【完結】ずっと好きだった

ユユ

文字の大きさ
上 下
80 / 173

ケイン・ワッツ(ミーシェの存在)

しおりを挟む
【 ケインの視点 】


怪我をしたミーシェ嬢の為に治るまで双子は王宮に移された。

私もジスランを誘ってエヴァンを訪ねた。

「ケイン、ジスラン、どうした」

「私はケインに誘われました」

「人数を多くした方がいいと思いました」

「ありがとうございます、ケイン」

お礼を言ったのはライアンだった。

「ミーシェ嬢は」

「ちょっと退屈してますね、良ければ会いますか?」

そんなつもりは無かったが結構ですとは言えなくて四人でミーシェ嬢に会いに行ったのだが……。

ジ「えっと、何しているのかな?」

ミ「退屈なので」

ジ「時間潰しの仕方が独特だね」

ミ「……やりますか?」

ジ「教えてくれる?」

寝巻きにガウンを羽織り、ジスランの側に立つと短剣を手渡した。

ミ「短剣はこうやって持って、投げ切る時に目標の延長線のこの位置から下に下げては駄目。的に近寄ったからあたるよね」

ジ「地味なプレッシャーは止めてよ」

トンッ

ジ「おっ、出来た!俺素質あるかも!」

ミ「その判断、早過ぎじゃない?」

ジ「褒めて伸ばしてくれよ~」

ミ「有料で」

ジ「友情待遇で」

ミ「いつからそうなった」

ジ「前からだよ」

ミ「…ジスランは記憶に問題がありそうね」

エ「何で仲良くなってるんだよ」

ジ「いいじゃないですか、エヴァン。私は才能があるんですよ」

ミ「エヴァンは天井 出来るようになった?」

エ「あれ、難しいし怖いんだよ。刺さらなかったら短剣が降ってくるだろう」

ミ「エヴァン、お腹空いた」

エ「ミーシェは自由だな。ちょっと早いけど食事にするか」


驚いた。ミーシェ嬢が普通に沢山話してる。

ミーシェ嬢もエヴァンに丁寧な言葉は使わない。それどころか食事を用意しろと言わんばかりに“お腹空いた”と言った。

エヴァンもいつものことのように対応する。
学園で全く口も聞かずに目も合わさない二人とは思えなかった。

ジスランの溶け込み方はすごい。ミーシェ嬢は早くもジスランと呼んだ。

ジスランは普段、自分のことを“俺”と言うんだな。



ジ「それじゃ、すぐ腹が減るよな。知ってたら差し入れ考えたのに」

ミ「いいよ。別に」

口の中が切れていて頬も腫れているのであまり噛まなくてもいいものしか出てきていないから腹が減るのが早いのだと知った。

ラ「これも食べるか?」

ミ「ライアンのが無くなっちゃう」

ラ「別の物を食べればいいだけだ。好きな物を好きなだけ食べろ」

ミ「うん」


ミーシェ嬢が笑ったのを初めて見た瞬間だった。双子だって言うのに幾つか歳上かのようにミーシェ嬢を包み込むように見つめるライアンと、頬を染めるエヴァン、息を呑むジスラン。

ジスラン、頼むからミーシェ嬢に惚れないでくれ。


ケ「ミーシェ嬢、あの的は君が決めたの?」

ミ「位置? 違うよ。勝手に設置していった」

ジ「誰が?」

ミ「近衛騎士団の人」

ジ「近衛!?」

ケ「全部刺せるの?」

ミ「刺せるよ」

ジ「すごっ。ライアンは?」

ラ「どうだろう」

エ「ミーシェ、これ食べれるんじゃない?
思ってたより柔らかいよ」

そう言って自身の皿からミーシェ嬢の皿に移した。それをいつもの事という感じで口にする。

ミ「本当だ」

エ「次からはメニューに加えるように言っておく」

ミ「ありがとう」

本当にエヴァンの片思いか?

だがその疑問はミーシェ嬢が登校を再開して一週間もしない内に答えが出た。




「ライアン、エスの件で知らせがある。放課後、一緒に来てくれないか」

?」

「そうだ」

「同席してもいいですか」

「ケイン、遠慮してくれ」

「エヴァン、この二人ならいいだろう。

ケイン、ジスラン、離れた距離で立ち会ってみてくれますか」



そして王宮に着くと通されたのは謁見の間だった。とんでもないところについて来てしまったと思った。

壁際に立ちジスランと共に息を潜めた。


国王陛下が入室されると近衛騎士団の団長と見慣れない騎士服の者が数人入室した。

「ミーシェ、ライアン。こっちへ来い」

国王が呼ぶと二人は近寄り側に立った。

「ジェイ、運んでくれ」

「はっ!」

見慣れない騎士服の一人はジェイというようだ。彼は箱を持ち、陛下の前に置かれた小さなテーブルのようなものの上に置いた。

「ミーシェ、エスの遺骨だ」

「ジェイ?」

「エスが帰ってきたんだよ」

そう言って、ジェイという騎士はネックレスを手渡した。

それを見るなりミーシェは幼い子供のように騎士を見つめた。

箱から骨壷が取り出されるとミーシェは泣き叫んで骨壷を抱きしめた。

「何で!何でっ!!」

ライアンと国王陛下がミシェルの背中を摩っている。

「お嫁さんにっ……して、……くれるって」

「すまない。ミーシェ」

国王陛下が辛そうに謝っているし、ジェイという騎士は、

「国のため、国民のため、任務を果たし殉職した。褒めてやってくれないか、ミーシェ」

と言いつつも自身も拳を握りしめていた。


エヴァンが私とジスランを連れて謁見の間を出た。

別の部屋に着くと人払いをした。

「二人に聞きたい。卒業後に私の側近になってくれるだろうか。今返事が聞きたい」

「光栄です。エヴァン殿下。忠誠を誓います」

「忠誠を近いお側におります」



その言葉を聞いてエヴァンは深呼吸をした。

「これから話すことは漏らすなよ」

「「はい」」

「あの遺骨はエスと言って、近衛騎士団の第四と密かに呼ばれる影だ。エスは通称。

スカウトされ、尋常じゃない適正テストや訓練を受けるし、死か失踪を装い存在を消す。
元の身分は平民から元王族まで様々だ。

エスは第四のナンバー2で、二人は想い合っていた。口約束で婚約もしていた。
まあ、生きていたとしてそれが有効だったかどうかは定かではないと思っていた。

だが、あのネックレスを見て分かった。エスもミーシェを想っていたと。
ネックレスはミーシェとお揃いだった」

「任務中に殺されたのですか?」

「ミーシェが私達より一つ歳上で、入学を一年ずらしただろう?あれは入学直前にある国で疫病が流行り出していると情報が入った。

それで事実確認のためにエスを派遣した。
情報は事実でエスも感染してしまった。
自分の限界と国境までの距離があったことも理由だが、一番は病を持ち込まないようにだろう、自害を選んだ。

遺書のような報告が伝書で届いた。そして北側の国境を封鎖した。

理由が疫病だから終息しないと捜索も出来なかった。やっと入念に火葬してから連れて帰って来れたんだ」

「我々は守られているのですね」

「そうだ。特に今回は該当の国から王女の留学の話があって、受け入れたら私達と同じ年に入学する予定だった。

後から分かったが、万が一の為に王女の避難先にしたかったらしい。ついでに私との友好を深めようと言う作戦だったようだ」

「つまり、その話が持ち上がった頃にはすでに該当の国の中枢では疫病を把握していたのですね」

「その通り。
奴等が正直に状況を説明して、救いを乞えば、国境で一週間足止めして、感染の有無を確認して保護することができた。

何より第四が調査に赴くことも無かったんだ。殺されたに近い」

「ミーシェ嬢の気持ちに区切りがつくといいですね」

「昔のミーシェに戻って欲しいよ」



その後、ミーシェ嬢は数日学園を休んでそのまま長期休暇に突入した。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

恋人に捨てられた私のそれから

能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。  伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。  婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。  恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。 「俺の子のはずはない」  恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。 「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」  だけどカトリオーナは捨てられた――。 * およそ8話程度 * Canva様で作成した表紙を使用しております。 * コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。 * 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

処理中です...