【完結】さようならと言うしかなかった。

ユユ

文字の大きさ
上 下
24 / 35

結構です。

しおりを挟む
刃物研磨の仕事をお手伝いしている。
叔母様は領地へ帰り、私はイオス副団長の屋敷に下宿することになった。

あくまでお手伝いであって就職ではない。
何日なのか何ヶ月なのか分からないので、お城の部屋は借りたくなかった。
ホテルの安い部屋から通うつもりだったけど、イオス副団長が許してくれなかった。
伯母様と副団長が話し合った結果 下宿が決まった。

「なんでだよ。部屋なんか俺の部屋の近くに用意してやったのに」

はい?

「嫌な予感がするので遠慮します」

「嫌な予感ってなんだよ」

「プライベートが侵害される予感です」

承諾しないで伯母様と帰れば良かったのかも。

「俺達の仲だろう?」

「ジーンくん。何しに来たのですか?」

「あ、そうだ。兄上が会いたいって」

「浮気している第二王子殿下ですか?」

「エドワード兄上だよ」

王太子殿下じゃない!

「いつですか」

「今」

「呼んで来いと言われて呼びに来たのに かれこれ30分以上も無駄話をしていたということですか」

「無駄話じゃないぞ」

「はぁ~」


第四王子のジーンくんに連れてこられたのは王太子宮の裏だった。

え…なんだか怖いんですけど。

「こちらでお待ち下さい」

第一王子で王太子エドワード殿下は藁人形に向けて剣を振り下ろした。

ザシュッ

王太子宮の入り口から案内役をしていた王太子殿下の侍従が彼に近寄った。

何か言葉を交わすと王太子殿下に手招きされた。

「いくぞ」

「はい」

ジーンくんに引っ張られて王太子殿下の側に行くと持っていた長剣を差し出された。

「ユリナでいいな」

「え?」

「ユリナ、長剣は駄目か?あの切れ味の悪さを見ただろう。何とかしてくれたら褒美を出そう」

「兄上、ユリナは、」

「私はユリナに聞いているのだ」

「私が男であれば叶うはずですが、私の力では長剣は持てないのです。しかも片手で難なく扱えるくらいでないと作業に支障が出るどころか怪我をしたり剣を落としてしまいます。中剣でも無理なものもございます。どうかご容赦ください」

「持ってみろ」

「あの、」

「片手で持ってみろ」

「剣先を地につけていただけますか」

王太子殿下は剣先を地面に刺した。私が柄を握ると 王太子殿下は手を離した。

「危ないので下がっていただけますか」

王太子殿下とジーンくんが離れたのを確認してから持ち上げよとするも 僅かに剣先が動いた程度で地面から離れることはなかった。

「ふむ。女はこれほど非力なのか。女剣士もいるからユリナが大袈裟に言っているのかと思った」

そう言いながら長剣を取り上げて付き添いの兵士に渡した。

「君のおかげでセドリックの仮面が剥がれてジーンが前を向き出したのだな?
それで、何を褒美に臨む?」

「私は何もしておりません。褒美など身に余ることでございます」

「ジーンの妻の座を狙っているのだろう?」

「兄上!?」

「私は子爵家の娘にすぎません。王子妃など望むわけがございません」

「だがユリナは普通の子爵令嬢ではない。剣を最高の切れ味に変えてしまう腕を持つ。それに 今は使用禁止となった隣国の宝石のカットもユリナのものだと聞いたが、違うのか?」

「そうです」

「ジーンは第四王子だから価値を証明した子爵令嬢なら十分狙えるぞ」

「狙いません」

「…そうか。
剣は見事だ。引き続き携わってくれると嬉しい。セドリックとジーンの件、ありがとう。
呼び立てて悪かった。
ドバルド、彼女を職場まで送ってくれ。
ジーンは残れ」

「俺がユリナを送ってから戻ってきます」

「いいから お前は残れ」

「っ!」

「私はこれで失礼いたします」


正直、無駄な時間だったなと思った。
それに王子妃を狙ってるだなんてあり得ないのに。そんな風に見せてしまったのかしら。気を付けなくちゃ…というか、私は何もしていないのに…。



【 第四王子ジーンの視点 】

エドワード兄上は一体何を言い出すんだ!?ユリナに俺の妻の座を狙っているのかなどと聞いて。

「座れ」

「失礼します」

外に置かれた椅子に座るとメイドが果実水をテーブルに置いて離れた。

「おまえ、うかうかしていると掻っ攫われるぞ」

「はい?」

「あのが好きなんだろう」

「なっ、彼女は…友人です」

「なあ、ジーン。 おまえを王子としてではなく 人として見てくれる女は滅多に現れないぞ。しかも出来の良いとは言えず 問題児だったおまえに真っ直ぐ接してくれる女だ。分かっているから付き纏っているんだろう?

ユリナの元婚約者は公爵令嬢と寝て妊娠させたらしい。ユリナ側は婚約破棄をして侯爵家側に罰を与えた。侯爵家側は維持を望んだようだがユリナは拒んだ。

さっきの感じだと 彼女が求めるものは誠実さだろう。元婚約者は彼女へ 公女との一夜について説明をしなくてはならなかったのに後回しにしてしまった。何も知らなかったユリナに公女が別れろと迫ったらしい。彼女には不誠実に映ったのだろうな。
私もジーンには誠実な男であってもらいたいと思っている。
私はおまえを城に残すつもりだ。それにはユリナは適任だと思う。おまえが変わるきっかけを作っているのはユリナだということを城の者たちが認識しているからな」

「ユリナを調べたのですか!?」

「当然だろう。いくら凄腕でも武器部門に他国の令嬢を採用するならば調査は必須だ」

「確かにそうですね」

「セドリックに婚約を壊されて以来 一人でいるおまえに ユリナは天からの恵みだ。
さっきの顔 見たか?ジーンの妻の座を狙っているのかと聞いたら、こいつ何言っているんだ?って顔していたぞ。王子とこれだけ距離が縮まったにも関わらず全くその気が無い。今頃、この無駄な時間を取っていないで剣の一本でも仕上げたかったな などと思いながら職場に向かっているだろうな。

いいか、ジーン。元婚約は既成事実でユリナを手に入れた男だ。侯爵家は胎の子を別の男との子だろうと期待している。公女は既に平民落ちしたから、胎の子が自分の子だとしても正妻にはしない。
ユリナを諦めてはいないだろう。帰国したら話し合いの場が持たれるかもしれない。
公女は幻覚剤を用いて事を成したらしい。だから浮気というより被害者だ。さらに胎の子が別の男との子だという話になれば復縁も有り得る。
だが、おまえと婚約したらユリナは絶対に裏切らないはずだ。

どうしたいのか自分の気持ちと向き合って早めに答えを出せ」

「…はい」

兄上に大事な事を言われているのに、俺は ユリナの婚約するきっかけが既成事実だったことに驚いていた。男を知っているようには見えなかったからだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた

ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。 夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。 令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。 三話完結予定。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

処理中です...