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リオナード/失念

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【 リオナードの視点 】


 女の悲鳴が聞こえて、他の使用人達が慌てて走って行く。
私も追いかけて行った。

浴槽に沈み、メイドがエステルの顔を水面から出していた。

『お嬢様!お嬢様!』

『退け!!』

彼女の体を掬い上げた。

『タオル!』

タオルを巻いて

『毛布!』

毛布を巻いて歩き出した。

『お待ちください!お嬢様をお離しください!』

『医者に診せなきゃ駄目だ!』

『ここでも診せられます!』

別館の出口でエリックが待っていた。

『落ち着きなさい。リオナード様とエステル様は王命により結びついた夫婦です。医師に見せるのに倒れたエステル様を別館に置くわけにはまいりません』

流石、機転のきくエリックだ。
皆が大人しくなった。

『侍女のビビと申します。私と護衛のクリスと一名メイドを本館は付き添わせてください。それが条件です』

『条件など、』

『エリック、通してやれ。小さな主人が心配で仕方がないんだ。側に居させるだけで安心するのなら構わないだろう。

ビビ。着替えを持ってこい』

『ありがとうございます』



夫婦の間に連れて行き、ベッドに下ろした。

『ビビ。着替えさせてくれ』

『かしこまりました』

『ローズ。時期ではないが火を入れてくれ。
少し部屋を暖めたい』

『かしこまりました』


廊下に出ると、エステルの専属護衛が待っていた。

『風呂の間は浴室の扉の前に立て』

『ご忠告、痛み入ります』

若くてなかなか男前の護衛だな。



医師が到着したので一緒に入室した。
部屋にはビビとクリスともう一人のメイド。
そしてローズと母上が集まっていた。

医『ここ数日のご様子は』

ビ『昨日、エステル様の姉のヴァネッサ様がお亡くなりになられてから、ほとんど食べ物を口にしておりません。

急遽花嫁になるためにお手入れと、ドレスとサイズ直しに一晩中かかりました。
ヴァネッサ様とサイズがかなり違うために時間がかかりました。

脱いで着て確認しての繰り返しでは無駄だと、ウエディングドレスを着たまま、手直しの間ずっと立ってじっとなさっておりました。

襟ぐりと袖と裾は何とかしましたが、胴回りなどは間に合いませんので腰に巻くリボンをキツく絞めざるをえませんでした。

別棟に到着後も、寝巻きで会うわけにはいかないと、ウエディングドレスのままリオナード様がいらっしゃるのを待っておりました。

挨拶と仰ったので直ぐにお見えになるのかと思い、別のドレスに着替えなかったのです。

22時を回りましたので、来ないと判断して湯浴みをなさいました。
立ちあがろうとした瞬間に崩れ落ちるように浴槽に沈みました』

『姉君を亡くした心労と、急に婚姻を命じられた心労と、様々な身体的疲労で目眩を起こされたのでしょう。

数日はよく休み、少しずつ食事をさせてください。
病人食である必要はありませんが、胃に不快感があれば消化の良いものにしてください。

薬を処方しましょう』

『お医者様。我々はベルナード家の者です。
薬はこちらで煎じます。道具も薬草も揃えておりますのでお任せくださいませ』

『そうでしたな。
薬はお任せしましょう。
何かございましたら、知らせをください』

『ありがとうございました』


医師は帰って行った。
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