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プリュムの教育

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【 イザークの視点 】

姫の乗った馬車を守って剣で刺された騎士の傷を、姫が確認していた。
手を突っ込み内蔵に触れ、酒瓶を手にした。

「騎士様、しみますよ」

「た、頼む」

酒を傷口にかけて血を洗い流し、管を差し込み傷口を縫った。

「我慢できて偉いですね」

手を拭うと、カバンから容器を取り出しヘラで中身を取り出すと傷口に塗った。

「姫、何をしているんだ」

「治療です」

「姫が?」

「このくらいの応急処置ならできます。
多分、大きな血管や臓器に損傷は見られません。
見える部分での話ですが。
他の方も診ます。彼に包帯を巻いてください」

治療を受けた騎士が、別の怪我人の元へ向かおうとする姫の腕を掴んだ。

「ありがとうございます、姫様」

「こちらこそ 守ってくださりありがとうございます」

そして重症者を優先して診ていく。


姫は立ち上がり、俺の腕を引いて隊から離れた。

「イザーク将軍、あの金髪の兵士は私では無理です。恐らく医者にも助けることは叶いません。
今の内、家族や恋人宛の遺言を預かってください。出血量も多く止まりません。国境に着くまでに天に召されるでしょう」

金髪の兵士とは伯爵家の三男セルビアンだ。
セルビアンの元に行き、彼の手を握った。

「…私は助からないのですね」

「すまない」

「将軍のせいではありません」

「家族に伝言はあるか」

「父上には“未熟で申し訳ない”と。母上には“冬は外に出るな”と。長兄には“甥っ子は騎士に向かない。無理をすれば私の二の舞だ”と。次兄には“私の全ての物を譲る”と伝えてください。

将軍、才能の無い私を見捨てないでくださって感謝しております。
…姫様が痛みをほとんど消してくれました。あの天使様を他の男に奪われてはなりません。守り抜いてください」

「分かった。
セルビアン。俺の部下に志願してくれて感謝する」

「将軍…もう何も見えません…お別れです」


その後10分しないうちにセルビアンは息を引き取った。

その間に、姫はうちの騎士と一緒に怪我人の手当てをし終えていた。

「姫、心から感謝をする。最後の瞬間を教えてもらえたから遺言を預かれた」

「そうですか」

姫は地図を取り出すと、進行方向を指差した。

「すぐそこの脇道へ行きましょう。直ぐに綺麗な水辺があります。そこで血を洗い流しましょう。
怪我をしていない人は馬車内の洗浄もお任せします」

「このまま国境の町へ行こう」

「重症者を馬車に乗せて移動します。死者もです。
血液は新たな問題を引き起こします。特に傷がある者には毒です。今 生き残っている騎士様達は一刻を争う状態ではありません。時間が経つほど血は乾き厄介です。虫も獣も呼び寄せます」

ピィっ

指笛を鳴らして騎士達を集めた。

「右の脇道へ向かう。動けない者を全員馬車に乗せろ」


姫の言った通り、水辺があった。
透明度も高く動物も水を飲んでいた。

「私は向こうで洗い流してきます」

俺が敵兵の喉を掻き切ったから吹き出した血を姫が頭から浴びていた。

「独りは危ない。俺も行く」

着替えと布を持って奥へ進んだ。

「後ろを向いているから先に入ってくれ」

「はい」

鳥の囀りと水の音と葉の揺れる音や 離れたところからは仲間の声が微かに聞こえているのに、姫が服を脱ぐ音と水に入る音が耳を支配する。

俺は一体どうしたというんだ。


ドボン

「ひゃっ」

後ろから水に何かが落ちる音と姫の声が聞こえて振り向いた。

「っ!」

細い体…白い肌…小さな胸…
成長中の少女の身体なのか、これ以上育たないのか…

「あの、魚がはねて驚いただけです」

「す、すまない」

慌てて後ろを向いた。一体何秒 凝視していたのだろうか。女の裸なんて見慣れているのに…


数分後、水から上がる音がして、服を着たらしい姫が“どうぞ”と水浴びを促した。

装備を外し服を脱ぎ 水に入り血や泥を洗い流した。

まずいな…


体を拭いて服を着て、皆のところへ戻ると馬の手当を済ませて鞍の汚れも落とした。



姫を愛馬に乗せて国境へ向かうこと1時間半。

「イザーク将軍!」

国境の兵士が駆け寄った。
俺は地図を広げて先程の襲撃された場所を指し示した。

「ここから馬車で1時間半ほどの場所…ここだ。
ここでサボデュールの兵士崩れに襲撃された。
プリュムの国境警備隊には知らせた。うちからも部隊を送り込んで掃除に向かって欲しい。何人か逃げたし、他にも仲間がいるかもしれない。プリュムを巻き込んだのはグリフだ。しっかり対処してくれ。
あと負傷兵が複数人いるので医者を呼んでもらいたい。
馬車には死者が2名いる。連れて帰りたいので腐敗を遅らせる処置をして欲しい」

「直ぐに手配します。手当の必要が無い方は宿へどうぞ」


医者に診せる怪我人を残して宿に到着した。

「イザーク将軍、お帰りなさいませ」

「彼女はプリュムの姫君で俺の妻だ。部屋に通して湯浴みをさせて食事をさせて欲しい。俺達は共同風呂を使う」

「かしこまりました」


部下達と共同風呂に入り、診療所に向かい怪我の程度を確認した。

入院が必要な兵士は4名。いずれも切り傷や刺し傷だ。

「先生、この管は何の役目を果たしているんだ?」

「腹の中の血液などを排出させるためです。
もちろん洗浄をして縫合し直しましたが数日はこのままです。
立派な応急処置でした。彼らに聞いたら、隣国の第二王女様がなさったと聞いて驚きました。
それで思い出したのですが、プリュムの王族は必ず一つ何かを選んで学ぶそうです。他国に嫁いだ第一王女様は気象学に取り組まれていたと聞いたことがあります。第二王女様は医学だったのでしょう」

「4人を任せてもいいか?姫を王城へ連れて行かねばならない。明日出発したい」

「お任せください」



一度宿に戻った後、俺は娼館に来ていた。

「将軍、お久しぶりです。たっぷりご奉仕させていただきます」

プリュムとの国境に来る際には、彼女を指名していた。

「まだ任務の途中で時間がない。今日は襲撃を受けて疲れているんだ」

察した女は残念そうに跪き、ボタンを外してアレを取り出すと俺を見ながら咥えた。

さっき宿に戻ったら、案内された部屋に寝巻きの姫がいて、一声かけて宿を出た。
どうやら“妻”と言ったから同室にしたらしい。
もう部屋が満室だと言われ、娼館ここに来た。

「して欲しいことはありますか」

勃ち上がったアレを自分の頬に軽く打ち付けながら女は聞いた。

「2回頼む」

口淫で一度目の吐精を終えると、引き続き咥えた。

俺はいつから少女こどもするようになったのだろうか。
同室なんて、発散こうでもしないと危険だ。

子供でこれなら成人したらどうなるのだろう。
既に婚姻契約書を交わし 白い結婚に同意した。今では早まったと後悔している。


サッと済ませて宿に戻った。
既に姫は眠っていて、ソファで寝ようと思ったが一緒にベッドで眠ることにした。


翌朝、俺の腕の中で起きた姫は驚きのあまり目を見開き固まっていた。俺もあろうことか熟睡し 全く身に覚えがなく狼狽えた。

「お、おはよう」

「…おはようございます?」
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