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【ロジェ】 無自覚
しおりを挟む【 ロジェの視点 】
2年生の半分が終わり長期休暇を目前としていた。
『ユリナ、うちの領地に遊びにくるか?』
『実家に帰るの』
『アランも?』
『もちろんアラン様も一緒よ』
『…同じ馬車で?』
『そりゃ そうよ』
『何日かかるんだ?』
『3泊かな』
『部屋は別だろうな』
『基本はね』
『つまり?』
『部屋が足りなければ、』
『相部屋なんて駄目に決まってるだろう』
『子供の頃は、』
『今は子供じゃない。絶対に駄目だ!』
不満そうな顔をしてるな。ユリナに言っても無駄かもしれない。
2つ後ろの教室へ行きアランを呼び出した。
『アラン、ちょっと』
『あ、はい』
廊下のすみに呼び出して注意をした。
『ユリナと領地に帰るんだって?』
『はい』
『相部屋は駄目だぞ』
『え?…あ~はい』
こいつもか…
『まさか お前』
『一部屋しかなかったら仕方ないじゃないですか』
『仕方ないで済むか!ユリナは女なんだぞ』
『…私達は兄妹みたいなものですし』
『駄目だ』
『…努力します』
『確実じゃないと駄目だ!』
長期休暇に入り、ユリナ達が心配で仕方ない。
『いっそ 俺がついて行った方が良かったな』
エンヴェル領へ向かう途中の馬車から景色を眺めながら口に出してしまっていた。
『何のことだ?』
兄上と義姉上が俺をじっと見つめていた。
『ユリナが領地に帰る途中で、場合によっては領主の息子と相部屋にするつもりなんです。アランの方もそれが普通みたいに言うんですよ。兄妹の様であってもそうじゃないですからね。血縁的にはもう薄いらしいんです。
全く…ユリナは無頓着過ぎる』
『ふふっ』
『重症だな』
『何がですか』
『母上達は格差を気にしているから、本気なら腹を括って交渉しないと駄目だぞ』
『はい?ユリナは友人ですよ』
『知らないわよ? リシュー嬢が学園や領地で恋人を作ったり、道中で出会いがあったりしても。
その時は 煩いことを言わないで応援してあげるのよ』
『ユリナに男!? まさか』
『領地について行こうと考えるほど大事なんだろう?いい子じゃなきゃ思わないだろう』
『そうよ。令嬢と家格が釣り合う令息はたくさんいるわ』
『……』
結局 領地に着いてもユリナ達が何しているのか気になって つい話の輪から外れてしまう。
『こちらなど如何でしょう』
『もっと明るい緑はないのか?黄緑とか』
『あいにく黄緑は…』
『じゃあ赤みを帯びた茶色はどうだ?』
『同級生のご令嬢には難しい色かと思います』
『じゃあ、緑色の石の髪飾りと…そうだな、ドレスでも頼もうか』
『あの、採寸表はございますか?』
『…無い』
『ドレスは採寸表が必要です。代わりに冬に向けて毛皮付きの外套をご用意いたしますか?』
『そうしてくれ』
そうだ。もうすぐパーティがある。やっぱりドレスが必要だ。
家令をつかまえて、王都のゲルズベル邸に早馬を走らせてユリナのドレスを作るための採寸表を入手して欲しいと依頼した。
やっと王都へ戻り、ユリナにうちに来るよう手紙を出したがユリナ達の戻りはギリギリで、来訪は叶わないと返事が返ってきた。
仕方なく休み明けの登校初日、帰りにユリナを連れて屋敷に帰った。
『ユリナ、メイドに手伝わせるからドレスを着て来い』
『はい?』
『いいからついていけ』
遅いなと少し苛立ちながら待っていると、ようやく1着目を着たユリナが現れた。
白と落ち着いた黄緑のドレスはよく似合っていると思う。
『よし、次』
この調子で3着試着させて、帰りにドレス3着と一緒にユリナをゲルズベル邸に送り届けた。
夕食で、両親に呆れられた。
『3着もドレスをプレゼントしてどうするつもりだ』
『婚約者じゃないのよ?勘違いさせてしまうわ』
『パーティでパートナーになってもらおうと思っているので支給しただけです』
『パーティ?』
『虫除けになりますし退屈凌ぎにもなりますから』
『一度会わせなさい』
『休日の昼食に誘いなさい』
『分かりました』
翌日、それをユリナに伝えると、
『やっぱり叱られるんじゃない!返すわ』
『そうじゃない。父上達はユリナのことを知りたいだけだから大丈夫だよ』
『絶対 大丈夫じゃないと思う』
『保証する』
『大丈夫じゃなかったら、もうドレスとか髪飾りとか買わないで。屋敷に呼び付けたりもしないでよ』
そう言われると急に自信が無くなって、帰って父上達に、“呼ぶなら歓迎してくれ。虐めないでくれ”と念を押した。
休日、ユリナを迎えに行った。
『え?来たの?自分で行けるのに』
そんなにおかしなことか?
『招待したのだから当然だろう』
『エンヴェル家では招待した相手全員迎えに行くの?』
『……』
『そんな顔しないで。ありがとう』
『だよな。嬉しいだろう?』
『嬉しくはない。でも少し安心する』
ドクン
ん? 何だ? 胸がおかしい。
『ロジェ?』
『髪飾りはどうした』
『部屋にあるわ』
『付けて来なかったのか』
『叱られる要素を減らしたかったの』
『気にする金額じゃないぞ』
『例え少額でも気に障る場合もあるものなの。そもそも気にする額だから』
『ユリナにあげたかったんだ。似合うと思ったし』
『……ありがとう』
何だ?何で喜ばない?
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