【完結】さようならと言うしかなかった。

ユユ

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【リリー】賭け

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【 リリー・フォンヌの視点 】


まるで婚約者同士のような2人が目の前でダンスを踊っていた。

『聞きました?リシュー嬢はエンヴェル侯爵令息とエンヴェル領に長期休暇の度に行っていらしたらしいのです』

『まあ!』

『滞在先もエンヴェル邸だったとか』

『では、リシュー嬢は侯爵公認の恋人ですのね』

『当然夫人もいらっしゃるはずですもの。愛人ではなく公認の恋人ですわ』

『どうして婚約なさらないのかしら』

何故あの女なの!?


卒業後、ユリナ・リシューとエンヴェル家の繋がりについて本格的な調査を入れて欲しいとお願いした。
だけど、その結果が分かる前に知らされた。

『お父様、お母様、お話ってなんですか?』

『座りなさい』

いつになく真剣な顔をしたお父様と頭を抱えるお母様に不安が過ぎる。

『リリー。ロジェ・エンヴェルのことはキッパリと諦めなさい』

『嫌です!!』

『ロジェ・エンヴェルとユリナ・リシューの婚約が発表された』

『えっ…』

『在学中からエンヴェル家が縁談を持ちかけたり、令息が直接求婚をしていたようだけど、子爵も令嬢も断り続けていたらしいの』

『嘘』

『折れて受け入れたのだろう。もう諦めなければならない』

『お父様とお母様は許されて、どうして私は駄目なのですか!!お二人はそれぞれ別に婚約者がいたのに思いを遂げたではありませんか!!』

『リリー!!』

『私だって、』

『私達は両想いだけど、貴女は違うわ』

『あれは愛人よ!惑わされただけ!
正気に戻って私を知れば、』

『リリー。正気に戻るのはお前の方だ。公爵令嬢としてみっともない真似は止めなさい』

『お父様っ』

『リリー。調査をしたけど、貴女はリシュー嬢に敵わないわ』

『お母様!?』

『新しくエンヴェル家が考案した宝石のカットはエンヴェルカットと呼ばれているけど、考案はリシュー嬢よ。エンヴェル領へ行っていたのは職人に研磨の仕方を教えるためなの。エンヴェルカットは商品登録されているからエンヴェル家の一人勝ち。領地で採れた宝石を更に価値を付けて販売しているから、エンヴェルは更に豊かになっているわ。
彼女は子爵令嬢だけれど、エンヴェル家に富をもたらす存在だと証明したの。これは政略結婚でもあるわ。貴女は選ばれることはないのよ』

『分かったら部屋へ戻って気持ちの整理をしなさい』

部屋に戻りバルコニーから夜空を眺めた。

ロジェ様は選択肢が無かったのよ。彼女を愛しているわけじゃなくて、エンヴェル家の利益のために犠牲になったのよ。

だったら私が救ってあげないと。


何か方法がないかと悩んでいた。
そんな中、ある夜会でいい話を耳にした。
お花摘みに行こうとシガールームの前を通りかかった時のことだ。

《凄かったぞ。普段横になっているだけの妻が積極的に腰を振るのだから》

《媚薬じゃないのか?》

《違うんだ。幻覚剤だよ。飲むと欲望が露わになるらしい。妻が何を考えているか試したら、したこともないのにボタンを外してモノを取り出して咥えたよ。淑女を守っていただけだったんだな。
だけど使用中の記憶が無くなるから、元通り。夜は淑女じゃなくていいって教えたいけど、まさか幻覚剤を使ったなんて言えないしな》

《俺も使ってみようかな》

《ジャンの例は成功例だろう。罵られたり刺されたらどうするつもりだよ》

《場合によっては違う男の名を呼ぶかも知れないしな。欲望を露わにするのだから、個々で違うだろう?嫌いな奴を殺したいと思っていたら、嫌いな奴だと誤認して殺しにかかって来るぞ。好きな男がいるのならその男の名を呼びながらヤろうと誘われるし》

《間違っても自分で飲んでは駄目だな》

《どうやって手に入れてるんだよ》

《北の王都の外れの……》

これだと思った。


帰って専属メイドに幻覚剤を手に入れてこいと命じた。

『お嬢様、無理です』

『いいのよ?あなたが私の宝石を何度か盗んでいたことをバラしても』

『盗んでいません!』

『私がそう言えば、あなたは盗んだことになるの。だってもうあなたの部屋に隠したもの』

『お嬢様っ』

『両手を切り落とされて追放ね』

『そんな!』

『簡単よ。入手すればいいの』

『どうやって』

『ダニーという町医者の助手が販売しているって聞いたわ。“ジャン・セジーの紹介”と言えばいいわ。
場所は……』


後はロジェ様を誘い出すだけ。

私の誕生日のパーティに絶対に招待してくれと両親に頼んだ。“恋を終わらすために必要なの。見合いをするから”と言うと、渋々応じてくれた。


パーティ当日、本当にロジェ様が現れた。

『フォンヌ嬢、誕生日おめでとうございます』

『ありがとうございます、ロジェ様』

『俺のことは家名で呼んでください』

『今夜だけ…今夜だけ私をリリーと呼んでください。
想い出を作ってキッパリ諦めますわ。お詫びにリシュー家で作っている商品を大量に購入しますわ』

『……分かりました』

『エスコートしてくださる?リシュー嬢との馴れ初めなどを聞かせてくださるかしら。私の今後のお見合いの参考にしたいのです』

『どうぞ、リリー嬢』

ロジェ様が腕を差し出した。

『ありがとうございます』


お酒を飲んでダンスも踊り、パーティも終盤だった。専属メイドに目配せをする。予め、幻覚剤入りの飲み物とそうでない飲み物を用意させておいた部屋へ誘い込まないと。

『ロジェ様、酔ったみたい。近くの部屋まで送ってくださる?』

『使用人に、』

『ロジェ様、リシュー嬢は社交は得意なのかしら』

『何が言いたい』

『女の社交場に毎回ついて来られるの?標的になったりしない?子爵令嬢が侯爵令息と結ばれたら標的にされるわよ?
ロジェ様が今夜、最後まで紳士的に優しくしてくだされば、私はリシュー嬢に手を出さないし、寧ろ守って差し上げるわ』

『……』

『メイドも一緒なのよ?男の貴方をどうこうできる力は無いわ』

『最後だぞ』

『ええ、もちろん』


メイドと一緒に私を近くの部屋まで送ったロジェ様に飲み物を取ってとお願いした。味見をして甘い方が欲しいと言った。濃く作った幻覚剤入りのジュースは一口で十分。効き目は早いらしいが時間を稼ぐためにジュースを溢した。

『拭く布が入っているから取ってくださる?』

布を持ってきたロジェ様の瞳孔は開いていた。










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