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【リリー】嘘

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【 リリー・フォンヌの視点 】


早朝、ロジェ様は慌てて帰ってしまった。
だけど既成事実は作った。後はロジェ様を縛るあの女を追い詰めるだけ。

多くのお茶会やパーティで私とロジェ様が熱い一夜を過ごしたことを話して回った。

お父様は頭を抱えた。先ずはロジェ様と話をすると言った。だけどお父様の手紙にも私の手紙にも応じなかった。

『リリー、本当にエンヴェル侯爵令息と?』

『無理矢理じゃないのだな?』

『はい。純潔を捧げました。
酔ってしまって、あまり歩けないので近い部屋に送ってもらったときに そういう雰囲気になりました』

『では、エンヴェル侯爵に直接、』

『もう少し待ってください。婚約者がいて混乱しているだけです。気持ちの整理をつける時間を差し上げないと』

『分かった』


だけど一向にロジェ様は会おうとしなかった。

だからリシュー嬢に直接会おうと思ったら、忙しくて会えないと返事が帰ってきた。何様なの!?

もう一度手紙を出すと、ゲルズベル邸からは不在だと返事が返ってきた。
仕方なくリシュー邸に行くとリシュー嬢に会えた。

ロジェ様と関係を持ったことを伝えても彼女は折れなかった。しかも、彼女はロジェ様と初夜を終えたと口にした。だからつい…妊娠したと告げた。

彼女の顔色が悪くなった。追い詰めて、結局エンヴェル侯爵次第だと言われリシュー邸を後にした。

困ったことになった。公爵令嬢の私との既成事実で上手くいくと思ったのに。
妊娠したと言った以上、もう後には引けない。
ロジェ様と同じ色の男を1週間連続で交わった。

妊娠した。


あれから、ロジェ様とあの女の挙式がキャンセルされ、婚約破棄となり大騒ぎとなった。

そして、ロジェ様から次の王女様のお茶会にエスコートしたいと連絡があり喜んだ。やっと、やっと私を見てくれる。

ドレスを贈ってくれたけど…

「これ、変わったデザインね」

「…ご懐妊中のご婦人用のドレスです」

前の専属メイドが辞めたので、臨時のベテランメイドが答えた。

「そうなのね」

仕方なくそれを着た。


ロジェ様が迎えに来て、会場へ到着すると皆の視線が一気に私の下腹部に集中した。

「どうかしましたか?リリー嬢」

「い、いえ」

席は真ん中だった。

王女が、自身の結婚式の話をしていた。

「あと1年足らずでこの国や皆様とお別れなんて寂しくてしかたないわ」

「私達もですわ」

そんな話をしていたはずなのに、

「ところで、フォンヌ嬢は何ヶ月なのかしら」

「はい?」

「妊娠中と聞いたわよ?」

皆の目が冷たいことに気が付いた。隣にはロジェ様がいるのに。

「…もうすぐ4ヶ月です」

本当は2ヶ月だ。

「まあ、婚姻はどうなさるの?お一人で育てるの?」

「え? 一人だなんて…もちろんロジェ様と大切に育てます」

「俺はその胎の子の父親になるつもりはありませんよ」

「え?」

「エンヴェル侯爵家としても俺個人としても、今 フォンヌ嬢の胎の中にいる子を認知する気も育てる気もありません。好きにしてください」

ざわざわと出席者達が騒ぎ出した。

「そんな、あの夜、」

「確かに!……確かにフォンヌ嬢の誕生日のパーティに呼ばれて出席しました。それはフォンヌ公爵から、“娘を諦めさせるから出席して欲しい”と頼まれたからです。エスコートしたのもダンスをしたのも、フォンヌ嬢に諦めるための想い出が欲しいと言われたからです。酔ったというフォンヌ嬢を部屋に送ったのは、婚約者のユリナが将来社交に出たときのことで脅しをかけられたからです。もちろんメイドも一緒でした。
ですが、幻覚剤入りの飲み物を摂取させられて、フォンヌ嬢と一夜のを持ってしまったようですが、私の記憶は婚約者のユリナを思う存分抱いている記憶しかないのです」

「っ!」

今度は軽蔑と哀れみの視線が向けられた。

「幻覚剤なんて、」

「フォンヌ嬢の専属メイドを捕らえたら自白しましたよ。脅されて幻覚剤を手に入れたこと、飲み物に混ぜて摂取するよう仕向けたこと全部」

辞めたんじゃなくて捕まっていたの!?

「し、知らないわ」

「それに、俺はまだユリナを孕ますつもりはありません。だから避妊薬が側に無いところでは、ナカには出さないんですよ。よく、馬車の中で交わるからサッと拭く癖があります。つまり、間違えてフォンヌ嬢と交わったとしても腹の上に出してサッと拭いたはずなのです。だから妊娠の可能は低い。だが確率がゼロではありません。今はっきりさせましょう。本当に妊娠しているのか」

「私も実に興味深い。フォンヌ嬢、私と宮廷医の所へ行くわよ」

「お、王女様っ、私は、」

「言っておくけど拒否権は無いわよ?
貴女のしたことは女の敵、貴族の敵と言ってもいいくらいの行為なの。

この令嬢を連れて行きなさい」

兵士達が私の腕を掴んで無理矢理連れて行く。
王女とロジェ様がついて来る。

「嫌!放して!」

まだ早い!確認できるかわからない!


そして医師の言葉にホッとした。

「確かに、フォンヌ公女は妊娠なさっております」

「間違いありませんか?」

「はい。色が変わりましたので」

「そんな…」

ロジェ様の表情は絶望といった感じになった。

「ただ、4ヶ月のような気はしませんが」

「!!」

「怪しいわね。
エンヴェル侯爵とフォンヌ公爵を呼び出して。揃うまで この女を客室に入れて軟禁してちょうだい」

「王女様っ!」


出入口を女性兵士が立ち、メイドが常に私から離れない。エンヴェル侯爵が領地にいて時間がかかり1週間軟禁された。

妊娠は あの女を諦めさせるために咄嗟についた嘘だった。
茶会などで思わせぶりに下腹部を摩っていたのは、妊娠するようにと 奇跡を起こす願掛けだった。

他の男と交わってロジェ様の子と偽ってしまったらもう引き返せない。
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