【完結】さようならと言うしかなかった。

ユユ

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【ロジェ】 隣の令嬢

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【 ロジェの視点 】


こんなに態度で示しているのに この女はいつになったら俺の気持ちに気が付くんだ?
この鈍感な女との始まりは、2年前の2年生への進級で隣の席になったことがきっかけだった。


学園に入学すると 余計に令嬢達が寄ってくる。嫡男ではなくともエンヴェル家の豊かな暮らしができるとなれば屍にわく蛆虫のように纏わり付く。

上級生のいかにも股の緩そうな令嬢は、俺の腕や胸に触れながら“楽しませてあげる”と誘ってくる。
顔が気に入ったのか下級貴族までも不躾に見つめてくる。うんざりだった。

進級と同時にクラス替えがあり、また席の近い令嬢に付き纏われるのかと彼女の挨拶を無視した。

『エンヴェルくん、リシューっていうの。よろしくね』

『……』

リシューか。パッとしない子爵家だったな。

『ねえ』

『……』

『うわぁ…感じ悪い。躾してもらえていないのね。可哀想に』

は!?

『セビーさん、よろしくね』

『リシューさん、よろしく』

『アルフレッドくん、よろしくね』

『あ、はいっ!リシュー様』

『此処は学園よ。クラスメイトなんだから敬語は無し。様も無し。仲良くしてね』

『は、はい』

『カレンさん、よろしく』

『リシューさん、よろしく』

こんな調子で、ユリナ・リシューは前後左右に平等な挨拶をした。内2人は平民だ。特別枠の秀才だ。

その後は俺を除いた4人で仲良くしていた。

失敗した。いつもの女共と同じだと思って無視してしまった。今更声などかけられない。

宿題で解らなかったことを教え合い、ものすごく雰囲気はいい。

『これはね、先にこっちを求めるより、こっちを計算するのよ』

リシューが3人に教えていた。
俺も知りたい…

『ああ、これは葉の形状が少し違うんだ。下の部分が少しギザギザしている方は薬草で、ギザギザしていない方は毒草なんだよ』

『へ~、アルフレッドくんは物知りね』

『ユリナさん程じゃないよ』

数日もすれば平民アルフレッドは子爵令嬢を“ユリナさん”と気軽に呼んでいた。


ある日、授業が終わり 帰宅支度をしていると、4人は納得のいかない歴史のについて持論を出し合っていた。そこに別のクラスの男が現れた。

『ユリナ』

『アラン様』

『帰るぞ』

『ごめんね、みんな。また明日』

そう言って鞄を持って、廊下から教室内を覗いていた令息の元へ駆け寄って行った。

アランと呼ばれる令息はリシューの鼻を摘んだ。

相手の男は呼び捨てだし、顔は似ていない。
婚約者か?


それ以来、あの2人が気になり始めて目で追うようになっていた。

登下校を一緒にしていて、名前もアラン・ゲルズベル伯爵令息だと分かった。

『あの2人は婚約者か?』

『違うよ。ゲルズベル伯爵家の分家がリシュー子爵家で、領地の一部を任せているらしい。リシュー子爵家はタウンハウスを構えていないからゲルズベル伯爵邸に下宿しているんだ。令嬢は寮に入ると言ったらしいが伯爵が許可しなかった。危なっかしいから駄目だと言われ、アランが面倒をみているよ。
アランは1年上に婚約者がいると言っていたな。
令嬢はいないみたいだがな。

…珍しいな。ロジェが令嬢を気にするなんて』

『また付き纏われるのかと勘違いして最初に挨拶をしてくれたときに無視して…それ以来 俺だけ外されているんだ』

『謝ればいいんじゃないか?』

男友達の公爵令息ウィリアムは簡単に言うけど、

『そうだな』

謝るのは苦手だ。


うじうじしている間に4ヶ月が過ぎてテスト明けの休みに入ってしまった。

今頃リシューは何をしているのか気になって落ち着かないし、つまらない。
テスト休み2日目、母上と街に出ると偶然リシューとゲルズベルを見かけた。カフェテラスで仲良くケーキを食べながら、彼女は無邪気な笑顔を向けていた。

『ロジェ? お知り合い?』

『隣の席の令嬢です』

『まあ。恋人かしら』

『彼は領主の息子です』

『どうしてあの子が気になるの?』

『俺が失礼なことをしてしまったからです』

予約していた店で昼食を食べながら母上に説明をした。

『子爵家のご令嬢ね。良い子のようだけどリシュー子爵家は…特徴のない家門ね』

『そうですね』

として仲良くなりたいのなら謝るか彼女の周囲を使いなさい』

『平民2人とセビー伯爵令息に?』

『もしくは さっき令嬢と一緒にいたゲルズベル伯爵令息という手もあるわ』

『はい』

『あくまで友人よ。結婚相手としてはロジェには相応しくないわ』

『もちろんです』


結局 変なプライドを捨ててリシューに謝った。

『初日は悪かった。許して欲しい』

『何で無視したの?』

『いつも言い寄ってくる令嬢達が嫌で、急に知らない令嬢から話しかけられて無視することにしてしまった。俺が間違えた。すまなかった』

『分かったわ。
それにしても私なんかがエンヴェルくんを狙うわけないじゃない。これでも身の程は弁えているのよ?』

『…許してくれてありがとう』

『よろしくね、エンヴェルくん』

『よろしく』


それからは楽しい学園生活になった。疑問点や不明点は5人で解決しながら互いを高めあった。それぞれの立場が違うから、出来事やものの捉え方 興味も異なり それを話して共有することで視野が広くなった気がした。

その輪の中心にいる彼女とはすぐに名前で呼び合うようになった。



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