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混乱と婚姻式
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ウィット公爵家の三女アメリアと、次期フィルドナ侯爵となるピエルソン伯爵家の長男ニコラの婚姻式は本日、王都の大聖堂で行われる。
お祖父様の息子であるニコラの父は、お祖父様の持つピエルソン伯爵を継いだ。ピエルソン家には二人の男児が生まれたので、長男ニコラがお祖父様の跡継ぎに指名されていた。
名門同士の成婚を見届けに錚々たる顔ぶれで占めていた。
私が婚姻するわけじゃないのに、昨夕から準備が始まった。朝もマッサージを受け、全身ピッカピカ。
自分の婚姻式のときより入念に磨かれるなんて、名門の親族というだけで求められるものが違うのね…などと呑気に考えていた。
「お爺ちゃま。遅れているけど何かあったのかな」
「花嫁の支度に時間がかかるのだろう」
さらに待つこと20分。
「新郎側の参列者の代表の方とフィルドナ家の皆様は別室へご案内いたします。ウィット公爵がお待ちです」
新郎側の参列者が話し合い、二人前に出た。
「エリス」
「え?私も!?」
お祖父様に連れられて行った先は新婦の控室だった。
新郎側の参列者の代表二人と、お祖父様と私と、ピエルソン伯爵家に向かって、深々と頭を下げた夫妻がいた。
「「申し訳ございません!!」」
それは新婦のご両親のウィット公爵夫妻だった。
ニコラが悲しそうな顔で手にしていた手紙を新郎側の参列者代表に手渡した。
「「はあ!?」」
余程の内容なのだろう。
「誰も気が付かなかったのか!」
「気付いていたら縛り付けていたよ」
回し読みされた手紙が最後に私の手元にやってきた。
“ニコラ様
ごめんなさい。
私は貴方と婚姻できません。
一目惚れをして婚姻したいと言ったのは私だけど、半年前に運命の人と出会ってしまったの。
諦めようと何度も思ったけど、やっぱり駄目だった。
だって神父様と神の前で誓えないもの。
ニコラ様なら私が駆け落ちした後でも、素敵な令嬢と出会えるわ。
本当にごめんなさい。
アメリア”
「はあ!?」
ニコラを見ると苦笑いをしてこっちを見ていた。
「貴女がエリス嬢ですね?」
「?…はい」
「アメリアの父のレイモンド・ウィットと申します。
エリス嬢は婚約者は?」
「いません」
「恋人は?」
「いません」
「ニコラ殿のことは?」
「家族です」
「好きですか?嫌いですか?」
「ニコラですよね、好きですけど」
「良かった!」
ウィット公爵は跪き、私の手を取って懇願し始めた。
「お願いです!代わりにウエディングドレスを着て、式に出てくれませんか!」
「はい!?」
「式だけ上げて、娘を探し出します!
時間稼ぎをしたいのでお願いします!」
「公爵令嬢のフリをしろと仰るのですか?」
「お礼は何でも致しますわ!」
涙ながらに公爵夫人が私の手を握った。
「神様に嘘をつけと仰るのですか?できません」
「セリフを変えてもらうから、頼むよ」
今度はニコラが悲しい顔をして頼んできた。
「分かったわ。だけどウエディングドレスのサイズが合うかしら」
「大丈夫」
そう言うとニコラは皆を追い出して、急いで私を花嫁にするよう告げた。
ウィット家のメイドさん達が大慌てで支度をしていく。
「メイクは直しは要りませんね」
「髪も飾りをつけるだけで良さそうですね」
「まあ!ウエディングドレスがピッタリ!」
即席新婦なのにあっという間に仕上がった。
ウエディングドレスなんて私のオーダーメイドのドレスみたいだった。
流れるように連れてこられたのは祭壇の前。
「ニコラ・ピエルソン。貴方はいかなるときも妻を愛し、守り、生涯共に歩むことを誓いますか」
「誓います」
「エリス・フィルドナ。貴女はいかなるときも夫を愛し、支え、生涯共に歩むことを誓いますか」
「……」
何で私の名前なの!?ウィット公爵令嬢の名前じゃないの!?
「エリス、返事をして」
「ち、誓います」
「では、指輪を交換し、署名をして誓いの口付けを」
え!?何で指輪もピッタリ!?
体のサイズが一緒だと指の太さも一緒なのね。
署名をしてニコラの顔が近付いた。
チュッ
ええっ!?
頬にするかと思ったら唇だった。
いいの!?名前が違うし、誓いの口付けは本物の花嫁にとっておかないと!
参列者は困惑しているわ。
最後に神父様が署名して終わった。
そのまま全員がウィット公爵邸に連れてこられ、食事会と改めて、他の参列者にも事情を説明した。
参「誰と駆け落ちしたんだ?」
公「私どもも式直前に知ったため、分かりません。
これから調査と同時に探し出して連れて戻します」
二「二週間以内に白百合の証明書と一緒にフィルドナ家に連れてきてください」
公「白百合の証明……」
二「私は次期ウィット公爵ではなく、次期フィルドナ侯爵なので、純潔でないと困ります」
公「……」
二「私とは一目惚れ、今回は運命の相手ですよ?
連れ戻しても次は“神のお告げ”と言いかねません。
式の直前に不貞の挙句、逃げられるだなんて、私の気持ちはどうでもいいのですか?」
公「分かりました」
ウィット公爵とニコラの間で話が進んでいくけど、私はどうしたらいいの?
お祖父様の息子であるニコラの父は、お祖父様の持つピエルソン伯爵を継いだ。ピエルソン家には二人の男児が生まれたので、長男ニコラがお祖父様の跡継ぎに指名されていた。
名門同士の成婚を見届けに錚々たる顔ぶれで占めていた。
私が婚姻するわけじゃないのに、昨夕から準備が始まった。朝もマッサージを受け、全身ピッカピカ。
自分の婚姻式のときより入念に磨かれるなんて、名門の親族というだけで求められるものが違うのね…などと呑気に考えていた。
「お爺ちゃま。遅れているけど何かあったのかな」
「花嫁の支度に時間がかかるのだろう」
さらに待つこと20分。
「新郎側の参列者の代表の方とフィルドナ家の皆様は別室へご案内いたします。ウィット公爵がお待ちです」
新郎側の参列者が話し合い、二人前に出た。
「エリス」
「え?私も!?」
お祖父様に連れられて行った先は新婦の控室だった。
新郎側の参列者の代表二人と、お祖父様と私と、ピエルソン伯爵家に向かって、深々と頭を下げた夫妻がいた。
「「申し訳ございません!!」」
それは新婦のご両親のウィット公爵夫妻だった。
ニコラが悲しそうな顔で手にしていた手紙を新郎側の参列者代表に手渡した。
「「はあ!?」」
余程の内容なのだろう。
「誰も気が付かなかったのか!」
「気付いていたら縛り付けていたよ」
回し読みされた手紙が最後に私の手元にやってきた。
“ニコラ様
ごめんなさい。
私は貴方と婚姻できません。
一目惚れをして婚姻したいと言ったのは私だけど、半年前に運命の人と出会ってしまったの。
諦めようと何度も思ったけど、やっぱり駄目だった。
だって神父様と神の前で誓えないもの。
ニコラ様なら私が駆け落ちした後でも、素敵な令嬢と出会えるわ。
本当にごめんなさい。
アメリア”
「はあ!?」
ニコラを見ると苦笑いをしてこっちを見ていた。
「貴女がエリス嬢ですね?」
「?…はい」
「アメリアの父のレイモンド・ウィットと申します。
エリス嬢は婚約者は?」
「いません」
「恋人は?」
「いません」
「ニコラ殿のことは?」
「家族です」
「好きですか?嫌いですか?」
「ニコラですよね、好きですけど」
「良かった!」
ウィット公爵は跪き、私の手を取って懇願し始めた。
「お願いです!代わりにウエディングドレスを着て、式に出てくれませんか!」
「はい!?」
「式だけ上げて、娘を探し出します!
時間稼ぎをしたいのでお願いします!」
「公爵令嬢のフリをしろと仰るのですか?」
「お礼は何でも致しますわ!」
涙ながらに公爵夫人が私の手を握った。
「神様に嘘をつけと仰るのですか?できません」
「セリフを変えてもらうから、頼むよ」
今度はニコラが悲しい顔をして頼んできた。
「分かったわ。だけどウエディングドレスのサイズが合うかしら」
「大丈夫」
そう言うとニコラは皆を追い出して、急いで私を花嫁にするよう告げた。
ウィット家のメイドさん達が大慌てで支度をしていく。
「メイクは直しは要りませんね」
「髪も飾りをつけるだけで良さそうですね」
「まあ!ウエディングドレスがピッタリ!」
即席新婦なのにあっという間に仕上がった。
ウエディングドレスなんて私のオーダーメイドのドレスみたいだった。
流れるように連れてこられたのは祭壇の前。
「ニコラ・ピエルソン。貴方はいかなるときも妻を愛し、守り、生涯共に歩むことを誓いますか」
「誓います」
「エリス・フィルドナ。貴女はいかなるときも夫を愛し、支え、生涯共に歩むことを誓いますか」
「……」
何で私の名前なの!?ウィット公爵令嬢の名前じゃないの!?
「エリス、返事をして」
「ち、誓います」
「では、指輪を交換し、署名をして誓いの口付けを」
え!?何で指輪もピッタリ!?
体のサイズが一緒だと指の太さも一緒なのね。
署名をしてニコラの顔が近付いた。
チュッ
ええっ!?
頬にするかと思ったら唇だった。
いいの!?名前が違うし、誓いの口付けは本物の花嫁にとっておかないと!
参列者は困惑しているわ。
最後に神父様が署名して終わった。
そのまま全員がウィット公爵邸に連れてこられ、食事会と改めて、他の参列者にも事情を説明した。
参「誰と駆け落ちしたんだ?」
公「私どもも式直前に知ったため、分かりません。
これから調査と同時に探し出して連れて戻します」
二「二週間以内に白百合の証明書と一緒にフィルドナ家に連れてきてください」
公「白百合の証明……」
二「私は次期ウィット公爵ではなく、次期フィルドナ侯爵なので、純潔でないと困ります」
公「……」
二「私とは一目惚れ、今回は運命の相手ですよ?
連れ戻しても次は“神のお告げ”と言いかねません。
式の直前に不貞の挙句、逃げられるだなんて、私の気持ちはどうでもいいのですか?」
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ウィット公爵とニコラの間で話が進んでいくけど、私はどうしたらいいの?
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