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帰国指示

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数ヶ月後、ジョルジオさんが復帰して、ロッテもコツを掴んだようで 仕上げ作業を任せるまでに至った頃、両親から戻って来なさいと書かれた手紙が届いた。伯母様が持って来てくださった。

「エンヴェル侯爵令息が3度もゼルベスへ来たでしょう?それにユリナも長く滞在しているし、一度帰って今後のことを考えてみたらいいと思うの」

「すみません。何故か伯母様の用意してくださった縁談相手が次々と運命の人に出会うなんて…どうやら私はキューピットなのかもしれません。お会いしてもいないのに効果があるなんて、それだけで商売できそうです」

「キューピットの館ユリナ?」

「はい」

「あっという間に廃業になるからおよしなさい。
職場の方はどうなの?」

「元々居た方が復帰して、新しく入った女性の成長が早くて。軍部の上層部から及第点をいただきましたので順調と言えます」

「では離れても大丈夫そうね」

「はい」

「ジーン王子殿下にはいつ伝えるの?」

「直ぐに伝えます。イオス副騎士団長経由で話は伝わりますから」

「荒れそうね」 

「ジーン殿下は大丈夫です。今ではいろいろな人と言葉を交わし、友人らしき存在もありますから」

「ではリシュー家に迎えの馬車を頼むわよ」

「よろしくお願いします」

伯母様はイオス副騎士団長にお礼をしてくださった。



翌日、イオス副騎士団長と一緒に辞めると報告に回り、昼休憩でジーンくんに話そうと思っていたけど、1時間も経たずに駆け込んできた。

「ユリナ!」

「ジーンくん」

「辞めるってどういうことだ!」

「両親から帰国するようにと手紙が届いたからです。続きは後でいいですか?集中したいので」

「っ!」

ジーンくんは我慢したのだろう。拳を握りしめて立ち去った。
成長したなぁ~なんて思っていると、

「まずいんじゃないですか」

「え?」

「そうだぞ。何でジーン王子殿下に一番に相談しなかったんだ」

「殿下、かわいそうにな」

「え!?」

「え、じゃないですよ。あんなに愛情かけてもらっているのにまさか…」

「そのまさかだよ、ロッテちゃん」

「刃物のことは繊細なのに、こういうのはちょっとなぁ」

「確かに親友と言っていただいて良くしてもらっていますけど、」

「ほらな」

「うわ、イヤだ」

「俺は涙が出そうだよ」

「分かりました。謝ります」

「「「はぁ~」」」

これだけ仲良くできていれは安心ね。新人のロッテちゃんが心配だったけど良かったわ。


そして昼休み。
ジーンくん専用の食堂に連れてこられた。食堂と言っても私室の隣にある部屋にテーブルや必要なものが置いてあるだけの部屋だ。
職場から遠いからちょっと困る。きっと午後の始業には間に合わないだろうな。

「で?」

「だから、両親が帰国しなさいって…」

「何で俺に言いに来ない」

「伯母様が屋敷にいらしてイオス副騎士団長に事情とお礼をお伝えしました。だからイオス副騎士団長が朝一番に私を連れて報告に回ってくださったのです。仕事の時間もありますし、ジーンくんにお話しするのがお昼になりました」

「…それでも一番が良かった」

「ごめんなさい」

私、悪くないけど…ジーンくんにそんな顔をされたら謝るしかない。

「直ぐに戻って来るんだろう?」

「分かりません。両親次第です」

「戻って来い」

「私に決定権はありません。そもそもゼルベス王国へは縁談と気分転換のために参りました。一つは叶えられませんでしたが、一つは叶えましたし伯母様への謝罪も済んでおります。
元々今のお手伝いは目的になかったことです。
私はゼルベスの貴族ではありません。帰国して両親の判断に従うのは当然なのです」

「帰るということは、あの男と対峙するということだぞ」

「こちらにいても避けられそうにありませんし、イオス家にご迷惑をかけてしまっております。
帰国しても両親と本家のゲルズベル伯爵家が守ってくださいます」

「侯爵家相手にか?」

「寧ろエンヴェル侯爵がいらした方が抑制力になるはずです。破棄の件は王家が間に入りましたから」

「だったら何度もゼルベスに来ないだろう」

「つまり逃げられないということです。向き合うしかありません。
10日後に出発します。その時はもう、ジーン王子殿下と呼ばせていただきます。仲良くしていただきありがとうございました」

「あいつをまだ…愛しているのか」

「よく分かりません。傷付いたことと彼を信じることができないことと、やっぱり身の丈に合わない婚約だったということは分かります」

「ランデ伯爵夫人に嫁ぎ先の世話をしてもらっていたということは、条件に合えば愛していなくとも結婚するということだな?」

「はい」

「好きでもない男に体を許せるのか?」

「貴族令嬢の宿命と言えるのではありませんか?
令息もそうでしょう」

「分かった」

その後はジーンくんはいつも通り接してくれたので嬉しかった。



10日後。

ジーンくんが見送りに来てくれた。

「ジーン王子殿下。貴方がいてくださったので私は楽しく過ごすことができました。寂しくも感じませんでした。ありがとうございました。私にとって貴方は素敵な王子様です」

「その言葉、忘れるなよ」

「もちろんです……ううっ」

「笑いながら泣くなんて器用だな」

「だって…」

ジーンくんはしっかりと私を抱きしめた。

「心配することはない。全て上手くいく」

「この間と言っていることが違います」

「知ってる」

「殿下、プレゼントがあります」

鞄から小さな箱を取り出しジーンくんに渡した。

「すごく綺麗なブローチだな」

「まだ未発表のカット方法です。私がつくったのですよ。聞かれたら“ジーンカット”と教えていいですよ。このカットは殿下のものです」

「おまえは…とんでもないものをくれるな。
聞かれたら“ユリナの瞳”というカット方法だと答えるよ」

「止めてください」

「ユリナ、また会おう」

「いつの日か」

ジーンくんにさよならを言ってリシュー家の馬車に乗り帰国した。

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