【完結】そろそろ浮気夫に見切りをつけさせていただきます

ユユ

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署名したのは

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カサッ ゴソッ

書類を革封筒の中に入れ閉めたのはユーグ様だ。

「セブレスター子爵が抗議しに来ますよ」

「本人から同意はもらったんだからいいだろう」

「返事をもらうまでは禁欲するはずでは?」

「いつもエレナが誘うんだから仕方ないだろう」

「勘違いじゃないですか?」

「説明したいがエレナの為に止めておく」

「署名が歪でしたが?」

からな」

「……」

「ユーグ様、ごめんなさい」

「行って参ります」


観光から帰り、屋敷でも公爵に攻め立てられ、署名したら解放すると言われて署名した。もうまともに頭は働いていなかった。

翌朝、動けない私を着替えさせ 執務室のソファに運んだ。
公爵は書類に何か書くと、私を見て固まっているユーグ様に渡し“出してくれ”と告げた。

そして先程の会話だ。

ユーグ様が戻った頃には疲弊はしていたが意識ははっきりしていた。


「え?婚姻届!?」

「そうですよ。エレナが署名したのは婚姻届です。そして私が出しに行ったのはその婚姻届です」

「ユーグ様、取り戻してきます」

「手遅れです。通常の定期便ではなく、その手紙だけを届けるように単騎で王都へ向かわせました。
そのまま王城へ届けて受理されることでしょう。
エレナ様が追いかけるなら、もう少し路面が落ち着いた頃に馬車でということになります。その頃には受理証明書がこちらへ届いているでしょう」

王都方面は、いくつか難所があり、雪解け後の泥濘んだ道では特に馬車は危険なのだ。
アルフはグラソン領に来る際 難所を避ける為に大きく迂回をして一度国境さえ超えて再入国していた。

まさか婚姻届だったとは…。

「ということは」

「公爵夫人となります。“エレナ”と呼べなくなりますね」

「はぁ~」

大きな溜息を吐きながら頭を抱えた。

「エレナ?まさか好きではないのですか?」

「そうではありません。ただ、男性と交際するのと公爵夫人になるのとでは まるで違いますので」

「そのままで結構です。社交をして夫の機嫌をとっていただければ。社交も他の高位貴族よりは少ないです。ご安心ください。
それに今更婚姻の撤回をしたら大変ですよ」

「え?」

そんな話をしていると子守がジュリアンを連れてきた。

「ジュリー。どうしましたか?」

後ろ手に隠していた花束を私に差し出した。

「エレナ、お母様になってくれるって聞いたから、感謝のお花を渡そうと思って」

「なんて可愛いの!」

膝を付き ジュリアンをギュッと抱きしめて天使を満喫した。

問題はディミトリ様だなぁと思うと気が重い。



夜は公爵と公子2人とユーグ様との5人で食事をしていると、公爵が2人に報告した。

ク「ディミトリ、ジュリアン。エレナが求婚に応えてくれたので、彼女の気が変わらないうちに婚姻届を先に出した。式は来年の雪解けを待って行う。
ディミトリは学園が始まるから、今のうちに王都で暮らしなさい。マクシミリアンには話を通りである」

マクシミリアンとはクロード・グラソン公爵の従兄ホイットン侯爵だ。

デ「邪魔者の排除ですか」

ク「はぁ。学園が始まる頃はここは封鎖される。だから今のうちにと言ったんだ。買い物をして揃えるものもあるだろうし、学園が始まる前にホイットン家に慣れた方がいい。
その歳になって そんなことも分からないのか」

デ「勝手に婚姻なんかして」

ク「ディミトリの許可は必要無い」

デ「貴女あんたは仕事をしに来たって言ったじゃないか!」

ク「文句なら私に言え。ボスの私がエレナに求婚したんだ。1度ではないぞ。彼女の気持ちを変えさせたのは私だ。彼女は真面目に仕事をしていた。だからエレナに無礼で生意気な口をきくな」

デ「っ!」

ジ「お母様、週末は僕と遊んでください」

私「いいわよ」

ジ「あと、服も選んでください」

私「成長期だものね。一緒に選びましょう」

デ「母上のことを忘れたのか!」

ジ「僕達を捨てて去った人より、一緒にいてくれるエレナの方がいいです。グラソンを分かっていて血の繋がらない僕を可愛がってくれるエレナがお母様になってくれる方がいいです。
そんなに僕達を捨てたあの人が恋しいなら王都に行って会えばいいじゃないですか。いっそのこと一緒に暮らしては?伯爵家のおじいちゃんと結婚したってききましたが泣きつけば屋敷に入れてもらえるかも知れませんよ」

デ「ジュリアン!お前!」

ジ「僕は心配です。僕より幼い振る舞いをする兄様に不安を覚えます。グラソンの主人は弱い心の持ち主では成り立ちません。半年以上も孤立するのです。その主人がそんな風では雪が溶ける前に死人が出ます」

デ「お前に何がわかる!」

ク「ジュリアンの言っていることは正しい。驚くほど良く理解している。
封鎖された環境では導く者が一々感情を剥き出しにしてはならない。常に冷静に決断し 時には罰しなければならない。全てを使用人や兵士達が見ているんだ。“こんな公爵じゃあ”と思わせたら、その不安や不満は他の領地よりもあっという間に感染してしまう。ちゃんと説明しも叱責してもロバートの様な者が現れる。エレナは殺されかけたんだ。
お前みたいに大人になれない者が主人となったらとんでもないことになる。グラソンは血が繋がっていれば必ず継げるものではない。ディミトリやジュリアンが相応しくないと判断すれば外から後継者を迎える」

デ「父上!」

ク「さっきから何なんだ。こんな近くにいて声を荒げる必要があるか?
はっきり言って不快だ。家族でもそう思うのだから他人ならもっとだろう。
学園は社交解禁に向けて教育された貴族の子が集まるんだ。ディミトリ、今のお前では爪弾きに遭うぞ。寄ってくる者は公爵家か金に誘引されたクズだけなんてことになったら益々相手にされないだろうな」

デ「っ!」

ク「成人してはいないが“子供”として扱う年齢でもない。大目に見れるのも最後だと思え」

デ「……はい」



ディミトリは1ヶ月後に王都に移り住んだ。





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