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偽りの愛 E
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【 エリアスの視点 】
体を拭き、髪を少し乾かしたところでメイドが“後はお任せください”とタオルを取り上げて、別のタオルを渡された。
自分の髪を乾かし、服を着てソファに座る。
なるほど。こんな風に時間がかかるのか。
髪が長いだけで恐ろしいほど時間がかかる。
その間に身体にクリームを塗ったり、爪を整えたりしていた。
よし。
「いいか、シャルロット。こっちの化粧水はうちの商品だ。香りが少し独特なやつの方が効果があると言われている。化粧水の中で売り上げが低いのが理解できない」
「あの、バロー卿?」
「何かな」
「何をご説明なさっておいでですか?」
「うちの商品について知っておいてもらおうとしているんだ」
メイド達は笑顔の奥で溜息を吐いているように見えた。
「初夜の翌朝の会話ではございません」
「時間がかかって暇そうだろう」
「何も考えない時間というものも必要です。特に初夜の翌朝は」
「そ、そうか。他の組は無事に終了したのだろうか」
「はい。こちらのお部屋が一番仲がよろしいようです」
つまり他の組は1回で終えているという意味だな。
そしてドレスを着せようとするも、まだ立てないでいた。
手伝って着せて、時間になると抱き上げて馬車に乗せて子爵邸に向かった。
「恥ずかしいです」
「気にするな」
シャルロットが支度をしている間に、手紙を受け取った。陛下からで要約すると“シャルロットは初めてなのだから無理をするな”と書いてあった。
手遅れですよ陛下。
屋敷に到着し、また抱き上げて夫婦の間に運びドレスを脱がせて寝かせた。
「歩けるようになるまでゆっくり休め」
「はい」
その後は父と母に報告をした。
「まあ!良かったわ」
「ダミアンには別れを告げなさい。
シャルロットと夫婦の時間を続けるのならダミアンとは関係を持てない。
シャルロット以上にダミアンに気持ちがあるなら、精神的な愛人というのも有りかもしれないが、そうではないならトラブルになるだけだ」
「はい」
「慰謝料を払うことを許そう」
「シャルロットが落ち着いたら、ダミアンと話をします」
「後はシャルロットの気持ちを掴めるかどうかね」
そうだ。今のままなら子を産めば去ってしまう可能性が高い。もう少し時間が欲しい。
だから禁忌を犯した。
シャルロットに避妊薬を混ぜたジュースを飲ませた。
婚姻から1週間後、仕事に復帰した。
騎士団の更衣室に行くと、仲間の1人が話しかけてきた。
「エリアス、どうだった」
「何が」
「初夜だよ。オッセン家の三女があんなに可愛いとは知らなかったよ」
こいつは弟が指名されて式と懇親会に出席していたからシャルロットを知ったんだな。
「え?そんなに可愛い令嬢だったの?」
そうか。シャルロットは女学園だったし、社交は茶会だけ。成人のパーティは熱が出て出席できなかったと言っていたな。
「知ってたら求婚したのに」
「でも同性が好きだったんだから王命でもない限り無理だったんだよな」
「オッセン家は政略結婚をさせないと早々表明してたからな」
「で、どうだった」
「言うわけないだろう」
「なんだよ、教えてくれよ」
「絶対に教えない」
「男を知ったら、次の選択肢に男も入るだろう」
「は?」
「お前には恋人がいて、子が産まれたら令嬢とは別れて婚姻し直すって言ってたじゃないか」
「白紙だ」
「女が良く思えるほどいいのか」
「シャルロットは俺の妻だということを忘れるなよ」
「分かったよ、怒るなって」
勤務を終えて時計店に寄ってみた。
「これはバロー様、いらっしゃいませ」
「懐中時計の修理は終わったかと来てみたんだ」
なかなか送ってこないから催促したら、自分で店に持って行くと言ったので、店にはバロー家で払うから持ち込みがあったら修理してやってくれと頼んでおいた。
「実は…」
店長の話に愕然とした。
その足で質屋に行ってみると確かに俺が贈った懐中時計が売りに出されていた。良くみると、タイピンやペンも売りに出されていた。
懐中時計は一点物で、タイピンの宝石は付け替えたし、ペンも特注だった。
店の従業員に銀貨を1枚渡し、質入れ名簿を見せてもらった。
ダミアンの名前がかなり前からある。
交際して直ぐの日付からずっと続き、最後は懐中時計だった。
屋敷に戻り、ダミアンの調査を依頼した。
数日後、
「報告をいたします。
ダミアン・ヘクトの基本情報に間違いはありません。ただ…」
「言ってくれ」
「恋人がいます」
「誰だ」
「今は平民のアンナという娘です」
は? 女!?
「分かっている交際歴を教えてくれ」
「エリアス様と交際を始めたときには恋人がおりました。今のアンナで4人目で、全て平民の女性です。
男性はエリアス様しか交際したことがございません」
「他には」
「女と交際するために、エリアス様からの贈り物を換金しています。服も全部ではないようですが換金しています。
最近は女の部屋に入り浸っています」
「明日、勤務帰りに寄ってみよう。住所を御者に教えておいてくれ」
「かしこまりました」
翌日の勤務後に、女の部屋の前まで行くと開いた窓から話し声が聞こえた。
「ねえ。お洋服はいつ買ってくれるの?」
「今はちょっと」
「パトロンからお金を貰えないの?」
「仕事で暫く会えないんだよ」
ドアを叩くと女が応対した。
「どちら様?」
「ダミアンに用がある」
「アンナ、開けるな」
「え?」
「ダミアン、聞こえているぞ。ここを開けないと蹴破るか燻って出てこさせるぞ」
女はドアを開けた。
「アンナ嬢、少しだけ時間をもらうよ」
慌てて服を着るダミアンと、ガウンを羽織った女を見て事後だと分かった。
「懐中時計がまだ修理に出されていないから、受け取りに来た」
「エ、エリアス」
「出せ」
「屋敷にあるよ」
「ヘクト邸に今から取りに行けばいいか?」
「何でそんな」
「質屋で見かけたんだ。他にもいろいろと置いてあった。本当は盗まれたんだろう?」
「そ、そうなんだ。言い出し難くて」
「もっと早く言えばいいのに。では、憲兵を連れてヘクト邸に調査に行くか」
「え?」
「泥棒が入ったんだろう?」
「そんな大事にしなくても」
「総額がいくらか知らないというのか?貴族の家からあれだけの値の張る品を盗み出して売れば、平民なら極刑だし、貴族でもただでは済まない」
「っ!」
「俺と婚姻すると言っていたが、交際した時には女がいたらしいな。ずっと。
知らなかったよ。本当は異性愛者なんだな。俺に愛を囁いてモノを咥えてケツを差し出したのは金品目的だったんだな」
「え?この方とお付き合いを?婚姻?寝てたの!?」
「……」
「あなたの絵の才能に支援してくださるパトロンじゃなくて、恋人だったの!?」
「ダミアンにそんな才能があったのか」
「何だよ!俺はあんたの言葉を信じてたのに妻なんか迎えやがって!愛人?誰がそんなものになるもんか!正夫なら子爵家の金を自由に使えるし別れる時も金をくれると思ったから体を差し出したんだ!」
「そうか。お前は身の丈に合わない報酬を得ていた男娼だったんだな。じゃあ、今までの贈り物は報酬だったとしてこれで俺たちの関係は終わりにしよう。
好きな女と婚姻するといい。何の職も才能もない困窮した男爵家のスペアを愛してくれる女がここにいて良かったな。じゃあな」
部屋を出てドアを閉めると、部屋の中から揉める声が聞こえてきた。
「どういうこと!お金も職もない貧しい貴族なんて意味無いじゃない!」
「アンナ」
「荷物を持って出て行って!あなたを養うなんて真っ平だし、男と寝てお金を稼ぐような人とは婚姻できないわ!」
慰謝料を払う前に知って良かったなと、その場を後にした。
体を拭き、髪を少し乾かしたところでメイドが“後はお任せください”とタオルを取り上げて、別のタオルを渡された。
自分の髪を乾かし、服を着てソファに座る。
なるほど。こんな風に時間がかかるのか。
髪が長いだけで恐ろしいほど時間がかかる。
その間に身体にクリームを塗ったり、爪を整えたりしていた。
よし。
「いいか、シャルロット。こっちの化粧水はうちの商品だ。香りが少し独特なやつの方が効果があると言われている。化粧水の中で売り上げが低いのが理解できない」
「あの、バロー卿?」
「何かな」
「何をご説明なさっておいでですか?」
「うちの商品について知っておいてもらおうとしているんだ」
メイド達は笑顔の奥で溜息を吐いているように見えた。
「初夜の翌朝の会話ではございません」
「時間がかかって暇そうだろう」
「何も考えない時間というものも必要です。特に初夜の翌朝は」
「そ、そうか。他の組は無事に終了したのだろうか」
「はい。こちらのお部屋が一番仲がよろしいようです」
つまり他の組は1回で終えているという意味だな。
そしてドレスを着せようとするも、まだ立てないでいた。
手伝って着せて、時間になると抱き上げて馬車に乗せて子爵邸に向かった。
「恥ずかしいです」
「気にするな」
シャルロットが支度をしている間に、手紙を受け取った。陛下からで要約すると“シャルロットは初めてなのだから無理をするな”と書いてあった。
手遅れですよ陛下。
屋敷に到着し、また抱き上げて夫婦の間に運びドレスを脱がせて寝かせた。
「歩けるようになるまでゆっくり休め」
「はい」
その後は父と母に報告をした。
「まあ!良かったわ」
「ダミアンには別れを告げなさい。
シャルロットと夫婦の時間を続けるのならダミアンとは関係を持てない。
シャルロット以上にダミアンに気持ちがあるなら、精神的な愛人というのも有りかもしれないが、そうではないならトラブルになるだけだ」
「はい」
「慰謝料を払うことを許そう」
「シャルロットが落ち着いたら、ダミアンと話をします」
「後はシャルロットの気持ちを掴めるかどうかね」
そうだ。今のままなら子を産めば去ってしまう可能性が高い。もう少し時間が欲しい。
だから禁忌を犯した。
シャルロットに避妊薬を混ぜたジュースを飲ませた。
婚姻から1週間後、仕事に復帰した。
騎士団の更衣室に行くと、仲間の1人が話しかけてきた。
「エリアス、どうだった」
「何が」
「初夜だよ。オッセン家の三女があんなに可愛いとは知らなかったよ」
こいつは弟が指名されて式と懇親会に出席していたからシャルロットを知ったんだな。
「え?そんなに可愛い令嬢だったの?」
そうか。シャルロットは女学園だったし、社交は茶会だけ。成人のパーティは熱が出て出席できなかったと言っていたな。
「知ってたら求婚したのに」
「でも同性が好きだったんだから王命でもない限り無理だったんだよな」
「オッセン家は政略結婚をさせないと早々表明してたからな」
「で、どうだった」
「言うわけないだろう」
「なんだよ、教えてくれよ」
「絶対に教えない」
「男を知ったら、次の選択肢に男も入るだろう」
「は?」
「お前には恋人がいて、子が産まれたら令嬢とは別れて婚姻し直すって言ってたじゃないか」
「白紙だ」
「女が良く思えるほどいいのか」
「シャルロットは俺の妻だということを忘れるなよ」
「分かったよ、怒るなって」
勤務を終えて時計店に寄ってみた。
「これはバロー様、いらっしゃいませ」
「懐中時計の修理は終わったかと来てみたんだ」
なかなか送ってこないから催促したら、自分で店に持って行くと言ったので、店にはバロー家で払うから持ち込みがあったら修理してやってくれと頼んでおいた。
「実は…」
店長の話に愕然とした。
その足で質屋に行ってみると確かに俺が贈った懐中時計が売りに出されていた。良くみると、タイピンやペンも売りに出されていた。
懐中時計は一点物で、タイピンの宝石は付け替えたし、ペンも特注だった。
店の従業員に銀貨を1枚渡し、質入れ名簿を見せてもらった。
ダミアンの名前がかなり前からある。
交際して直ぐの日付からずっと続き、最後は懐中時計だった。
屋敷に戻り、ダミアンの調査を依頼した。
数日後、
「報告をいたします。
ダミアン・ヘクトの基本情報に間違いはありません。ただ…」
「言ってくれ」
「恋人がいます」
「誰だ」
「今は平民のアンナという娘です」
は? 女!?
「分かっている交際歴を教えてくれ」
「エリアス様と交際を始めたときには恋人がおりました。今のアンナで4人目で、全て平民の女性です。
男性はエリアス様しか交際したことがございません」
「他には」
「女と交際するために、エリアス様からの贈り物を換金しています。服も全部ではないようですが換金しています。
最近は女の部屋に入り浸っています」
「明日、勤務帰りに寄ってみよう。住所を御者に教えておいてくれ」
「かしこまりました」
翌日の勤務後に、女の部屋の前まで行くと開いた窓から話し声が聞こえた。
「ねえ。お洋服はいつ買ってくれるの?」
「今はちょっと」
「パトロンからお金を貰えないの?」
「仕事で暫く会えないんだよ」
ドアを叩くと女が応対した。
「どちら様?」
「ダミアンに用がある」
「アンナ、開けるな」
「え?」
「ダミアン、聞こえているぞ。ここを開けないと蹴破るか燻って出てこさせるぞ」
女はドアを開けた。
「アンナ嬢、少しだけ時間をもらうよ」
慌てて服を着るダミアンと、ガウンを羽織った女を見て事後だと分かった。
「懐中時計がまだ修理に出されていないから、受け取りに来た」
「エ、エリアス」
「出せ」
「屋敷にあるよ」
「ヘクト邸に今から取りに行けばいいか?」
「何でそんな」
「質屋で見かけたんだ。他にもいろいろと置いてあった。本当は盗まれたんだろう?」
「そ、そうなんだ。言い出し難くて」
「もっと早く言えばいいのに。では、憲兵を連れてヘクト邸に調査に行くか」
「え?」
「泥棒が入ったんだろう?」
「そんな大事にしなくても」
「総額がいくらか知らないというのか?貴族の家からあれだけの値の張る品を盗み出して売れば、平民なら極刑だし、貴族でもただでは済まない」
「っ!」
「俺と婚姻すると言っていたが、交際した時には女がいたらしいな。ずっと。
知らなかったよ。本当は異性愛者なんだな。俺に愛を囁いてモノを咥えてケツを差し出したのは金品目的だったんだな」
「え?この方とお付き合いを?婚姻?寝てたの!?」
「……」
「あなたの絵の才能に支援してくださるパトロンじゃなくて、恋人だったの!?」
「ダミアンにそんな才能があったのか」
「何だよ!俺はあんたの言葉を信じてたのに妻なんか迎えやがって!愛人?誰がそんなものになるもんか!正夫なら子爵家の金を自由に使えるし別れる時も金をくれると思ったから体を差し出したんだ!」
「そうか。お前は身の丈に合わない報酬を得ていた男娼だったんだな。じゃあ、今までの贈り物は報酬だったとしてこれで俺たちの関係は終わりにしよう。
好きな女と婚姻するといい。何の職も才能もない困窮した男爵家のスペアを愛してくれる女がここにいて良かったな。じゃあな」
部屋を出てドアを閉めると、部屋の中から揉める声が聞こえてきた。
「どういうこと!お金も職もない貧しい貴族なんて意味無いじゃない!」
「アンナ」
「荷物を持って出て行って!あなたを養うなんて真っ平だし、男と寝てお金を稼ぐような人とは婚姻できないわ!」
慰謝料を払う前に知って良かったなと、その場を後にした。
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