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ワルスベルトの王女 2

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【 シゴレーヌ王女の視点 】


茶会はサロンで行われた。

公爵令嬢二人、侯爵令嬢二人、伯爵令嬢一人

この子、例の伯爵令嬢じゃないの!
暗殺に失敗したのね!!

「シゴレーヌ王女のような素敵な方が我が国の次期王妃だと思うと嬉しくて仕方ありませんわ!」

「私達にはとても務まりませんから」

「務まらない!?」

「王妃の公務は国王より多忙だと言われております。体力をつけられた方がいいですわ」

「これ、滋養強壮の薬草の茶葉ですわ」

「あ、ありがとう」

「美男美女のカップル!素敵だわ!」

「皆様、婚約者はいらっしゃるの?」

「私達二人は婚約したばかりです。こちらのお二人は今年に婚姻予定ですわ」

「伯爵令嬢は……」

「まだ10歳なのでおりませんが、いいなと思う殿方がおります」

「誰ですの!」

セイン様?それとも公爵令息?

「ここにいるんです!」

令嬢達がキャアキャア騒ぐ中、再度問いかけた。だってここといったらセイン様よね。

「教えて欲しいわ!」

伯爵令嬢はスッと席を立ち、少し離れた所にいた騎士を引っ張って連れてきた。

「エミール卿です!ウフッ」

「キャーッ!!」

令嬢達は頬を染めて盛り上がっているけど、その騎士は随分と歳上では!?

「本当に?」

「はい。エミール卿は私の好みの殿方です。誰かに取られないように今から婚約したいと思うくらいです!」

「ティーティア様!自分は平民で27歳です!17も違うのですよ!」

「何の問題もございませんわ!浮気だけは許せませんけど」

「ティーティアちゃん、彼の何処がいいの?」

「だって、この目で見つめられると溶けそうになりますの。それにこの手を見てください。触れて欲しくなる手ですわ。声も素敵。力が抜けそう。それに……」

伯爵令嬢が騎士から少し離れると走ってジャンプして飛び付いた。

騎士は受け止めて抱き上げた。

「ほらね!びくともしないでしょう!
惚れ惚れしますわ!!」

「ティーティア様!(殿下に殺される!)」

伯爵令嬢は嬉しそうに騎士の首に手を回し頬に口付けた。

チュッ

「キャーッ!ティーティアちゃん積極的!」

「あ~いいわ!若返るわ!」

「確かにいい男ね」

「ダメです!エミール卿はダメです!」

「まあ!可愛いわ!」

「そうだ、ティーティアちゃん、エミール卿とお散歩してらっしゃい」

「でも……」

「いいのよ、私のことは。せっかくの機会なのだからそのまま連れて行ってもらいなさい」

「優しいシゴレーヌ王女殿下、ありがとうございます!絶対王妃様になってくださいね!お待ちしています!」

そういって騎士に抱っこされて消えていった。

「可愛いですわね」

「ティーティアちゃん、結ばれるのかしら」

密偵のバカ!どんな調査してるのよ!
王子は吹き出物だらけで腹は出ていて臭いし、おっぱい飲んでるし。

暗殺しようとした伯爵令嬢は付き纏うどころか好みのタイプが全然違うじゃないの!!
あの嬉しそうな顔は演技じゃないわ!


「ちょっとお花を摘みに」

「どうぞいってらっしゃいませ」

気持ちを落ち着けるために席を立った。 
お花摘みをして席に戻ろうと近寄ると話し声が聞こえてきて私とベラは足を止めた。

「いい、王女殿下を逃したらダメよ!
破談なんてことになったら私達の誰かが王命で嫁ぐことになるわ!」

「素敵な王女様には申し訳ないけど、犠牲になってもらうしかないわ」

「財政は火の車だって噂よ、予算が少ないから多額の持参金が必要だし、何よりあの臭い。耐えられないわ」

「誕生日パーティーで殿下と踊ったドレスは帰ってすぐに捨てたわ」

「昔、目をつけられた令嬢はすぐ他国の令息と婚約して移住しちゃったものね」

「聞いたわ。まだ王妃様の特製ミルクを朝晩飲んでるらしいの。直飲みよ!」

「うわっ、まだ卒業しないの!?」

「陛下は何も仰らないのかしら」

「陛下は別のおっぱいに吸い付いているらしいわ」

「セイン殿下にも豊満な閨係が二人いるじゃない」

「セイン殿下は性欲が強いから閨係が二人いても問題なく妻を毎晩抱けるみたいよ」

「内緒よ。何でもすごい太くてすごい短いんですって」

「プッ、何それ」

「興奮なさった時の長さが指の関節二つ分くらいで、太さが手首くらいあるらしいの」

「誰の手首かによるじゃない」

「殿下の手首よ」

「それじゃあ入口が裂けるだけ裂けて快い所に当たらないじゃない。
快楽は得られないのね?」

「声が大きい!」

「ごめんなさい」

「生娘にはさらに拷問になるわね」

「しかもかなり遅いらしいの。一度じゃすまないらしいし。だから朝までかかることも珍しくないんですって。

しかも舐め回すのが大好きで、鼻の穴まで舐めるらしいわ。全身丁寧に舐め尽くすから時間が掛かるみたいね」

「え~、あの臭唾液にまみれながら朝を迎えるわけ!?究極の拷問じゃない」

「指もふやけるらしいわよ。
殿下がずっとしゃぶるらしいの。

最悪なのが、事後に湯浴みをすると怒るらしいのよ」

「いや~!全身臭くなる!」

「しーっ!」

「殿下の精通後に初めてつけられた閨係が湯浴みをしようとしたら激怒されて散々殴られて解雇されたって聞いたわ」

「詳しいわね」

「従兄弟が殿下の部屋付きの護衛なの」

「私はこの間、漏らしたって聞いたわ」

「粗相したの?」

「時々おねしょするらしいの」

「うわ~!結婚したら毎晩同じベッドなのにシゴレーヌ様にもかかっちゃうじゃない」

「いくらかけようと、婚姻後なら手遅れだから」

「あ~。確かに」

「ティーティアちゃんと噂になったことがあるけど違うのね」

「違うに決まってるじゃない。あのおっぱい大好き殿下が選ぶわけがないわ。
閨係も王妃様も豊満なのよ」

「シゴレーヌ様も結構あるわね」

「いずれ、朝晩の授乳は世代交代するのね?」

「さあ、別腹とか言って両方飲むかもよ」

「寝る前に飲むからおねしょするのよ」

「飲ませないと機嫌悪いんですって」

「ところで何であんなに臭いのかしら」

「風呂嫌いなのよ」

「え~」

「しーっ!」

「ごめんなさい」

「一週間とか入らないらしいわ」

「その不潔な体で閨!?」

「そうなのよ」

「じゃあ、あの口臭も」

「たぶんそうだと思うわ。だって尋常じゃないもの」

「とにかく、心優しい王女殿下が、縁談を申し入れてくれたことに感謝しないと」

「そうね。私、この後教会に寄って、シゴレーヌ王女殿下の健康と、輿入れについて祈ってから帰るわ」

「私も行くわ」

「私も」

「私も」


話が切れたところで席に戻った。




そして恐ろしい夜が待っていた。

ガチャガチャ

ガチャガチャ

「王女様、起きてください」

「ベラ、どうしたの」

「扉の外にセイン王子殿下が、」

「ひっ!」

ガチャガチャ

ガチャガチャ

「私のシゴレーヌ。開けてくれ」

ガチャガチャ

「どうなさいますか」

「追い払って」

ガチャガチャ

「王女様はおやすみです、お引き取りください」

「休んでいても構わないよ。開けてくれ」

ガチャガチャ

ガチャガチャ

「私の妻の応答がない。
安全を確認しよう。誰か鍵を持ってこい」

「ひっ!」

結婚してないのに妻とか言うな!!

私は慌てて扉を開けて廊下に出た。

「私室にお戻りください」

「シゴレーヌ、其方も私が好きだから縁談を申し込んだのだろう?愛を確かめ合おう」

「そ、その袋は何ですか」

「閨の必需品だよ。生娘にはちょっと辛いからね」

騒ぎを聞きつけて団長が間に入った。

「セイン殿下、今回は我慢なさってください」

「何故だ」

「殿下が16歳になったら一応婚姻は可能ですから、すぐに式をあげましょう」

「もう1カ月と少しだろう」

「それでも、婚姻後と前とじゃ違います」

「1カ月と少しなら、孕んでも誤魔化しがきく」

なにいってるの!

「貴族の娘ならかまいませんが王女様はいけません」

「仕方ない」

「殿下~、こちらにいらしたのね~」

豊満な女二人がやってきてレオン様の腕に絡みついた。

「まだ王女様に手をつけてはなりませんわ。
参りましょう」

あれが閨係だろう。助かった。

「お騒がせいたしました。では1カ月後に」

騎士団長はとんでもない捨て台詞を吐いて去っていった。

鍵を閉め、ベラにしがみついた。

「破談よ!破談にするわ!耐えられない!」

「ですが何も無しに解消は…」

「他のところなら何処へでも嫁ぐからと言ってお父様にお願いするわ。コレ以上酷いところはないもの!

ううっ、戻しそう」

トイレに駆け込んで未消化の夕食を全部戻してしまった。

「ベラ、護衛騎士達に声をかけて。具合が優れないからすぐ帰国するわ」

「かしこまりました」


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