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試用期間
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領地のことを補佐するロバート補佐とカンタン補佐を紹介してもらった。2人ともベテランで助手のような存在が欲しかったようだが 女の私が来たことで困惑というかガッカリしているのが分かる。
翌日には、
「お茶を淹れてくれ」
「手紙を渡してきてくれ」
「片付けてくれ」
「暫く自由にしていていい、散歩にでも行っていい」
はぁ。
まあ、せっかくなので外に出て庭師に声をかけた。
「すみません、この板をいただいてもよろしいでしょうか」
「構わないが、何にお使いに?」
「ドアにかけるプレートを作ろうかなと思いまして。小さなノコギリはありませんか?ドアノブに引っ掛けられるようにカットしたいのです」
「ご婦人が?」
「はい」
細工用ノコギリを借りてカットし終えた。
「本当に使えたんですね」
「下手ですけど」
少し話をして、作った物を部屋に置いて執務室に戻るとグラソン公爵が待っていた。
「何処へ?」
「外です」
「散歩に?」
「板を切っていました」
「板?」
「何かご用でしょうか」
「茶を誘いに来たのだが」
親睦?
仕方なくお茶を淹れようとするも、
「何故エレナが茶を淹れるのだ?」
「さあ。書類仕事という契約でしたが 補佐業務はお茶汲みのようですので試用期間の内は契約外のメイドの仕事もお引き受けすることにしました」
「……少し待っていてくれ」
「かしこまりました」
しばらくして戻って来た公爵とお茶を飲んだ後、補佐室へ行くとロバート様が不機嫌そうだった。
「不満があれば直接言いたまえ」
「はい?」
「お茶汲みさえ嫌なら何をさせればいいのだか」
この方は、私がお茶汲みが嫌で公爵に文句を言ったと思っているのね。
「ロバート様。最近の何かの契約書と公爵家の募集の記事と私の試用契約書を出してください」
「何故だ」
「その理由を説明しますので、今すぐ出してください」
「チッ」
はぁ。
机の上に3種類の書類が並んだ。
「ロバート様、補佐募集の求人には仕事内容は何と書いてありますか?」
「グラソン公爵の補佐業務、書類を扱える者」
「私の試用契約書の業務内容は何と書いてありますか?」
「補佐業務に関わる書類仕事」
「もう一つ、机の上の契約書は何の契約書ですか?」
「小麦の仕入れに関する契約書だ」
「では、先方が小麦ではなく枝を納品してきたらどうなさいますか?」
「枝? そんなもの 許すわけがないだろう」
「私も同じです。公爵家は書類仕事をさせるために私を呼びました。なのにお茶汲みなど書類仕事とは関係のない事をさせるのは契約違反です」
「貴女に何ができるんだ」
「いいですか。私は公爵に文句を言ったわけではありません。貴方がさせたお茶汲みをしたから咎められたのです。でもその扱いは直接の上司であるロバート様のご意向です。ですから事実を申し上げただけです。公爵に何を言われたのか分かりませんが、不満があれば公爵に仰ってください。言えないのなら己の行動を変えるか我慢なさることです。ご自身の判断でお茶汲みをさせたのではありませんか?
何ができるかは試しながら判断するのが試用期間の意図するところです。限られた期間で判断しなくてはならないのに無駄にしているのは貴方です。
そして分からないことがあれば教えるのは貴方や他の補佐達の務めでもあります。
ロバート様も採用されたばかりの時は先輩や上司から指導を受けたのではありませんか?
いいですか。小麦の契約も私との契約も契約は契約。守らなくてはならないことなのです。此処に“契約書”という文字がありますよね」
「だが、」
「公爵家が些細な契約一つ守れないと たった1日でロバート様が証明してみせました。貴方はグラソンの名を名乗ることは許されませんが、グラソンの一員です。グラソンの仕事をしている以上、貴方の判断はグラソン公爵が責任を負うのです。
試用期間が終われば、私はグラソン家の契約不履行を理由にご縁が無かったとお断りをして、次の募集記事からは“お茶汲み雑用中心業務”と明記するよう強く求めますし、新聞社にも苦情を入れます」
「それは貴女が女だから」
「でも、この王国では王立学校があって選択科目以外は男も女も同じ授業を受けています。危険な職業や力のいる職業でもない限り“女だから”は通用しません。貴方の主張を通したいのなら最初から“男性補佐募集”となされば良かったのです。しかも私は応募の書類に性別も、出産経験も記載しています。嫌なら不合格にすべきでした」
「それは公爵様が、」
「振り出しに戻りましたね。そう。公爵の判断で私は遠くからグラソン領に参りました。
つまりロバート様は意見も不満も私にぶつけるのではなく、公爵にぶつけるべきです」
「そんなこと出来るわけないだろう」
「出来ないなら公爵の意向を汲み叶えるのが補佐の役割です。女だから自分より弱いからと矛先にするのは単なる弱い者虐めで恥ずべき行為です。紳士のすべきことではございません」
「なっ!」
「そこまで」
振り向くとグラソン公爵の側近 ユーグ様が立っていた。
「ロバート。公爵家を貶めるようなことは止めてもらいたい」
「ユーグ様っ!」
「エレナ様は私が預かろう。
エレナ様 手荷物を持ってついてきて下さい」
「かしこまりました」
翌日には、
「お茶を淹れてくれ」
「手紙を渡してきてくれ」
「片付けてくれ」
「暫く自由にしていていい、散歩にでも行っていい」
はぁ。
まあ、せっかくなので外に出て庭師に声をかけた。
「すみません、この板をいただいてもよろしいでしょうか」
「構わないが、何にお使いに?」
「ドアにかけるプレートを作ろうかなと思いまして。小さなノコギリはありませんか?ドアノブに引っ掛けられるようにカットしたいのです」
「ご婦人が?」
「はい」
細工用ノコギリを借りてカットし終えた。
「本当に使えたんですね」
「下手ですけど」
少し話をして、作った物を部屋に置いて執務室に戻るとグラソン公爵が待っていた。
「何処へ?」
「外です」
「散歩に?」
「板を切っていました」
「板?」
「何かご用でしょうか」
「茶を誘いに来たのだが」
親睦?
仕方なくお茶を淹れようとするも、
「何故エレナが茶を淹れるのだ?」
「さあ。書類仕事という契約でしたが 補佐業務はお茶汲みのようですので試用期間の内は契約外のメイドの仕事もお引き受けすることにしました」
「……少し待っていてくれ」
「かしこまりました」
しばらくして戻って来た公爵とお茶を飲んだ後、補佐室へ行くとロバート様が不機嫌そうだった。
「不満があれば直接言いたまえ」
「はい?」
「お茶汲みさえ嫌なら何をさせればいいのだか」
この方は、私がお茶汲みが嫌で公爵に文句を言ったと思っているのね。
「ロバート様。最近の何かの契約書と公爵家の募集の記事と私の試用契約書を出してください」
「何故だ」
「その理由を説明しますので、今すぐ出してください」
「チッ」
はぁ。
机の上に3種類の書類が並んだ。
「ロバート様、補佐募集の求人には仕事内容は何と書いてありますか?」
「グラソン公爵の補佐業務、書類を扱える者」
「私の試用契約書の業務内容は何と書いてありますか?」
「補佐業務に関わる書類仕事」
「もう一つ、机の上の契約書は何の契約書ですか?」
「小麦の仕入れに関する契約書だ」
「では、先方が小麦ではなく枝を納品してきたらどうなさいますか?」
「枝? そんなもの 許すわけがないだろう」
「私も同じです。公爵家は書類仕事をさせるために私を呼びました。なのにお茶汲みなど書類仕事とは関係のない事をさせるのは契約違反です」
「貴女に何ができるんだ」
「いいですか。私は公爵に文句を言ったわけではありません。貴方がさせたお茶汲みをしたから咎められたのです。でもその扱いは直接の上司であるロバート様のご意向です。ですから事実を申し上げただけです。公爵に何を言われたのか分かりませんが、不満があれば公爵に仰ってください。言えないのなら己の行動を変えるか我慢なさることです。ご自身の判断でお茶汲みをさせたのではありませんか?
何ができるかは試しながら判断するのが試用期間の意図するところです。限られた期間で判断しなくてはならないのに無駄にしているのは貴方です。
そして分からないことがあれば教えるのは貴方や他の補佐達の務めでもあります。
ロバート様も採用されたばかりの時は先輩や上司から指導を受けたのではありませんか?
いいですか。小麦の契約も私との契約も契約は契約。守らなくてはならないことなのです。此処に“契約書”という文字がありますよね」
「だが、」
「公爵家が些細な契約一つ守れないと たった1日でロバート様が証明してみせました。貴方はグラソンの名を名乗ることは許されませんが、グラソンの一員です。グラソンの仕事をしている以上、貴方の判断はグラソン公爵が責任を負うのです。
試用期間が終われば、私はグラソン家の契約不履行を理由にご縁が無かったとお断りをして、次の募集記事からは“お茶汲み雑用中心業務”と明記するよう強く求めますし、新聞社にも苦情を入れます」
「それは貴女が女だから」
「でも、この王国では王立学校があって選択科目以外は男も女も同じ授業を受けています。危険な職業や力のいる職業でもない限り“女だから”は通用しません。貴方の主張を通したいのなら最初から“男性補佐募集”となされば良かったのです。しかも私は応募の書類に性別も、出産経験も記載しています。嫌なら不合格にすべきでした」
「それは公爵様が、」
「振り出しに戻りましたね。そう。公爵の判断で私は遠くからグラソン領に参りました。
つまりロバート様は意見も不満も私にぶつけるのではなく、公爵にぶつけるべきです」
「そんなこと出来るわけないだろう」
「出来ないなら公爵の意向を汲み叶えるのが補佐の役割です。女だから自分より弱いからと矛先にするのは単なる弱い者虐めで恥ずべき行為です。紳士のすべきことではございません」
「なっ!」
「そこまで」
振り向くとグラソン公爵の側近 ユーグ様が立っていた。
「ロバート。公爵家を貶めるようなことは止めてもらいたい」
「ユーグ様っ!」
「エレナ様は私が預かろう。
エレナ様 手荷物を持ってついてきて下さい」
「かしこまりました」
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