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バルロック城
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ラファエル兄上と副騎士団長エルバド卿率いる大軍はバルロックの手前隣の領地で陣営を組んでいた。
最後の休息となり、明日からは辺境軍を探しながら応戦する。両国の国境の町は戦火と化し、既に別の町にも攻め込まれていた。
「レミ、疲れただろう」
「慣れなくて…すみません」
兄上と同じテントに入り、横になっていた。こんなに長く馬に乗った事がなくてアレが痛い。
「まだ17歳なのだから当然だ。私がいるから眠っていいぞ」
「でも」
「明日からは何十倍も疲れるから、今夜は寝ておきなさい」
「ありがとうございます、兄上…もう少し近寄ってもいいですか」
「寒いのか」
「はい」
「こっちにおいで」
「でも、僕 男だから気持ち悪いでしょう?」
「可愛い弟を気持ち悪いなどと思うか」
兄上の毛布の中に入ると暖かかった。兄上の匂いがする。あっという間に眠ってしまった。
翌朝、
「レミ、夜明けだ」
「ん…」
「よく眠れたか?」
「安心してぐっすり眠れました。ありがとうございます」
「レミのお陰で私も暖かく眠れたよ」
身支度をして食事をして後片付けを手伝った。
その後髪の染め直しをした。
ダークブラウンにして目立たないようにしている。何日か経つと落ちてしまうので染め直しが必要だ。
服は町に住む平民と同じものを着ている。
胸の辺りまで伸びた髪を一つに結った。
短く切りたいけど、ラファエル兄上が綺麗でもったいないから切らないで欲しいと言うので切っていない。いつかバッサリ切ってしまおうと思っている。
集合がかかり、兄上の側に戻った。
「バルロックを覆うように広がり国境へ向けて突き進む!私と第一大隊一班と二班は西側の迂回路を使ってバルロック城へ向かい、そこから国境を目指す!残りはエルバド副騎士団長の指揮下に置く!
いいか!目指すは停戦だ!敢えて残忍なことはするな!」
「エルバドが規律を守らせます!」
「ベルゼアに栄光あれ!」
胃酸が込み上げてくる。
これから兄上と一緒にベルトランが殺された迂回路を通るとこになる。
「レミ、行くぞ」
「はい」
進むに連れて道が悪くなってくる。
幅も細い。崖下の道を二列で進む。長い列だ。後退しにくい…というかできないだろう。
ベルトランを含めた21人も同じように通った。急な敵襲に方向転換して後退出来なかったのだろうか。
「おい!そこに隠れているのは分かっている!出て来い!!」
ラファエル兄上が何かを見つけたようだ。
「王太子殿下、我々は味方です!」
崖の大きな窪みから出て来たのはベルゼアの国境検問所の制服を着た兵士だった。
ゾロゾロと7人も出てきた。
「名は」
「私は検問所の隊長を任されているセルゲイ・ヨランと申します。他6人は部下です」
「此処で何をしている」
「迂回路から敵兵が流れ出るのを防ぐよう命じられました」
「誰からだ」
「バルロック辺境軍のノーバーム卿です」
「何故 此処なのだ」
「理由は聞きませんでした」
「……此処はいい。城に向かうから先を歩け」
「はっ!」
何だろう。僕は何が引っ掛かっているのだろう。
すごく落ち着かない。
しばらく進むと城門が見えた。
跳ね橋がゆっくり降ろされ、兵士達が跪いた。
これだ。迂回路で会ったヨラン隊長達は目の前に王太子殿下がいるのに跪かなかった。
「レミ、降りられるか」
「大丈夫です」
馬から降りて城内に入った。バルロック領の城は初めてだった。冷たい感じがするのは作りのせいか…冬は寒そうだ。
「ディミトリーに会いに行く。レミはロウハン卿と一緒にいてくれ」
「分かりました」
【 王太子ラファエルの視点 】
先ずはベルトランの遺体を確認することにした。
「ぐっ…」
氷を使って冷やしてもらってはいるが損傷の激しい遺体は腐りやすい。
顔だけだと人間なのか判別できないほど石か何かで叩き潰されていた。
腕と脚の古傷を見てベルトランだと確認できた。
「保管してくれて感謝する。すぐに火葬にしてくれ。骨を持ち帰り終戦後に葬儀を行う」
腐敗臭が付くのは一瞬だ。
全身が腐敗臭に覆われているようだ。
ただ、吸い込んだ腐敗臭が鼻腔に付いてしまい、呼吸の度に全身から腐敗臭が漂っている気がするだけかもしれない。
外で服を脱ぎ兵士達が使う屋外シャワーを使った。
水だと冷たいな。
「……」
異母弟の遺体を見たばかりなのに悲しみに浸るどころか、昨夜のテントでの出来事を思い出している。
付いていなければ完全に女だ。長い睫毛 絹のような髪 肌は美しく吸い付くようだった。身体は女のように華奢で柔らかい。
「っ…」
血の繋がりは無いが弟相手に勃つだなんて。
「っ…」
レミもこの冷たいシャワーを浴びれば、あの大きな瞳で“兄上 あたためてください”と甘えるだろうな などと妄想して勃ってしまい、こんなところで自慰をすることになるなんて…
「くっ……」
シャワーの水が渦を巻いて排水溝へ流れて行く。そこに白濁が落ち、一緒に流れていった。
「はぁ…」
シャワーを終えた後はディミトリーが治療を受けている部屋へ向かった。双子の弟の死臭を嗅がせるわけにはいかないから入念に洗ったつもりだが、染み付いているように感じてならない。
「ディミトリー」
「…不甲斐なく申し訳ございません」
「眠れているか?」
「強制的に」
睡眠薬を使っているのだな。
「ディミトリー、大怪我で苦しんでいるところに申し訳ないがカルネ子爵邸にお前を移す」
「そんな!私も此処に残ります!」
「聞き分けてくれ」
「ベルトランの仇をとらせてください!」
「その怪我で参戦してみろ。お前を守るために多くの兵士が死ぬ」
「…せめて、バルロック城に居させてください」
「お前に割いている人員を使いたいのだ。
これから医師も世話をしている者達も、増えて行く負傷兵を診なくてはならない。
もしこの城に攻め込まれたら、王子であるお前が足手纏いになる。聞き分けてくれ」
「……はい」
よく早朝、ディミトリーを隣領カルネ子爵邸に移すために出発させた。
最後の休息となり、明日からは辺境軍を探しながら応戦する。両国の国境の町は戦火と化し、既に別の町にも攻め込まれていた。
「レミ、疲れただろう」
「慣れなくて…すみません」
兄上と同じテントに入り、横になっていた。こんなに長く馬に乗った事がなくてアレが痛い。
「まだ17歳なのだから当然だ。私がいるから眠っていいぞ」
「でも」
「明日からは何十倍も疲れるから、今夜は寝ておきなさい」
「ありがとうございます、兄上…もう少し近寄ってもいいですか」
「寒いのか」
「はい」
「こっちにおいで」
「でも、僕 男だから気持ち悪いでしょう?」
「可愛い弟を気持ち悪いなどと思うか」
兄上の毛布の中に入ると暖かかった。兄上の匂いがする。あっという間に眠ってしまった。
翌朝、
「レミ、夜明けだ」
「ん…」
「よく眠れたか?」
「安心してぐっすり眠れました。ありがとうございます」
「レミのお陰で私も暖かく眠れたよ」
身支度をして食事をして後片付けを手伝った。
その後髪の染め直しをした。
ダークブラウンにして目立たないようにしている。何日か経つと落ちてしまうので染め直しが必要だ。
服は町に住む平民と同じものを着ている。
胸の辺りまで伸びた髪を一つに結った。
短く切りたいけど、ラファエル兄上が綺麗でもったいないから切らないで欲しいと言うので切っていない。いつかバッサリ切ってしまおうと思っている。
集合がかかり、兄上の側に戻った。
「バルロックを覆うように広がり国境へ向けて突き進む!私と第一大隊一班と二班は西側の迂回路を使ってバルロック城へ向かい、そこから国境を目指す!残りはエルバド副騎士団長の指揮下に置く!
いいか!目指すは停戦だ!敢えて残忍なことはするな!」
「エルバドが規律を守らせます!」
「ベルゼアに栄光あれ!」
胃酸が込み上げてくる。
これから兄上と一緒にベルトランが殺された迂回路を通るとこになる。
「レミ、行くぞ」
「はい」
進むに連れて道が悪くなってくる。
幅も細い。崖下の道を二列で進む。長い列だ。後退しにくい…というかできないだろう。
ベルトランを含めた21人も同じように通った。急な敵襲に方向転換して後退出来なかったのだろうか。
「おい!そこに隠れているのは分かっている!出て来い!!」
ラファエル兄上が何かを見つけたようだ。
「王太子殿下、我々は味方です!」
崖の大きな窪みから出て来たのはベルゼアの国境検問所の制服を着た兵士だった。
ゾロゾロと7人も出てきた。
「名は」
「私は検問所の隊長を任されているセルゲイ・ヨランと申します。他6人は部下です」
「此処で何をしている」
「迂回路から敵兵が流れ出るのを防ぐよう命じられました」
「誰からだ」
「バルロック辺境軍のノーバーム卿です」
「何故 此処なのだ」
「理由は聞きませんでした」
「……此処はいい。城に向かうから先を歩け」
「はっ!」
何だろう。僕は何が引っ掛かっているのだろう。
すごく落ち着かない。
しばらく進むと城門が見えた。
跳ね橋がゆっくり降ろされ、兵士達が跪いた。
これだ。迂回路で会ったヨラン隊長達は目の前に王太子殿下がいるのに跪かなかった。
「レミ、降りられるか」
「大丈夫です」
馬から降りて城内に入った。バルロック領の城は初めてだった。冷たい感じがするのは作りのせいか…冬は寒そうだ。
「ディミトリーに会いに行く。レミはロウハン卿と一緒にいてくれ」
「分かりました」
【 王太子ラファエルの視点 】
先ずはベルトランの遺体を確認することにした。
「ぐっ…」
氷を使って冷やしてもらってはいるが損傷の激しい遺体は腐りやすい。
顔だけだと人間なのか判別できないほど石か何かで叩き潰されていた。
腕と脚の古傷を見てベルトランだと確認できた。
「保管してくれて感謝する。すぐに火葬にしてくれ。骨を持ち帰り終戦後に葬儀を行う」
腐敗臭が付くのは一瞬だ。
全身が腐敗臭に覆われているようだ。
ただ、吸い込んだ腐敗臭が鼻腔に付いてしまい、呼吸の度に全身から腐敗臭が漂っている気がするだけかもしれない。
外で服を脱ぎ兵士達が使う屋外シャワーを使った。
水だと冷たいな。
「……」
異母弟の遺体を見たばかりなのに悲しみに浸るどころか、昨夜のテントでの出来事を思い出している。
付いていなければ完全に女だ。長い睫毛 絹のような髪 肌は美しく吸い付くようだった。身体は女のように華奢で柔らかい。
「っ…」
血の繋がりは無いが弟相手に勃つだなんて。
「っ…」
レミもこの冷たいシャワーを浴びれば、あの大きな瞳で“兄上 あたためてください”と甘えるだろうな などと妄想して勃ってしまい、こんなところで自慰をすることになるなんて…
「くっ……」
シャワーの水が渦を巻いて排水溝へ流れて行く。そこに白濁が落ち、一緒に流れていった。
「はぁ…」
シャワーを終えた後はディミトリーが治療を受けている部屋へ向かった。双子の弟の死臭を嗅がせるわけにはいかないから入念に洗ったつもりだが、染み付いているように感じてならない。
「ディミトリー」
「…不甲斐なく申し訳ございません」
「眠れているか?」
「強制的に」
睡眠薬を使っているのだな。
「ディミトリー、大怪我で苦しんでいるところに申し訳ないがカルネ子爵邸にお前を移す」
「そんな!私も此処に残ります!」
「聞き分けてくれ」
「ベルトランの仇をとらせてください!」
「その怪我で参戦してみろ。お前を守るために多くの兵士が死ぬ」
「…せめて、バルロック城に居させてください」
「お前に割いている人員を使いたいのだ。
これから医師も世話をしている者達も、増えて行く負傷兵を診なくてはならない。
もしこの城に攻め込まれたら、王子であるお前が足手纏いになる。聞き分けてくれ」
「……はい」
よく早朝、ディミトリーを隣領カルネ子爵邸に移すために出発させた。
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