【完結】ずっと好きだった

ユユ

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人違い

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一方、

好きではないし眼中にもないが、小さな体で10歳の前後の令息達の間に入り自分を守ろうとした数ヶ月早く生まれたロランにご褒美というつもりはないが、手を繋ぎ、一緒に花の匂いを嗅いで顔を寄せ、ふわっと微笑んだ。シーナは愛想良く年相応の対応をしたつもりだった。

散歩を終えて席に戻ることにした。
会場の後方まで来て、一つ垣根を避ければいいだけだった。

「ロラン様」

突然後ろから同い歳くらいの令嬢がロランの手を握ったのだ。

ロランは夢の時間を汚されたことで怒りが沸騰した。

ドン!

「ギャッ!」

勝手に手を握り名前を呼んだ女の子の手を強く振り解きながら押したのだ。

「うわ~ん!!」

ロランは汚いものを見るように見下ろすとシーナを連れて席に戻った。

騎士やメイドが駆けつけて、名前を聞いた。

「ヒッ、フグッ、……サリー」

名簿を見て、席に送り届けた。

「サリー!どうしたの!?」

「押された!」

そう言って指を刺した先はサルト家だった。
夫人にはシーナを指差しているように見えた。

擦りむいた手と汚れたドレスを見た夫人はカッとなり、シーナの前に立つと頬を打った。

シーナは勢いで倒れ、隣に座るロランの椅子に頭を打った。

「シーナ!」

周囲は騒然となった。

騎士がテーブル周辺に移動し、指示を待つ。
サルト夫妻と王女が駆けつけた。

シーナを抱きしめるロランを説得してシーナを離すとロランの胸には血がついていた。

「医師を!」

ハヴィエルが叫ぶ。

「なんで!シーナ!」

泣きながらシーナを抱きしめるアネットを見てステファニーは騎士に命じる。

「二人を捕えろ」

「私は、そんなつもりは、」

シーナを叩いた夫人は真っ青になり言い募った。軽く叩いたつもりだったが思っていたより力が入っていたようで、シーナの左頬にはしっかり手形がついていた。

「幼子を殴るなんて!」

「その子が先にうちのサリーに暴力を振るったのです!男爵家の娘が侯爵家の娘に暴力など許されませんわ!」

シュッ

何かが飛んで来たと思ったら夫人の束ねていた髪がパラパラと落ちた。

「私の髪が!」

「髪ぐらいで何?みっともないからギャアギャア騒がないで」

ナイフを投げたのはミーシェだった。

「夫人、もう私達の前に顔を見せない方がいい。後始末が済んだら消えてくれ。忠告を忘れないように」

ミーシェを宥めるように頭を撫でながらライアンが言い放った。

「とんでもない一家ね!躾がなってないのか悪い血でも流れているのか」

バシャっ

「キャア!」

夫人に水を掛けたのはエヴァンだった。

「サルト家を侮辱する気なのか?」

「エヴァン殿下、これを許すのですか!」

運ばれていくシーナについて行きたいがロランにはやることがあった。
己の服に付いたシーナの血をなぞりながら深呼吸をした。

「おばさん、そこの子を押したのは僕だ」

「えっ」

「僕が押した。押した奴は殴るんだろう?
やってみなよ」

「ロ、ロラン殿下は庇っていらっしゃるのですね」

「女を呼べ」

騎士に連れられてロランの前に立たされたサリーは失禁していた。

「お前を押し倒したのは誰だ」

「………」

「誰だ!」

「ロラン様です!」

「サリー!?」

「あんたの娘はいきなり僕の手を繋ぎ“ロラン様”と言ったんだ。
躾が悪く血が悪いのはどっちだ?」

「サリーが?

だとしても、小さな子供がお友達になりたくてしたことではありませんか」

「夫人、王族との社交の場に参加させるならしっかり躾けるか、目を離すべきではなかった。

ロラン殿下と友人として交流があったのなら救いはあるが、この様子ではそうではないだろう。

だとしたらいきなり触れて手を繋いだり、殿下の許しもなく殿下と付けないのはまずい。

ロラン殿下が不快に思い遠ざけようとしても不思議ではない。

穏便に仲直りというのが普通の子供同士の揉め事だ。

だが、貴女は4歳の幼女に事実確認もせず殴り出血させ意識を失わせた。

どう責任をとるつもりですか?」

「なっ!なんで子供にそんなことを言われないとならないの!」

「夫人のせいで妹が怪我をして両親が不在となれば長男の私が家族を守るのは当然でしょう。

的外れな言い逃れは止めた方がいいですよ。
大きな墓穴をそんなに掘っても身は一つ。
ご主人やご主人のご両親の分も掘っているつもりなら止めないで付き合いましょう」

「ママぁ」

「決めるのは周囲を見渡してからでも構いませんよ」

冷たい視線が注がれているのがやっと分かった夫人はドレスを握り締め、屈辱に耐えていたが、駆けつけたシオン殿下が指示を出し、夫人と娘を連行させた。

ライアン達を退げ、ロランを侍従に預けて退がらせ、エヴァンと二人で場をおさめ残りの交流をすませた。






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