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【リリー】全てを失った女

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【 リリーの視点 】

ゴトゴトゴトゴト ゴトゴトゴトゴト

整備の行き届いていない道を馬車でひたすら走る。

馬車の行き先は修道院という名の国内で一番厳しい労役所だ。令嬢をクビになり問題行動が著しい者が放り込まれる施設だ。


出産から半年以上が経った。
ドレスを着てパーティの華になっていた昔が嘘のよう。

赤ちゃんが生まれた時は成功したと思った。私に似ていて色も辻褄が合う。出産時期がズレて怪しまれてもこの子なら大丈夫だと思った。
なのに耳の形に足元を掬われるだなんて。
男の耳なんて見ていなかった。瞳の色と髪の色だけ。後は目を瞑りロジェ様に抱かれているつもりで楽しんだ。

子が産まれたら、跡継ぎを産んだ母として私への待遇を変え、その内ロジェ様の頑なな心が緩んで、側にいる私を抱いて また身籠る。2人も産めば次期侯爵夫人として返り咲けると思っていた。
私といれば、何故あのパッとしないユリナに懸想していたのかバカバカしいと気付くと思っていた。

“坊ちゃまがユリナ様を迎えに行ったけど、悪女が屋敷内にいると知って拒否なさったらしいわ”
“いっそのこと私達で始末しておけば良かったわ”
“うっかり転落死とか、喉を詰まらせて窒息死とか。私達が複数で口裏を合わせればそれが事実になるもの”

そんな話を浴場で聞いた時から怯えて過ごしてきたけど、ロジェ様の子を産んだ私に もうそんなことは出来ないとホッとしたのに…。


子の実の父親である男娼はうちからもお金を渡して秘密を守る契約をさせて解放した。

子はまとまった寄付をして孤児院に引き渡すことになった。名付けもせず、道に捨てられていた子として。


未だに分からない。何故私があの女に負けるのか。
もう、ロジェ様の美的感覚が狂っているとしか考えられない。

ゴトン!

「痛っ」

馬車が急停車した。

何事かと窓を見ると崖道だった。

ガチャ

ドアを開けた男はロジェ様だった。

「ロジェ様」

「外に出ろ」

馬車から降りるとロジェ様の騎士が近寄った。

「ユリナは他の男と婚約したよ」

「では、」

やっと私を選んでくれた、迎えに来てくれたのだと喜んだ。なのに…

「うっ……ロジェ様?」

ロジェ様は騎士から剣を受け取ると私の腹に刺した。

「ユリナは隣国ゼルベスの第四王子と婚約した。ゼルベスの王宮で暮らしている。もう手が出せない」

「ぐうっ!!」

ロジェ様は悪魔のような形相で剣を横に引いた。
腹から内臓がこぼれ落ちた。

「あの夜にこうしておけば良かった。俺のユリナを手放すことになる前に」

「ロジェ…様」

「俺が唯一の跡取りじゃなければ死を選んでいた。これからはどこか適当な令嬢を嫁にして子を産ませて当主となるために存在するだけだ。
俺の人生を壊して楽しかったか?」

「愛、」

視界が回転して最後に見たのは、離れた自分の胴体と、ロジェ様の靴。

「遺体を崖下に落とせ」

無慈悲な声…

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