27 / 35
帰国指示
しおりを挟む
数ヶ月後、ジョルジオさんが復帰して、ロッテもコツを掴んだようで 仕上げ作業を任せるまでに至った頃、両親から戻って来なさいと書かれた手紙が届いた。伯母様が持って来てくださった。
「エンヴェル侯爵令息が3度もゼルベスへ来たでしょう?それにユリナも長く滞在しているし、一度帰って今後のことを考えてみたらいいと思うの」
「すみません。何故か伯母様の用意してくださった縁談相手が次々と運命の人に出会うなんて…どうやら私はキューピットなのかもしれません。お会いしてもいないのに効果があるなんて、それだけで商売できそうです」
「キューピットの館ユリナ?」
「はい」
「あっという間に廃業になるからおよしなさい。
職場の方はどうなの?」
「元々居た方が復帰して、新しく入った女性の成長が早くて。軍部の上層部から及第点をいただきましたので順調と言えます」
「では離れても大丈夫そうね」
「はい」
「ジーン王子殿下にはいつ伝えるの?」
「直ぐに伝えます。イオス副騎士団長経由で話は伝わりますから」
「荒れそうね」
「ジーン殿下は大丈夫です。今ではいろいろな人と言葉を交わし、友人らしき存在もありますから」
「ではリシュー家に迎えの馬車を頼むわよ」
「よろしくお願いします」
伯母様はイオス副騎士団長にお礼をしてくださった。
翌日、イオス副騎士団長と一緒に辞めると報告に回り、昼休憩でジーンくんに話そうと思っていたけど、1時間も経たずに駆け込んできた。
「ユリナ!」
「ジーンくん」
「辞めるってどういうことだ!」
「両親から帰国するようにと手紙が届いたからです。続きは後でいいですか?集中したいので」
「っ!」
ジーンくんは我慢したのだろう。拳を握りしめて立ち去った。
成長したなぁ~なんて思っていると、
「まずいんじゃないですか」
「え?」
「そうだぞ。何でジーン王子殿下に一番に相談しなかったんだ」
「殿下、かわいそうにな」
「え!?」
「え、じゃないですよ。あんなに愛情かけてもらっているのにまさか…」
「そのまさかだよ、ロッテちゃん」
「刃物のことは繊細なのに、こういうのはちょっとなぁ」
「確かに親友と言っていただいて良くしてもらっていますけど、」
「ほらな」
「うわ、イヤだ」
「俺は涙が出そうだよ」
「分かりました。謝ります」
「「「はぁ~」」」
これだけ仲良くできていれは安心ね。新人のロッテちゃんが心配だったけど良かったわ。
そして昼休み。
ジーンくん専用の食堂に連れてこられた。食堂と言っても私室の隣にある部屋にテーブルや必要なものが置いてあるだけの部屋だ。
職場から遠いからちょっと困る。きっと午後の始業には間に合わないだろうな。
「で?」
「だから、両親が帰国しなさいって…」
「何で俺に言いに来ない」
「伯母様が屋敷にいらしてイオス副騎士団長に事情とお礼をお伝えしました。だからイオス副騎士団長が朝一番に私を連れて報告に回ってくださったのです。仕事の時間もありますし、ジーンくんにお話しするのがお昼になりました」
「…それでも一番が良かった」
「ごめんなさい」
私、悪くないけど…ジーンくんにそんな顔をされたら謝るしかない。
「直ぐに戻って来るんだろう?」
「分かりません。両親次第です」
「戻って来い」
「私に決定権はありません。そもそもゼルベス王国へは縁談と気分転換のために参りました。一つは叶えられませんでしたが、一つは叶えましたし伯母様への謝罪も済んでおります。
元々今のお手伝いは目的になかったことです。
私はゼルベスの貴族ではありません。帰国して両親の判断に従うのは当然なのです」
「帰るということは、あの男と対峙するということだぞ」
「こちらにいても避けられそうにありませんし、イオス家にご迷惑をかけてしまっております。
帰国しても両親と本家のゲルズベル伯爵家が守ってくださいます」
「侯爵家相手にか?」
「寧ろエンヴェル侯爵がいらした方が抑制力になるはずです。破棄の件は王家が間に入りましたから」
「だったら何度もゼルベスに来ないだろう」
「つまり逃げられないということです。向き合うしかありません。
10日後に出発します。その時はもう、ジーン王子殿下と呼ばせていただきます。仲良くしていただきありがとうございました」
「あいつをまだ…愛しているのか」
「よく分かりません。傷付いたことと彼を信じることができないことと、やっぱり身の丈に合わない婚約だったということは分かります」
「ランデ伯爵夫人に嫁ぎ先の世話をしてもらっていたということは、条件に合えば愛していなくとも結婚するということだな?」
「はい」
「好きでもない男に体を許せるのか?」
「貴族令嬢の宿命と言えるのではありませんか?
令息もそうでしょう」
「分かった」
その後はジーンくんはいつも通り接してくれたので嬉しかった。
10日後。
ジーンくんが見送りに来てくれた。
「ジーン王子殿下。貴方がいてくださったので私は楽しく過ごすことができました。寂しくも感じませんでした。ありがとうございました。私にとって貴方は素敵な王子様です」
「その言葉、忘れるなよ」
「もちろんです……ううっ」
「笑いながら泣くなんて器用だな」
「だって…」
ジーンくんはしっかりと私を抱きしめた。
「心配することはない。全て上手くいく」
「この間と言っていることが違います」
「知ってる」
「殿下、プレゼントがあります」
鞄から小さな箱を取り出しジーンくんに渡した。
「すごく綺麗なブローチだな」
「まだ未発表のカット方法です。私がつくったのですよ。聞かれたら“ジーンカット”と教えていいですよ。このカットは殿下のものです」
「おまえは…とんでもないものをくれるな。
聞かれたら“ユリナの瞳”というカット方法だと答えるよ」
「止めてください」
「ユリナ、また会おう」
「いつの日か」
ジーンくんにさよならを言ってリシュー家の馬車に乗り帰国した。
「エンヴェル侯爵令息が3度もゼルベスへ来たでしょう?それにユリナも長く滞在しているし、一度帰って今後のことを考えてみたらいいと思うの」
「すみません。何故か伯母様の用意してくださった縁談相手が次々と運命の人に出会うなんて…どうやら私はキューピットなのかもしれません。お会いしてもいないのに効果があるなんて、それだけで商売できそうです」
「キューピットの館ユリナ?」
「はい」
「あっという間に廃業になるからおよしなさい。
職場の方はどうなの?」
「元々居た方が復帰して、新しく入った女性の成長が早くて。軍部の上層部から及第点をいただきましたので順調と言えます」
「では離れても大丈夫そうね」
「はい」
「ジーン王子殿下にはいつ伝えるの?」
「直ぐに伝えます。イオス副騎士団長経由で話は伝わりますから」
「荒れそうね」
「ジーン殿下は大丈夫です。今ではいろいろな人と言葉を交わし、友人らしき存在もありますから」
「ではリシュー家に迎えの馬車を頼むわよ」
「よろしくお願いします」
伯母様はイオス副騎士団長にお礼をしてくださった。
翌日、イオス副騎士団長と一緒に辞めると報告に回り、昼休憩でジーンくんに話そうと思っていたけど、1時間も経たずに駆け込んできた。
「ユリナ!」
「ジーンくん」
「辞めるってどういうことだ!」
「両親から帰国するようにと手紙が届いたからです。続きは後でいいですか?集中したいので」
「っ!」
ジーンくんは我慢したのだろう。拳を握りしめて立ち去った。
成長したなぁ~なんて思っていると、
「まずいんじゃないですか」
「え?」
「そうだぞ。何でジーン王子殿下に一番に相談しなかったんだ」
「殿下、かわいそうにな」
「え!?」
「え、じゃないですよ。あんなに愛情かけてもらっているのにまさか…」
「そのまさかだよ、ロッテちゃん」
「刃物のことは繊細なのに、こういうのはちょっとなぁ」
「確かに親友と言っていただいて良くしてもらっていますけど、」
「ほらな」
「うわ、イヤだ」
「俺は涙が出そうだよ」
「分かりました。謝ります」
「「「はぁ~」」」
これだけ仲良くできていれは安心ね。新人のロッテちゃんが心配だったけど良かったわ。
そして昼休み。
ジーンくん専用の食堂に連れてこられた。食堂と言っても私室の隣にある部屋にテーブルや必要なものが置いてあるだけの部屋だ。
職場から遠いからちょっと困る。きっと午後の始業には間に合わないだろうな。
「で?」
「だから、両親が帰国しなさいって…」
「何で俺に言いに来ない」
「伯母様が屋敷にいらしてイオス副騎士団長に事情とお礼をお伝えしました。だからイオス副騎士団長が朝一番に私を連れて報告に回ってくださったのです。仕事の時間もありますし、ジーンくんにお話しするのがお昼になりました」
「…それでも一番が良かった」
「ごめんなさい」
私、悪くないけど…ジーンくんにそんな顔をされたら謝るしかない。
「直ぐに戻って来るんだろう?」
「分かりません。両親次第です」
「戻って来い」
「私に決定権はありません。そもそもゼルベス王国へは縁談と気分転換のために参りました。一つは叶えられませんでしたが、一つは叶えましたし伯母様への謝罪も済んでおります。
元々今のお手伝いは目的になかったことです。
私はゼルベスの貴族ではありません。帰国して両親の判断に従うのは当然なのです」
「帰るということは、あの男と対峙するということだぞ」
「こちらにいても避けられそうにありませんし、イオス家にご迷惑をかけてしまっております。
帰国しても両親と本家のゲルズベル伯爵家が守ってくださいます」
「侯爵家相手にか?」
「寧ろエンヴェル侯爵がいらした方が抑制力になるはずです。破棄の件は王家が間に入りましたから」
「だったら何度もゼルベスに来ないだろう」
「つまり逃げられないということです。向き合うしかありません。
10日後に出発します。その時はもう、ジーン王子殿下と呼ばせていただきます。仲良くしていただきありがとうございました」
「あいつをまだ…愛しているのか」
「よく分かりません。傷付いたことと彼を信じることができないことと、やっぱり身の丈に合わない婚約だったということは分かります」
「ランデ伯爵夫人に嫁ぎ先の世話をしてもらっていたということは、条件に合えば愛していなくとも結婚するということだな?」
「はい」
「好きでもない男に体を許せるのか?」
「貴族令嬢の宿命と言えるのではありませんか?
令息もそうでしょう」
「分かった」
その後はジーンくんはいつも通り接してくれたので嬉しかった。
10日後。
ジーンくんが見送りに来てくれた。
「ジーン王子殿下。貴方がいてくださったので私は楽しく過ごすことができました。寂しくも感じませんでした。ありがとうございました。私にとって貴方は素敵な王子様です」
「その言葉、忘れるなよ」
「もちろんです……ううっ」
「笑いながら泣くなんて器用だな」
「だって…」
ジーンくんはしっかりと私を抱きしめた。
「心配することはない。全て上手くいく」
「この間と言っていることが違います」
「知ってる」
「殿下、プレゼントがあります」
鞄から小さな箱を取り出しジーンくんに渡した。
「すごく綺麗なブローチだな」
「まだ未発表のカット方法です。私がつくったのですよ。聞かれたら“ジーンカット”と教えていいですよ。このカットは殿下のものです」
「おまえは…とんでもないものをくれるな。
聞かれたら“ユリナの瞳”というカット方法だと答えるよ」
「止めてください」
「ユリナ、また会おう」
「いつの日か」
ジーンくんにさよならを言ってリシュー家の馬車に乗り帰国した。
2,276
お気に入りに追加
3,222
あなたにおすすめの小説
【完結】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!
五月ふう
恋愛
「どういうことですか・・・?私は、ウルブス様の婚約者としてここに来たはずで・・・。その女性は・・・?」
城に来た初日、婚約者ウルブス王子の部屋には彼の愛人がいた。
デンバー国有数の名家の一人娘シエリ・ウォルターンは呆然と王子ウルブスを見つめる。幸せな未来を夢見ていた彼女は、動揺を隠せなかった。
なぜ婚約者を愛人と一緒に部屋で待っているの?
「よく来てくれたね。シエリ。
"婚約者"として君を歓迎するよ。」
爽やかな笑顔を浮かべて、ウルブスが言う。
「えっと、その方は・・・?」
「彼女はマリィ。僕の愛する人だよ。」
ちょっと待ってくださいな。
私、今から貴方と結婚するはずでは?
「あ、あの・・・?それではこの婚約は・・・?」
「ああ、安心してくれ。婚約破棄してくれ、なんて言うつもりはないよ。」
大人しいシエリならば、自分の浮気に文句はつけないだろう。
ウルブスがシエリを婚約者に選んだのはそれだけの理由だった。
これからどうしたらいいのかと途方にくれるシエリだったがーー。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
幼馴染の婚約者に浮気された伯爵令嬢は、ずっと君が好きだったという王太子殿下と期間限定の婚約をする。
束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢リーシャは結婚式を直前に控えたある日、婚約者である公爵家長男のクリストファーが、リーシャの友人のシルキーと浮気をしている場面に遭遇してしまう。
その場で浮気を糾弾したリーシャは、クリストファーから婚約の解消を告げられる。
悲しみにくれてやけになって酒場に駆け込んだリーシャは、男たちに絡まれてしまう。
酒場にいた仮面をつけた男性──黒騎士ゼスと呼ばれている有名な冒険者にリーシャは助けられる。
それからしばらくして、誰とも結婚しないで仕官先を探そうと奔走していたリーシャの元に、王家から手紙が届く。
それは、王太子殿下の侍女にならないかという誘いの手紙だった。
城に出向いたリーシャを出迎えてくれたのは、黒騎士ゼス。
黒騎士ゼスの正体は、王太子ゼフィラスであり、彼は言う。
一年前に街で見かけた時から、リーシャのことが好きだったのだと。
もう誰も好きにならないと決めたリーシャにゼフィラスは持ちかける。
「婚約者のふりをしてみないか。もしリーシャが一年以内に俺を好きにならなければ、諦める」と。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
【完結】愛するあなたに、永遠を
猫石
恋愛
冬季休暇前のパーティで、私は婚約破棄をみんなの前で言い渡された。
しかしその婚約破棄のパーティーの事故で、私は……
【3話完結/18時20時22時更新】
☆ジャンル微妙。 ざまぁから始まり、胸糞……メリバ? お読みになる際には十分お気を付けください。
読んだ後、批判されても困ります……(困惑)
☆そもそもざまぁ……?いや、ざまぁなのか? う~ん……
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
☆この作品に関しては、タグ、どうしよう……と、悩むばかりです。
一応付けましたが、違うんじゃない?と思われましたらお知らせください
☆小説家になろう様にも掲載しています
式前日に浮気現場を目撃してしまったので花嫁を交代したいと思います
おこめ
恋愛
式前日に一目だけでも婚約者に会いたいとやってきた邸で、婚約者のオリオンが浮気している現場を目撃してしまったキャス。
しかも浮気相手は従姉妹で幼馴染のミリーだった。
あんな男と結婚なんて嫌!
よし花嫁を替えてやろう!というお話です。
オリオンはただのクズキモ男です。
ハッピーエンド。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる