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王命に近い婚約(クリス)

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【 クリス・リヨードの視点 】

私達の泣き落としから逃れられない目の前の女は私の初恋の人だ。

小さい頃、私達双子は体調を崩しやすく風邪などもらわないよう隔離されていた。
丈夫になってきて、隣の領地で屋敷も近いウィンストン家の子供と初対面を迎えた。

一目惚れだった。
笑顔が可愛くて見つめられるとドキドキして動けなくなって言葉も出ない。テレサがいてくれなかったらずっとそのままだったかもしれない。

虫が大嫌いで兄で養子のサリオン殿が常に側にいて虫を排除していた。
本能的に分かる。彼はライバルだ。
親しさで言えば雲泥の差だ。だが唯一の救いは彼女がサリオン殿を兄として見ていることだ。

隣接した領地で屋敷も近い。うちは名門リヨード侯爵家、向こうは薬や薬草業界No. 1のウィンストン伯爵家。最高の縁談だと思う。反対されるはずがない。そう思っていた。

「僕の婚約の件ですが、そろそろ決めたいと思います」

「言ってなかったか? クリスは公爵家のご令嬢と既に婚約しているんだ」

「は?」

「そろそろ顔合わせをしようとは思っていたが」

「……」

「クリス?」


その後、父上に彼女への気持ちを白状させられた。

「確かに愛らしいお嬢さんだった。ぜひリヨードに来てもらいたいとは思う。
だけどもう婚約をしてしまっているから諦めるしかない。
令嬢との婚約は王命に近い。
王妃の又姪にあたるから断ることができないんだ」

名門リヨード侯爵家も王家には従わなくてはならないと知った。


だけど会うたびに思いは募る。

「エステル」

「なーに? クリス」

これだけで私の心は満ち溢れる。


だけどいつの間にかエステルは結婚相手を見つけてしまった。

「クリス。エステルが承諾して エステルのご両親も承諾したんだ。相手の調査を入れる権利は私達には無い。それどころか嫌われるぞ」

「……」

「幼馴染として支えてはやれてもどうにもならないんだ。恋愛感情は葬れ」

「そんな単純じゃない。人の気持ちは…消えない」

「貴族が仮面を付けるのは感情を悟られないためだ。
葬るのが無理ならば仮面を付けろ。エステルの夫に握手を求められても笑顔でできるようになれ」


だから笑顔で婚姻式に参列した。
私が夫ならこんな質素な式など挙げない。
ドレスだって もっとエステルに相応しい素敵なものを作ってやれた。婚約指輪も結婚指輪も……。

帰りの馬車でテレサがくっついてきた。

「クリス。完璧よ。エステルも気付いていないわ」

「知っていたのか」

「双子を舐めてもらっては困るわ」

「そうだな」

「私もエステルにはクリスと結ばれて欲しかったわ。
絶対にクリスの方が幸せにできるもの。だって私もいるんだから。そうでしょう?」

「……その通りだ」

「クリスが婚約済みだからサリオン兄様と結ばれると思っていたけど、想定外で悔しいわ。
ネグルワなんて遠いじゃない」

「頻繁に会えないな」

「それに あの我儘女なんて大嫌いよ。王子妃選考から漏れたくせに。リヨードに押し付けて」

「結局は王家には逆らえないということだ」

「王妃の又姪で公女っていう武器があるのに9歳で失格になる方が難しいわよ。しかも私達より3つも歳上なのよ?」

「馬鹿みたいに大きな宝石を指輪に付けろと騒いでいたよ」

「リヨードの財産を食い潰されるわ」

「それは阻止したいな」





その後、留学から帰国したサリオン殿は大騒ぎし荒れていた。




最悪の妻。この女に相応しい称号だ。
王子は見る目があったのだな。

ル「小さな屋敷よね。しかも田舎だなんて。
ティファーナ様も嫌でしょう?」

私はルイーザと婚姻した。サリオン殿も婚姻しティファーナ夫人を連れてリヨード領の屋敷に挨拶に来ていた。

その席でルイーザはティファーナ夫人に外者同士と言わんばかりに話しかけていた。

ティ「私は光栄です」

ル「まあ、そう言うしかないものね。
はぁ。早く王都で暮らしたいわ。

そうだわ。今度ウィンストン家で夜会を開いてくださらない?」

サ「そういう類のことは滅多にすることはないでしょう」

ル「まあ、費用が掛かりますものね」

私「ルイーザ!何を言うんだ!」

ル「だって、ティファーナ様の指輪を見て。石があんなに小さいわ」

私「ルイーザ!失礼だぞ!」

ル「クリス様。私に怒鳴るなんて正気かしら」

サ「夫人。私も貴女のことは良く知っていますよ。
9歳の時に他の王子妃候補の髪を切ったとか」

ル「ど、どうしてそれを!」

サ「お相手のご令嬢は恐怖を植え付けられて何年も社交に出て来れなくなったそうですね。
それはもはや犯罪ですよ」

ル「は、犯罪だなんて」

サ「では、私がそのどうでもいい髪を切り落としても笑顔でいられるか?」

ル「なっ!」

サ「王都で暮らしていた割には疎いようだな。
馬鹿みたいな大きな石のついた指輪をはめるのは、成金の新興貴族くらいだと揶揄される行為だ」

ル「公爵家を馬鹿にするつもり!?」

サ「先にウィンストン家とリヨード家を侮辱したのはあんただろう?

使ったコネは上辺の親戚か?
王妃殿下はあんたのような下品な指輪をはめていたか?交流があればどうだったか答えられるはずだ。
パーティや婚姻の儀で参列した夫人達はどうだ?

優越感に浸りたいときは常識を学び、己を知り、何かを成してからにした方がいい。
あんたに実家以外で勝負になる何かがあるか?

容姿とか言うなよ。身内が褒めるのは身内贔屓だし、周囲が褒めるのは公女だからだ。本当にそう思って言っているわけじゃない」

ガシャン!!

ル「クリス様!こんなことを言わせておくつもり!」

サ「おい。自分の発言に責任を取れよ。クリスを巻き込むな。
そんなに此処が嫌ならクリスをにしないで他の家門に嫁げば良かっただろう。
リヨード家は好きであんたを迎えたわけじゃない。
王命に等しかったから受け入れたんだ。

リヨードはを払った。それでも不満なら離縁を切り出せばいいだろう?
そもそもリヨードが自然豊かな土地でクリスは跡継ぎだと分かっていたはずだ。それを承知でくせに婚家を貶める発言をするのか?
そんなクソみたいなことをしていないで腹を決めろ。婚家の一員となって 唯一の武器である公爵家の力で役に立ってみろよ。

無理なら引きこもって邪魔をするな。それか実家に戻って出てくるな。
クリスなら別の女がすぐに見つかるから安心して消えろ」

ル「なんて失礼なの!?
実家に帰らせてもらうわ!」

サリオン殿は手を振った。




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