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王妃のお茶会

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成人まで後半年。

長いようで短かった。 
夫の元愛人の3人が私に良くしてくれる。
仕事が終われば私の側に座り、報告をしながら私の髪をいじったり、手を揉んだりしている。まるで私の愛人みたい。

カリマは婚姻したけど、夫は騎士で宿舎に住んでいる。子ができるまでは このまま別居してお金を貯めるのだと意気込んでいる。
“本当は家族で離れここに住みたいです”と言っていたが、それは将軍が許さないだろうと諦めてくれた。

サラは私の19歳の成人祝いのドレスに渾身の刺繍をしてくれている。
エマはお祝いのケーキを作るべく菓子職人のところへ通っている。

時々3人は、私から1番寵愛を受けているのは誰かというテーマで討論会を開いている。



「クリステル、君の番だよ」

「あ、また勝とうとしていますか?少しは手加減してください」

王妃が見守る中、リオナード王太子のチェスの相手をしていた。

「悩んでいる顔も 困っている顔も 悔しがる顔も可愛いから、つい勝っちゃうんだよ」

「なんか余裕さがあふれていて悔しさ倍増です。憎たらしいです」

「ハハッ 初めて言われたな」

「そろそろチェスは他の方となさった方がよろしいかと思います」

「何を言っているの。私とのお茶の時間でもあるのよ?」

王妃が耳打ちをして、その通りに駒を動かした。

「あっ!ずるいぞ!母上を使うなんて!」

「んふふ~」

「くっ! そんな顔も可愛いな!」

「私の勝ちですか?やっと私の言うことを聞いてもらう番が巡ってしまいました。心の準備はいいですか?」

「反則だろう」

「あ、」

王太子は駒を動かした。

「え?」

「さあ、時間をはかるぞ」

王太子は砂時計の上下を変えた。

「ず、ずるいです!勝った気にさせておいて落とすなんて!」

「私は一度も“困った”とか“負ける”とは言っていないよ」

「……」

「睨んでも可愛いだけだからね?」

無情にも砂は落ち切ってしまう。

「私の勝ちだな」

「7つも歳下をいじめるなんて」

「いじめてないよ。可愛がっているんだ」

「なら 勝たせてくれたって良いじゃないですか」

「私が勝たないと君に言うことを聞かせられないから勝っているんだ」

「その言い方がまた憎たらしいです」

「そうか 嬉しいよ」

そう言いながら優しく頭を撫でる王太子にブツブツと文句を言う。
最初は警戒していたけど、王太子の登場に病室は次第に明るくなったし、王妃のお茶会も それに現れる王太子にも悪意はない。次第に馴染んでしまった。

時々呼ばれる食事の席で 王太子妃がものすごい顔で睨み続けるので ある考えは消えた。
“王太子の元に嫁いだ方が良かったのかもしれない”
無事でいられるのは紅鷲の宮の領域に住んでいるから。もし王太子と一緒に暮らすことになったら、彼女からの攻撃が大変だったかもしれない。毒を盛られる可能性だってある。

「いつまでも撫でていないで渡しなさい」

王妃に促されて王太子はポケットから何かを出した。

「左手を出して」

言う通りにすると、手首に綺麗なブレスレットをつけてくれた。

「王太子殿下、」

「リオナードと呼んでくれ。
これは勝った者の権利だ。負けたのだから大人しく受け取ってくれ」

「負けたのにご褒美もらえるのですか?…そう言って半年前は髪飾り 4ヶ月前はブローチ 2ヶ月前はイヤリングだったではありませんか。ドレスも何着か頂きましたし…これ以上はいただけません」

「おかしいわね。家族に贈り物を贈って何が悪いの?普通のことでしょう?それに貴族のお嬢さんが普段身に付ける程度のものよ。エリーズの買い物に比べたら微々たるものよ。
私とリオナードでクリステルのことを思い浮かべながら選んだの。受け取ってくれるわね?」

「ありがとうございます」

「クリステルは可愛いわね。身分も中身も申し分なくてこんなに可愛い顔をしているのだもの。ねえ、リオナード」

「本当に可愛い。特に悔しがる仕草がたまらない」

「もう!揶揄い過ぎです」

「こんなに穏やかに楽しく過ごせるのはクリステルのおかげだ。困ったことがあれば直ぐに言うんだよ?」

「そうよ。私にも言いなさい。分かった?」

「はい、王妃殿下、王太子殿下」

「“リオナード”だよ」



【 王太子妃エリーズの侍女イネスの視点 】


ガシャーン!!

「お、王太子妃殿下っ」

メイド達があたふたと、王太子妃が投げ付けて割れたカップを片付け始めた。

「落ち着いてください、エリーズ様」

躾が不十分なバカ猫が嫁ぐときにエリーズの実家から連れてこられた侍女イネスとは私のことだ。

「またお義母様はリオナード様とあの小娘を呼んで、今度はブレスレットを贈ったらしいじゃない!しかもっ…しかもリオナード様がデザインに携わった特注だっていうじゃない!
ドレスも何着も贈って!靴も扇子も!
髪飾りもブローチもイヤリングも!
私には結婚指輪と婚約指輪だけ!婚約中は決められた日に依頼されたドレス店が選んで送ってくるだけだし、婚姻してからは予算内で買えと言われただけなのよ!?
あの女は、酒に酔った先代国王がたまたま側にいた下級貴族出身の侍女を犯して産まれただけの男の妻じゃないの!!
しかもプリュム王国なんてどう取り繕っても従属国なのよ!?そこの第二王女が何なのよ!!」

「エリーズ様。どちらの話も口に出してはなりません。以前、そのことに触れて王妃殿下の不興を買ってしまったことをお忘れですか?
イザーク王弟殿下は軍の要。蔑むことは許されません。
それに、クリステル妃は既に絶大な支持を得ています。味方に付けるべきです」

「嫌よ!
グリフの成人年齢に達してからは陛下も頻繁に呼んで食事の席に同席させるし目障りなのよ!席なんか私より良い席に座るのよ!?
もうすぐプリュムの成人年齢になるわ。
そうしたらパーティや茶会に図々しく出てくるわ。
あの女を何とかして!」


「はぁ」

グラスの酒に睡眠薬を混ぜ 渡して眠らせた。

「イネス様、ご主人様がお呼びです」

「一緒に参ります」


呼びに来た侍女は高貴な方の専属侍女。
彼女が案内した部屋にはご主人様が座って待っていた。

「イネス、こちらに座って」

「失礼いたします、王妃殿下」

「エリーズはまた興奮していた?」

「はい」

「何て言っていたの?」

エリーズのセリフを王妃殿下に報告した。

「懲りないわね。
それに私やリオナードが誰を可愛がろうが勝手じゃない。王太子妃は側妃や妾を迎える可能性があることを妃教育で教わっているはずなのに見苦しいわ。
それにまだ子も産めないのよ?そのくせに予算だけはしっかり使って贅沢に暮らしているじゃない。馬鹿で社交も失敗するから公務も半分も振っていないのによ?

それに比べたら、弁えることのできるクリステルが可愛いに決まっているじゃない。クリステルが来てから様々な家門から感謝されるようになったわ。国王陛下もご満悦よ。
彼女は平民からも好かれているし、優しいだけじゃなくて窘める強さもあるわ。
イザーク王弟殿下の愛人達を見分けて、使えそうな女は残して適所に采配しているし、同じ建物内に住まわせて今やクリステルの愛人のようになっているわ。
最初は少し警戒していたクリステルもすっかり慣れて愛くるしい笑顔を向けるようになって、益々リオナードはクリステルの虜よ。

イネス。貴女もどうせ仕えるならクリステルの方がいいと思わない?彼女は絶対に貴女を蔑むような発言はしないし大事にするはずよ。

きっとクリステルの産んだリオナードの子は可愛いでしょうね」


王妃殿下への報告を終えて外の空気を吸いに来た。

疲れたわ。
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