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【ロジェ】 エンヴェル侯爵邸
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【 ロジェの視点 】
屋敷に到着し、父上達に会わせるとユリナは見たこともない緊張した様子を見せていた。
『お初にお目にかかります。
リシュー子爵家長女 ユリナと申します。
ご子息とは学業を通してグループで仲良くさせていただいております』
『エンヴェル侯爵家の当主セイルでロジェの父だ。息子が世話になっているようだね』
『妻でロジェの母のシエンヌよ。ようこそエンヴェル邸へ』
『ユリナ、こっちに来い』
『いや、こっちで大丈夫です』
『いいから来い』
ユリナの手を引いて隣に座らせた。
居心地が悪そうに少しずつ離れようとするユリナが気に入らなくて腰に手を回した。
『ちょっと!止めて』
『大人しく座ってろ』
『ロジェ!』
何故 母上が怒るんだ?
『父上、母上。友人のユリナです』
『どうしましょう、あなた』
『私も頭が痛い』
『父上、医者を呼ばせましょうか?』
『リシュー嬢、申し訳ない。問題はロジェにしかないことが分かった。今後付き纏わないよう厳しく言い聞かせるので… ロ…』
『あなた?』
『リシュー嬢、そのネックレスはどうしたのだ』
『作りました』
『そ、それは宝石だろうか』
『硝子です』
『作ったとは?』
『硝子工房で作りました。チェーンや台座はお願いしました』
『もう少し詳しく教えてくれ』
『綺麗に仕上がった硝子の塊を研磨して宝石代わりにしているのです』
『リシュー嬢が自らの手で?』
『はい』
『何故そのようなことができるのか教えて欲しい』
『ゲルズベル伯爵領の中でも山の方にリシュー家の担当区域がありまして、そこでは硝子細工が盛んです。私は子供の頃から出入りしてはクズ硝子で遊んでいて、ある程度大きくなると加工を教わりました。職人さん達がお皿やグラスなど多くの硝子製品を作り出している中で、私はこれを趣味にしていました』
『そうだ。ゲルズベル産のグラスは高値が付いていたな。それでネックレスに付いている硝子のカットは職人は皆できるのかな?』
『できるとは思いますが、私が考えて趣味で研磨していますので今のところは私しかやっていません。
皆さんは通常品やオーダー品が忙しくてそれどころではありませんから』
『それ以外にも作品はあるのかな』
『異なる研磨デザインはあと2つあります。後は星形とかハート型とか。花形は次に挑戦しようかなと思っております』
『君のコレクションを見せてくれないか』
『では今度、』
『いや、今見たい。使いの者を伯爵邸に向かわせるから持って来させてもいいか?』
『王都にある分なら』
『分かった。向かわせるから手紙を書いて欲しい』
エンヴェル家の使用人が宝石箱を取りに行くので持たせて欲しいとユリナが書いて、取りに行かせた。
父上が目を輝かせてユリナのネックレスを見ている。
少しして使用人がユリナの宝石箱を持ってきた。
ユリナは硝子のアクセサリーをテーブルに並べていく。
『全部君が?』
『はい』
『このカット方法をエンヴェルに売ってくれないだろうか』
『それはよろしくありません』
『何故だろうか』
『多分 私が教えることになります。
侯爵様はご子息と私の仲を快く思っていらっしゃらないのは先程分かりました。
ですので関わりが無い方が良いと思います。
今日は私に“相応しくないから息子に近付くな”と仰りたかったのですよね?』
『いや…それは…』
『隣の席なのは後半年だけ。進級すれば疎遠となるでしょう。
私もエンヴェル侯爵令息のお友達を名のる資格が無いことくらい承知しております。ご心配なく。
エンヴェルくん、いただいた贈り物は全て今日中に届けさせるわ。気持ちだけ受け取るわね』
『ユリナっ!
父上、俺はユリナを、』
『すまなかった!この通り!!』
あの父上が頭を下げた。
『こ、侯爵様』
『私からもお詫び申し上げます』
母上も続いて頭を下げた。
『謝っていただく必要はございません。ご子息の事を考えれば当然の対応だと思います。
私はご子息と友人以上になる気は微塵もございません。ただ、隣の席のクラスメイトと1年間仲良く過ごせたらと声をかけたまでのことです。それは前後の席や反対側の隣の席の子も同じなのです。
研磨方法の件は持ち帰り当主に相談してからお返事いたします。今日は失礼いたします』
ユリナの凛とした対応に目が離せなかった。
その後、ユリナを送り届け、父上達に抗議した。
『悪かった。何とかするからそんなに怒るな』
『ユリナは俺の1番の…というか唯一の令嬢の友人なのです!』
『そこは違うと思うが分かったから』
父上はその日の内にゲルズベル伯爵に会いたいと申し入れをして翌日会った。
夕食の時に伯爵との話を教えてくれた。
『リシュー嬢は身に付ける物以外にも手掛けていて、食前酒用の小さなグラスや香水の瓶や置物もデザインをしている。趣味のようなものらしい。
どうやら田舎過ぎてやることが無かったそうだ』
『まあ、そうですの』
『伯爵領でリシュー嬢は特別扱いになっているようだ。高級品として出荷して売り上げを大きく伸ばした彼女を功労者として大事にしているようだ。
リシュー嬢の持っていた硝子は 今のところ彼女しか作れないらしい。教わればできるのだろうが職人達は忙しいし、わざわざ硝子をはめたネックレスや指輪を貴族は身に付けないから教わらなかったようだ。
伯爵はどうするかはリシュー嬢に一任すると言ってくれたので、後はリシュー嬢の返事次第だな』
アランがユリナの面倒を見るのは そのせいもあるのか。
屋敷に到着し、父上達に会わせるとユリナは見たこともない緊張した様子を見せていた。
『お初にお目にかかります。
リシュー子爵家長女 ユリナと申します。
ご子息とは学業を通してグループで仲良くさせていただいております』
『エンヴェル侯爵家の当主セイルでロジェの父だ。息子が世話になっているようだね』
『妻でロジェの母のシエンヌよ。ようこそエンヴェル邸へ』
『ユリナ、こっちに来い』
『いや、こっちで大丈夫です』
『いいから来い』
ユリナの手を引いて隣に座らせた。
居心地が悪そうに少しずつ離れようとするユリナが気に入らなくて腰に手を回した。
『ちょっと!止めて』
『大人しく座ってろ』
『ロジェ!』
何故 母上が怒るんだ?
『父上、母上。友人のユリナです』
『どうしましょう、あなた』
『私も頭が痛い』
『父上、医者を呼ばせましょうか?』
『リシュー嬢、申し訳ない。問題はロジェにしかないことが分かった。今後付き纏わないよう厳しく言い聞かせるので… ロ…』
『あなた?』
『リシュー嬢、そのネックレスはどうしたのだ』
『作りました』
『そ、それは宝石だろうか』
『硝子です』
『作ったとは?』
『硝子工房で作りました。チェーンや台座はお願いしました』
『もう少し詳しく教えてくれ』
『綺麗に仕上がった硝子の塊を研磨して宝石代わりにしているのです』
『リシュー嬢が自らの手で?』
『はい』
『何故そのようなことができるのか教えて欲しい』
『ゲルズベル伯爵領の中でも山の方にリシュー家の担当区域がありまして、そこでは硝子細工が盛んです。私は子供の頃から出入りしてはクズ硝子で遊んでいて、ある程度大きくなると加工を教わりました。職人さん達がお皿やグラスなど多くの硝子製品を作り出している中で、私はこれを趣味にしていました』
『そうだ。ゲルズベル産のグラスは高値が付いていたな。それでネックレスに付いている硝子のカットは職人は皆できるのかな?』
『できるとは思いますが、私が考えて趣味で研磨していますので今のところは私しかやっていません。
皆さんは通常品やオーダー品が忙しくてそれどころではありませんから』
『それ以外にも作品はあるのかな』
『異なる研磨デザインはあと2つあります。後は星形とかハート型とか。花形は次に挑戦しようかなと思っております』
『君のコレクションを見せてくれないか』
『では今度、』
『いや、今見たい。使いの者を伯爵邸に向かわせるから持って来させてもいいか?』
『王都にある分なら』
『分かった。向かわせるから手紙を書いて欲しい』
エンヴェル家の使用人が宝石箱を取りに行くので持たせて欲しいとユリナが書いて、取りに行かせた。
父上が目を輝かせてユリナのネックレスを見ている。
少しして使用人がユリナの宝石箱を持ってきた。
ユリナは硝子のアクセサリーをテーブルに並べていく。
『全部君が?』
『はい』
『このカット方法をエンヴェルに売ってくれないだろうか』
『それはよろしくありません』
『何故だろうか』
『多分 私が教えることになります。
侯爵様はご子息と私の仲を快く思っていらっしゃらないのは先程分かりました。
ですので関わりが無い方が良いと思います。
今日は私に“相応しくないから息子に近付くな”と仰りたかったのですよね?』
『いや…それは…』
『隣の席なのは後半年だけ。進級すれば疎遠となるでしょう。
私もエンヴェル侯爵令息のお友達を名のる資格が無いことくらい承知しております。ご心配なく。
エンヴェルくん、いただいた贈り物は全て今日中に届けさせるわ。気持ちだけ受け取るわね』
『ユリナっ!
父上、俺はユリナを、』
『すまなかった!この通り!!』
あの父上が頭を下げた。
『こ、侯爵様』
『私からもお詫び申し上げます』
母上も続いて頭を下げた。
『謝っていただく必要はございません。ご子息の事を考えれば当然の対応だと思います。
私はご子息と友人以上になる気は微塵もございません。ただ、隣の席のクラスメイトと1年間仲良く過ごせたらと声をかけたまでのことです。それは前後の席や反対側の隣の席の子も同じなのです。
研磨方法の件は持ち帰り当主に相談してからお返事いたします。今日は失礼いたします』
ユリナの凛とした対応に目が離せなかった。
その後、ユリナを送り届け、父上達に抗議した。
『悪かった。何とかするからそんなに怒るな』
『ユリナは俺の1番の…というか唯一の令嬢の友人なのです!』
『そこは違うと思うが分かったから』
父上はその日の内にゲルズベル伯爵に会いたいと申し入れをして翌日会った。
夕食の時に伯爵との話を教えてくれた。
『リシュー嬢は身に付ける物以外にも手掛けていて、食前酒用の小さなグラスや香水の瓶や置物もデザインをしている。趣味のようなものらしい。
どうやら田舎過ぎてやることが無かったそうだ』
『まあ、そうですの』
『伯爵領でリシュー嬢は特別扱いになっているようだ。高級品として出荷して売り上げを大きく伸ばした彼女を功労者として大事にしているようだ。
リシュー嬢の持っていた硝子は 今のところ彼女しか作れないらしい。教わればできるのだろうが職人達は忙しいし、わざわざ硝子をはめたネックレスや指輪を貴族は身に付けないから教わらなかったようだ。
伯爵はどうするかはリシュー嬢に一任すると言ってくれたので、後はリシュー嬢の返事次第だな』
アランがユリナの面倒を見るのは そのせいもあるのか。
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