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二度目
16 侯爵の交代
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【 ウィリアム・マルブールの視点 】
ドタバタと足音を立てて娘サリーが封筒を手に私の元へやってきた。
メイドだったハンナとの間に生まれた子だ。
妊娠が分かって直ぐに辞めさせて、王都の外れに小さな屋敷を借りて暮らし始めた。
私に似た娘が生まれ、次は私に似た息子が生まれた。
マルブール侯爵家の婿養子として妻ミカエラと結婚した。他人の屋敷に1人で移り住むことがこんなに疎外感があるとは思わなかった。
息子も娘も妻や先代の侯爵に似ていて、ますます他人の中に紛れているような寂しさがあった。
それをハンナが補ってくれたのだ。
「ウィリアム様、どなたからですか?」
「王宮からの呼び出しだ」
「呼び出しですか」
「日時しか書いていない。多分マリレナと殿下の結婚の件だろう」
「そうですか。
ウィリアム様、再来年からサリーをどこに通わせるのか決めないと」
「分かってる」
エルネストやマリレナが通った王立学園は、入学試験に合格して金を払えば平民でも通える。
ただし、有罪歴のある者と 認知されていない私生児は通えない。本妻の産んだ子が通う学園に通わせたら問題が起こる可能性が高いからだ。
私は婿養子だからハンナを第二夫人か妾にするにも、サリー達をマルブール侯爵籍に入れるにも、妻ミカエラの許しが必要だ。
だがミカエラは一切話し合いに応じない。
今のハンナは貴族の愛人をしている平民で、サリー達も平民だ。
少し前、実家の兄上にサリー達を養子にして欲しいと頼んだが断られてしまった。
王立学園を諦めて 違う学校か留学を選ぶしかなさそうだ。
だが万が一、ミカエラが死んだら…。そう願ってしまう。
もうエルネストは領地で仕事をしているらしいし、マリレナも卒業して結婚を待つばかり。
以前、今のような時期を迎えたらチャンスはあると想像したこともある。
だが、マリレナの結婚を待つとサリーは入学時期がずれてしまう。
そうだ。花嫁修行として早めに王宮で暮らし始めてはどうか。マリレナは既に王妃の仕事を手伝うほど優秀らしいから受け入れられるだろう。
呼び出されたついでに進言しようと思っていた。
謁見当日、妻ミカエラと息子のエルネストと娘のマリレナがいた。ミカエラとマリレナは呼ばれている可能性があるとは思っていたがエルネストまでいるとは思わなかった。
陛下と一緒に何人か入室し、挨拶を終えると陛下はまさかの言葉を発した。
「申立人 ミカエラ・マルブール侯爵夫人、そなたが提出した証拠書類を精査したが申立て通りだった。
そして改めてウィリアム・マルブール侯爵の動向を調べた結果、既に放棄していると判断した。本日をもってウィリアム・マルブールから侯爵位を剥奪し、実質の侯爵の役割を担ってきた嫡男エルネストをマルブール侯爵と認める」
「なっ!!」
「ありがとうございます。このまま夫の長期不在による強制離縁の手続きも取らせていただきます」
「ミカエラ!!そんなことが許されると思っているのか!!」
「ウィリアムさんは15年近く住まいを移して夫の役割も父親の役割も放棄したではありませんか。年に2、3度の数時間の滞在は寄り道に過ぎませんわ。
それに侯爵としての役割も放棄していたではありませんか」
「へ、陛下っ」
「甘く見られたものだ。何もせず愛人と金を使って生きるだけが侯爵の役割だと?」
「妻が認めてくれないので仕方なく…」
「マルブール侯爵家に必要なのは夫人の血なのだから、夫人が認めなければ愛人を娶れないのは承知していただろう。
せめて仕事だけでもしていたら違ったのだがな。
愛人と暮らす屋敷も夫人の許可を得ていないし、毎年別邸で貴族の暮らしを楽しんだのだ。十分だろう。
夫人は愛人との暮らしに費やした費用の返金も慰謝料も請求することができるのだぞ?なあ、夫人」
「仰る通りでございます。
しかしながら返金も慰謝料も必要ございません。悪しき縁が切れるだけで我がマルブール家は満足でございます」
ミカエラは私の方を一度も見ることなく話を進めて行く。
あのミカエラがどうして急に…
ドタバタと足音を立てて娘サリーが封筒を手に私の元へやってきた。
メイドだったハンナとの間に生まれた子だ。
妊娠が分かって直ぐに辞めさせて、王都の外れに小さな屋敷を借りて暮らし始めた。
私に似た娘が生まれ、次は私に似た息子が生まれた。
マルブール侯爵家の婿養子として妻ミカエラと結婚した。他人の屋敷に1人で移り住むことがこんなに疎外感があるとは思わなかった。
息子も娘も妻や先代の侯爵に似ていて、ますます他人の中に紛れているような寂しさがあった。
それをハンナが補ってくれたのだ。
「ウィリアム様、どなたからですか?」
「王宮からの呼び出しだ」
「呼び出しですか」
「日時しか書いていない。多分マリレナと殿下の結婚の件だろう」
「そうですか。
ウィリアム様、再来年からサリーをどこに通わせるのか決めないと」
「分かってる」
エルネストやマリレナが通った王立学園は、入学試験に合格して金を払えば平民でも通える。
ただし、有罪歴のある者と 認知されていない私生児は通えない。本妻の産んだ子が通う学園に通わせたら問題が起こる可能性が高いからだ。
私は婿養子だからハンナを第二夫人か妾にするにも、サリー達をマルブール侯爵籍に入れるにも、妻ミカエラの許しが必要だ。
だがミカエラは一切話し合いに応じない。
今のハンナは貴族の愛人をしている平民で、サリー達も平民だ。
少し前、実家の兄上にサリー達を養子にして欲しいと頼んだが断られてしまった。
王立学園を諦めて 違う学校か留学を選ぶしかなさそうだ。
だが万が一、ミカエラが死んだら…。そう願ってしまう。
もうエルネストは領地で仕事をしているらしいし、マリレナも卒業して結婚を待つばかり。
以前、今のような時期を迎えたらチャンスはあると想像したこともある。
だが、マリレナの結婚を待つとサリーは入学時期がずれてしまう。
そうだ。花嫁修行として早めに王宮で暮らし始めてはどうか。マリレナは既に王妃の仕事を手伝うほど優秀らしいから受け入れられるだろう。
呼び出されたついでに進言しようと思っていた。
謁見当日、妻ミカエラと息子のエルネストと娘のマリレナがいた。ミカエラとマリレナは呼ばれている可能性があるとは思っていたがエルネストまでいるとは思わなかった。
陛下と一緒に何人か入室し、挨拶を終えると陛下はまさかの言葉を発した。
「申立人 ミカエラ・マルブール侯爵夫人、そなたが提出した証拠書類を精査したが申立て通りだった。
そして改めてウィリアム・マルブール侯爵の動向を調べた結果、既に放棄していると判断した。本日をもってウィリアム・マルブールから侯爵位を剥奪し、実質の侯爵の役割を担ってきた嫡男エルネストをマルブール侯爵と認める」
「なっ!!」
「ありがとうございます。このまま夫の長期不在による強制離縁の手続きも取らせていただきます」
「ミカエラ!!そんなことが許されると思っているのか!!」
「ウィリアムさんは15年近く住まいを移して夫の役割も父親の役割も放棄したではありませんか。年に2、3度の数時間の滞在は寄り道に過ぎませんわ。
それに侯爵としての役割も放棄していたではありませんか」
「へ、陛下っ」
「甘く見られたものだ。何もせず愛人と金を使って生きるだけが侯爵の役割だと?」
「妻が認めてくれないので仕方なく…」
「マルブール侯爵家に必要なのは夫人の血なのだから、夫人が認めなければ愛人を娶れないのは承知していただろう。
せめて仕事だけでもしていたら違ったのだがな。
愛人と暮らす屋敷も夫人の許可を得ていないし、毎年別邸で貴族の暮らしを楽しんだのだ。十分だろう。
夫人は愛人との暮らしに費やした費用の返金も慰謝料も請求することができるのだぞ?なあ、夫人」
「仰る通りでございます。
しかしながら返金も慰謝料も必要ございません。悪しき縁が切れるだけで我がマルブール家は満足でございます」
ミカエラは私の方を一度も見ることなく話を進めて行く。
あのミカエラがどうして急に…
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