10 / 35
婚約破棄
しおりを挟む
【 ロジェの視点 】
嫌な予感しかしない。
父上が領地に俺を呼び戻した。
到着すると兄上が険しい顔をして俺を出迎えた…というより、罪人を捕まえて連行しているといった方が正しい表現だろう。
連れてこられたのは三階の空き部屋だった。
椅子とテーブルだけが置かれ、そこにメイドが飲み物を置いて退室した。
母上は呼ばないのか。
「先にお前の口から事実確認をしたい。フォンヌ公爵家の次女リリー公女と関係を持ったのは本当か」
「……そのようです」
「説明をしろ」
「パーティでリリー公女が酔ったので部屋に連れて行って欲しいと頼まれました。
連れて行ってベッドに座らせました。テーブルの上の飲み物を取ってくれと言われて取ろうとしたら同じ色の飲み物が2種類ありました。甘い方が飲みたいから飲んで確かめてくれと言われ一口。
両方飲んでみて甘い方を渡しました。ですが彼女はグラスを落としてドレスを濡らしてしまったのです。メイドを呼ぼうとしましたが、棚の布を取ってと言われ取って渡しました。
その後の記憶が無く、起きたらリリー公女と裸で寝ていました。既に窓からは陽の光が漏れていて、シーツに少量の血が。
どういうことか分からず公女に聞くと、情熱的な夜を過ごしたと」
「全く記憶が無いのか」
「……公女との記憶ではなく、ユリナとの交わりの記憶が断片的に残っていて、よく分かりません。とにかく避妊薬を使うようにお願いしました」
「その後は?」
「何度か会いたいと手紙が届きましたが、断りの返事を出しました」
「いつの話だ」
「2ヶ月以上前です」
「そんな大事なことを何故報告しないんだ!」
「どうしても納得がいかなくて、調査を依頼しました。俺がユリナ以外の女に手を出すなんて考えられないのです」
そこで兄が、
「昨年 夜会で聞いたことがあります。柑橘系の皮のような渋味のある味の幻覚剤があると。
それを飲むと、飲んだ者の欲望が幻覚となって現れるそうです。数時間経つと効果が切れるそうで、罰ゲームで男だけの酒の場で飲ませて欲望を曝け出させて遊んでいると聞きました」
「柑橘系のジュースで、一つは普通で一つは渋めでした」
「はぁ…盛られたのだな。
だとすると、お前はユリナにしたい願望をリリー公女にしたということだろう。
参ったな。
よく聞け。リシュー子爵家とゲルズベル伯爵家が激怒していて、婚約破棄を告げてきた」
「ユリナが知ったということですか」
「問題のパーティでお前が公女と消えた後に戻らなかったことを出席者の多くが知っていて、更に公女があちこちで言いふらしているらしい。
先日 公女がリシュー邸に出向いてユリナに身を引くよう迫ったようだ。
ユリナではお前に相応しくないとか、事業のことで恩を売って婚約したのだろうとか、ロジェの子を婚外子にしたくないだろうとか言ったようだ。
ユリナは“エンヴェル侯爵が決めること”だと追い返したらしいが、元々はロジェが既成事実で成した婚約だ。それなのに身分の高い令嬢と一夜を過ごして子を成すなど許せない、事業に関しての契約も全て引き上げて婚約も解消ではなく破棄にする、ユリナは気付いているから二度と近寄るなと子爵の手紙には書いてあった」
「妊娠!?」
「公女のことを彼女は何て?」
「ユリナには会っていません」
「は?」
「裏を掴んでからと思いまして」
「まさか、パーティ後に一度も会っていないのか!」
「はい」
「悪手だよ、パーティの翌日にはロジェの口から説明しないと」
「ならば破棄は頷けるな。
今から幻覚剤のことを伝えても信じてはもらえないだろう」
「ユリナと別れるなんて嫌です!」
「面会の申し入れをしてみるが、断られたら我々は忙しくなるからお前にかまっていられない」
「え?」
「ロジェとユリナの婚約の条件は、ロジェがユリナを愛していて誠実であることだった。
別の女と寝て 会って説明責任も果たさず、不貞相手が孕んでいると直談判に行ってしまった以上 不誠実極まりないということになる。
既成事実後の誠意と信頼のために あの技術とデザインの権利は譲渡ではなく貸し出しになったんだ。破ればユリナが教えてくれた研磨方法とデザインを使わないと約束をしているんだ。
店頭の全てのエンヴェルカットの宝石を下げて、昔ながらのカットにし直すしかないし、貴族達からの受注分をキャンセルにしなくてはならない。詫びに回らねばならないだろう」
「王族からの受注も問題だ。
このキャンセルで多くの客が他の店に流れるだろう。原石を卸すだけになるかもしれない。
それに加えて貴族令嬢の純潔を奪った慰謝料と既に式の招待状が送られた段階の慰謝料は相当額だ。
没落することはないが エンヴェルは大打撃だ。その対応で私達は精一杯だろう。
公女との話し合いもしなくてはならない」
「申し訳ございません」
その後 すぐに、ユリナに会いたいと手紙を出すが子爵が断ってしまう。
なんとかするために 父上と一緒にゲルズベル領のリシュー邸に向かった。
到着したが全く歓迎などされていない。
応接間に通してもらうとゲルズベル伯爵とアランまでいた。アランは家族の仇を見たような顔をした。
嫌な予感しかしない。
父上が領地に俺を呼び戻した。
到着すると兄上が険しい顔をして俺を出迎えた…というより、罪人を捕まえて連行しているといった方が正しい表現だろう。
連れてこられたのは三階の空き部屋だった。
椅子とテーブルだけが置かれ、そこにメイドが飲み物を置いて退室した。
母上は呼ばないのか。
「先にお前の口から事実確認をしたい。フォンヌ公爵家の次女リリー公女と関係を持ったのは本当か」
「……そのようです」
「説明をしろ」
「パーティでリリー公女が酔ったので部屋に連れて行って欲しいと頼まれました。
連れて行ってベッドに座らせました。テーブルの上の飲み物を取ってくれと言われて取ろうとしたら同じ色の飲み物が2種類ありました。甘い方が飲みたいから飲んで確かめてくれと言われ一口。
両方飲んでみて甘い方を渡しました。ですが彼女はグラスを落としてドレスを濡らしてしまったのです。メイドを呼ぼうとしましたが、棚の布を取ってと言われ取って渡しました。
その後の記憶が無く、起きたらリリー公女と裸で寝ていました。既に窓からは陽の光が漏れていて、シーツに少量の血が。
どういうことか分からず公女に聞くと、情熱的な夜を過ごしたと」
「全く記憶が無いのか」
「……公女との記憶ではなく、ユリナとの交わりの記憶が断片的に残っていて、よく分かりません。とにかく避妊薬を使うようにお願いしました」
「その後は?」
「何度か会いたいと手紙が届きましたが、断りの返事を出しました」
「いつの話だ」
「2ヶ月以上前です」
「そんな大事なことを何故報告しないんだ!」
「どうしても納得がいかなくて、調査を依頼しました。俺がユリナ以外の女に手を出すなんて考えられないのです」
そこで兄が、
「昨年 夜会で聞いたことがあります。柑橘系の皮のような渋味のある味の幻覚剤があると。
それを飲むと、飲んだ者の欲望が幻覚となって現れるそうです。数時間経つと効果が切れるそうで、罰ゲームで男だけの酒の場で飲ませて欲望を曝け出させて遊んでいると聞きました」
「柑橘系のジュースで、一つは普通で一つは渋めでした」
「はぁ…盛られたのだな。
だとすると、お前はユリナにしたい願望をリリー公女にしたということだろう。
参ったな。
よく聞け。リシュー子爵家とゲルズベル伯爵家が激怒していて、婚約破棄を告げてきた」
「ユリナが知ったということですか」
「問題のパーティでお前が公女と消えた後に戻らなかったことを出席者の多くが知っていて、更に公女があちこちで言いふらしているらしい。
先日 公女がリシュー邸に出向いてユリナに身を引くよう迫ったようだ。
ユリナではお前に相応しくないとか、事業のことで恩を売って婚約したのだろうとか、ロジェの子を婚外子にしたくないだろうとか言ったようだ。
ユリナは“エンヴェル侯爵が決めること”だと追い返したらしいが、元々はロジェが既成事実で成した婚約だ。それなのに身分の高い令嬢と一夜を過ごして子を成すなど許せない、事業に関しての契約も全て引き上げて婚約も解消ではなく破棄にする、ユリナは気付いているから二度と近寄るなと子爵の手紙には書いてあった」
「妊娠!?」
「公女のことを彼女は何て?」
「ユリナには会っていません」
「は?」
「裏を掴んでからと思いまして」
「まさか、パーティ後に一度も会っていないのか!」
「はい」
「悪手だよ、パーティの翌日にはロジェの口から説明しないと」
「ならば破棄は頷けるな。
今から幻覚剤のことを伝えても信じてはもらえないだろう」
「ユリナと別れるなんて嫌です!」
「面会の申し入れをしてみるが、断られたら我々は忙しくなるからお前にかまっていられない」
「え?」
「ロジェとユリナの婚約の条件は、ロジェがユリナを愛していて誠実であることだった。
別の女と寝て 会って説明責任も果たさず、不貞相手が孕んでいると直談判に行ってしまった以上 不誠実極まりないということになる。
既成事実後の誠意と信頼のために あの技術とデザインの権利は譲渡ではなく貸し出しになったんだ。破ればユリナが教えてくれた研磨方法とデザインを使わないと約束をしているんだ。
店頭の全てのエンヴェルカットの宝石を下げて、昔ながらのカットにし直すしかないし、貴族達からの受注分をキャンセルにしなくてはならない。詫びに回らねばならないだろう」
「王族からの受注も問題だ。
このキャンセルで多くの客が他の店に流れるだろう。原石を卸すだけになるかもしれない。
それに加えて貴族令嬢の純潔を奪った慰謝料と既に式の招待状が送られた段階の慰謝料は相当額だ。
没落することはないが エンヴェルは大打撃だ。その対応で私達は精一杯だろう。
公女との話し合いもしなくてはならない」
「申し訳ございません」
その後 すぐに、ユリナに会いたいと手紙を出すが子爵が断ってしまう。
なんとかするために 父上と一緒にゲルズベル領のリシュー邸に向かった。
到着したが全く歓迎などされていない。
応接間に通してもらうとゲルズベル伯爵とアランまでいた。アランは家族の仇を見たような顔をした。
2,205
お気に入りに追加
3,120
あなたにおすすめの小説

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた
ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。
夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。
令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。
三話完結予定。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。

その発言、後悔しないで下さいね?
風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。
一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。
結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。
一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。
「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が!
でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません!
「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」
※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※クズがいますので、ご注意下さい。
※ざまぁは過度なものではありません。

婚約破棄は夜会でお願いします
編端みどり
恋愛
婚約者に尽くしていたら、他の女とキスしていたわ。この国は、ファーストキスも結婚式っていうお固い国なのに。だから、わたくしはお願いしましたの。
夜会でお相手とキスするなら、婚約を破棄してあげると。
お馬鹿な婚約者は、喜んでいました。けれど、夜会でキスするってどんな意味かご存知ないのですか?
お馬鹿な婚約者を捨てて、憧れの女騎士を目指すシルヴィアに、騎士団長が迫ってくる。
待って! 結婚するまでキスは出来ませんわ!

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません
風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。
私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。
彼の姉でなく、私の姉なのにだ。
両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。
そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。
寄り添うデイリ様とお姉様。
幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。
その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。
そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。
※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。
※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。
※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる