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放っておけない

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【 アラン・ロプレストの視点 】


部下達の元へ行き、別行動を命じた。

「俺は数日ここに残る。皆はシトロエヌ城に戻って休んでくれ」

「将軍、私もですか!?」

俺の右腕 ディオンが不服そうだ。

「おまえは大事な戦力だし、俺がいなければ代わりに指揮を取らねばならない身だろう?」

「ですが、」

「野暮ですよ」

「そうですよ裨将軍。あの子と仲良くしたいんですよ」

「……」

ディオンは本気ですかと言いた気な目を向けた。

女嫌いの俺が有事の最中に会ったばかりのベルゼア民に懸想をするなど信じられないのだろう。

言いたくない…言いたくないが…

「察してくれ、ディオン」

「…かしこまりました」


部下達を見送ると看護婦が呼びに来た。

「将軍様、湯浴みのお支度が整いました」

「助かる」

これからどうしよう。レミの体調が落ち着いたらベルゼアへ戻した方がいいのか…

湯に浸かりながら悩んでいたが結論は出ない。


汚れを落とし、食事をして医者の元へ経過を聞きに行った。

「先生、彼…彼女は?」

「低体温症からは脱しました。ですが捻挫は少し重度ですね。今は熱が上がっています。薬を飲ませて休ませれば治るでしょう」

「助かった、感謝する」

「それと、彼女は髪を染めていたようですね。まあ、そうでもしないとあれでは いろいろな意味で狙われるでしょう。廊下に出て左側の隣の部屋にいます」

「分かった」

廊下の床はギシギシと軋む。
ドアを開けると簡素なベッドに寝かされているレミがいた。

「これは…」

眩いブロンドのレミが熱で頬を赤らめていた。

「止めて…ベルトラン…痛い…」

ギシッ

ベッドに腰をかけて 顔にかかった髪をはらった。

ベルトラン…双子の王子だな。暴力を振るわれていたのか。

「大丈夫、もう虐める奴はいない」

確かベルトラン王子は死んだと聞いた。しかもベルゼアが非難している。俺の部下にもシトロエヌ辺境軍にも王子を討ち取った者がいなくて訳がわからない。双子の兄王子ディミトリーの腕を切り落としたのはディオンだ。殺してはいない。

レミの指輪はチェーンごと外して俺が持っている。こんなものを身につけてオネスティアにいたら危険だ。王族や大臣達が引き渡せと言ってきて、牢獄に閉じ込められるだろう。そして何をされるか分かったものじゃない。特にこの美貌は危険極まりない。

廊下の床が軋む音がしてドアの前で止まった。

コンコンコンコン

〈失礼します〉

ドアを開けるとタライに氷を浮かべ布を持った下女が立っていた。

「足首を冷やします」

「俺がやるから貸してくれ」

「ですが…」

「俺が命じたと言えばいい」

「かしこまりました」


下女が退室すると毛布をめくり、氷水で濡らして絞った布を捻挫をしたレミの足首に当てた。

細いな…

「ん……」

レミの瞼が開いて足に触れている俺を見た。

「あっ」

「起きるな レミ」

「僕…」

「川が冷たかったのだな。入って2分程度だったが低体温症になったんだ」

「…僕、あの森には昨日の夕暮れ前からいたんです。日暮れ頃には騙されたと気付いて あいつを怒らせたから殴られて…目が覚めたのは助けていただく数分前です」

「そんなに長くあの格好であの森にいたのか」

「小さな女の子が怪我をしていて、兵士だと怖がってしまって困っていると言われて…」

「そうか。今は熱がある。足首の捻挫は重度で 冷やしているところだ」

「将軍にそんなことをさせられません、僕 自分でできます」

「熱があるんだ。君は治すことを考えてくれ」

「…はい」

「歳は?」

「…17歳です」

「声変わりは?」

「……しました」

して それか。

「他に痛いところは?」

「…大丈夫です」

嘘が下手だな。

「何処なんだ」

「…馬に長く乗ったことがなくて」

「何処だ」

「タ、タマが擦れて痛かったです」

「…ありがちだな。塗り薬をもらってこよう」

「い、いいです」

「腐るぞ」

「 !! 」

「大人しく寝ていろ」

「はい」


隣の治療室に行き、塗り薬を貰って戻った。
毛布を捲るとレミは動揺した。

「じ、自分で塗りますっ」

「塗り辛いだろう」

「き、汚いですっ」

「湯浴みはさせたぞ」

「で、でもっ」

「命令だ」

「っ!」

命令これが効き目ありだな。

捻挫していない方の足を下着から外し、腹に付くくらい脚をまげさせた。

「将軍っ」

「…こういう時に将軍は止めろ。俺の名はアランだ」

将軍が若い男を手籠にしているように聞こえて名前を呼ばせることにした。

「痛かったら言えよ」

「あっ!」

塗るとギュッと皮が集まり丸くなってしまった。
これは引っ張って塗った方がいいのか?

「痛いか」

「大丈夫です」

この子の大丈夫はあてにならない。引っ張ったら痛いかもしれないからそのまま塗った。

しかし可愛いな。
タマも小さければ竿も小ぶりだ。
触ってみたい…

「アラン様?」

「っ!」

慌てて下着を履かせて毛布を被せた。

「食事を運ばせよう」


廊下に出てしゃがみ込んだ。

「はぁ…」

俺は何をしようとしたんだ。
男のナニに触れたいだなんて…。

下女を呼び止めて病人食を頼んだ。
窓の外を見ると もう煙は上がっていない。
だが、レミがいることでどうなるのか分からない。

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