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堕ちる女 D

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お母様とメイド長が聞き取りを始めた。

「何をしたの!」

「特に何も」

「その肌も?」

「美容液が無くなって、太陽の雫も無くなってしまいました」

「年齢不相応な肌を薬で維持していたのね。反動かしら」

「ですが、毛髪が抜け落ちてシワやシミまで…」

「他には無いの?減ったものや代用品は」

「頭髪のオイルが無くなって、安い物を」

「これはメイド達も使っている者がおりますが、この状態になった者はおりません」

「他にはないの?代用品とか」

「あ、…月の欠片の代用品を、」

「どれなの」

「メイドが出すので私には」

「じゃあ薬品棚にあるのね」

「取りに行って参ります」


メイド長が戻ると、小瓶をお母様に渡した。

「“ルナの涙”?」

家令ジャン様に教えていただきました。
こちらは月の欠片の類似品ではありますが、平民の間で流通している薬で副作用が多く出る事で有名な薬だそうです」

「何故そんな物を!」

「それでも、目的が達成できるならと我慢をして飲む女性もいるでしょう」

「ドロテ、月の欠片を飲んで17年になるのよ?
効果が無いと言ったじゃないの!」

「……」

「奥様、パーティーを控えておりますのでこれ以上お泣きになっては…」

「それで、類似品の説明書は?」

メイド長がお母様に渡した。

「便秘、食欲減退、悪心、倦怠感、眩暈、皮膚の乾燥や弛み、シワやシミの発現、浮腫…稀に脱毛」

「!!」

「ドロテ、当てはまるのね?」

「ううっ…はい」

「何でこんな物を!これを読めば飲まないことを選ぶのが普通でしょう!」

「読んでから飲むか決めて下さいと渡されたけど、読まずにメイドに返しました」

「なんてことなの」

「ごめんなさい」

「もう諦めなさい。薬を飲むことは禁止します」


しばらくしてメイドが帰って来た。
ドレスを着て化粧をして待っていた。

「メイド長、これしかありませんでした。
貴族向けのピン留めではないカツラはオーダーメイドで、既製品は無いと言われました」

「平民向けのカツラしか。それも短めの物しかなく」

袋から取り出したカツラは茶色の肩までのカツラだった。

「どうして無いの」

「平民に貴族のような長い髪の毛の方はあまりおりません。それに、ピン留めタイプではないカツラは、病人か年配の男性にしか需要がありません。
ですので、男性向けの短いカツラか、ベッドで伏せっている女性向けのカツラだけです。カツラが長ければ看病の邪魔になりますし、寝返りなどで脱げてしまいます。

それに長いと前と後ろの重量に差がつき ずり落ちてしまいます」

「なるほどね。仕方ないわ」

装着し、額から耳の後ろを通り首の後ろで細紐を結び 少しでも落ちるのを防ぐものだった。
だけど脱げやすい。気を付けねばならないカツラだった。

「お母様、髪は生えて来ますか」

「終わったら医者を呼ぶわ」




馬車に乗り込むと、お父様も弟も義妹も私を見て唖然としていた。だけど何も質問してこない。
お母様がある程度伝えていたのだろう。だけど予想を超える状態の私が乗り、驚きを隠せなかったようだ。


王城へ着き、大広間に入場すると、皆が私を見てヒソヒソと話をしたり驚いた顔をしていた。

帰りたい。何で私まで呼んだのよ!


順番にマティアス殿下に祝辞を伝え、セクレス家の番になると殿下が微笑んだ。

「おめでとうございます」

「セクレス伯爵、夫人。 急な招待に応じてもらえて嬉しいです。今日は見せたいものがあったんですよ。後で披露します。ご子息方も出席してもらえて嬉しいです」

「光栄に存じます」

「ゆっくり楽しんでください」

殿下は合図を送り次の家門に交代させた。

お父様達と私が招待された理由がまるで分からない。他の家門は当主夫妻は出席していない。


少し経つと、マティアス殿下の声が高くなった。

「バロー卿、よく来た。 シャル、近くに来て」

「ですが、」

「ほら、早く」

え? シャルロットとマティアス殿下は親しいの!?

「今日も可愛いな。また美しくなった」

「気のせいですわ」

「また遊ぼう」

「そんな歳では」

「僕達は永遠だと約束しただろう」

「そ、そうですが」

「後で踊ろう」

「はい、殿下」

しかも愛称で呼んでいた。
殿下の友人?それとも…。だとしたらまずい。

殿下の元を離れ、エスコートされるシャルロットはとても輝いていた。逞しく端正な顔の夫に優しくエスコートされ幸せそうに見えた。
同性愛者同士の王命婚姻のはずなのにどうして!

夫の方は常にシャルロットを守る様に気遣い、シャルロットは頬を染めて微笑む。気のせいか色気も増した気がした。


私がこんな目に遭っているのに…
バロー……まさか、振られた仕返しに商品を売らないよう圧力をかけさせたのね!

怒りで自分を制御することができなかった。

「シャルロット!!」

「えっ!? まさかセクレス伯爵令嬢!?」

「しらばっくれるんじゃないわよ!振られた腹いせにこんな目に遭わせて!!」

「こんな目って…」

「美容品を買えなくして、月の欠片の販売も態と止めたんでしょう!!」

「月の欠片?」

「ドロテ!止めなさい」

「お母様、諸悪の根源はこの女です!」

シャルロットを殴ろうとしたけど強い力で腕を掴まれ捻られた。

「痛い!放しなさいよ!!」

「俺の妻に言いがかりをつけて怒鳴った挙句、殴ろうとした者を見逃すとでも?」

「ドロテ!」

お父様も駆け付けた。

「バロー卿、娘を放していただきたい」

「ですがセクレス伯爵令嬢が妻を殴ろうとしたので仕方ありません」

「放しなさいよ!!」

「…分かった」

シャルロットの夫が突然放したのでバランスを崩して転倒した。

「キャア!」

「なんてことだ!」

「酷い!」

周囲から騒いでる。シャルロットの夫が暴力を振るったからみんなが味方をしてくれているのね。

「ドロテ…」

「ドロテ!」

お父様、お母様、大丈夫よ

「だから新興貴族は嫌なのよ!令嬢に暴力を振るうなんて!信じられないわ!」

「おい。まだ立場が分かっていないようだな。
先に言っておくが、お前が放せと言ったから放したんだ。何故俺が責められなくちゃならない」

「私にお前ですって!?元平民のくせに!」

「ドロテ!」

「お父様は黙っていてください!」

「そんなにバロー家が嫌なら、うちが関わる商品を使わないんだな?」

輸入すればいいのよ!

「もちろん使わないわ!穢らわしい!」

「「ドロテ!!」」

「お父様達は黙っていて!!」

「なあ。まずカツラを被ったらどうだ?」

「え?」

「見苦しくて話を進められない」

お母様がカツラを手にしていた。

え?

頭を触ると髪が無かった。倒れた拍子にカツラが脱げてしまったのだ。

「いやっ!!」

カツラを被せてもらい立ち上がった。

「このままじゃ済まないわよ!」

恥ずかしくて悔しくて、怒りて沸騰していた。

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