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進まぬ作業
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隣国ゼルベスの王城の武器修繕室にて手伝いを始めた。まずは短時間から始めるのが伯母様から許しを得る条件だった。
「ユリナちゃん、コツとかあるのかい?」
「コツ…無いです。ただ刃物の気持ちにはなっています。スベスベの手触りを目指したら切れ味も良くなりました」
アルバートさん達は最初は“リシュー様”と呼び敬語を使っていた。お父様よりも歳上の方々で、職場の先輩だから止めてもらった。
「…そうか。頑張るよ」
「私は仕上げ担当ですので優しく丁寧に磨くだけです。刃毀れに対応なさっている皆様とは同じ作業にはなりませんから」
「じゃあ、仕上げに挑戦してみよう」
そんなことを言っていると誰かが入室した。
アルバートさんは直立し敬礼した。
私も真似てみた。
「ククッ…可愛らしい敬礼をありがとう。
私は王族親衛隊長ウィルソンだ。彼は副隊長のゼニエ。見学をしてもいいかな」
私はアルバートさんを見た。
「隊長達はユリナちゃんを見に来たんだ。だからユリナちゃんが返事をしなさい」
「どうぞ。ですがあまり近寄らないようお願いします」
「駄目か?」
「緊張して失敗したり怪我をしたくありませんので」
「分かった」
見学者が帰ると次は兵団長と副兵団長が見学しに来て、帰ると次はイオス服騎士団長がカッセル騎士団長を連れて来て見学をした。
「リシュー嬢、昼食を食べに行こう」
チラッとアルバートさんを見た。
「行っておいで。ついでに差し入れを強請ってくるんだよ」
騎士団長がアルバートさんを見ると アルバートさんは顔を逸らして仕事に戻った。
大きな身体のお二人の後ろを歩くと前が全く見えない。
油断していると、
ドン
「いたっ」
二人が止まったことに気付かず ぶつかってしまった。
二人は振り返り 私を見下ろした。
「何だか親鳥になった気分だな」
「ええ。産まれたてだと危ないですね」
イオス服騎士団長は私の手を取り自身の腕を掴ませた。
「エスコートをしよう、お嬢さん」
堅物な感じの副団長が艶っぽい微笑みを浮かべた。
「っ! 副団長はたらしですか」
「ハハッ そうそう。こいつは無愛想なクセにたらしなんだよ」
カッセル団長が笑いながら副団長を揶揄った。
「失礼な。そんなはずはありません。私はいつだって、」
「分かった、分かった。無自覚だからタチが悪い。リシュー嬢は引っかからないようにね」
「が、頑張ります。
魔性という言葉がありますが、実物に会うとは思いませんでした」
「だろう?」
「誰がだ」
「これでは恋愛は難しいかもしれませんね」
「……」
「リシュー嬢にも分かっちゃったか」
「何故駄目なんだ」
「だって、副団長を好きになればなるほど胸が苦しくなりますでしょう?
無自覚にその微笑みを発動しているのであれば気を付けることもできませんし、いきなり胸を貫かれた女性はマタタビをチラつかされた猫のように副団長を欲するでしょうから。
本命と揉めるのは避けられません」
「……」
「リシュー嬢の好みのタイプは?」
「…誠実さです。私を絶対に裏切らない人です」
「……」
「そうか。顔は?」
「美しい男性は嫌です」
「後は?」
「出来れば身分の高い方も嫌です。お金持ちじゃなくて平凡な方がいいです。穏やかな性格だといいです」
「……」
「具体的だな」
到着した先は上層部専用の食堂で間仕切りをしてある席だった。
食事をしていると2人が急に立ち上がった。
「「ジーン殿下にご挨拶を申し上げます」」
王族だ!
慌てて立ち、カーテシーをした。
「コレは誰だ?見ぬ顔だな」
コレ?
「我々がお願いをして来ていただいております」
「可愛くも美人でもない小娘を?」
私が小娘なら貴方は小僧じゃない。
「剣研ぎをしてもらっています」
「は?この小娘に?ゼルベスも落ちたものだな」
「殿下、そのようなことは仰らないでいただきたい」
「フンっ この小娘がやれると言うのなら、俺は神剣でも作り出せるぞ。小娘より俺の方がマシだ」
私は顔を上げてニッコリ微笑んだ。
「…なんだ」
「……」
「言えよ」
「証明してください」
「は?」
「高貴なお方の発言に嘘偽りがないことを証明してくださいませ」
「なっ!」
「まさか、小娘相手に撤回なさいますか?
どうぞ、大きな声で“間違っていました”と撤回なさってください」
「よし、分かった。俺が勝ったら女のくせに生意気に剣研ぎなどせず下女でもやれよ」
「では、殿下が負けたらどうなさいますか?」
「リシュー嬢っ」
「フン。王都を裸で一周してやる」
「では、ここで大声で宣言してください。皆様に証人になっていただきましょう」
「大袈裟だなぁ」
「負けるからですか?」
「ハッ!いい度胸だ。
みんなよく聞け!」
王子は食堂で大声で賭けの内容を告げた。
「殿下…」
「陛下にお知らせするか」
「もう殿下の侍従が走って行きましたよ」
「で、いつにする?」
「今です」
「今?」
「今です。私が負けたら直ぐに殿下の靴を磨きます」
「よし、いいだろう」
修繕室に移動して、目を泳がせるアルバートさん達を観客にして仕上げの優劣を競った。
「嘘だろう!?」
「殿下、刃をガタガタにしてどうなさるのですか」
「っ! まぐれだ!もう一本!」
「もったいないので、殿下はご自分の剣をお使いください」
「こ、これは父上から成人祝いに貰った剣だぞっ」
「だから何ですか?殿下なら神剣に変えられると仰っていたではありませんか」
「クッソ!」
「裸で王都一周 楽しみですわぁ」
「ユリナちゃん、コツとかあるのかい?」
「コツ…無いです。ただ刃物の気持ちにはなっています。スベスベの手触りを目指したら切れ味も良くなりました」
アルバートさん達は最初は“リシュー様”と呼び敬語を使っていた。お父様よりも歳上の方々で、職場の先輩だから止めてもらった。
「…そうか。頑張るよ」
「私は仕上げ担当ですので優しく丁寧に磨くだけです。刃毀れに対応なさっている皆様とは同じ作業にはなりませんから」
「じゃあ、仕上げに挑戦してみよう」
そんなことを言っていると誰かが入室した。
アルバートさんは直立し敬礼した。
私も真似てみた。
「ククッ…可愛らしい敬礼をありがとう。
私は王族親衛隊長ウィルソンだ。彼は副隊長のゼニエ。見学をしてもいいかな」
私はアルバートさんを見た。
「隊長達はユリナちゃんを見に来たんだ。だからユリナちゃんが返事をしなさい」
「どうぞ。ですがあまり近寄らないようお願いします」
「駄目か?」
「緊張して失敗したり怪我をしたくありませんので」
「分かった」
見学者が帰ると次は兵団長と副兵団長が見学しに来て、帰ると次はイオス服騎士団長がカッセル騎士団長を連れて来て見学をした。
「リシュー嬢、昼食を食べに行こう」
チラッとアルバートさんを見た。
「行っておいで。ついでに差し入れを強請ってくるんだよ」
騎士団長がアルバートさんを見ると アルバートさんは顔を逸らして仕事に戻った。
大きな身体のお二人の後ろを歩くと前が全く見えない。
油断していると、
ドン
「いたっ」
二人が止まったことに気付かず ぶつかってしまった。
二人は振り返り 私を見下ろした。
「何だか親鳥になった気分だな」
「ええ。産まれたてだと危ないですね」
イオス服騎士団長は私の手を取り自身の腕を掴ませた。
「エスコートをしよう、お嬢さん」
堅物な感じの副団長が艶っぽい微笑みを浮かべた。
「っ! 副団長はたらしですか」
「ハハッ そうそう。こいつは無愛想なクセにたらしなんだよ」
カッセル団長が笑いながら副団長を揶揄った。
「失礼な。そんなはずはありません。私はいつだって、」
「分かった、分かった。無自覚だからタチが悪い。リシュー嬢は引っかからないようにね」
「が、頑張ります。
魔性という言葉がありますが、実物に会うとは思いませんでした」
「だろう?」
「誰がだ」
「これでは恋愛は難しいかもしれませんね」
「……」
「リシュー嬢にも分かっちゃったか」
「何故駄目なんだ」
「だって、副団長を好きになればなるほど胸が苦しくなりますでしょう?
無自覚にその微笑みを発動しているのであれば気を付けることもできませんし、いきなり胸を貫かれた女性はマタタビをチラつかされた猫のように副団長を欲するでしょうから。
本命と揉めるのは避けられません」
「……」
「リシュー嬢の好みのタイプは?」
「…誠実さです。私を絶対に裏切らない人です」
「……」
「そうか。顔は?」
「美しい男性は嫌です」
「後は?」
「出来れば身分の高い方も嫌です。お金持ちじゃなくて平凡な方がいいです。穏やかな性格だといいです」
「……」
「具体的だな」
到着した先は上層部専用の食堂で間仕切りをしてある席だった。
食事をしていると2人が急に立ち上がった。
「「ジーン殿下にご挨拶を申し上げます」」
王族だ!
慌てて立ち、カーテシーをした。
「コレは誰だ?見ぬ顔だな」
コレ?
「我々がお願いをして来ていただいております」
「可愛くも美人でもない小娘を?」
私が小娘なら貴方は小僧じゃない。
「剣研ぎをしてもらっています」
「は?この小娘に?ゼルベスも落ちたものだな」
「殿下、そのようなことは仰らないでいただきたい」
「フンっ この小娘がやれると言うのなら、俺は神剣でも作り出せるぞ。小娘より俺の方がマシだ」
私は顔を上げてニッコリ微笑んだ。
「…なんだ」
「……」
「言えよ」
「証明してください」
「は?」
「高貴なお方の発言に嘘偽りがないことを証明してくださいませ」
「なっ!」
「まさか、小娘相手に撤回なさいますか?
どうぞ、大きな声で“間違っていました”と撤回なさってください」
「よし、分かった。俺が勝ったら女のくせに生意気に剣研ぎなどせず下女でもやれよ」
「では、殿下が負けたらどうなさいますか?」
「リシュー嬢っ」
「フン。王都を裸で一周してやる」
「では、ここで大声で宣言してください。皆様に証人になっていただきましょう」
「大袈裟だなぁ」
「負けるからですか?」
「ハッ!いい度胸だ。
みんなよく聞け!」
王子は食堂で大声で賭けの内容を告げた。
「殿下…」
「陛下にお知らせするか」
「もう殿下の侍従が走って行きましたよ」
「で、いつにする?」
「今です」
「今?」
「今です。私が負けたら直ぐに殿下の靴を磨きます」
「よし、いいだろう」
修繕室に移動して、目を泳がせるアルバートさん達を観客にして仕上げの優劣を競った。
「嘘だろう!?」
「殿下、刃をガタガタにしてどうなさるのですか」
「っ! まぐれだ!もう一本!」
「もったいないので、殿下はご自分の剣をお使いください」
「こ、これは父上から成人祝いに貰った剣だぞっ」
「だから何ですか?殿下なら神剣に変えられると仰っていたではありませんか」
「クッソ!」
「裸で王都一周 楽しみですわぁ」
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