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天災を見込んだ法整備

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カークファルドのため、覚悟を決めて国王陛下と会うことにした。

が、応接間だった。

「座ってくれ。セリーナ姫」

「姫!?」

「グリーンデサントの王位継承権を持った現国王の姪なら姫だろう」

「父上、セリーナと呼んであげてください」

「では、セリーナ。フレデリクから話を聞いたときは信じられなかった。

ゴーダー男爵家の庶子を認知して迎え入れた話も、たまたま情報を得たかと思ったが、ジュスト殿下の留学は誰も知り得なかった。

使者の話によると、留学自体、公にしておらず、国王陛下とジュスト殿下の間で話がでていただけだった。

時期や期間もジュスト殿下が頭の中で思い描いていただけで口に出していなかったらしい。
今通っているグリーンデサントの学校と公務の調整を考えていたようだ。

だが、従妹からの手紙で繰り上げたようだ」

「私は、短く、元気かとしか書きませんでした」

「だから心配になったのだろう。
使者が苦笑いをしていた。
ジュスト殿下が全てを放り投げたと」

「まさか、」

「来年度からおよそ三ヶ月、グリーンデサントの王立学校に隣国の王女が留学に来るそうで、それはジュスト殿下狙いだと言われているらしい。

ジュスト殿下は興味が無いらしいが、隣国との交流と文化を学ぶためと言われては対応せざるを得ないと、対応をする準備をしていたそうだ。

そして王女の接待が終わったらセントフィールドにというつもりでいたらしい。

だが、突然ジュスト殿下は来年度からセントフィールドの学園に留学するから後はよろしくと投げたらしい。

国王陛下がお怒りになったそうだが、殿下の言葉に納得なさった。

“私がグリーンデサントを建国したわけではありません。グリーンデサントの文化を作ったわけでもありません。
王女は学びに来ると言った。嘘でないなら必ずしも私が対応する必要はありません。詳しいエキスパートが相応しいはずです。

私が今対応しなくてはならない最優先事項はセリーナの安全を確かめに行くことです。

この手紙には、書くことを躊躇うほどの何かがあったはずです。

何もないのに態々グリーンデサントまで元気かと尋ねる手紙をよこす訳がありません”

そう言って、手紙を国王陛下に渡したそうだ」

従兄にい様」

「結果、国王陛下の命令で来年度からセントフィールドの学園に通い、セリーナとカークファルド家を確認するそうだ。滞在先を王宮ではなくカークファルド家と決めたらしいが、警備が気になる」

「あ~」

「セリーナが王宮に滞在することはできないか?」

「えっ!?」

「グリーンデサントの次期国王に何かあればセントフィールドは滅びてしまう」

「私、仕事をしておりまして」

「何をしているんだ」

「馬車を作っております。普通の馬車ではなくて…代わりがおりません」

「だがなぁ。セリーナの手紙が発端だと思うのだがなぁ」

「お、仰る通りです」

「ここでやればいいだろう」

「肩入れとか言われませんか?」

「西側の宮で良ければジュスト殿下とカークファルド家に解放しよう。カークファルド家はその宮に自由に来るといい。打ち合わせもできるだろう。
勿論泊まっても構わない。

ただしジュスト殿下も一緒だ。しっかり対応してくれ。

対外的には、カークファルド家の滞在を希望したが警備上の理由で叶わないからカークファルド家を宮に移してジュスト殿下の接待をさせることにしたと発表しよう。

レイノルズ家の対策にもいいと思うがな」

「お引き受けいたします。
ですが正式な返答は当主の父からいたします」

「カークファルド伯爵からは返事をさっきもらったよ。災害時の支援法と引き換えにだがな」

「それは…」

「国が天災による非常事態宣言を発令したその日から、前日までの過去三ヶ月の平均価格よりも高くして売ってはならないという法律だ。

これで便乗した値上げで苦しむことはない。

そして、被災地に認定された領主に必要とされる物資の支援をした場合、その額に応じて減税を行うことにした」

「っ! ありがとう…ございます…陛下。
これでカークファルドの民は…西側の民は生きながらえるはずです……感謝いたします」

「これは我々の仕事だ。辛い思いをさせて申し訳なかった」

「セリーナ、独自で何か始めたか?」

「長雨の後は干魃でした。それによって収穫は数年見込めませんでした。
其々の始まりと終わりの時期は分かっています。

人間が食べられるもの、家畜に与えられるもので、長雨に強い品種、干魃に耐え得る品種をその時期だけ育ててやり過ごすことが一つ。

今育てているものを、天災後に再栽培できるよう苗や種を保護することが一つ。

水を貯水できるようにします。
長雨で溜まった水を利用し終えたら、被害を免れた一番近い領地の川の水を分けてもらえるよう交渉することが一つ。

屋根や外壁、納屋や厩舎など補修の指示。
特に家畜小屋に屋根を付けたり水捌けを良くする策を講じさせることが一つ。

食糧貯蔵庫の改築、地下室の改築の指示が一つ。

長雨の前に、湿気対策を準備することが一つ。

無駄な支出を止めてお金を残すことが一つ。

天災前に、近くの被災していない領地からの物資や食糧などを、天災の間 定期購入する契約を結ぶことが一つ。

災害時にグリーンデサントからの有償支援を取り付けることが一つ。

今考えていることはこのくらいです」

「「……」」

「あの?」

「バルド」

「はい、陛下」

「覚えたか」

「はい、陛下」

「文字に起こしておいてくれ」

「かしこまりました」

「追って被災範囲を地図で示し、時期も教える。
極秘にしてほしい」

「かしこまりました」

バルドと呼ばれた人が部屋から出ていった。

「びっくりした…」

「秘密事に立ち会わせる側近だ。気配を殺して物陰に隠れている」

「ごめんね、びっくりさせて」

「心臓がバクバク早打ちしていますよ!」

「セリーナが普通の娘なのは分かった」

あれ……視界が霞む……

「セリーナ? セリーナ!」

「廊下の騎士に宮廷医を呼ばせろ!」

「セリーナ! セリーナ!」






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