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3ヶ月後

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卒業パーティから3ヶ月後、テムスカリン邸に呼ばれていた。

「私が悪かった!完敗だ!」

「私、お兄様のその姿を見たくて頑張りましたのよ」

私の出す店との姉妹店契約なんてと下に見たエミリアン様は、今 頭を下げていた。


王都でチーズを何種類か扱う店と、フルーツの店と姉妹店契約をして開店させた。

2つの店の商品を買って菓子やタルトを作り食べてもらった。そして互いに協力しあって集客させる案を出した。2つの店には小さなタルトを置いてもらい、こちらの店には“○○の店の××チーズを使用”“○○の店のフルーツを使用”と書いて、会計の時に、更に宣伝をする。

姉妹店の商品を使っているから、タルトが売れると姉妹店の売り上げも上がる。それに客も増えたようだ。こちらの店も大繁盛で、直ぐに売り切れてしまう。


「アリス」

「何ですか」

「顔色が悪くないか?」

「気のせいです」

そこにメイドが菓子を運んできた。
その中から独特の香りがした。

「うっ」

「アリス!?」

応接間を出てトイレに駆け込んだ。

追いかけて来たメイドが髪を持ち背中を摩ってくれた。

「お医者様をお呼びします」

「いいの…病気じゃないから」

他のメイドが来ると、介抱してくれているメイドが“一番近い客室を換気してお水を用意して”と指示をした。

分かっちゃったのね。


客室に案内されてベッドに横になった。

「迷惑をかけてごめんなさい。すぐに帰るわ」

「先ずは安静にして吐き気を抑えましょう」

「ありがとう」

「何ヶ月ですか」

「3ヶ月よ」

「おめでとうございます」

「親は私一人だけどね」

卒業パーティを抜け出してシルヴェストル殿下と結ばれたときの子だ。私は避妊薬を飲まなかった。というか飲めなかった。飲むことで思い出を穢してしまう気がしたから。
だから自然に任せた結果で、父親を明かす気はない。


落ち着いて帰ろうとしたところにエミリアン様が現れた。

「ご迷惑をお掛けしました。帰ります」

「父親は公子か」

「明かす気はありません。マチアス様ではありません。では」

「ジオニトロ侯爵は何と言っているんだ」

「出生届けを出す日までに決めろと言われただけです。親類の令息を養子に迎えて跡を継いでもらおうと思っております」

「このことを知っているのは?」

「ジオニトロ家と、医師と、エミリアン様とこちらのメイドです」

「妊娠は間違いないのだな」

「はい」

「父親には知らせていないし、知らせるつもりはないんだな」

「はい」

「アリスがジオニトロ家を継がないのだな」

「はい」

「なら来い」


エミリアン様に手を引かれて着いた先は居間のようだった。テムスカリン子爵夫妻が座っていた。

「アリス様、いらっしゃいませ」

「エミリアン、話って?」

「父上、母上。
アリスを妊娠させました」

子爵は新聞を落とし、夫人はお茶を吹き出した。

「お、お兄…エミリアン様…そ、」

「(黙ってろ)」

「……」

「領地の敷地内に小さな屋敷を建てて住まわせる約束もしました。犬も飼っていいと言いました」

「何ヶ月なの」

「3ヶ月です。卒業祝いにちょっとジオニトロ邸に寄ったら、アリスが酔っていて、つい」

「エミリアン!!」

「お叱りは後で受けます。今はアリスが悪阻で体調不良なので報告だけにさせてください」

「ジオニトロ侯爵には」

「挨拶に行きます。
アリスは後継者から外れます。私が娶ります」

この人は全く……

「父親はエミリアン様ではありません。責任を取る必要はございません」

「アリス!」

「この子の父親以外と関係を結んだことはありません。そして父親を明かすつもりもありません。
お騒がせしました。
エミリアン様、こういうことは騙してはいけません。産まれた子が父親似なら悲惨なことになります。ご両親も悲しみます」

「約束しただろう。行き遅れたら娶るって」

「律儀過ぎますよ。冗談なのですから忘れてください」

「冗談じゃない。いいから嫁に来い」

「アリス様さえ良ければ嫁ぎませんか。エミリアンには正妻がおりますが、政略結婚なので第二夫人を娶ることもあると覚悟をさせております」

「その代わり、産まれてくる子はエミリアンの子として、絶対に実父の名を明かさないと約束してもらいたい」

「ご迷惑をお掛けできません」

「お前は口だけだな。信じた私が馬鹿だった。
お兄様と慕ったフリをしていただけなんだな」

「違います」

「なら、約束を果たせ。未婚で妊娠したら行き遅れと同じだ。産まれてくる子の立場も考えろ。
私の妻になって子を産め。分かったな」

「……」

「分かったな」

「はい」



そこからは大騒ぎだった。主に周りが。

お父様と後妻のメイベルがタウンハウスに来て、テムスカリン家と話し合い婚約をした。式は悪阻が落ち着いたら直ぐ。

お店は順調だからローリーに任せておけばいい。
後は悪阻と戦うだけ。


コンコンコンコン

「どうぞ」

私の部屋を訪ねたのはメイベルだった。

「おめでとうでいいのかしら」

「テムスカリン家には迷惑をかけました」

「ずっと私達に迷惑を掛けられていたのだから、今度はアリスが堂々と迷惑を掛ければいいのよ」

ポカンとメイベルを見た。

「スーザンを素敵なレディに育ててくれてありがとう。妃教育の先生も返り討ちにして守ってくれたと聞いたわ。私は貴女を守るどころか酷いことをしたのに、助けてくれてありがとう」

「スーザンは私の妹です。つまり私のものです。
私のものに手を出せばどうなるか鞭打ちで教えただけです」

「これ、私が悪阻の時に飲んでいたハーブのブレンドティーよ。配合はメイドに教えたから、気が向いたら飲んでみて。怖かったら医師と相談してもいいし飲まなくてもいいの」

「飲みます」

メイドに淹れさせて飲んでみた。

「生姜とオレンジの香りがします」

「そうよ。飲んで身体を温めて楽しいことだけ考えなさい」

「ありがとうございます」

「後のことは任せて休んで」

そう言ってメイベルは退室した。


 
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