成しておりません。
侯爵は何がお気に召さないのでしょう」
悪意の顔が見えたのだろう。リヴィア嬢がそう尋ねた時、一瞬侯爵の目が鋭くなったのを見逃さなかった。
「誤解です。私は何も」
「お待ちください。
ハリソン侯爵。貴方は本当にリヴィア嬢を害そうとしませんでしたか?」
「そんなわけがありません」
彼女のおかげで、侯爵の貴族の仮面にヒビが入った。嘘が読める!
「現在、貴方の屋敷に毒がありますか?」
「ありません」
「領内に毒がありますか?」
「ありません」
「使用人か愛人の家に毒がありますか?」
「ありません」
「侯爵、貴方を拘束させていただきます」
合図を送ると兵士が侯爵の腕を掴んだ。
「な!何をする!」
「貴方はリヴィア嬢が気に入らず害そうとした。毒は今でも所有していて、隠し場所は使用人の自宅か愛人の家にある。
愛人は王都……、王都にいるんだな?」
「待て!君にもネルハデス家にも慰謝料と口止め料を払うから、見逃してくれ!」
「私はリヴィア嬢の憂いを取り除きたいんだ」
「くっ!何故皆 この娘なんだ!」
は?
「ヘンリー王子殿下は侯爵家の娘を落として伯爵家の娘を候補に残し、カシャ公爵家はこの娘に求婚するし!」
「気分が…」
リヴィアは蒼白になり立ち上がるとフラフラと廊下に出たところで倒れた。
「リヴィア!」
「リヴィ!」
ドアの側にいた兵士が抱き止めて床に打ちつけることは免れた。
1,577
お気に入りに追加
1,978
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる