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裏切り者
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ラファエル兄上と僕達は、迂回路で会った検問所のヨラン隊長達と国境方向へ進んだ。
兄上を含むみんなが敵を倒して行く中で僕はやれる事がない。髪を染め 平民の服を着て外套を纏い守られるように馬に乗っているだけ。
今更だけど全く上達しない剣より弓を習えば良かった。
それにあのヨラン隊長の僕を見る目が気になる。ベルトランより嫌な目をしていた。
ベルゼア内の敵兵を戦闘不能にするか投降させること、オネスティア側に行ってしまった兵士達を呼び戻すこと、その上で国境を閉鎖する事が目標だった。それは長くかからずに達成できた。
今は兵士と一般人の死者の運搬、負傷者の運搬や手当て、片付けなどを行っていて、僕は手当てや看病と掃除を頑張っている。
「レミ王子、向こうで子供が怪我をしているのですが、我々では怖がってしまって…」
声を掛けてきたのはヨラン隊長の部下だった。
「分かりました、僕が行きます」
…だけど20分以上歩いても着かない。
「あの、僕 行動制限があって、これ以上は進めません」
「まだ小さな女の子なんです。もうすぐですから」
「そんなに小さいのなら布に包んで連れて来てもらった方が良かったのでは?」
「……」
何かおかしい。
「僕、命令違反になるので戻ります」
戻ろうとすると後ろにいた兵士がナイフを僕に突きつけていた。
「もう少し先だ」
「これがどういうことか分かっているのか!」
「もちろんだ、早く行け」
更に15分以上歩いただろうか。まだ国境の見張台がかろうじて見えるから あれに向かって走れば帰ることができる。だが日が暮れ出した。まずいかもしれない。
「やっぱり あんたか」
ヨラン隊長が木の影から現れた。続いて隊長の残りの仲間も。
「俺がどうかしたか」
「もしかして あんたがベルトラン王子を殺したんじゃないか?」
「…何の役にも立たない偽王子様は余計なことに気が付く馬鹿なんだな。この状況でそんなことを言ったら生きては帰れないと思わないのか?」
「またヒントを与えるだけだよ。争った形跡もないから攫ったというより騙して誘い出したと思うだろう。僕が安心して付いていきそうな人物に絞られる。これで王子が狙われるのは3人目。だけどディミトリーは最前線で戦った際の負傷だから除外。それでも偶然とは思えないだろう。
ベルトランを襲った犯人はオネスティア兵と言われている。だけど僕が騙されてついていくならオネスティア兵はあり得ない。つまりベルトランは僕と同じように味方に安心して油断した。
ベルトラン達を殺したのはオネスティア兵だと言ったのは誰かな?君たち7人の内の誰かじゃないの?
僕がいなくなったときの目撃者を探すだろうね。で、また君達の名前が出てくるわけだよ。
総合すると君達7人が最重要容疑者だ。
王太子殿下は迂回路に隠れていた理由を辺境軍のノーバーム卿に確認するはずだ。
ノーバーム卿は否定するよね?」
「……」
また同じことを同じ場所でしようと待ち構えていたが、王太子殿下達に先に気付かれたことと、王太子殿下の連れていた騎士達が多過ぎて全員逃さずに倒すのは無理だと判断して誤魔化して乗り切った。
別の機会を狙っているんだよね?今のように」
「……」
「王太子殿下は双子の王子とは格が違うからバレるよ」
「その王太子を誘き出すためにお前を攫ったんだ」
「何の恨みがあるんだ?」
「俺の家族が惨殺されたのに何もしてくれなかった。息子や娘達はまだ子供だったんだぞ。あんな事ができるなんて人間じゃない。後を追った妻だって殺されたようなものだ。なのに何故オネスティアを攻撃しないんだ」
「オネスティアだという証拠がない」
「オネスティアの兵士がつけるバッジが落ちていたんだ!」
「それだけでは証拠にならない。
そもそも、オネスティア兵のバッジを付けるくらいなら兵服なんだよね。そんな服を着た複数人がベルゼア内を歩いたら目立つよね。私服でわざわざバッジなんかつけないし。バッジはあんたの子が遊んでいる時に拾ったかもしれないし、犯人がわざと落としていったかもしれない。
それに国の指示で襲っていないならオネスティアに攻撃は出来ない。犯人の特徴を告げて捕まえて欲しいと依頼をするのが普通だ」
「ただ単に8歳、10歳、13歳の子供が惨い殺され方をしただけでは不満なんだろう?だから重い腰でも動けるようにしてやったんだ」
「それで放火をしたりオネスティアに侵入して襲ったり、ベルトラン王子達を殺したわけだ。
あんたは隊長だ。毎日検問所を守っているんだよね?あんたの主張が正しければ、そんな危険な男達を通したのはあんたということになる。
あんたの言うオネスティア兵のバッジを付けて武装した男達を、10歳の少年の頭部に剣を振り下ろして殺すような男達を、8歳の少女を残酷に犯しながら殺すような男達を、13歳の少女の全ての穴を満足するまで犯し続るような男達を通過させて 息子や娘達のいる町に放ったということだよね?」
ドゴッ!
痛い…血の味がする。
寒い…すごく寒い…。
目を覚ますと手を縛られ、腰縄を付けられていた。その縄の先は木に括り付けられていた。
この薄暗さは…夜明け?
濃い霧に包まれていた。
ヨラン隊長は火を起こして暖を取っていた。
「お、気が付いたか」
側頭部が痛い。殴られて気を失っていたらしい。
「殺さなかったんだ」
「王太子を誘き寄せるエサだからな」
「迂回路よりも多くの兵士が来るのに?」
「さあ。“一人で来ないと第四王子を俺の子供達と同じ目に遭わせる”と書いて送ったから どうなるのか分からないな」
「自白したってわけだ。あんた一人しかいないけど仲間はどこに行ったの?見捨てられたみたいだね」
「あいつらはオネスティアに行った」
「オネスティアで何をするつもりだ!」
「そんなことより自分がどうなるか心配するんだな」
ヨラン隊長はナイフを抜いて僕に近寄った。
「8歳のシーナがどんな目にあったか知りたいだろう?」
「来るな!」
「見た目は美少女で良かったよ。双子じゃ勃たないからな」
ヨラン隊長は僕のベルト代わりの腰紐を切ろうとした。
「やだ!!止めて!!嫌だ!!助けてー!!誰かー!!」
「ベルトランはギャーギャー鳴かなかったぞ?」
「ヨラン隊長!!」
「どうせあいつに突っ込ませているんだろう?
お気に入りが掘られて死んでいたらどんな顔をするかな」
「!!」
僕に跨るヨラン隊長の背後に 朝霧を押し除けて誰かが立った。そして大きめのナイフがヨラン隊長の喉元に…
兄上を含むみんなが敵を倒して行く中で僕はやれる事がない。髪を染め 平民の服を着て外套を纏い守られるように馬に乗っているだけ。
今更だけど全く上達しない剣より弓を習えば良かった。
それにあのヨラン隊長の僕を見る目が気になる。ベルトランより嫌な目をしていた。
ベルゼア内の敵兵を戦闘不能にするか投降させること、オネスティア側に行ってしまった兵士達を呼び戻すこと、その上で国境を閉鎖する事が目標だった。それは長くかからずに達成できた。
今は兵士と一般人の死者の運搬、負傷者の運搬や手当て、片付けなどを行っていて、僕は手当てや看病と掃除を頑張っている。
「レミ王子、向こうで子供が怪我をしているのですが、我々では怖がってしまって…」
声を掛けてきたのはヨラン隊長の部下だった。
「分かりました、僕が行きます」
…だけど20分以上歩いても着かない。
「あの、僕 行動制限があって、これ以上は進めません」
「まだ小さな女の子なんです。もうすぐですから」
「そんなに小さいのなら布に包んで連れて来てもらった方が良かったのでは?」
「……」
何かおかしい。
「僕、命令違反になるので戻ります」
戻ろうとすると後ろにいた兵士がナイフを僕に突きつけていた。
「もう少し先だ」
「これがどういうことか分かっているのか!」
「もちろんだ、早く行け」
更に15分以上歩いただろうか。まだ国境の見張台がかろうじて見えるから あれに向かって走れば帰ることができる。だが日が暮れ出した。まずいかもしれない。
「やっぱり あんたか」
ヨラン隊長が木の影から現れた。続いて隊長の残りの仲間も。
「俺がどうかしたか」
「もしかして あんたがベルトラン王子を殺したんじゃないか?」
「…何の役にも立たない偽王子様は余計なことに気が付く馬鹿なんだな。この状況でそんなことを言ったら生きては帰れないと思わないのか?」
「またヒントを与えるだけだよ。争った形跡もないから攫ったというより騙して誘い出したと思うだろう。僕が安心して付いていきそうな人物に絞られる。これで王子が狙われるのは3人目。だけどディミトリーは最前線で戦った際の負傷だから除外。それでも偶然とは思えないだろう。
ベルトランを襲った犯人はオネスティア兵と言われている。だけど僕が騙されてついていくならオネスティア兵はあり得ない。つまりベルトランは僕と同じように味方に安心して油断した。
ベルトラン達を殺したのはオネスティア兵だと言ったのは誰かな?君たち7人の内の誰かじゃないの?
僕がいなくなったときの目撃者を探すだろうね。で、また君達の名前が出てくるわけだよ。
総合すると君達7人が最重要容疑者だ。
王太子殿下は迂回路に隠れていた理由を辺境軍のノーバーム卿に確認するはずだ。
ノーバーム卿は否定するよね?」
「……」
また同じことを同じ場所でしようと待ち構えていたが、王太子殿下達に先に気付かれたことと、王太子殿下の連れていた騎士達が多過ぎて全員逃さずに倒すのは無理だと判断して誤魔化して乗り切った。
別の機会を狙っているんだよね?今のように」
「……」
「王太子殿下は双子の王子とは格が違うからバレるよ」
「その王太子を誘き出すためにお前を攫ったんだ」
「何の恨みがあるんだ?」
「俺の家族が惨殺されたのに何もしてくれなかった。息子や娘達はまだ子供だったんだぞ。あんな事ができるなんて人間じゃない。後を追った妻だって殺されたようなものだ。なのに何故オネスティアを攻撃しないんだ」
「オネスティアだという証拠がない」
「オネスティアの兵士がつけるバッジが落ちていたんだ!」
「それだけでは証拠にならない。
そもそも、オネスティア兵のバッジを付けるくらいなら兵服なんだよね。そんな服を着た複数人がベルゼア内を歩いたら目立つよね。私服でわざわざバッジなんかつけないし。バッジはあんたの子が遊んでいる時に拾ったかもしれないし、犯人がわざと落としていったかもしれない。
それに国の指示で襲っていないならオネスティアに攻撃は出来ない。犯人の特徴を告げて捕まえて欲しいと依頼をするのが普通だ」
「ただ単に8歳、10歳、13歳の子供が惨い殺され方をしただけでは不満なんだろう?だから重い腰でも動けるようにしてやったんだ」
「それで放火をしたりオネスティアに侵入して襲ったり、ベルトラン王子達を殺したわけだ。
あんたは隊長だ。毎日検問所を守っているんだよね?あんたの主張が正しければ、そんな危険な男達を通したのはあんたということになる。
あんたの言うオネスティア兵のバッジを付けて武装した男達を、10歳の少年の頭部に剣を振り下ろして殺すような男達を、8歳の少女を残酷に犯しながら殺すような男達を、13歳の少女の全ての穴を満足するまで犯し続るような男達を通過させて 息子や娘達のいる町に放ったということだよね?」
ドゴッ!
痛い…血の味がする。
寒い…すごく寒い…。
目を覚ますと手を縛られ、腰縄を付けられていた。その縄の先は木に括り付けられていた。
この薄暗さは…夜明け?
濃い霧に包まれていた。
ヨラン隊長は火を起こして暖を取っていた。
「お、気が付いたか」
側頭部が痛い。殴られて気を失っていたらしい。
「殺さなかったんだ」
「王太子を誘き寄せるエサだからな」
「迂回路よりも多くの兵士が来るのに?」
「さあ。“一人で来ないと第四王子を俺の子供達と同じ目に遭わせる”と書いて送ったから どうなるのか分からないな」
「自白したってわけだ。あんた一人しかいないけど仲間はどこに行ったの?見捨てられたみたいだね」
「あいつらはオネスティアに行った」
「オネスティアで何をするつもりだ!」
「そんなことより自分がどうなるか心配するんだな」
ヨラン隊長はナイフを抜いて僕に近寄った。
「8歳のシーナがどんな目にあったか知りたいだろう?」
「来るな!」
「見た目は美少女で良かったよ。双子じゃ勃たないからな」
ヨラン隊長は僕のベルト代わりの腰紐を切ろうとした。
「やだ!!止めて!!嫌だ!!助けてー!!誰かー!!」
「ベルトランはギャーギャー鳴かなかったぞ?」
「ヨラン隊長!!」
「どうせあいつに突っ込ませているんだろう?
お気に入りが掘られて死んでいたらどんな顔をするかな」
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