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帝国 (戴冠式)
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【 新帝王 レオンの視点 】
「レオン様、もうこんな演技は要らないのでは?」
「必要だよ」
「元側妃様は髪も沢山抜けたり、自害を試みたりしていて、もう充分ではないですか?
ずっとこんなことをしてるから周囲が勘違いしてるじゃないですか」
そう。もう既に使用人や兵士がミーシェを“お妃様”と呼び始めている。
その度に“違う”と否定するこの娘は私の気持ちが伝わらない。周囲は察しているというのに。
はっきり言わず、演技と言いながら愛でる私は臆病だ。
完全拒絶されるのが怖い。
「内臓への影響も見たいからね。
さあ、研究棟に行ってストレスを与えよう」
研究棟に行くと独房のような部屋に案内された。
縛られている。口元がおかしかった。
「舌を噛み切るといけませんのでほとんどの歯を抜きました」
「そうか。では葡萄は食べられないか。
見舞いに持って来たのに。
ミーシェ、食べよう……ミーシェ?何故そっちに座るのだ」
「たまにはこっちかなと思いまして」
「駄目だ。おいで」
渋々と膝の上に乗るミーシェの頭に口付けた。
ダイアナの目は虚ろだ。
「ミーシェのドレスが仕上がった。私の髪の色にしたから美しい夜空のように石を散りばめた」
「いつから注文していたのですか?」
「帝国に到着してすぐ採寸しただろう」
「あの時からダークブルーのドレスを作らせたのですか!?」
「見越しただけだ」
「石って……ガラスじゃなくて?」
「ミーシェに偽物なんか使うか。全部ダイヤだ」
「もう!費用は払いま、んぐっ」
チュッ
「馬鹿なことを言うな。帝王に恥をかかせるつもりか?」
「何するんですか!」
「葡萄を口移しで食べさせただけだ。
いつもやっているだろう。ほら、もう一つ」
「ん」
チュッ
「いつも……いつも口付けはしてません」
「これは口付けではない。涎を舐めとっているだけだ」
「え!?涎でてましたか!?」
「いつも出てるよ」
「言ってください、拭きますから」
「私が舐めとるからいい」
「嫌ですよ」
「傷付くな」
「その嫌ではなくて、」
「じゃあ、いいだろう?もう一つ」
チュッ
10粒以上食べさせたらぐったりしてきたので止めた。
ああ……深く口付けたい。
午後は軍の様子を見に行った。
「仲良くやっているか、ブリアック」
「初日は従属国の男爵令息と聞いて舐めてかかる者もおりましたが、今は人気者です。
弟子入り志望者が殺到しています」
「教えてはもらえないのだろう?」
「はい、国の技術だからと」
「帝国の兵士達に囲まれても怯まず祖国への忠義を忘れない。いい青年だ」
「もう縁談も来ています。
爵位があるから姉妹・娘と結婚しないかと何件か話がありましたが、国での政略結婚があるから駄目だと断っています。
公爵家の当主からの申し出も即答ですよ」
「そこがいい。ライアンに圧力をかけようとする貴族が出て来たら抑え込め」
「かしこまりました。
ミーシェ嬢は乱れてますね」
「ハハッ 珍しく的の中央を外したな」
葡萄を口移しで食べさせながら唇を合わせたり舐めたりしたから動揺しているな。
「どうしたミーシェ」
「ライアン、」
あ、影がライアンに言いつけたな。
こっち来た。
「レオン様、葡萄の数だけ的になりますか?」
「かまわないぞ。其方を信じてるからな」
「……狡い人ですね」
「おかしなことを言う。本当のことを言っただけだ。何を持てばいい?」
「ではこのナイフを。私が的になります」
「くっ……許してくれ」
「仕方ありませんね。
ミーシェ、髪のリボンを持って向こうに立ってくれ」
「ミーシェにやらせるなら私が、」
「大丈夫ですよ、レオン様。
ライアンですよ?」
その絶対的な信頼は貴重だ。
この二人が兄妹でなければきっと……
トン!
「お見事!」
ブリアックも楽しそうだ。
戴冠式当日。
「聞きましたよ!帝国で新帝王は戴冠で中央を歩いて入場しないらしいじゃないですか」
チッ、誰がバラした!
宰相が目を逸らした。あいつだな。
「私はライアンと入場しますから、レオン様は普通に王族の出入口から入ってください」
そう言ってライアンと去ってしまった。
貴族達の入場が終わり、最後に入場すると注目を浴びている二人がいた。
新帝王の入場よりミーシェに目がいくか。
挨拶の中にミーシェやライアンについて尋ねようとするものがいるが宰相か制してくれた。
中にはそれでも申し入れる者もいる。
「婚約者が居ないのでしたら私が申し入れます」
「其方は正妻が既にいるだろう。
あの娘は正妻以外は認めない」
「息子の嫁に迎えられませんか」
「其方のところの息子はまだ10歳くらいだろう!息子の嫁といいつつ、其方が興味を示しているのが明白だ!」
「あれほどの美女ならば財力のある我が子爵家がよろしいかと」
「残念だが、娘の実家は大富豪だ。そんな心配はいらない」
「うちの息子は騎士学校でも上位に入ります。息子なら守ってあげられるでしょう」
「逆に息子が守られる側だ」
「え?」
この後のダンスは気を付けなければ。
ファーストダンスのために、ミーシェの元に歩み手を差し伸べた。
「ミーシェ、私とファーストダンスを踊ってくれ」
「え~」
公でそれは辛いぞ。
跪いてもう一度願い出た。
「ミーシェ、どうかお願いだ」
「……」
「ミーシェ、行ってこい」
「お願いします」
ライアン!ありがとう!
溜息は余計だ。
「こんなことなら仮面でもつければ良かったですわ」
「一人で仮面は目立つぞ」
「気が付かれましたか?
周りにいたご令嬢が私を睨んでいたの」
「其方しか見ていないから分からなかった」
「そんなことではすぐに狙われますよ。
周囲の確認は常にしなくては」
ミーシェ。私と踊っても色気のない話になるのだな。
「怪しい者はいるか?」
「何人かいますが、襲いかかりそうな目をしているのは一人ですね。
深緑の衣装に茶色の髪で後ろに束ねている人」
「ああ、父上の庇護を受けていた伯爵だな。
後援者が消えたから大変だろう」
「どうして庇護を受けていたのですか?」
「彼がいかがわしいパーティを開催して父上を喜ばせていた。
その費用と事業資金だな」
「その事業は手放さないのでしょうか」
「彼に代替わりをしてすぐ原料の高騰で傾いてしまった。他国との50年契約で、まだ10年近く契約が残っている。
抜かりの無い契約書に署名をしてしまっていて逃げようが無い。領地が担保に入っているのだ」
「違約金を支払って解除はできないのですか?」
「担保は外せないらしい。
他の事業の収益ではどうにもならず、父上に取り入った。
だがもう父上はいないし、そんないかがわしいパーティに出るような王子はいないし私も嫌だ。
だから立ち行かなくなったら没収だ。
残りの期間は国が代行する」
「では彼は、」
「平民になり、返せない借金の為に強制労働の刑になるだろうな」
すると踊りながらミーシェがライアンに合図を送った。
「何だそれは」
「ライアンに危険人物の連絡です」
「どんな意味だ」
「方角、年代、色、危険度です。
ライアンや影なら方角だけ言えば大丈夫ですけど念のためです」
「ダンスはあまり上手く無いのに器用だな」
「もう踊りませんからね!」
「怒らないでくれ。嬉しいんだ」
「何か嬉しいんですか!」
ミーシェが男と踊り慣れていないから嬉しいんだよ。
「あ、ジェイが、動いた。来ますよ」
「何がだ」
「複数だわ。レオン様は指示通りに動いてください」
ふと見ると、さっき居た場所に伯爵は居なかった。
「しゃがんで!」
「グワっ!」「ギャアッ!」「グッ!」
見上げるとミーシェが血塗れだった。
「ミーシェ!ミーシェ!!」
「ジェイ、ディーは?」
「外に逃げた奴を追った」
「兄上!大丈夫ですか!」
「ミーシェ、どこだ!何処を怪我した!!」
「私の血じゃ無いです。そこの伯爵の血です」
足元を見ると喉を切り裂かれ、胸にナイフが刺さった伯爵が倒れていた。
周りを見渡すと影も背後から別の男の首を短剣で突き立てていて、ライアンは女の首を絞め落としていた。女の足元には瓶が転がっている。
貴族達を退がらせて検証をしているとディーと呼ばれた影が二人引き摺ってきた。
この二人は気を失っているだけのようだ。
「兄上、全部伯爵家の身内です。
伯爵、伯爵夫人、息子二人、伯爵の弟です」
「ブリアック、生きている二人を尋問にかけろ。アクエリオン、瓶の中身を確認してくれ。宰相、お開きにしてくれ」
唯一、返り血を浴びたミーシェを抱えて部屋に戻ると急いで湯浴みの支度をさせた。
「本当に怪我はないんだな?」
「はい 」
「感謝するが、対峙を選ばないでくれ。
心臓がいくつあっても足りない」
「ちょっと手伝ってください」
どうやらドレスを脱ぎたいようだ。
後は一人で脱げるというところまで手伝うと浴室へ向かい、タライに水を入れ、濯ぎ出した。
「ミーシェ?」
「今なら間に合います」
「もう着なくていい」
「もったいないじゃないですか!
ひとまず洗ってみます」
「メイドに渡すからよせ」
すぐにメイドにドレスを持って行かせた。
浴室のミーシェにガウンを羽織らせようとすると
「白じゃないですか!駄目ですよ!」
「風邪を引く」
「寒くないですし、すぐ湯をはってもらえますから大丈夫です」
そして湯をはり終えるとメイド達が私を追い出した。
「陛下、お妃様は私共にお任せくださいませ」
「いや、でも、」
「汚れを落とす為の湯浴みなど、殿方に見られたくございませんわ」
「陛下、隣室に湯をご用意いたしました。こちらへどうぞ」
「ミーシェに傷がないか、」
「私共が確認いたします。どうぞ隣室へ」
「レオン様、お湯が冷めますから早く行ってください」
「………」
浴室から出ると、
「まあ、なんとお美しい」
「お顔もお身体もこんなにお美しいとは。
お妃様は神の愛し子に間違いありませんわ」
「お妃でも愛し子でもありません」
「お妃様の石像を作るべきですわ。
美術館の裸の女神の石像など足元にも及びませんわ」
「何でそんなに褒めるのですか?
私、今日で天に召される予定になっているのですか?」
「いやですわ」
「お妃様ったら」
ああ、混じりたい。あの湯浴みに混じりたい。
「んん゛
盗み聞きをしても辛くなるだけです。
さあ、陛下もこちらへどうぞ」
「レオン様、もうこんな演技は要らないのでは?」
「必要だよ」
「元側妃様は髪も沢山抜けたり、自害を試みたりしていて、もう充分ではないですか?
ずっとこんなことをしてるから周囲が勘違いしてるじゃないですか」
そう。もう既に使用人や兵士がミーシェを“お妃様”と呼び始めている。
その度に“違う”と否定するこの娘は私の気持ちが伝わらない。周囲は察しているというのに。
はっきり言わず、演技と言いながら愛でる私は臆病だ。
完全拒絶されるのが怖い。
「内臓への影響も見たいからね。
さあ、研究棟に行ってストレスを与えよう」
研究棟に行くと独房のような部屋に案内された。
縛られている。口元がおかしかった。
「舌を噛み切るといけませんのでほとんどの歯を抜きました」
「そうか。では葡萄は食べられないか。
見舞いに持って来たのに。
ミーシェ、食べよう……ミーシェ?何故そっちに座るのだ」
「たまにはこっちかなと思いまして」
「駄目だ。おいで」
渋々と膝の上に乗るミーシェの頭に口付けた。
ダイアナの目は虚ろだ。
「ミーシェのドレスが仕上がった。私の髪の色にしたから美しい夜空のように石を散りばめた」
「いつから注文していたのですか?」
「帝国に到着してすぐ採寸しただろう」
「あの時からダークブルーのドレスを作らせたのですか!?」
「見越しただけだ」
「石って……ガラスじゃなくて?」
「ミーシェに偽物なんか使うか。全部ダイヤだ」
「もう!費用は払いま、んぐっ」
チュッ
「馬鹿なことを言うな。帝王に恥をかかせるつもりか?」
「何するんですか!」
「葡萄を口移しで食べさせただけだ。
いつもやっているだろう。ほら、もう一つ」
「ん」
チュッ
「いつも……いつも口付けはしてません」
「これは口付けではない。涎を舐めとっているだけだ」
「え!?涎でてましたか!?」
「いつも出てるよ」
「言ってください、拭きますから」
「私が舐めとるからいい」
「嫌ですよ」
「傷付くな」
「その嫌ではなくて、」
「じゃあ、いいだろう?もう一つ」
チュッ
10粒以上食べさせたらぐったりしてきたので止めた。
ああ……深く口付けたい。
午後は軍の様子を見に行った。
「仲良くやっているか、ブリアック」
「初日は従属国の男爵令息と聞いて舐めてかかる者もおりましたが、今は人気者です。
弟子入り志望者が殺到しています」
「教えてはもらえないのだろう?」
「はい、国の技術だからと」
「帝国の兵士達に囲まれても怯まず祖国への忠義を忘れない。いい青年だ」
「もう縁談も来ています。
爵位があるから姉妹・娘と結婚しないかと何件か話がありましたが、国での政略結婚があるから駄目だと断っています。
公爵家の当主からの申し出も即答ですよ」
「そこがいい。ライアンに圧力をかけようとする貴族が出て来たら抑え込め」
「かしこまりました。
ミーシェ嬢は乱れてますね」
「ハハッ 珍しく的の中央を外したな」
葡萄を口移しで食べさせながら唇を合わせたり舐めたりしたから動揺しているな。
「どうしたミーシェ」
「ライアン、」
あ、影がライアンに言いつけたな。
こっち来た。
「レオン様、葡萄の数だけ的になりますか?」
「かまわないぞ。其方を信じてるからな」
「……狡い人ですね」
「おかしなことを言う。本当のことを言っただけだ。何を持てばいい?」
「ではこのナイフを。私が的になります」
「くっ……許してくれ」
「仕方ありませんね。
ミーシェ、髪のリボンを持って向こうに立ってくれ」
「ミーシェにやらせるなら私が、」
「大丈夫ですよ、レオン様。
ライアンですよ?」
その絶対的な信頼は貴重だ。
この二人が兄妹でなければきっと……
トン!
「お見事!」
ブリアックも楽しそうだ。
戴冠式当日。
「聞きましたよ!帝国で新帝王は戴冠で中央を歩いて入場しないらしいじゃないですか」
チッ、誰がバラした!
宰相が目を逸らした。あいつだな。
「私はライアンと入場しますから、レオン様は普通に王族の出入口から入ってください」
そう言ってライアンと去ってしまった。
貴族達の入場が終わり、最後に入場すると注目を浴びている二人がいた。
新帝王の入場よりミーシェに目がいくか。
挨拶の中にミーシェやライアンについて尋ねようとするものがいるが宰相か制してくれた。
中にはそれでも申し入れる者もいる。
「婚約者が居ないのでしたら私が申し入れます」
「其方は正妻が既にいるだろう。
あの娘は正妻以外は認めない」
「息子の嫁に迎えられませんか」
「其方のところの息子はまだ10歳くらいだろう!息子の嫁といいつつ、其方が興味を示しているのが明白だ!」
「あれほどの美女ならば財力のある我が子爵家がよろしいかと」
「残念だが、娘の実家は大富豪だ。そんな心配はいらない」
「うちの息子は騎士学校でも上位に入ります。息子なら守ってあげられるでしょう」
「逆に息子が守られる側だ」
「え?」
この後のダンスは気を付けなければ。
ファーストダンスのために、ミーシェの元に歩み手を差し伸べた。
「ミーシェ、私とファーストダンスを踊ってくれ」
「え~」
公でそれは辛いぞ。
跪いてもう一度願い出た。
「ミーシェ、どうかお願いだ」
「……」
「ミーシェ、行ってこい」
「お願いします」
ライアン!ありがとう!
溜息は余計だ。
「こんなことなら仮面でもつければ良かったですわ」
「一人で仮面は目立つぞ」
「気が付かれましたか?
周りにいたご令嬢が私を睨んでいたの」
「其方しか見ていないから分からなかった」
「そんなことではすぐに狙われますよ。
周囲の確認は常にしなくては」
ミーシェ。私と踊っても色気のない話になるのだな。
「怪しい者はいるか?」
「何人かいますが、襲いかかりそうな目をしているのは一人ですね。
深緑の衣装に茶色の髪で後ろに束ねている人」
「ああ、父上の庇護を受けていた伯爵だな。
後援者が消えたから大変だろう」
「どうして庇護を受けていたのですか?」
「彼がいかがわしいパーティを開催して父上を喜ばせていた。
その費用と事業資金だな」
「その事業は手放さないのでしょうか」
「彼に代替わりをしてすぐ原料の高騰で傾いてしまった。他国との50年契約で、まだ10年近く契約が残っている。
抜かりの無い契約書に署名をしてしまっていて逃げようが無い。領地が担保に入っているのだ」
「違約金を支払って解除はできないのですか?」
「担保は外せないらしい。
他の事業の収益ではどうにもならず、父上に取り入った。
だがもう父上はいないし、そんないかがわしいパーティに出るような王子はいないし私も嫌だ。
だから立ち行かなくなったら没収だ。
残りの期間は国が代行する」
「では彼は、」
「平民になり、返せない借金の為に強制労働の刑になるだろうな」
すると踊りながらミーシェがライアンに合図を送った。
「何だそれは」
「ライアンに危険人物の連絡です」
「どんな意味だ」
「方角、年代、色、危険度です。
ライアンや影なら方角だけ言えば大丈夫ですけど念のためです」
「ダンスはあまり上手く無いのに器用だな」
「もう踊りませんからね!」
「怒らないでくれ。嬉しいんだ」
「何か嬉しいんですか!」
ミーシェが男と踊り慣れていないから嬉しいんだよ。
「あ、ジェイが、動いた。来ますよ」
「何がだ」
「複数だわ。レオン様は指示通りに動いてください」
ふと見ると、さっき居た場所に伯爵は居なかった。
「しゃがんで!」
「グワっ!」「ギャアッ!」「グッ!」
見上げるとミーシェが血塗れだった。
「ミーシェ!ミーシェ!!」
「ジェイ、ディーは?」
「外に逃げた奴を追った」
「兄上!大丈夫ですか!」
「ミーシェ、どこだ!何処を怪我した!!」
「私の血じゃ無いです。そこの伯爵の血です」
足元を見ると喉を切り裂かれ、胸にナイフが刺さった伯爵が倒れていた。
周りを見渡すと影も背後から別の男の首を短剣で突き立てていて、ライアンは女の首を絞め落としていた。女の足元には瓶が転がっている。
貴族達を退がらせて検証をしているとディーと呼ばれた影が二人引き摺ってきた。
この二人は気を失っているだけのようだ。
「兄上、全部伯爵家の身内です。
伯爵、伯爵夫人、息子二人、伯爵の弟です」
「ブリアック、生きている二人を尋問にかけろ。アクエリオン、瓶の中身を確認してくれ。宰相、お開きにしてくれ」
唯一、返り血を浴びたミーシェを抱えて部屋に戻ると急いで湯浴みの支度をさせた。
「本当に怪我はないんだな?」
「はい 」
「感謝するが、対峙を選ばないでくれ。
心臓がいくつあっても足りない」
「ちょっと手伝ってください」
どうやらドレスを脱ぎたいようだ。
後は一人で脱げるというところまで手伝うと浴室へ向かい、タライに水を入れ、濯ぎ出した。
「ミーシェ?」
「今なら間に合います」
「もう着なくていい」
「もったいないじゃないですか!
ひとまず洗ってみます」
「メイドに渡すからよせ」
すぐにメイドにドレスを持って行かせた。
浴室のミーシェにガウンを羽織らせようとすると
「白じゃないですか!駄目ですよ!」
「風邪を引く」
「寒くないですし、すぐ湯をはってもらえますから大丈夫です」
そして湯をはり終えるとメイド達が私を追い出した。
「陛下、お妃様は私共にお任せくださいませ」
「いや、でも、」
「汚れを落とす為の湯浴みなど、殿方に見られたくございませんわ」
「陛下、隣室に湯をご用意いたしました。こちらへどうぞ」
「ミーシェに傷がないか、」
「私共が確認いたします。どうぞ隣室へ」
「レオン様、お湯が冷めますから早く行ってください」
「………」
浴室から出ると、
「まあ、なんとお美しい」
「お顔もお身体もこんなにお美しいとは。
お妃様は神の愛し子に間違いありませんわ」
「お妃でも愛し子でもありません」
「お妃様の石像を作るべきですわ。
美術館の裸の女神の石像など足元にも及びませんわ」
「何でそんなに褒めるのですか?
私、今日で天に召される予定になっているのですか?」
「いやですわ」
「お妃様ったら」
ああ、混じりたい。あの湯浴みに混じりたい。
「んん゛
盗み聞きをしても辛くなるだけです。
さあ、陛下もこちらへどうぞ」
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そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。
という訳で、私は公爵家の人間になった。
そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。
しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。
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