上 下
19 / 35

進まぬ作業

しおりを挟む
隣国ゼルベスの王城の武器修繕室にて手伝いを始めた。まずは短時間から始めるのが伯母様から許しを得る条件だった。

「ユリナちゃん、コツとかあるのかい?」

「コツ…無いです。ただ刃物の気持ちにはなっています。スベスベの手触りを目指したら切れ味も良くなりました」

アルバートさん達は最初は“リシュー様”と呼び敬語を使っていた。お父様よりも歳上の方々で、職場の先輩だから止めてもらった。

「…そうか。頑張るよ」

「私は仕上げ担当ですので優しく丁寧に磨くだけです。刃毀れに対応なさっている皆様とは同じ作業にはなりませんから」

「じゃあ、仕上げに挑戦してみよう」

そんなことを言っていると誰かが入室した。

アルバートさんは直立し敬礼した。

私も真似てみた。

「ククッ…可愛らしい敬礼をありがとう。
私は王族親衛隊長ウィルソンだ。彼は副隊長のゼニエ。見学をしてもいいかな」

私はアルバートさんを見た。

「隊長達はユリナちゃんを見に来たんだ。だからユリナちゃんが返事をしなさい」

「どうぞ。ですがあまり近寄らないようお願いします」

「駄目か?」

「緊張して失敗したり怪我をしたくありませんので」

「分かった」


見学者が帰ると次は兵団長と副兵団長が見学しに来て、帰ると次はイオス服騎士団長がカッセル騎士団長を連れて来て見学をした。

「リシュー嬢、昼食を食べに行こう」

チラッとアルバートさんを見た。

「行っておいで。ついでに差し入れを強請ってくるんだよ」

騎士団長がアルバートさんを見ると アルバートさんは顔を逸らして仕事に戻った。


大きな身体のお二人の後ろを歩くと前が全く見えない。
油断していると、

ドン

「いたっ」

二人が止まったことに気付かず ぶつかってしまった。

二人は振り返り 私を見下ろした。

「何だか親鳥になった気分だな」

「ええ。産まれたてだと危ないですね」

イオス服騎士団長は私の手を取り自身の腕を掴ませた。

「エスコートをしよう、お嬢さん」

堅物な感じの副団長が艶っぽい微笑みを浮かべた。

「っ! 副団長はですか」

「ハハッ そうそう。こいつは無愛想なクセにたらしなんだよ」

カッセル団長が笑いながら副団長を揶揄った。

「失礼な。そんなはずはありません。私はいつだって、」

「分かった、分かった。無自覚だからタチが悪い。リシュー嬢は引っかからないようにね」

「が、頑張ります。
魔性という言葉がありますが、実物に会うとは思いませんでした」

「だろう?」

「誰がだ」

「これでは恋愛は難しいかもしれませんね」

「……」

「リシュー嬢にも分かっちゃったか」

「何故駄目なんだ」

「だって、副団長を好きになればなるほど胸が苦しくなりますでしょう?
無自覚にその微笑みを発動しているのであれば気を付けることもできませんし、いきなり胸を貫かれた女性はマタタビをチラつかされた猫のように副団長を欲するでしょうから。
本命と揉めるのは避けられません」

「……」

「リシュー嬢の好みのタイプは?」

「…誠実さです。私を絶対に裏切らない人です」

「……」

「そうか。顔は?」

「美しい男性は嫌です」

「後は?」

「出来れば身分の高い方も嫌です。お金持ちじゃなくて平凡な方がいいです。穏やかな性格だといいです」

「……」

「具体的だな」


到着した先は上層部専用の食堂で間仕切りをしてある席だった。

食事をしていると2人が急に立ち上がった。

「「ジーン殿下にご挨拶を申し上げます」」

王族だ!

慌てて立ち、カーテシーをした。

「コレは誰だ?見ぬ顔だな」

コレ?

「我々がお願いをして来ていただいております」

「可愛くも美人でもない小娘を?」

私が小娘なら貴方は小僧じゃない。

「剣研ぎをしてもらっています」

「は?この小娘に?ゼルベスも落ちたものだな」

「殿下、そのようなことは仰らないでいただきたい」

「フンっ この小娘がやれると言うのなら、俺は神剣でも作り出せるぞ。小娘より俺の方がマシだ」

私は顔を上げてニッコリ微笑んだ。

「…なんだ」

「……」

「言えよ」

「証明してください」

「は?」

「高貴なお方の発言に嘘偽りがないことを証明してくださいませ」

「なっ!」

「まさか、小娘相手に撤回なさいますか?
どうぞ、大きな声で“間違っていました”と撤回なさってください」

「よし、分かった。俺が勝ったら女のくせに生意気に剣研ぎなどせず下女でもやれよ」

「では、殿下が負けたらどうなさいますか?」

「リシュー嬢っ」

「フン。王都を裸で一周してやる」

「では、ここで大声で宣言してください。皆様に証人になっていただきましょう」

「大袈裟だなぁ」

「負けるからですか?」

「ハッ!いい度胸だ。
みんなよく聞け!」

王子は食堂で大声で賭けの内容を告げた。

「殿下…」

「陛下にお知らせするか」

「もう殿下の侍従が走って行きましたよ」

「で、いつにする?」

「今です」

「今?」

「今です。私が負けたら直ぐに殿下の靴を磨きます」

「よし、いいだろう」



修繕室に移動して、目を泳がせるアルバートさん達を観客にして仕上げの優劣を競った。

「嘘だろう!?」

「殿下、刃をガタガタにしてどうなさるのですか」

「っ! まぐれだ!もう一本!」

「もったいないので、殿下はご自分の剣をお使いください」

「こ、これは父上から成人祝いに貰った剣だぞっ」

「だから何ですか?殿下なら神剣に変えられると仰っていたではありませんか」

「クッソ!」

「裸で王都一周 楽しみですわぁ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ
恋愛
 伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。  大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。  三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?  深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

処理中です...