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婚姻式の後、ニコラが私の部屋に来た。
展開に困惑していて、さらに困惑した。
「エリス。
私はこのままエリスとの婚姻を本物にしたい。
昔、エリスの婚約を知った日に自分の気持ちに気が付いた。エリスが好きなんだと自覚した。
だけどあいつとの契約は解消できないように整っていたから、エリスの婚姻後、諦めてアメリアと婚約した。
だけどエリスが戻ってきたし、見ての通り、一目惚れだと言っていたアメリアは他の男と逃げてしまった。
正直、アメリアの不貞は私には幸運だった。
エリス。私を異性として見てくれないか」
「考えてみるわ」
それからというもの、ニコラは積極的だった。
お祖父様は何も言わない。
ニコラの眼差しは今まで以上に優しいし、キラキラしている。
馬車で出かければ危ないからと隣に座らせて肩に腕を回す。
うっかり疲れたと言うと抱き上げられ、部屋に着くと軽く肩を揉み、脚を摩ってくれる。
おやすみの額へのキスは、愛の囁きが付いてくる。
そんな1ヶ月を過ごしていると、ウィット公爵が訪ねてきた。
ニコラとお祖父様と私がソファに座るとウィット公爵は頭を下げた。
公「ニコラ殿、フィルドナ侯爵、申し訳ございません。エリス嬢にもご迷惑をお掛けしております」
祖「ご令嬢が見つかったのですね」
公「身分証偽造の罪で国境で捕まっておりました。
共にいた男は通過して逃げたそうです」
祖「男は何者ですか」
公「偶然出会った男で、イヴァンと名乗ったそうですが、身分証が偽物なら名前も偽りかと。
風貌は金髪碧眼の美青年で標準的な体格です」
祖「で、白百合の証明はお持ちですか?」
公「…妊娠をしておりましたが流産しました。
捨てられたショックと馬車旅の体への負担とで保たなかったようです。
イヴァンの子だと言っています」
祖「金品を騙し取られたりは」
公「一切ありません」
祖「では、国境までは恋人同士だったかもしれませんが、令嬢が捕まった場面を目撃して、単純に一緒に捕まりたくなくて立ち去ったのかも知れませんね。
自国で捕まったのは不幸中の幸いでしたな」
公「裏切り、恥までかかせてしまい、償えるものではございませんが、せめて婚約時からこれまでにかかった費用や、慰謝料をしっかり支払わせていただきます。
誠に申し訳ございませんでした」
二「念の為、アメリア嬢には復縁は絶対に無いとお伝えください」
公「はい。しっかりと言い聞かせます。体が治り次第、領地へ移し敷地から外には出しません」
顔色の悪い公爵は帰って行った。
「ニコラ。本当に残念だったね」
「こっちの子には私から言い聞かせないといけないようだね。
破談やアメリア嬢の不貞は残念じゃないからね」
「……」
そのまま月日が経ち、私はニコラと婚姻したままになっている。
ニコラのことは好きだし、大事にしてくれることも分かってる。だけどニコラと初夜を迎えられるか、その後も求めに応じて受け入れることができるのか決心がつかない。
嫌とか触れられるのが気持ち悪いとかじゃなく、只々恥ずかしくて仕方ない。
偽の花嫁になってから7ヶ月をが過ぎてもう年末だ。
おやすみの挨拶をしに私の部屋に訪れたニコラは、手を握って真剣な顔をした。
「エリス。どうしても嫌なら引き下がる。愛しているけど無理強いをしたいわけじゃない。諦めて良き従兄となろう。そして次期フィルドナ侯爵の務めを果たす」
「務め?」
「お祖父様は若くない。血を繋がなくてはならないから誰かと婚姻して子を成さないと」
ニコラが私以外のお嫁さんを迎える?
想像をしただけで、体の内側から拒絶反応が現れた。胸は圧迫され心臓は大きく鼓動をきざみ、ニコラの声が遠くなり耳鳴りまで始まった。胃はムカムカするし手が震える。
ニコラは私じゃない女でも抱けるのね。
「ニコラ。離縁しましょう」
「っ!」
「ズルズルとごめんなさい。他の女性でもいいならそうして」
「他の女でもいいなんて言ってない。エリスが嫌なら仕方ないだろう」
「ううっ」
「エリス…」
「んっ」
泣いている私にニコラはキスをし始めた。
私が嫌がらないと分かると そのままニコラは私を抱いた。
最中も事後も、眠るまで愛の言葉を囁いていた。
痛かった。
だけどニコラは喜んでいた。
『ごめんな。エリスに与える痛みも、この赤い証も、私にとって夢のような嬉しいことなんだ。
後でいくらでも殴ったり蹴ったりしていいから、今はもう少し我慢して』
繋がったまま暫くじっとしていてくれたが、そういうとニコラはまた愛を囁き、私の体の中で高めて注ぎ込んだ。
『エリス、ありがとう。大事にするから』
次に体を重ねた時は痛みは無かった。
次第に快楽を得るようになった。
反応を見て、ニコラはとても嬉しそうだ。
初夜から2ヶ月半後に妊娠が判明。
悪阻や様々な不調と戦い、最後にはお産の苦しみとの戦いの結果、男児が産まれた。
これにはお祖父様が大喜びで、産まれたばかりなのに肖像画を描かせた。
お祖父様や私に似た狸顔の男の子はニコラの瞳の色をしていた。
次に産んだのは女児だった。
お祖父様は乳母のように離れない。狸顔の女の子にメロメロだった。髪と瞳の色はニコラの色だった。
時が経ってもニコラは私を愛し続けてくれる。私もニコラに愛してると返している。
終
展開に困惑していて、さらに困惑した。
「エリス。
私はこのままエリスとの婚姻を本物にしたい。
昔、エリスの婚約を知った日に自分の気持ちに気が付いた。エリスが好きなんだと自覚した。
だけどあいつとの契約は解消できないように整っていたから、エリスの婚姻後、諦めてアメリアと婚約した。
だけどエリスが戻ってきたし、見ての通り、一目惚れだと言っていたアメリアは他の男と逃げてしまった。
正直、アメリアの不貞は私には幸運だった。
エリス。私を異性として見てくれないか」
「考えてみるわ」
それからというもの、ニコラは積極的だった。
お祖父様は何も言わない。
ニコラの眼差しは今まで以上に優しいし、キラキラしている。
馬車で出かければ危ないからと隣に座らせて肩に腕を回す。
うっかり疲れたと言うと抱き上げられ、部屋に着くと軽く肩を揉み、脚を摩ってくれる。
おやすみの額へのキスは、愛の囁きが付いてくる。
そんな1ヶ月を過ごしていると、ウィット公爵が訪ねてきた。
ニコラとお祖父様と私がソファに座るとウィット公爵は頭を下げた。
公「ニコラ殿、フィルドナ侯爵、申し訳ございません。エリス嬢にもご迷惑をお掛けしております」
祖「ご令嬢が見つかったのですね」
公「身分証偽造の罪で国境で捕まっておりました。
共にいた男は通過して逃げたそうです」
祖「男は何者ですか」
公「偶然出会った男で、イヴァンと名乗ったそうですが、身分証が偽物なら名前も偽りかと。
風貌は金髪碧眼の美青年で標準的な体格です」
祖「で、白百合の証明はお持ちですか?」
公「…妊娠をしておりましたが流産しました。
捨てられたショックと馬車旅の体への負担とで保たなかったようです。
イヴァンの子だと言っています」
祖「金品を騙し取られたりは」
公「一切ありません」
祖「では、国境までは恋人同士だったかもしれませんが、令嬢が捕まった場面を目撃して、単純に一緒に捕まりたくなくて立ち去ったのかも知れませんね。
自国で捕まったのは不幸中の幸いでしたな」
公「裏切り、恥までかかせてしまい、償えるものではございませんが、せめて婚約時からこれまでにかかった費用や、慰謝料をしっかり支払わせていただきます。
誠に申し訳ございませんでした」
二「念の為、アメリア嬢には復縁は絶対に無いとお伝えください」
公「はい。しっかりと言い聞かせます。体が治り次第、領地へ移し敷地から外には出しません」
顔色の悪い公爵は帰って行った。
「ニコラ。本当に残念だったね」
「こっちの子には私から言い聞かせないといけないようだね。
破談やアメリア嬢の不貞は残念じゃないからね」
「……」
そのまま月日が経ち、私はニコラと婚姻したままになっている。
ニコラのことは好きだし、大事にしてくれることも分かってる。だけどニコラと初夜を迎えられるか、その後も求めに応じて受け入れることができるのか決心がつかない。
嫌とか触れられるのが気持ち悪いとかじゃなく、只々恥ずかしくて仕方ない。
偽の花嫁になってから7ヶ月をが過ぎてもう年末だ。
おやすみの挨拶をしに私の部屋に訪れたニコラは、手を握って真剣な顔をした。
「エリス。どうしても嫌なら引き下がる。愛しているけど無理強いをしたいわけじゃない。諦めて良き従兄となろう。そして次期フィルドナ侯爵の務めを果たす」
「務め?」
「お祖父様は若くない。血を繋がなくてはならないから誰かと婚姻して子を成さないと」
ニコラが私以外のお嫁さんを迎える?
想像をしただけで、体の内側から拒絶反応が現れた。胸は圧迫され心臓は大きく鼓動をきざみ、ニコラの声が遠くなり耳鳴りまで始まった。胃はムカムカするし手が震える。
ニコラは私じゃない女でも抱けるのね。
「ニコラ。離縁しましょう」
「っ!」
「ズルズルとごめんなさい。他の女性でもいいならそうして」
「他の女でもいいなんて言ってない。エリスが嫌なら仕方ないだろう」
「ううっ」
「エリス…」
「んっ」
泣いている私にニコラはキスをし始めた。
私が嫌がらないと分かると そのままニコラは私を抱いた。
最中も事後も、眠るまで愛の言葉を囁いていた。
痛かった。
だけどニコラは喜んでいた。
『ごめんな。エリスに与える痛みも、この赤い証も、私にとって夢のような嬉しいことなんだ。
後でいくらでも殴ったり蹴ったりしていいから、今はもう少し我慢して』
繋がったまま暫くじっとしていてくれたが、そういうとニコラはまた愛を囁き、私の体の中で高めて注ぎ込んだ。
『エリス、ありがとう。大事にするから』
次に体を重ねた時は痛みは無かった。
次第に快楽を得るようになった。
反応を見て、ニコラはとても嬉しそうだ。
初夜から2ヶ月半後に妊娠が判明。
悪阻や様々な不調と戦い、最後にはお産の苦しみとの戦いの結果、男児が産まれた。
これにはお祖父様が大喜びで、産まれたばかりなのに肖像画を描かせた。
お祖父様や私に似た狸顔の男の子はニコラの瞳の色をしていた。
次に産んだのは女児だった。
お祖父様は乳母のように離れない。狸顔の女の子にメロメロだった。髪と瞳の色はニコラの色だった。
時が経ってもニコラは私を愛し続けてくれる。私もニコラに愛してると返している。
終
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