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母の現状(フィリップ)
しおりを挟む【 フィリップの視点 】
家令のベンが部屋に来た。
「奥様との離縁は本当ですか」
「本当だ」
「どなたかとの縁談がおありですか?」
「キャサリンだ」
「男爵家は支援してくださると?」
「結婚すれば娘可愛さに支援するだろう」
「……旦那様。私は今月いっぱいで退職いたします」
「は?」
「ネグルワ家に私を雇い続ける余裕はございません」
「何を言うんだ」
「こちらの屋敷で働く使用人全員分の紹介状を奥様からいただきました」
「は?」
「もしものためにと。
奥様は先代から代理権をお持ちですので紹介状は正式なものです」
「…誰かに引き継いでくれ」
「最後に。早く領地で確認をなさいませ。
説明できる者が残っているうちに。
それと大奥様のお世話をご自身でなさらない場合は介護メイドを2名以上雇ってください。
今は緊急ということで一般メイドが見張っておりますが、大変興奮なさっておられます」
任せると言ったのにベンは拒否した。“これは法律で決まっていることです”と。
母上の部屋に行くと大変なことになっていた。
物が散乱し母上が暴れていた。
「フィリップ!何処にいたの!お父様はまだ帰って来ないの!?」
「は?」
「貴方のお父様よ!
ケヴィンは?そろそろ授乳の時間だわ。連れて来て」
「授乳?」
「そうよ。私のお乳を吸わないと機嫌が悪いのよ」
「母上、しっかりしてください!」
ピチャッ ピチャピチャピチャ……
「まだ食事を食べていないの。支度をしてちょうだい」
「母上…それ」
「エステル!!あの悪女はどこ!!
私のフィリップを奪っておいて図々しい!!」
「母上…」
母上は目の前で失禁したのに気が付いていない。
それにテーブルに食事を食べ終えた後の食器が乗っている。あのナプキンの置き方は独特で、母上が使った後だ。
「片付けて着替えさせてやってくれ」
「旦那様。介護メイドでないと」
「は?」
「認知症のようですね。大奥様の面倒は一般メイドに任せてはいけない法律です」
「じゃあ誰がやるんだ」
「先程も申し上げましたが、実子である旦那様の役目でございます」
「冗談だろう!?」
「先王の時代に法改正を行ったので間違いございません。道具はお持ちします。
綺麗になさった後は、モップと服を洗濯なさってください」
「そこまでやらなきゃいけないのか!」
「まだお小水のうちは体を拭いて清潔な服に着替えさせて、掃除洗濯も簡単ですが、症状が進んで便を漏らしたとなれば大変です。
気持ち悪くて手で触って、その汚れた手で部屋中を触って便まみれにする場合もあります。
食事も食べたことを忘れますし、被害妄想も始まることもあるようです。お金や宝石を盗まれたと思い込んだり、中には虐待されたと思い込む患者様もいるようです。
そして徘徊は深夜も関係ありません」
「介護メイドを雇う」
「2名ですか?」
「そうだ。すぐに連れて来てくれ」
「ではお金を」
「え?」
「介護メイドはメイド斡旋所に現金で3ヶ月分を預ける必要があります。未払いを防ぐためのものです。ちゃんと毎月給金を支払っていれば契約終了時に預けたお金は戻ります」
「…出しておいてくれ」
「この屋敷の運営費はエステル様の私財から出ておりました。
離縁ということで今月いっぱいの必要最低限の分を何とか置いていってくださいましたが、介護メイドの分はございません。
何か売れるものはありませんか」
「売る?」
「そうです。明日業者を呼んで屋敷の中を見てもらって売れるものは売りましょう。
この時間では店もメイド斡旋所も空いていません」
「……」
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