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ジョゼフの逮捕

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【 ジョゼフの視点 】



 母は知らない。

僕は狸顔のエリスが好きだ。
大きな瞳が少し垂れていてとても可愛い。
鼻も唇も小さく、かぶりつきたくなるくらいだ。

隣接する領主一家の食事会でエリスを見かけて一目惚れをした。

だから父上にお願いをした。

だけど繋ぎ止めるようなものが何もなかった。
金持ちでもないし、美男子でもない。
政略結婚を持ち掛けたいが何もない。

だから父上は酒の席でエリスとの婚約をローランド子爵と交わした。かなり酔わせていたと思う。
そして契約書はエリスからは逃げられないものだった。


時々会って交流する毎にもっと好きになった。

優しくて気遣いのできる子だった。
彼女が卒業するのが待ち遠しい反面、プレッシャーを感じていた。

僕はエリスよりも6つ歳上なのに童貞だった。

友人の開いた夜会でその手の話になった。

『初夜の前に練習しておいて良かった』

最近結婚したばかりの友人が話していた。

別の友人は経験豊富で、初夜で失敗すると後に響くし、特に相手が処女なら確実に嫌がられるだろうと言われ、経験豊富な女性を紹介してもらって友人は童貞を卒業していた。

悩みに悩んで僕も紹介してもらった。

だけど経験豊富な女性にさえ嫌がられてしまった。

“痛い”   “しつこい”   “気遣いが無い”

途中で使い物にならなくて断念した。


友人が気の毒に思い、娼館に連れて行ってくれたが、もう勃たなかった。

友人には、良かったよ、ありがとうと無事に克服したように見せた。



 父が他界し、爵位は継いだがさっぱり分からなかった。だから母が伯爵の仕事をした。ここで母に逆らえなくなってしまった。

やっと婚姻したが、母が酷い扱いをする。

最初は結婚式。

予定より規模を小さくして質素にした。
父上が亡くなってまだ心の傷が癒えていないと母が言うとローランド子爵家は納得した。

ウエディングドレスも、亡きサヴォワ伯爵がこれを着せようと用意していたと言って自分のウエディングドレスを直して着させた。

そして初夜一時間前。性行為の予習としてエリスにベッドに仰向けに寝かせると脚の間に入り、挿入しているつもりで腰を振れと言い出した。

エリスは硬直し、私は母の見ている前で母の言う通りに腰を振らなければならず、恥ずかしくて涙が出そうだった。


そして初夜に失敗した。

全く勃つ気配が無く、エリスに触れる前から怖くて何もできなかった。

『疲れたから今日は寝よう』


そして翌朝。

『ちゃんと全部挿れて一番奥に全部注いだの?』

『え?』

『子種よ。ちゃんと注いだの?
 エリスは従順だった?処女だった?』

『勿論だよ』

適当に答えてしまった。


 それから毎週閨の日に、母は口出しをした。日中に体位などを決めて、一時間前になると実技予習。

そして翌朝にちゃんと種付けしたか聞いてきて、僕も生返事をしてきた。

月のモノが来るとソレは酷くなり、細かな角度やエリスの言葉まで決めてしまう。

『エリス、夫が頑張っているのですからちゃんと貴女も声を掛けなきと。“気持ちいいです”とか。
そろそろと思ったら、ジョゼフちゃんがうっかりしないように“奥に注いでください”と言葉にしてお願いしなさい』

『はい、お義母様』


そしてあの日を迎える。



 母はエリスに離縁を迫った。
署名した離縁届には赤い線が入っていた。
もう新しい妻の準備ができているという。

別れたくない。でも不能のままでは跡継ぎが。

エリスが別れたくないと言ってくれたらと思ったのに、さっさと署名してしまった。 
こうなったらどうにもならない。

次の妻は可愛いと母が言う。
気持ちを新たに挑めば出来るかもしれない。
新しい妻で自信を付けて、エリスをもう一度迎えに行って愛人として屋敷に置こうと思っていた。



 エリスが去って2週間後、豪華な馬車が到着した。

馬車から出てきたのは母の顔のタイプと同じ令嬢だった。面長で細めの瞳。口は大きめ。エリスと正反対だった。

しかも浪費家だ。

結婚式は豪勢にしたいと言うがそんな金はない。

それにベタベタと纏わりついて鬱陶しかった。

商人を呼び、ドレスを何着も注文して母上に怒られていた。

母上はエリスのドレスを着せようとしていた。

「嫌ですわ! デザインが古過ぎます。このドレス全部お義母様のお古では?それを嫁に着せていたのですか!?信じられませんわ!
しかもさらに私に着させようだなんて、サヴォワ家はどうなっていらっしゃるの!?」

え?ドレスが母上のお古!?それをエリスが着ていた!?

「嫌だ!ナイトドレスもお古じゃありませんか!
気持ち悪い」

僕も気分が悪くなってきた。



 さらに5日後。

屋敷に調査官達と聖騎士達がやってきた。


「ヴィクトリア・サヴォワ、ジョゼフ・サヴォワ。
貴族の婚姻に関する虚偽申告により逮捕する。
これから家宅捜査を行い、証拠と共に王城へ移送する」

え?

何のことだと母が喚く。

4時間後、指揮をとっていた調査官が書類を箱詰めにして私と母上を罪人用の馬車に乗せた。

1週間後に王城に着き貴族牢に入れられた。

翌日、囚人服を着た母と一緒に、ある部屋に連れてこられた。

少しすると国王陛下と何人かの男達が入室した。

「へ、陛下!」

「静かにしないか!跪け!」

母上が跪かされた。
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