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求婚

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お母様達は昔話に花を咲かせていた。

「セリーナ姫。屋敷をまわってみないか?
俺も久しぶりだから見て回りたい」

「でも…」

「どうぞ行っていらして」

公爵夫妻が促してくれた。



「先ずは最上階から」

ルーフバルコニーのようなところに出た。

「すごい眺めだろう。王城さえ丸見えだ」

「グリーンデサントの頂点にいる様ですね」

「ある意味正解だな。王族という言葉と王族を守る法律が無ければリッツ公爵家が一番だ。
この国でも周辺諸国でも。

俺は媚びられたりするのが嫌で領地に引っ込み社交はしなかった。剣術中心の生活を送った。
そして入学は遥か遠いミーレスという王国のフォース王立学校という恐ろしく厳しい騎士学校へ留学した。実力主義で時には死者まででる過酷な授業をするんだ。

入試で大半を篩い落とし、授業で篩い落とし、進級出来る者がどんどん減る。
仲良くなった男は別の国の王族だったが急流に流されて死んだ。
死んでも文句言わないと親に署名させるから文句の言いようもない。徴兵しているわけでもなく自ら希望して入学しているからな。

卒業できたのは俺を含めて一握り。
何処へでも就職出来る」

「怖くはなかったのですか?」

「寒いか?おいで」

上着の中に私を入れて抱き寄せた。

「あたたかい」

「……若気の至りだな。恐怖よりも平等が嬉しかった。リッツ家の三男の俺に媚びる者はいない。
王族から平民まで皆平等。あるのは武力の優劣だけだ。平民が王族にタメ口をきいて肩を組むんだぞ?

ずっとあそこにいたかった。

グリーンデサントとその周辺諸国の中でリッツ家より優れる家門は無い。だからせめてと、留学から戻るとリッツ公爵家から籍を抜いた。
言い寄る貴族令嬢はほとんど居なくなった。
一夜のお遊びでなら声がかかるがな」

「私はカークファルドを守りたいんです。
カークファルドと兄を。両親を。

セントフィールドの西側は近い将来 旱魃と長雨による水害が連続で襲い過去にない窮地に立たされます。それを防ぐことは出来ませんが対応できるようにしているのです。

運良く自国の王族と仲良くなれて、災害時の便乗値上げの対策をとってもらえました。

そして元々やっていた馬車事業に力を入れました。
その収益で領内の整備や強化をしました。
水没しやすい場所に住んでいる領民は移したりもしました。

今は旱魃時と水害時の其々で育てることができる作物を調達研究し、育てています。

今回 備蓄庫や家畜小屋に施す湿気対策の土をリッツ公爵家の温情で教えていただけるそうで感謝しております」

「……神託か?」

「夢です。とても夢とは思えない夢で地獄を見ました。カークファルドを含む西側は困窮し、私はカークファルドのためと安易な考えで 家族の反対を押し切り政略結婚を決めてしまいました。

結局 救うどころか兄を困らせた挙句、自害しました。あのままでも死んだのでしょうけど。
どうやら夫の愛人に毒を盛られていたらしいのです。跡継ぎを産まないよう害のある避妊薬を」

「そうか」

「翡翠の瞳など無力で、どれほど自分を嫌悪したことか。

ですがリッツ公爵夫妻のお言葉を聞いて救われました。“神の御業を求めてはならない。努力した者が救うのだ”と教えられて重荷が取れました」

「翡翠の瞳を生まれ持っただけで重圧がかかるのだな」

「セントフィールドだから翡翠の影響は余りありません。これがグリーンデサントだったら無能な翡翠と言われて吊し上げられたでしょう」

「セリーナ。そんなものは壊してしまえ。
10代の令嬢に背負わせるものではない。
“お前達でなんとかしろ”と唾でも吐いてやれ」

「ふふっ お兄様みたい」

「兄君が?」

「すごく温和で優しくて妹想いの素敵な兄ですが、いざとなると私のために戦ってくれる人です。
どんなものよりも私をとってくださいます」

「俺の妻になれば そうしてやれるぞ」

「え?……そんなつもりで言ったわけでは。
励まし方が似てるなって、」

「もう一度言う。俺の妻になればセリーナの憂いを取り除いてやる」

「政略結婚ということですか」

「……そうではない。

だが、ジュスト殿下が好きなんだろう?」

「従兄妹として好きだったのに…」

「殿下が男を意識させたのだな」

「……」

「君は俺の持つ貴族令嬢のイメージを払拭した女だ。

平民の護衛騎士として紹介された俺に対し、丁寧なカーテシーで挨拶をしてくれた。王族の血を引いた貴族令嬢がだ。
身分にではなく職に敬意を払ってくれた。

次期国王の溺愛する令嬢と聞いて警戒していたが、殿下は見る目を持っていたようだ。

それに優雅に暮らすことしか考えない令嬢達とは違い、領地や領民のために学生ながらに働いていると聞いた。過労で倒れるほどに疲れた体でもなお、仕事をしようとする。

強い志を持つ一方で放っておけない弱さを持っている。

あんな女なんかひっぱたき返して髪を掴んで引きずり回せ」

「え?」

「トイレでセリーナに平手打ちした女のことだ」

「綺麗な方でした。財力もあってグリーンデサントの侯爵令嬢で」

「あれは綺麗とは呼ばない。表面の金だけ磨いても中身が腐った木なら価値はない。
セリーナの表面は金で中身はダイヤか白金だろう」

「止めてください。そんな価値はありません」

「セリーナが自信が無くとも 周りの者が価値を見たんだ。俺にはセリーナが光り輝いて見える。
求める物がちがうのだから価値観は其々だ。

例えば飢えて死にそうな者に必要なのは食糧であって美女ではない。
子を産ませたいのに女ではなく馬を持ってこられても意味はない。
俺はセリーナのような女が欲しい。他の女では意味がない」

「……」

「一先ずピビッチ侯爵家の次男にはその気は無いと明確に示せ。
狸と狐と蛇と蜘蛛の化身だと思った方がいい」

「何ですか、その化け物は」

「確かに」





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