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騎士団でのアルバイト
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馬車の中ではお父様に抱きしめられていた。
「本当に良かった。怪我を負った後、意識のない怪我をしたアネットを見て血の気が引いたんだぞ」
「私なんか倒れそうだったのよ!」
「ごめんなさい」
「実はバルギル公爵令息が諦めていないんだ」
「素直に帰ったんじゃ…」
「また訪問すると言っていた」
「なんで諦めてくれないのですか」
「断ったのだが申し込みだけなら罪ではないからどうにもできん。
次期国王の側近だから入国拒否にして欲しいと頼めない」
「確か直前に公爵令嬢が言い寄っていました。順番待ちをするって言っていたので、貴女の番ですとお知らせしてはどうでしょう」
「こちらから教えておいてアネットを諦めていないと知られたら恨まれるかもしれないわ」
「噂で耳に入るようにできないですか」
「どこのご令嬢なの?」
「ハリット公爵家です」
「縁がないわね」
「俺がやります。
“次期国王の側近は縁談が上手くいかなかったと王宮で聞いた”と言えばいいのです」
「どうやって?」
「近々茶会があるのですがそこの令嬢とハリット公爵令嬢は友人なので出席する可能性が高いんだ。
そこで誰かが聞いてしまうように仕向ければいい」
「テオは恨まれない?」
「大丈夫。嘘はない。上手くいかなかったのは事実だし、彼は王宮で断られているんだ」
「ありがとう、テオ」
「アネットが安心して過ごせるようにしないとな」
「いつもありがとう、テオドール。アネットと同い歳なのに面倒を見てもらって」
「感謝しているぞ、テオドール」
「俺は従妹が可愛いだけです。それに男ですから」
屋敷に着いてテオが部屋まで送ってくれた。
「ありがとう」
「アネット」
テオは頬を両手で挟みじっと見つめた。
額に額をつけてテオは目を閉じる。
「寿命が縮んだ。
二度とあいつに近付けさせたくない」
「テオ…ごめんね」
「刺し傷は」
「ちょっとだけ痕が残りそう。でも何ともないの」
「危険なことはしないでくれ」
「気をつけるわ」
「傷が見たい」
「それはダメよ。見せられる所じゃないわ」
「どうしても?」
「どうしてもよ」
「……そろそろ帰るよ」
「ありがとう?気を付けね」
4日後、王宮で試験を受けている。
でもコレって、ズルじゃない?
王宮からアルバイト募集の知らせをもらった。
騎士団や各部署のお手伝いを募集する内容だった。
事務系なら郵便物や書類整理や片付け、使いっ走りを週4日。騎士団なら手入れや掃除を週2日。短時間労働だが、時給でお給料がでて、食堂が無料。
成人していれば身分、性別、年齢上限なし。
仕事に差し支えのない健康状態で犯罪歴がない者に限る。
筆記試験あり。希望は聞くがテスト結果を見て相応しい配属をする。
こんな内容だった。
見たところ、平民が多いが試験問題の内容は平民には厳しいと思う。
私が習った騎士達の合図とか出題されてるし。
私を受からせようとしている問題のように感じる。
そこから3日後、採用通知が来て此処にいる。
私の配属は近衛騎士団だ。
「ザック・ティグラルと申します」
「アネット・ゲランと申します」
「エリザベス・ヴァロウと申します」
「ピーターと申します」
「4人には雑用をやってもらう。
第一担当、ザック。第二担当、ピーター。第三担当アネット。連絡係エリザベス。
連絡係は郵便物や届け物、提出分や資料などに関するお使いだ。歩きやすい靴でないと歩けなくなったり怪我の元になる。
他の3人は制服の他にエプロンを支給する。
指示はそれぞれの隊長、副隊長が出す。
質問はあるか」
「はい」
「エリザベス」
「アネットさんと私の差は何ですか」
「試験結果と適正だ」
「分かりました」
「エリザベス、城内の案内図を確認しながらあっちの机の本を第二図書室へ返してきて、このリストの部署に回って書類を受け取ってきてくれ」
「はい」
気の強そうな子だなぁ。
「アネット、いくぞ」
「はい!」
ヒューゼル隊長について行った先は執務室だった。
「そこに座ってくれ」
「はい」
「体は大丈夫か」
「お陰様で大丈夫です」
「制服、似合ってるな」
「ありがとうございます」
「この袋の中の物は仕事中に使え。あとこれは仕事後だ」
「青いエプロン」
「第三の色だからな。
道具の手入れとかをする前にその手袋を使え。手が荒れるからな。怪我も防げる」
「ありがとうございます」
「重い物は持つなよ。危ないからな」
「でも……」
「上官命令には“はい”だろう」
「はいっ」
「……エプロンを付けたらこの部屋の掃除から始めてくれ。掃除はしたことはあるか?」
「大丈夫です。教えてもらってきました」
「部屋を出て廊下の突き当たりに掃除道具の入った部屋がある。ゆっくりでいいからな。
昼はバーンズが呼びに来るから此処で待っていなさい」
「はい」
「では行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
「………」
ヒューゼル隊長は頭を撫でから部屋を出た。
こんな幸せな仕事があるだろうか。
顔が緩みっぱなしだ。
「がっかりさせないように頑張ろう」
「本当に良かった。怪我を負った後、意識のない怪我をしたアネットを見て血の気が引いたんだぞ」
「私なんか倒れそうだったのよ!」
「ごめんなさい」
「実はバルギル公爵令息が諦めていないんだ」
「素直に帰ったんじゃ…」
「また訪問すると言っていた」
「なんで諦めてくれないのですか」
「断ったのだが申し込みだけなら罪ではないからどうにもできん。
次期国王の側近だから入国拒否にして欲しいと頼めない」
「確か直前に公爵令嬢が言い寄っていました。順番待ちをするって言っていたので、貴女の番ですとお知らせしてはどうでしょう」
「こちらから教えておいてアネットを諦めていないと知られたら恨まれるかもしれないわ」
「噂で耳に入るようにできないですか」
「どこのご令嬢なの?」
「ハリット公爵家です」
「縁がないわね」
「俺がやります。
“次期国王の側近は縁談が上手くいかなかったと王宮で聞いた”と言えばいいのです」
「どうやって?」
「近々茶会があるのですがそこの令嬢とハリット公爵令嬢は友人なので出席する可能性が高いんだ。
そこで誰かが聞いてしまうように仕向ければいい」
「テオは恨まれない?」
「大丈夫。嘘はない。上手くいかなかったのは事実だし、彼は王宮で断られているんだ」
「ありがとう、テオ」
「アネットが安心して過ごせるようにしないとな」
「いつもありがとう、テオドール。アネットと同い歳なのに面倒を見てもらって」
「感謝しているぞ、テオドール」
「俺は従妹が可愛いだけです。それに男ですから」
屋敷に着いてテオが部屋まで送ってくれた。
「ありがとう」
「アネット」
テオは頬を両手で挟みじっと見つめた。
額に額をつけてテオは目を閉じる。
「寿命が縮んだ。
二度とあいつに近付けさせたくない」
「テオ…ごめんね」
「刺し傷は」
「ちょっとだけ痕が残りそう。でも何ともないの」
「危険なことはしないでくれ」
「気をつけるわ」
「傷が見たい」
「それはダメよ。見せられる所じゃないわ」
「どうしても?」
「どうしてもよ」
「……そろそろ帰るよ」
「ありがとう?気を付けね」
4日後、王宮で試験を受けている。
でもコレって、ズルじゃない?
王宮からアルバイト募集の知らせをもらった。
騎士団や各部署のお手伝いを募集する内容だった。
事務系なら郵便物や書類整理や片付け、使いっ走りを週4日。騎士団なら手入れや掃除を週2日。短時間労働だが、時給でお給料がでて、食堂が無料。
成人していれば身分、性別、年齢上限なし。
仕事に差し支えのない健康状態で犯罪歴がない者に限る。
筆記試験あり。希望は聞くがテスト結果を見て相応しい配属をする。
こんな内容だった。
見たところ、平民が多いが試験問題の内容は平民には厳しいと思う。
私が習った騎士達の合図とか出題されてるし。
私を受からせようとしている問題のように感じる。
そこから3日後、採用通知が来て此処にいる。
私の配属は近衛騎士団だ。
「ザック・ティグラルと申します」
「アネット・ゲランと申します」
「エリザベス・ヴァロウと申します」
「ピーターと申します」
「4人には雑用をやってもらう。
第一担当、ザック。第二担当、ピーター。第三担当アネット。連絡係エリザベス。
連絡係は郵便物や届け物、提出分や資料などに関するお使いだ。歩きやすい靴でないと歩けなくなったり怪我の元になる。
他の3人は制服の他にエプロンを支給する。
指示はそれぞれの隊長、副隊長が出す。
質問はあるか」
「はい」
「エリザベス」
「アネットさんと私の差は何ですか」
「試験結果と適正だ」
「分かりました」
「エリザベス、城内の案内図を確認しながらあっちの机の本を第二図書室へ返してきて、このリストの部署に回って書類を受け取ってきてくれ」
「はい」
気の強そうな子だなぁ。
「アネット、いくぞ」
「はい!」
ヒューゼル隊長について行った先は執務室だった。
「そこに座ってくれ」
「はい」
「体は大丈夫か」
「お陰様で大丈夫です」
「制服、似合ってるな」
「ありがとうございます」
「この袋の中の物は仕事中に使え。あとこれは仕事後だ」
「青いエプロン」
「第三の色だからな。
道具の手入れとかをする前にその手袋を使え。手が荒れるからな。怪我も防げる」
「ありがとうございます」
「重い物は持つなよ。危ないからな」
「でも……」
「上官命令には“はい”だろう」
「はいっ」
「……エプロンを付けたらこの部屋の掃除から始めてくれ。掃除はしたことはあるか?」
「大丈夫です。教えてもらってきました」
「部屋を出て廊下の突き当たりに掃除道具の入った部屋がある。ゆっくりでいいからな。
昼はバーンズが呼びに来るから此処で待っていなさい」
「はい」
「では行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
「………」
ヒューゼル隊長は頭を撫でから部屋を出た。
こんな幸せな仕事があるだろうか。
顔が緩みっぱなしだ。
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