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浮気
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指先が徐々に冷たくなっていく…
「リリー様と私の妹が学友で、誕生日のパーティに招かれましたの。リリー様は昔からエンヴェル様のファンでいらっしゃるでしょう?
最初はフォンヌ公爵に頼まれてリリー様とダンスをしてお相手をなさっていましたけど、リリー様が酔われて一緒に会場を抜けた後、お二人は戻る事はなかったようです。
その後リリー様は私の妹や他の仲の良いご令嬢方にあの夜の事を話しているのでこれからはもっと広まると思いますわ」
「……公女様はなんと」
「情熱的な一夜を過ごし、受けた精を大事にしているそうです。嬉しそうに下腹部を摩る一方で、婚約者のことを指摘されると涙を浮かべて“奪うかたちになって申し訳ない”と」
「確かなのですか」
「リリー様とエンヴェル様が会場から消えたのも戻らなかったのもパーティの出席者のほとんどがご存じのようですわ。翌朝までエンヴェル家の馬車はフォンヌ邸にあったとか」
「公女様は ロジェを諦めていないということですね」
「避妊をしなかったということは、そういうことでしょう。お気を付けになって」
「ありがとうございます」
カフェの個室を出た後は、よく分からないうちにゲルズベル邸に戻っていた。
その後 予定通りリシュー邸へ向かった。
2週間後、リリー・フォンヌ公爵令嬢から王都で会いたいと手紙が届いたが、そんな時間は無い。だから断りの返事を送ったのに…
「私、フォンヌ公爵家の次女リリーと申します。
あなたのことはお見かけしていたけど話したことはなかったわね」
公女様は先触れも無く領地に押しかけてきた。
「はじめまして。ユリナ・リシューと申します」
値踏みをするかのようにジロジロと見た後、下腹部を撫でて口にしたのは公女様だった。
「ロジェ様と結ばれたの。身を引いてもらえるわよね?」
「……」
「情熱的な夜を過ごしたの。
あなた、恩を売ってロジェ様との婚約を捥ぎ取ったみたいね」
「……」
「普通なら有り得ないものね。
領地を持たない子爵家で財力は平凡。
取り柄とも言えないけど 少し成績が良かったのと、デザインを任されているそうね?でもそんなのはいくらでも代わりがいるのよ?」
「……」
「慰謝料や違約金はフォンヌ家とエンヴェル家がちゃんと色を付けてお支払いするわ。だからロジェと別れて彼の前に現れないでちょうだい」
「私達は政略結婚なんかじゃありません」
「ふふっ リシュー家には鏡は無いの?
美しいロジェ様とあなたのその容姿では釣り合わないじゃない」
「私達はもう初夜も終えて、」
「たまたま近くにいた女に手を付けただけじゃない。男なら珍しくもない行為よ。だから色を付けると言ったでしょう?貴女の純潔にどれほどの価値があるというのよ。
ああ、それで責任を取らせたのね」
「違います!」
「私、ロジェ様の子を妊娠しているの。いくら抵抗してもお腹の子は育っていくわ。ロジェ様のお子を婚外子にするつもり?」
「っ!」
「本当はこんな長旅も許される身体ではないから、今日話をつけたいの。
そもそもあなたの身分で断りの手紙を送りつけるなんて有り得ないことよ」
「……」
「意地を張ってもロジェ様やエンヴェル家に迷惑をかけるだけ。蔑まれながらロジェ様の隣に立ち続けるつもり?
きっと彼は私とこの子の元へ通うでしょうし、もしかしたら次々と別の女に手を付けて あなたはお飾りどころか隠されるでしょうね」
「公爵様から正式にエンヴェル侯爵様に話を通してください」
「あなたね!」
「公女様は 私と彼が政略結婚だと仰いました。だとしたらどうするか決めることができるのはエンヴェル侯爵様だけです」
「……では、侯爵家から解消の話が出たら直ぐに応じるのね?」
「はい。即日応じます」
「分かったわ。失礼するわね」
公女は立ち上がり、帰り際に振り向いた。
「嫁ぎ先が必要なら紹介するわよ」
「必要ありません」
「そう?気が変わったら遠慮なく知らせてね。見送りは結構よ」
バタン
公女様が去った後、床に崩れ落ちるように座りこみ 涙を流した。
やっぱり婚約なんかするべきじゃなかった。ロジェと私の間に間違いがあっても、事故として笑って流せばよかった。
ロジェの愛の囁きを鵜呑みにして馬鹿みたいだわ。
現にロジェは私を避けているじゃない。
翌日、ゲルズベル本邸から戻って来た両親に、公女様とロジェのことを報告した。
「フォンヌ公女がロジェ殿の子を妊娠!?」
「そう仰っていました」
「本当かしら」
「ここに来る前に知人から、公女様とロジェの噂を教えてもらいました」
「…ユリナはどうしたい?」
「フォンヌ公爵家のご令嬢ですよ」
「だが、」
「政略結婚なんかじゃないんです。このままロジェの妻になっても惨めな思いをするだけです」
「では、解消ではなく破棄にして責任をとってもらおう」
「お父様、解消で構いません」
「駄目だ。泣き寝入りなどするつもりはない」
「フォンヌ家の機嫌を損ねてしまいます」
「結構よ。私達の大事な娘に謝るどころか、押し掛けて傷付けるなんて許せないわ」
「お母様…私が身の丈に合わない求婚を受けてしまったせいです」
「違うわ。1番の親友という立場を利用して油断させて貴女に強いお酒を飲ませて判断を誤らせたロジェ殿が悪いの」
「世間は私をふしだらで狡猾な女と思うでしょう。これ以上は、」
「当然の権利を行使するだけだ。
婚約者のいる男に手を出せばどうなるか、公女なら知っていて当然だろう。公女も覚悟しているはずだ。だから私達に任せなさい。
もうエンヴェル領に行かなくていい。
先に手紙を出しておく。しばらく此処を離れなさい。工房に当面の指示を出して 隣国の姉の所で遊んできなさい」
「それがいいわ」
「でも、」
「お金はあるのだから、隣国で遊んできなさい。エリーゼ姉上も喜ぶだろう」
「今の私が行っても歓迎されませんわ。以前 伯母様に用意していただいた縁談を会いもせず全て断ったのですから」
「試しに行ってみるといい」
「謝る機会だと思えばいいわ」
「駄目だと感じたらホテルに泊まればいい。観光してゆっくり帰って来なさい」
「はい」
お父様はエンヴェル家とゲルズベル家とエリーゼ伯母様に手紙を書き早馬を送った。
「リリー様と私の妹が学友で、誕生日のパーティに招かれましたの。リリー様は昔からエンヴェル様のファンでいらっしゃるでしょう?
最初はフォンヌ公爵に頼まれてリリー様とダンスをしてお相手をなさっていましたけど、リリー様が酔われて一緒に会場を抜けた後、お二人は戻る事はなかったようです。
その後リリー様は私の妹や他の仲の良いご令嬢方にあの夜の事を話しているのでこれからはもっと広まると思いますわ」
「……公女様はなんと」
「情熱的な一夜を過ごし、受けた精を大事にしているそうです。嬉しそうに下腹部を摩る一方で、婚約者のことを指摘されると涙を浮かべて“奪うかたちになって申し訳ない”と」
「確かなのですか」
「リリー様とエンヴェル様が会場から消えたのも戻らなかったのもパーティの出席者のほとんどがご存じのようですわ。翌朝までエンヴェル家の馬車はフォンヌ邸にあったとか」
「公女様は ロジェを諦めていないということですね」
「避妊をしなかったということは、そういうことでしょう。お気を付けになって」
「ありがとうございます」
カフェの個室を出た後は、よく分からないうちにゲルズベル邸に戻っていた。
その後 予定通りリシュー邸へ向かった。
2週間後、リリー・フォンヌ公爵令嬢から王都で会いたいと手紙が届いたが、そんな時間は無い。だから断りの返事を送ったのに…
「私、フォンヌ公爵家の次女リリーと申します。
あなたのことはお見かけしていたけど話したことはなかったわね」
公女様は先触れも無く領地に押しかけてきた。
「はじめまして。ユリナ・リシューと申します」
値踏みをするかのようにジロジロと見た後、下腹部を撫でて口にしたのは公女様だった。
「ロジェ様と結ばれたの。身を引いてもらえるわよね?」
「……」
「情熱的な夜を過ごしたの。
あなた、恩を売ってロジェ様との婚約を捥ぎ取ったみたいね」
「……」
「普通なら有り得ないものね。
領地を持たない子爵家で財力は平凡。
取り柄とも言えないけど 少し成績が良かったのと、デザインを任されているそうね?でもそんなのはいくらでも代わりがいるのよ?」
「……」
「慰謝料や違約金はフォンヌ家とエンヴェル家がちゃんと色を付けてお支払いするわ。だからロジェと別れて彼の前に現れないでちょうだい」
「私達は政略結婚なんかじゃありません」
「ふふっ リシュー家には鏡は無いの?
美しいロジェ様とあなたのその容姿では釣り合わないじゃない」
「私達はもう初夜も終えて、」
「たまたま近くにいた女に手を付けただけじゃない。男なら珍しくもない行為よ。だから色を付けると言ったでしょう?貴女の純潔にどれほどの価値があるというのよ。
ああ、それで責任を取らせたのね」
「違います!」
「私、ロジェ様の子を妊娠しているの。いくら抵抗してもお腹の子は育っていくわ。ロジェ様のお子を婚外子にするつもり?」
「っ!」
「本当はこんな長旅も許される身体ではないから、今日話をつけたいの。
そもそもあなたの身分で断りの手紙を送りつけるなんて有り得ないことよ」
「……」
「意地を張ってもロジェ様やエンヴェル家に迷惑をかけるだけ。蔑まれながらロジェ様の隣に立ち続けるつもり?
きっと彼は私とこの子の元へ通うでしょうし、もしかしたら次々と別の女に手を付けて あなたはお飾りどころか隠されるでしょうね」
「公爵様から正式にエンヴェル侯爵様に話を通してください」
「あなたね!」
「公女様は 私と彼が政略結婚だと仰いました。だとしたらどうするか決めることができるのはエンヴェル侯爵様だけです」
「……では、侯爵家から解消の話が出たら直ぐに応じるのね?」
「はい。即日応じます」
「分かったわ。失礼するわね」
公女は立ち上がり、帰り際に振り向いた。
「嫁ぎ先が必要なら紹介するわよ」
「必要ありません」
「そう?気が変わったら遠慮なく知らせてね。見送りは結構よ」
バタン
公女様が去った後、床に崩れ落ちるように座りこみ 涙を流した。
やっぱり婚約なんかするべきじゃなかった。ロジェと私の間に間違いがあっても、事故として笑って流せばよかった。
ロジェの愛の囁きを鵜呑みにして馬鹿みたいだわ。
現にロジェは私を避けているじゃない。
翌日、ゲルズベル本邸から戻って来た両親に、公女様とロジェのことを報告した。
「フォンヌ公女がロジェ殿の子を妊娠!?」
「そう仰っていました」
「本当かしら」
「ここに来る前に知人から、公女様とロジェの噂を教えてもらいました」
「…ユリナはどうしたい?」
「フォンヌ公爵家のご令嬢ですよ」
「だが、」
「政略結婚なんかじゃないんです。このままロジェの妻になっても惨めな思いをするだけです」
「では、解消ではなく破棄にして責任をとってもらおう」
「お父様、解消で構いません」
「駄目だ。泣き寝入りなどするつもりはない」
「フォンヌ家の機嫌を損ねてしまいます」
「結構よ。私達の大事な娘に謝るどころか、押し掛けて傷付けるなんて許せないわ」
「お母様…私が身の丈に合わない求婚を受けてしまったせいです」
「違うわ。1番の親友という立場を利用して油断させて貴女に強いお酒を飲ませて判断を誤らせたロジェ殿が悪いの」
「世間は私をふしだらで狡猾な女と思うでしょう。これ以上は、」
「当然の権利を行使するだけだ。
婚約者のいる男に手を出せばどうなるか、公女なら知っていて当然だろう。公女も覚悟しているはずだ。だから私達に任せなさい。
もうエンヴェル領に行かなくていい。
先に手紙を出しておく。しばらく此処を離れなさい。工房に当面の指示を出して 隣国の姉の所で遊んできなさい」
「それがいいわ」
「でも、」
「お金はあるのだから、隣国で遊んできなさい。エリーゼ姉上も喜ぶだろう」
「今の私が行っても歓迎されませんわ。以前 伯母様に用意していただいた縁談を会いもせず全て断ったのですから」
「試しに行ってみるといい」
「謝る機会だと思えばいいわ」
「駄目だと感じたらホテルに泊まればいい。観光してゆっくり帰って来なさい」
「はい」
お父様はエンヴェル家とゲルズベル家とエリーゼ伯母様に手紙を書き早馬を送った。
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