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物件探し

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翌日、こっそり不動産屋に行ってみた。
いくつか物件の書類を見せてもらった。
設備、広さ、間取りを確認していく。

「あの、4部屋以上ある物件と、一部屋しかない物件は除いてもらっていいですか」

「かしこまりました」


やはりいい場所で2部屋以上ある部屋は高い。
借りれなくはないけど、人を雇った上で一生は難しい。

雇わずに暮らせなくはないよね。
働かなくていいのだったら。

洗濯しやすい服を選べばなんとか……

もしくは週に1、2度だけ頼めばいいかな。


「王都から近い町の物件はありますか」

「ご用意いたします」


物件の書類を見ていると影ができた。
見上げるとニコラが立っていた。

「何をしているんだ?エリス」

「ニコラっ…どうしてここに」

「何をしているんだ」

「何って。ここは物件を紹介してくださる場所よ」

「屋敷から去るつもりか」

「長くはいられないもの」

「帰るぞ」

「嫌よ」

「エリス!」

「止めて!私は自由になったの!」

「お願いだ」

ニコラが跪き私の手の上に額を乗せた。

「お客様、またいらしてくださればご案内いたしますから」

これ以上はお店に迷惑ね。

「ご迷惑をおかけしました。また参ります」


店を出ると手を引かれてベンチに座らされた。

「誰かに何か言われたのか」

「違う」

「じゃあ、何で」

「当然のことをしているの。

私はお祖父様の孫だけどフィルドナ家の人間ではないの。

ニコラはもうすぐ婚姻するわ。居候が居てはお嫁さんが不快な思いをなさるわ。

お嫁さんにも、フィルドナ家にも、私にも良い事ではないの。

自立するために数ヶ月間の保護をいただけていることに感謝をして、新しい人生を歩むわ」

「此処に居ればいいんだ!」


そこからは自立するという私と駄目だと言うニコラがどちらも譲らず、決着がついたないまま屋敷に着いた。

「今日はここまでにするけど、引くつもりはない。
元々はあの結婚だって反対だったんだ。隙の無い契約書が交わされていたとしても、諦めなければ三年なんて言わずに一年で救い出せた。

私はもう後悔したくない。だから譲らない」

ニコラの表情は複雑だ。悔しそうな泣きそうな、だけど優しい顔。

そして私の頭を優しく撫でてキスを落として立ち去る。


バタン

ドアが閉まり一人になった。

「ニコラのバカ」


こっそり独立計画は難しそうだ。

だってアルバートとマリアが沈黙を約束してくれているのにニコラが現れた。
つまり監視が付いているということだろう。

「後で困るのは自分のクセに」

ニコラの婚約者は公爵令嬢だから、彼女が不快だと言えば無視できない。

そうなれば、私を追い出すしかない。

でも実家に戻るのも危険だ。
また変な縁談を持ってこられたら困る。

今回は白百合の証明で救われたが、これは稀な事例だ。
大抵は余程の醜悪な女でない限り、男は抱くことが出来る。そうしたら今回のような逃れ方はできない。
しかも子が出来ると考えると、そのまま墓まで我慢をするか、用済みとして追い出されるかだろう。

普通の政略結婚として生きていければいいけど、また酷い婚家に当たらないとも限らない。

幸い私は慰謝料と個人資産がある。
あんな結婚生活を送らなければならないなら独りでいい。


お祖父様に相談しよう。
ニコラが反対しても、お祖父様が味方に付けばそれまでだもの。




翌日。

「駄目だ」

「お爺ちゃま」

「ぐぬぬ…その愛くるしい顔を武器に使うでない」

「お爺ちゃま。私がこのまま此処に居座れば、誰にとっても良いことはないの」

「儂は幸せでいっぱいだ」

「お爺ちゃまったら。お嫁さんが嫌がってニコラが困ります」

「それはない」

「もう!お爺ちゃま!
相手は公爵令嬢なのに機嫌を損ねたら大変よ」

「確かに爵位は向こうが上だがうちの方が強い」

「え?」

「おいでエリス」

お祖父様は膝をポンポンと叩いた。

「私、22歳ですよ?」

ポンポン ポンポン

「もう」

お祖父様の膝の上に座ると抱きしめられた。

「私の孫は辛い思いをしなくていい。
辛い思いをさせないために頑張って今のフィルドナ侯爵家があるんだ。

それに、儂にはかなりの個人資産がある。
ニコラが婚姻して家督を継がせる頃に、儂とこの屋敷を出て、別の屋敷を構えて住めばいい。

屋敷もエリスのものだし、遺産で屋敷も使用人も維持して普通に暮らせる。豪遊はできないが、ドレスを買い、ジュエリーを買い、時には旅にも出られる」

「一族が反対するはずよ」

「いや。息子には、個人資産は諦めろと言ってある。ニコラに侯爵家を継がせるのを止めてエリスに継がせても構わないのだと言ったら個人資産に関する相続権の放棄書に全員が署名した。

エリスが受け取れなければ寄付される。
だから何の心配も要らない。

もし嫁が来て折り合いが悪くどうしても無理そうなら、さっさと二人で家出して楽しく暮らそう」

「お爺ちゃまを家族から離してしまわないかしら」

「もう十分エリスから離されたのだ。これ以上は嫌だ。儂も歳だ。どのくらい生きるかわからないが、自分のしたいことをして余生を過ごしたい。それは贅沢な望みだというのか?」

「お爺ちゃま。私より長生きして。私を独りにしないで」

悲しくなって涙が出てきた。

「ああ、エリス。その愛らしい顔で泣かないでおくれ。剥製でもいいなら一緒に、」

「生きていて!こうやって頭を撫でたり、抱きしめて!私を看取って!」

「最後はちょっと無理かな?」

「約束してくれないなら今から断食するから!」

「分かった分かった。頑張って長生きするから」

「ありがとう、お爺ちゃま」

無理なのは分かってるの。だけど私にはお祖父様しかいない。


お祖父様に甘えていると手紙が届いた。

「ジュエルとマクシムが侯爵邸ここに向かっているらしい」

「……」

「心配するな」









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