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開戦

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【 王太子ラファエルの視点 】


オネスティアに隣接する国境を守るバルロック領に向かった双子率いる軍が出発して2週間後、双子に同行していた兵士3人が戻って来た。父上に呼ばれて到着すると、王妃が泣き崩れていた。
 
「ラファエル」

「はい、陛下」

の準備を始めてくれ」

「どの様な状況になったのでしょう」

「ベルトランと20名の騎士が殺された。ベルトランの顔は執拗に潰されていたが この指輪をはめていた。服もベルトランのものだった。ディミトリーが遺体を確認したそうだ」

ハンカチの中には王子に与えられる指輪が包まれていて内側にベルトランと刻まれていた。

「ディミトリーは」

「別行動だった」

火の手が上がっていて別行動を取ったことが分かった。あの町からだと西側からバルロック城へ向かう迂回路がある。道が狭く舗装もされていないが大きく逸れてはいない。報告の内容通りならディミトリーの判断は間違いではない。それなのに21人が全滅?

「ディミトリーはどこですか」

「バルロック辺境伯と一緒にいる」

「準備をいたします」

「レミを連れて行くのか」

「はい、慣例ですから」

「足手纏いにならないか?」

「陛下!私のベルトランは殺されたのに カトリーヌの息子には安全な場所に居ろとでも!?」

「あれだけ戦闘に向かない者を連れ立つと ラファエルやディミトリー達のお荷物になってしまうのだ。贔屓ではない」

「ベルトランが不憫ですわっ!」

「レミを連れて行けばラファエルやディミトリーは、戦えない王子を守る役目も担う。それが戦地でどれだけ負担となるか分からないのか!
息子を失くした事で動揺しているのは分かるが、王妃ならば泣き喚いていないで役目を果たせ!」

「陛下っ ううっ」

「例え目の前で息子の首を刎ねられたとしても毅然と振る舞うのが国を統べる者の務めだ!
…もういい!目障りだから連れて行け!」

泣き崩れる王妃を強制的に下がらせた。

父上の懸念は正しい。私達とレミとはかなり違っていて、戦力どころか足手纏いだ。王子という非戦闘員の保護も重要な任務になってしまうからだ。
それに私も連れて行きたくない。レミには安全な場所にいてもらいたい。
だが、ここで連れて行かないなどと言えない。
王妃の標的にされてしまう。

「父上、私が面倒をみます。能力が無さ過ぎて使い物にはなりませんが負傷者の手当てをさせたり雑用ならできるでしょう」

「…レミを任せてもいいのだな?」

「はい、王太子の名にかけて無事に戻ってみせます」


このことをレミにも伝え、兵の召集を始めた。

5日後、また父上から呼び出された。今度は王妃は同席しておらず、軍部の上層部が集まっていた。

「全員揃ったな。ロッテン卿、報告をしてくれ」

「ディミトリー殿下率いる援軍が到着後、国境でオネスティアと小競り合いが勃発しました。
オネスティア側の国境を守るシトロエヌ辺境伯の西側にある町で虐殺が起きたのですが、それがベルゼアの仕業だと主張しているのです。
話し合いの場を設けるどころか、両国側の国境は戦地と化し、ディミトリー殿下が…利き腕を切り落とされました。今のところ治療中ですが、どうなるかは分かりません」

「シトロエヌ辺境伯夫人はロプレスト侯爵の妹です。
隣接していますし、確実にロプレスト将軍が出てくるでしょう」

「ラファエル、現地に到着次第、ディミトリーを別の領主に預けさせてくれ。
南側のカルネ子爵家に遣いを出しておく」

「動かせるようでしたらディミトリーをカルネに移します」

「ディミトリーの件は王妃に話すな。ベルトランの訃報で既に冷静になれなくなっている。こんな時に此処に混乱を招きたくない」

全員が同意した。

やはり双子は未熟過ぎたのだ。
本人達は自分達が強いと思っている節があったから忠告したし、ベルトランよりは冷静なディミトリーに指揮権を与えたから大丈夫だろうと思ってしまったが、話し合い前から悪化していく状況に追い付けなかった。



副騎士団長のエルバド卿が私と一緒に指揮をとることになった。

会議の後、エルバド卿と打ち合わせをした。

「レミ王子を連れて行くのですよね」

「仕方なくな」

「レミ王子は非武装にして平民の装いにさせましょう」

「…攻撃対象から外すためか」

「はい。レミ王子の美貌では王子だと丸わかりですし、あの華奢さでは殺すのは簡単だと思われて 手柄をたてたい下級兵士にまで狙われます。
平民の服を着せて外套を纏わせてフードを深く被らせれば目立たなくなります。武器を持たずに隠れてもらえれば、先に襲われることはありません。狙われるとしたら一番最後になります」

「潜入に長けた者にレミの支度を手伝わせてくれ。任務に忠実な者にして欲しい。レミは純粋過ぎるから出陣前に動揺させたくない」

「敬意をはらう者を指名しますのでお任せください。
兵士が揃いましたら、“王太子殿下とレミ殿下に失礼があれば不敬罪も不可避である”と再度認識させます」

「ありがとう、よろしく頼む」


明日は夜明け前に集まらなくてはならない。
今夜はしっかり寝ておかないと、終戦までは安眠できないだろう。
夕方、早くに父上と夕食を済ませた。

湯に浸かりながら先程の父上を思い出していた。

“本当にレミを連れて行くのか”

無関心を装い距離を取ってきた父上の仮面が剥がれかけていた。

一目惚れをして、娶ることを押し通して手に入れたカトリーヌ妃に瓜二つと言っていいほど似ている息子レミ。

気持ちは分かる。

レミが女だったらレミも妃にしたかっただろう。妻のカトリーヌ妃の娘という世間体の問題はあるが父上とは血の繋がりがない。過去、母娘どちらも娶りたいと言い出した前例がないから禁じる法律は無い。
幸いレミは男だった。
だが男なのに女にしか見えない。間違いが起きたら大変だ。養子に迎えた男と関係を持った国王などと白い目で見られてしまう。

だから遠ざけることを選んだのだろう。
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