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懐かれた?

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どうしてこうなったのかしら。

「なあ、そろそろ行こうぜ」

「……」

「腹減った」

「……」

「無視しちゃダメだぞ、ユリナ」

「“ユリナさん”でしょう?」

「俺達の仲だろう。さん付けしなくてもいいじゃないか。俺 歳上だし」

「たった1歳じゃないですか」

「お、そうかそうか。俺のことに興味を持って歳を知ったのだな」

「悪い意味で持ちました」

「だから謝っただろう」

「“よっ!昨日は悪かったな。過ぎたことは忘れろ”というのは謝罪とは言い難いです」

「分かった」


そして翌日。

「悪かった。詫びの品だ」

お詫びの品は大きな宝石のついたネックレスだった。

「いりません」

「何でだよ、一生懸命選んだんだぞ」

「いりません。謝罪も受けましたし許します」

「じゃあ昼にまた来るからな」

「はい?」

朝一番に来て、また昼にやって来た。

「メシ食いに行くぞー」

「……」



連れてこられたのはガゼボ。
わざわざこんなところまで食事を持ってこさせるなんて。

「…というわけなんだよ。セドリックのあの顔。これもユリナのお陰だ。ありがとう」

そんな風に言われたら

「どういたしまして」

「俺を苦しめるセドリックは消えるから、後は俺が頑張るだけだ。父上は優れてなくても役割があると言っていたけど、やっぱり王子だからさ、役立ちたいよな。どうしたらいいと思う?」

「先ずは信頼を取り戻す方が先ではありませんか?
大きな信頼ではなくて、人柄としての信頼です。
アレでは他でもやらかしているのでしょう?」

「どうやって?」

何で私に聞くのかしら。
でも、成犬になりたての野良犬に懐かれた気分なのよね。ここでお座りを教えなかったら待ても覚えられないわね。
そうだわ。丁度いいから役立ってもらおうかしら。

「先ずはきっかけをあげます。食事が終わったら修繕室について来てください」


食事を終えて修繕室に戻ってきた。

「今、修繕が完了した剣が6本ナイフが12本あります。持ち主に返してきてください」

「え?俺が?」

「きっかけを作ってあげているのです。
渡しながら世間話が出来るでしょう?
服の汚れや傷や痣の有無も確認してください。白目の様子とか唇とかもですよ」

「何でだ?」

「職場で嫌がらせを受けているとか、家族に何かされてるとか、病気とか疲れとか身体にサインが出るものです。
さりげなくですよ?
あと、第二王子殿下の剣が含まれています。誰にでも出来そうな仕事をくださいって言ってみてはどうですか?王子としてではなく、大人になろうとしている弟に小さな仕事をくださいって。使いっ走りのような仕事から始めたいとお願いしてみてください。

但し、誠実と公正さを守るよう陛下に念を押されているので、そこから外れることはしないと宣言するのですよ」

「分かった。行ってくる」


そして夕方、やっとジーンくんは帰ってきた。

「世間話をするって難しいな」

「話のネタがないと難しいですね。新聞を読んだり、他人の話に耳を傾けたりしないといけませんね。でも不確かな噂は流してはダメですよ」

「実はさ、兄上が仕事を頼んでくれたんだよ」

「どんな仕事ですか?」

「手紙の配達」

「手紙?」

「恋人宛てだって」

「……第二王子殿下にお妃様は?」

「いる」

「浮気の手伝いですか」

「いや、兄上は政略結婚だから」

「だから?」

「あ、義姉上も知ってるし」

「知っているのと賛成しているのとは異なります」

「……」

「次からは怒られたから浮気の手伝いはできないと断りましょう」

「分かった」

「明日は私はお休みです」

「なんで」

「まだ身体が怠いのです。
それにこの仕事はお手伝いのようなもので就職ではありません。ある程度 職人さん達の仕上げの技術が向上したら私は通いません」

「体調が良くなったら就職すればいいじゃないか」

「私はゼルベスの貴族ではありません。それにいずれは何処かに嫁がなくてはなりません。
以前はこちらの貴族との縁談があって、会うつもりでした。母国で婚約してしまったことで話は流れましたが、また探してもらうつもりです」

「……」
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